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マイケルさんとの雑談

●人物紹介


樹王   五村近くにあるエルフの里の長。五村で外交官っぽいことをしている。

弓王   五村近くにあるエルフの里の長。五村で外交官っぽいことをしている。

キネスタ エルフ帝国の元皇女。五村のクロトユキの店長代理。

ヤー   山エルフ。工作得意。

ユーリ  魔王の娘。五村で働いている。


ミヨ   幼い姿のメイド。シャシャートの街のイフルス代官の秘書っぽいことをしている。

ヨウコ  九尾狐。五村の村長代行。


 昼。


 俺は屋敷の一室でコタツに入り、まったりとモチを食べていた。


 味は砂糖醤油。


 海苔のりはつけていない。


 とても美味しい。


 飲み物はぬるめで薄めの緑茶。


 熱めで濃いめの緑茶も嫌いではないが、モチと一緒だから飲みやすいほうがいいからな。


 うん、ベストマッチ。


 俺の両サイドにはコタツに入ったクロとユキが頭を出して寝ている。


 あと、コタツの上ではフェニックスの雛のアイギスが仰向けで寝ている。


 窓の外は冬景色だが、天気はいい。


 平和だ。


 おっと、暇を持て余しているわけじゃないぞ。


 マイケルさんがやってきたので、待っているだけだ。


 うん、マイケルさん、到着と同時に文官娘衆たちに連れていかれた。


 大樹の村はゴロウン商会とこれまで通りに取引する方針だけど、いろいろな調整が必要だからね。


 話し合いのメインは支払いに関してかな。


 大樹の村は現金で支払うことに問題はないのだけど、ゴロウン商会が現金で支払うことに支障がでている。


 支払えないわけではないのだけど、大量の現金を大樹の村に渡してしまうと、シャシャートの街や五村での現金の流通量に影響してしまうからだ。


 前々から言われていることなので、こちらも協力してできるだけ現金を受け取らず、現物での支払いとなっているのだけど……


 今度は大樹の村が販売している商品の価値と、購入している商品の価値の差が問題となった。


 大樹の村の商品の価値が高すぎるのだ。


 そのうえ、大樹の村やその関連の村が欲する商品は少ない。


 一応、こちらは衣服や木材、海産物などを常に求めているけど、大樹の村の商品の代金にはまったく足りていない。


 その不足分の穴埋めという形で、ゴロウン商会にはシャシャートの街や五村の周辺の村で、需要の大きい作物の生産を頑張ってもらっている。


 ああ、畜産業も頑張ってくれているな。


 最近のシャシャートの街や五村では、消費が拡大傾向だから。


 ゴロウン商会の頑張りで増えた作物や畜産物は、全て大樹の村が買い取る形となっており、それがゴロウン商会の現物の支払いとなっている。


 その買い取った作物や畜産物は、ゴロウン商会を通じてシャシャートの街や五村に低価格で販売されるので、大樹の村としては儲けはない。


 損する一方だ。


 だけど、作物や畜産物はシャシャートの街や五村に安定供給される。


 住んでいる者たちは、大いに助かるだろう。


 本来、そういったことは領主や代官の考えることだとシャシャートの街で働くミヨに言われたけど、自分の村だけよければというのもね。


 それに、買い取った作物や畜産物では損をしているけど、それらを美味しく食べるためのマヨネーズや醤油、味噌で驚くほど儲けがでている。


 ゴロウン商会の支払いを受け取らなくてもいいぐらいに。


 ゴロウン商会も、大樹の村への支払いで苦労はしているけど、商会としては儲けている。


 大樹の村から買った物を、それ以上の値で周囲に売っているのだから。


 損するはずがない。


 いいことだ。


 ただ、一方的に儲けすぎるのもよろしくないらしい。


 そのあたりも話しあっているのかな。


 なかなかマイケルさんが来ない。


 ああ、やってきた。


 鬼人族メイドに先導されたマイケルさん。


 マイケルさんは俺の対面に座ろうとコタツに入……る前に、コタツの中にいたクロヨンが出て場所を作る。


 いつのまにいたんだ?


 いや、叱ったりはしないぞ。


 よしよし、部屋から出て行く前に頭をでてやろう。


 あ、部屋からは出て行かないのね。


 クロヨンは騒がないからかまわないぞ。


 俺がクロヨンを撫でているあいだに、マイケルさんがコタツに入った。


 鬼人族メイドがマイケルさんの前にお茶を置き、俺の前にあるモチを食べ終えたお皿を回収してくれる。


 ああ、新しいお茶は大丈夫だ。


 まだある。


 俺の返事を聞いた鬼人族メイドは、わかりましたと言いながらコタツの上のアイギスをそっと持って、コタツの横に積まれた座布団の上に移動させた。


 アイギスは起きる様子をみせない。


 ……


 安心しているということなのだろうけど、生き物としてそれで大丈夫なのだろうか?


