氷の迷路がある冬の日
●人物紹介
ナート ガット(獣人族)とナーシィ(人間)の娘。獣人族。村に残る子供のリーダー。
夜。
食後にまったりしていると、ヨウコの娘であるヒトエが怒りながらやってきた。
ヨウコが五村から帰ってこないからだ。
急にではなく、数日前から予定として帰ってこれないと伝えていたのだけどな。
あの氷の迷路のせいで帰って来れないと思って怒っている。
出口が、大樹のダンジョンの近くにあるからな。
そう思っても仕方がないが、ヨウコなら迷路の上を通って戻ってくるぞ。
あの迷路、上がふさがっていないから。
それはズル?
母はそんなことをしない。
ちゃんと挑戦すると。
俺としては確実に上を通ってくると思うが、母を信じる娘にそんなことを言ったりはしない。
頷きながら、狐姿になって俺の膝に乗るヒトエを撫でた。
翌日。
氷の迷路が更新されていた。
出入口の位置は一緒だが、昨日の脱出ルートが潰され、新しいルートを探す必要があるらしい。
さらに、透明な壁や、トンネル、立体交差、滑り台による一方通行などが追加され、難易度がかなり向上しているように感じる。
氷の魔物によると、昨日の迷路は簡単だったと子供たちに言われたらしい。
俺としては、かなり難しいと思ったけどなぁ。
なんにせよ、更新された氷の迷路に子供たちは喜んでいた。
だが、迷路に突入していかない。
なぜだろうと思っていたら、子供たちは氷の魔物に規則の確認をしていた。
壁の破壊は禁止。
迷路の壁の上を登っての攻略は駄目、ギブアップ扱い。
立体交差からの飛び降り、飛び乗りは危ないので禁止。
滑り台の逆走も危ないので禁止。
落とし穴などの凶悪な罠はなし。
一方通行を利用した閉じ込めもなし。
上空からの情報提供は楽しさが減るから、これもなし。
ギブアップは上空で待機している天使族に合図を送ることと。
なるほど。
規則の確認は大事だな。
そして、やっと行くのかと思ったら……
子供たちは入り口前に攻略本部を設置し、攻略班を編成していた。
攻略本部には大きな紙があるから、地図を作るつもりだな。
そして、攻略班は逸れないように個々にロープで……違うな。
迷わないように入り口からロープで繋いで氷の迷宮に入っていった。
慎重に進んでいるな。
落とし穴はなしのはずなのに、地面のチェックもしている。
もっとこう子供っぽく、わーっと行くのかと思ったけど違うんだな。
これは村に残っている子供たちのリーダーであるナートの指導力なのか、村の外に行ったウルザやアルフレートたちが残した成果なのかわからないが、頼もしい。
そして、楽しんでいるならいいんだ。
頑張ってくれ。
風邪をひかないように、暖かい格好はするんだぞ。
その日の晩。
夕食後に、氷の魔物が相談に来た。
ドワーフたちが、氷の迷路の中でバーを開店したらしい。
……
氷の魔物としては、ドワーフたちを追い出したいわけじゃない。
ただ、氷の壁を改造されたこともあり、放置していいのかわからないので相談に来たとのこと。
なるほど。
つまり、どうするかは俺次第。
となると……
休憩所としてはありかもしれないので見逃がそう。
ただ、子供たちに酒を渡さないように注意。
温かいスープとか、飲み物を用意するように言っておかないとな。
あと、大丈夫だとは思うが、酒を飲んで外で寝ないように厳重注意だ。
氷の魔物にドワーフたちの対処方針を伝えて帰したあと、ヒトエがまた怒りながらやってきた。
あれ?
ヨウコは帰ってないのか?
……まだのようだ。
よしよし。
ほら、膝を貸そう。
きっと、急な仕事が入ったのだろう。
ヒトエのことが嫌いになったわけじゃないさ。
わかっている?
