閑話 五村の立ち方
俺の名はラングホー。
魔族の男だ。
俺が生まれた村では結婚が許されない三男だったので、兄たちにいいように使われるのが嫌で村を出た。
いくつかの村を渡り歩き、五村ができた最初のころに移住した。
最初は受け入れてもらえるかどうか不安だったし、受け入れられたとしてもちゃんと働けるのか、寝る場所はあるのか、使い潰されるんじゃないかと怯えたりもした。
しかし、すべては無駄な心配事だった。
予想以上に。
五村の住人となり、数年が経過した。
俺は五村の麓で大きな家を買った。
夫婦と子供二人の家族なら三組が余裕をもって住める家だ。
でかい庭もある。
念願の結婚をしたのと、白鳥レースで幸運にも高額な配当をもらったので調子に乗ってしまった。
家の管理が大変だが、後悔はしていない。
俺は、大きい家に憧れていたからな。
なに、すぐに子供が増えて手狭になるさ。
ふふふ。
実は妻が妊娠したことがわかったのだ。
こんなに嬉しいことはない。
だが、少し困った。
妊娠中の妻に大きな家の管理は大変だ。
俺が頑張るしかないのだが、日中は仕事で出ていく。
夜だけでは、掃除すらままならない。
仕事仲間や近所の者たちも助けてはくれるが、さすがにそれは生活回りだけだ。
広い庭や使わない部屋の掃除を頼むことはできないし、頼んでもいけない。
いまはまだ大丈夫だけど、妻のお腹が大きくなってきたら苦しくなる。
そこで俺は妻と相談し、人を雇うことにした。
なに、金はある。
おっと、白鳥レースでの配当金のことじゃないぞ。
その金は家になったしな。
金があるのは、俺は大工をやっているからだ。
五村で大工は不足気味。
常に仕事がある状態だ。
それに加え、俺はそこそこ腕のいい大工として評判になっている。
だから、それなりの稼ぎが俺にはあるのだ。
優秀な人だって、雇えちゃう。
そう思って人を雇おうと本格的に動き出そうとしたとき、俺は思い出した。
もともと住んでいた村には俺の妹がいる。
名はルシデル。
一度学べば大体のことができる優秀な妹だ。
その妹を呼ぶのはどうだろうかと?
悪くないのではないか?
うん、悪くない。
もともと、雇うなら女性がいいと思っていた。
色ボケとかではないぞ。
俺は妻一筋だ。
女性がいいと思っていたのは、妊娠中の妻のためだ。
同性のほうが安心できるだろう。
出産に関して、相談相手になってもらえたらとも思っていた。
俺の妹だと、そういった相談はできないだろうけど、話し相手ぐらいはできるはず。
あとは妻と妹の仲がどうなるかだが……
これに関しては、妻が会ってみないと判断できないと言うので考えないことにした。
うまくいくときはいくし、いかないときはいかない。
人の仲など、そういうものだ。
とりあえず妹に事情を説明して、来る気があるかを聞いてみる手紙を出そう。
確認は大事だ。
妹は妹で生きているのだ。
なにか大きい仕事を任されているかもしれないし、冒険者に憧れて家を飛び出しているかもしれない。
まあ、実家で両親と一緒に暮らしているとは思うけど。
どこかに嫁いでいる可能性?
それは……ありえるか。
まあ、そうだったら諦めて五村で雇うことを考えればいいだろう。
ちなみに、妹への手紙は妻が書いた。
俺は手紙を書けるほど、読み書きはできない。
少し前までは時間を見つけては勉強していたけど、今は家の管理があるからなぁ。
ちょっとサボっていた。
あと、妹は読み書きができる。
できてしまう。
村の読み書きができる婆さんのところに入り浸って、学んでいたから。
村で読み書きが必要とされるのなんて、村長ぐらいなんだけどな。
手紙を出して数ヵ月。
妻のお腹が目立ってきた。
そろそろ人を雇わないとまずいのに、妹からの返事が届かない。
妹の性格からして、こちらに来るのが駄目だとしても返事ぐらいは出すと思う。
となると、こちらからの手紙が届かなかったか、村に妹がいなかったか……
まさか、手紙を出す金もないぐらい生活に困っているとか?
いやいや、手紙ぐらいは出せるだろう。
しかし、妹からの返事が届かない。
うーん。
どうしたものかと考えていたとき、家に妹がやってきた。
「兄ぃっ!
雇われに来たわよ!」
旅装束の妹が玄関前に立っていた。
お、おう、久しぶりだな。
えーっと……
「なに、十年ぶりぐらいだけどそんなに変わってないでしょ?
あ、胸は大きくなったわよ」
いや、そうじゃなくてな。
「じゃあ、なによ?」
お前の後ろにいる人は誰だ?
妹の後ろには、気弱そうな旅装束の男性がいた。
愛想よく微笑んでいるが、見覚えのない顔だ。
俺の生まれた村の者じゃないだろう。
旅の護衛に雇ったにしては、武器らしいものは持っていない。
妹よりも多く荷物を持っているぐらいだ。
「あ、彼ね。
彼はホルラン。
私の旦那さま」
……
え?
結婚してたのか?
「したかったけど、どっちの両親からも反対されてたのよ。
だから、兄ぃの手紙を読んで、二人でこっちに逃げてきたの」
…………………………
「ホルランは……隣村に青い屋根の工房があったの覚えてる?」
え?
ああ、覚えてるぞ。
イガーソックさんのところだろ?
いろいろと世話になった。
「あそこの工房長の五男なの」
五男?
あー、それで結婚に反対されていたのか。
隣村も、俺が生まれた村と同じだ。
三男以降となると結婚できない。
理由はわかるんだけどな。
少ない資産を分散させず、長男に相続させて力を維持する。
結婚に関しても長男の役目。
次男が長男のスペアとして結婚できる可能性があるが、三男以降は許されない。
子供だけ増えても、食わせることができないからだ。
しかし、人手はあったほうが便利なのは当然。
だから結婚できないとわかっていても、三男以降を生んでいく。
そう、長男以外は人手でしかないのだ。
五男ともなると、よほどの技能がなければ結婚相手として認められることはない。
「だからホルランと一緒にこっちに来たの。
村を出たら、結婚は自由だからね。
明日にでも教会に行って、結婚を報告してくるわ」
そっか。
まあ、めでたいことだ。
祝いの席ぐらいは用意しようと思うが……えっと……
「ホルランも一緒に住むつもりだから、よろしくね」
よろしくねって……
まあ、妹の夫となれば、俺の義理の弟。
この妹が馬鹿な男を連れてくるとは思えない。
変なことはしないだろう。
わかった。
入ってくれ。
俺の妻を紹介しよう。
あと、家のなかも案内するよ。
広いから驚くなよ。
「あ、手紙には部屋をもらえるって書いてあったけど?」
ああ、一部屋を渡すつもりだったけど……
相手がいるなら、少し離れた部屋にしようか。
日当たりが少し悪い部屋だが、広いぞ。
「広いってどれぐらい?
この玄関ホールぐらい?」
ははは。
それだと俺たち夫婦の部屋より広くなる。
このホールの半分ぐらいだな。
「…………半分?
え?
ほんとうに?
ここの半分ぐらいの部屋をもらえるの?」
手紙にも書いてあっただろ。
家が大きくて困っているって。
「兄ぃ……大好き!」
ふっ。
残念だが、俺には妻がいる。
「あはは。
私だって夫がいるもんねー」
五村住人の視点で、五村の人物紹介や施設紹介をしようと思っていたのに、五村住人の紹介だけで終わってしまった。
すみません。
次回は「閑話 五村の歩き方」となります。