 俺は両サイドで寝ているクロとユキをみる。


 こっちも、マイケルさんがやってきても寝たままだ。


 寝たふりじゃないよな?


 小さいイビキが聞こえるし。


 まあ、安心できる環境にいるということだ。


 いいことだ。



 文官娘衆たちとの話し合いは終わったとのことなので、マイケルさんと雑談する。


 雑談と馬鹿にすることなかれ。


 意外と重要なことが話題になったりするのだ。


 めったにないけど。


「シャシャートの街やその周辺の村での作物の収穫に問題はありません。

 こちらの要望する作物……大樹の村から提供された小麦、大麦、トウモロコシ、米、トマト、カボチャ、キャベツ、ジャガイモなどは、さらなる畑の拡張が計画されています。

 次の収穫では、それぞれ二割ほど増える予定です」


 二割と聞くと小さく思えるが、元が大きいからかなりの量だ。


 無茶はさせていないだろうか?


「私たちは無茶をさせていませんが、あれらの作物は作れば作るだけ高値で売れますから現場は無茶をしていますね。

 定期的に監督官を送り込んで、働き過ぎを止めています」


 なるほど。


 助かる。


 しかし、働きたがるのを止めるのは大変だろう?


 大樹の村でも、働き過ぎはある。


 困った問題だ。


「五村の周辺に住むエルフの一族……樹王殿や弓王殿に依頼して働き手を送り込んでいただいていますので、その者たちが仕事に慣れたら大丈夫かと」


 慣れたら、さらに畑の拡張を進めるだけじゃないか?


 あ、いや、それよりもだ。


 五村周辺のエルフの集落をまとめる樹王と弓王の里には、お茶や油になる作物を重点的に育ててもらっている。


 優遇というわけではないが、ヨウコが樹王や弓王の里にもなにかしら仕事を与えてほしいと言われたので、お茶や油になる作物を任せることにしたのだ。


 ヨウコからは問題なくやっていると聞いているが、働き手を外に出せるほどとは聞いていない。


 余裕があるのか?


 それとも、エルフはそういった作物を育てるのが上手いのか?


「あー、いえ。

 その……樹王殿や弓王殿の里は、従えるエルフ族が増えていまして」


 従えるって……


 樹王や弓王にはエルフ族のとりまとめを頼んでいるから、すでに従えているだろ?


 まさか、従わないところを攻め込んで勢力を広げたのか?


「いえいえ、そうではなく。

 その、五村の支配下にあるとの噂を聞いたエルフ族が、移住してきているそうです」


 あー。


「当人たちは五村で生活したいようですが、キネスタさんにそれぞれの里を紹介されたそうです」


 キネスタは元エルフ帝国の皇女で、現在は五村にあるクロトユキの店長代理。


 彼女を頼るエルフ族がいてもおかしくないか。


「キネスタさんは迷惑がっていましたけどね。

 勢力をまとめたりする気はまったくないそうです。

 万が一、勢力をまとめているように見えたら、脅されて協力させられているだけだから助けてほしいと言ってました」


 そういったことを言われても、マイケルさんには迷惑なだけじゃないか?


 ヨウコに言うように言っておこうか?


「そうですね。

 実際になにかあったときは私たちが動きますが、ヨウコさまや五村の警備隊に事情を知っていてもらえるのはありがたいです」


 ゴロウン商会はそれなりの規模の護衛集団を常時雇っているから戦力はあるのだろうけど、危ないことはしないでほしいなぁ。


「ふふふ。

 商会を大きくするには、そういった荒事も必要でしたから」


 なるほど。


 だけど、無理はしないように。


 なんだかんだでキネスタを保護しているのは五村なので。


 キネスタのトラブルは五村で解決すべきだ。


 うん。



 物騒な話はほどほどにして、最近の注目商品を聞いてみた。


「そうですね。

 いろいろとありますが、五村製の魔道具の売れ行きが強いです」


 魔道具は便利だからな。


 しかし、値段が高いんじゃなかったか?


 それがよく売れている?


 景気がいいのか?


「それもありますが……

 五村には山エルフのヤーさまたちが鍛えた職人集団がいますよね」


 いるな。


 山エルフたちが作る製品のパーツの量産をお願いしている。


「彼らと、シャシャートの街のイフルス学園の生徒が協力して、魔道具の大量生産を始めましたので。

 安価なのに性能がよい魔道具と評判です」


 へー。


 そんなことをしていたのか。


 でも、それなら俺の耳に入ってもよさそうだけどなぁ。


「村長のところは、その……」


 なんだ?