それならいいんだ。
俺は膝の上に乗った狐姿のヒトエの背中を撫でた。
ヨウコが昨日、帰ってこなかったのは五村の神社で集会があったからだ。
狐たちだけでなく、ほかの動物たちも集まるので欠席できないとぼやいていた。
神社に住むコンたちからは俺もどうですかと誘われたけど、遠慮した。
動物の神の縄張りの話が中心だとヨウコから聞いていたからな。
俺が参加しても、場違いだろう。
食べ物や酒の差し入れはしたけどね。
白鳥の神の使いであるオデットとオディール、蛇の神の使徒であるニーズ、猿の聖獣のセイテン、虎の聖獣のサンゲツなども参加するらしいから。
ヨウコからは一晩だけ集会に参加して、翌日はそのまま五村で仕事、今日の夕食前には戻って来ると聞いていたんだけどなぁ。
急な仕事が入ったからだとは思うけど、それで遅くなるなら連絡があってもおかしくはないか……
誰かに様子を見てきてもらうほうがいいか?
俺が行ってもいいけど、俺が夜にヨウコのところに行くと変な誤解をされそうだからなぁ。
などと考えていたら、ヨウコが戻ってきた。
俺の膝の上で拗ねていたヒトエが、だっとヨウコのもとに行った。
それでヨウコ。
遅かったけど、どうしたんだ?
「あー……その、氷の迷路ができておっただろ?」
うん。
「あれに挑戦せねば、ここに帰れなんだのでな」
?
……挑戦しなくても屋敷に行けるだろう?
初期の氷の迷路は屋敷の入り口に直通だったけど、今は迂回路があるはずだ。
案内看板も立ててあるから初見でもわかると思うが……見逃したのか?
「いやいや。
ちゃんと案内看板は見た」
そのうえで、挑戦したと。
「うむ。
ああも挑発されてはの」
挑発?
「《氷の迷路は子供でも安全に楽しめます》と書かれておった」
……
それは挑発ではなく、氷の迷路への案内だと思うなぁ。
それを挑発と受けて氷の迷路に挑戦し、いままでかかっていたと。
「意外と手強くてな。
同じような場所を何度もぐるぐると……」
冬は日が落ちるのが早いから、見えにくくなっていたのかな?
「迷路の中でドワーフたちに会ったときは、あまりの嬉しさにちょっと泣きそうになった」
ああ、なるほど。
そこで飲んでいたから遅かったのか。
ヨウコから酒の匂いがちょっとする。
「だ、暖を取っただけだ。
それに、夕食の時間には間に合いそうにもなかったからな」
え?
あそこ、食事も出せたのか?
「鬼人族が協力しておったぞ。
ラーメンが出た」
迷路の中なんだろ?
ドワーフたちが酒を抱えるのはわかるが、鬼人族メイドたちは食材や調理器具を抱えて、そこまで行ったのか?
「いや、近くにスタッフ用の通路があってな、それを使うとすぐ迷路から出られる」
へー。
あ、氷の魔物が言っていた、氷の壁の改造ってその通路のことか?
叱っておきたいが……移動を考えると必要でもあるのか。
悩ましい。
あと……
ひょっとしてだが、ヨウコはその通路を使って脱出を?
「あ、酒を飲んでしまったからな。
安全のためだ。
うん、安全のため」
なるほど。
まあ、俺はアップデート前の氷の迷路で天使族に救出された身。
そこを深く弄ったりはしない。
とりあえず、ちゃんと食べているならいいんだ。
ヒトエは任せたぞ。
「当然だが……ああ、なるほど」
俺の膝の上には、空飛ぶ絨毯がいた。
洗濯されたことでククルカンにそっぽを向かれ、落ち込んでいるのだ。
なんでも持ったときの感触が違うらしい。
しばらくすれば、またククルカンが離さないようになるとは思うが……
当面は空飛ぶ絨毯は俺のところだな。
などと思っていたのに。
翌日には、ククルカンは空飛ぶ絨毯を掴んで離さなかった。
寂しい。
そんな俺を見かねてか、クロとユキが甘えてくれた。
よしよし。
ありがとう。
リリウスたちは、五村で頑張ってます。