「高性能というか最新型の魔道具がたくさんありますので……もう少し性能を向上させないと献上するのは厳しいかと」


 いや、献上してほしいわけじゃないんだけどな。


 しかし、そうか。


 考えてみれば、大樹の村にある魔道具はルーやドースたちが持ち込んだ物か、ルーが自作した物。


 どれもこれも値段がつけられないぐらいの貴重品らしい。


 そんなところに量産版の話は来ないか。


「それに量産するために装飾も控えめでして……」


 マイケルさんが目の前のコタツの天板のへりを見る。


「インフェルノウルフ……クロ殿たちですか……」


 あまり見ないでほしいな。


 天板の縁がちょっと寂しいなと思って、俺が彫ったんだ。


 コタツの縁ならそれほど目立たないかなと思ったけど、マイケルさんに注目されたから目立っていたか。


 ちなみに、鬼人族メイドたちからは縁に汚れが溜まるので不評だ。


 たしかに実用品はシンプルなほうがいい。


 だから、量産品も装飾控えめのシンプルな感じでいいんじゃないか。


 装飾に凝ったら値段が上がるし、生産も遅れるしな。


「そうですね。

 魔道具で人気なのは灯りの魔道具、コンロの魔道具、冷蔵の魔道具箱、水を浄化する魔道具などです。

 そうそう、それらを載せた厨房ちゅうぼう馬車が売れそうですよ」


 厨房馬車。


 調理器具、食器、食材、水などを積載した移動式の厨房のことだ。


 一頭の馬で牽引けんいんできるように軽量化されており、御者ぎょしゃ以外は乗れないが、一台で十人から二十人前の料理を一度に調理できる。


 食材を冷蔵保存するための装置もあり、約百食分の食材の運搬うんぱんが可能となっている。


 欠点は、厨房として使うときに馬車を展開する必要があり、それに数人の人手が必要になることだろうか。


 この厨房馬車。


 わかる人にはわかるだろう、大樹の村で使っているキャンピング馬車の小型廉価版だ。


 山エルフたちが作り、五村で量産されている。


 しかし、売り上げはいまいちと聞いていたのだけどな?


「当初の販売対象は冒険者たちでしたから。

 冒険者たちには厨房馬車は少し規模が大きかったのと、馬車なので馬を連れ歩く必要があり、気楽な移動がしにくくなるとの評価でした」


 つまり、冒険者たちには向かない商品だった。


 なので、五村が買い上げ、小規模のイベントや準備のときの食事を提供するために使っている。


 一般に貸し出しもしていたかな。


「それが、イベントで厨房馬車が使われているところをユーリさまが見て、魔王国軍に導入を勧めたそうです」


 魔王国軍に?


 軍の需要を満たすには、小さすぎるだろ?


「ええ、そうです。

 なのでユーリさまは本隊ではなく、巡回部隊で使ってほしいらしく」


 巡回部隊?


「はい。

 えーっと、魔王国には多数の村や街がありますが、全てに領主や代官がいるわけではありませんよね」


 そうだな。


 俺も最初は驚いたのだが、全ての村や街に領主や代官がいるわけではない。


「そういった村や街を巡回して、村や街の戦力になるのが巡回部隊です」


 戦力?


「魔獣や魔物に困っていても、領主や代官がいなければ助けを求めにくいですから」


 ああ、冒険者に頼むにしても、金がかかるからか。


「はい。

 そういった巡回部隊は、十人前後で行動しますが……行動中の食事は、自前で用意して行かねばならないようです」


 自前で用意?


 村や街は提供しないのか?


 魔獣や魔物を退治しに行くのだから、歓迎されそうだが?


「魔王国では多くの種族がいますので、食の文化の違いがありまして」


 そう言えばそうだった。


「まったく食べられないことはないのですが……」


 提供された物を食べないというのも問題になるそうだ。


 なるほど。


 問題になるぐらいなら、自前で用意して行くということか。


 それに厨房馬車がちょうどよかったと。


「はい。

 巡回部隊は馬に乗る人がいますしね。

 最初は五台の導入でしたが、便利さが伝わって注文が増えています」


 それはいいことだ。


「春までに百台ほど求められるのではないでしょうか」


 春までに百台?


 ……


 無茶な注文を受けないように、ヨウコに注意してもらおう。






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― 新着の感想 ―
[一言] >>異世界のんびり農家 と 手形 >>504話 クエンタン その”手形”と「手形決済」の”手形”はまるっきり別のものです(汗。
[一言] 異世界のんびり農家 と 手形 504話 クエンタン
[一言] >シャシャートの街や五村での現金の流通量に影響してしまうからだ。  ◇ ◇ ◇  村長は近現代地球世界の知見があるのだから、手形決済くらい思い付きそうだと思うけどねぇ?
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