冬の村の様子と氷
ハクレンとグラッファルーンがなかなか帰ってこないなと思ったころ、帰ってきた。
向こうでティゼルの手伝いをして、遅くなったらしい。
手伝いは、廃墟となっていた港を作り直すため、近くの川の底に溜まった泥などをドラゴン姿で浚っていたそうだ。
グラッファルーンも?
ご苦労さま。
グラッファルーンを、ドライムが入っているコタツに案内する。
……
ドライムはコタツで孫のククルカンと仲良く遊んでいたのだが、そのククルカンがドライムからグラッファルーンに移動してしまった。
タイミングが悪かったみたいだ。
すまないドライム。
大丈夫?
それならいいんだ。
そうだ、空飛ぶ絨毯は?
ククルカンといつも一緒だろう?
珍しく手放したから、いまのうちに洗濯すると鬼人族メイドが持って行ったと。
そんなことをすればククルカンが怒るとわかっていても、洗わずにはいられないほど汚れていたのか。
あとで空飛ぶ絨毯を労っておこう。
洗ってくれた鬼人族メイドも。
ちなみにだが、ハクレンたちのやった川の底に溜まった泥など浚う行為を“浚渫”という。
俺は思い出すのに時間がかかった。
聞いたことはあるのだけど、めったに使わないから。
泥浚いでいいじゃないかと、何度、放り投げようとしたか。
でも思い出せた。
よかった。
あと、村でも定期的にため池や水路、近くの川の浚渫をしている。
まあ、ため池はポンドタートルたちがやってくれて、水路や近くの川はリザードマンたちがやってくれるから、俺はここしばらく参加していない。
だから思い出すのに苦労したんだな。
反省。
次の水路の浚渫には、参加しよう。
邪魔になるようなら、見守るだけでも。
ハクレンはティゼルからの手紙を預かっていた。
手紙は近況とともにハクレンとグラッファルーンの活躍、それとメットーラの結婚が書かれていた。
そうか。
結婚したのか。
お祝いを贈らないとな。
ん?
メットーラの結婚に反対すべく、四頭の混代竜族の雄というか男がやってきた?
おおっ、メットーラってモテるんだな。
……
詳しく読むと、ちょっと違った。
四頭の混代竜族の男は全て既婚。
メットーラと結婚したいわけじゃないらしい。
メットーラの夫になるギィーネル。
彼が独身であることが、彼らにとっての希望。
なんとか守りたいと。
?
意味がちょっとわからないな。
なんにせよ、四頭の混代竜族はメットーラと戦ってでもギィーネルをさらう勢いだったけど、そこにハクレンとグラッファルーンがいて諦めた。
でもって、メットーラがせっかく来たのだからと整地と荷物運びに動員したと。
えーっと、協力ありがとう。
……でいいのかな?
それとも結婚を邪魔しようとしたから、メットーラから仕事を押しつけられているとか?
怒る気持ちはわかるが、無理を言わないように返事の手紙に書いておこう。
手紙の最後で、海風に強い木の苗木を求められた。
防風林にしつつ、土壌を固めるのに使いたいそうだ。
海の近くで街を作るように勧めた手前、協力は惜しまない。
ただ、海風に強い木ってどんなのだ?
俺の知識では……オリーブとビワ、ローリエぐらいか?
まあ、それで十分か。
オリーブやビワは、果樹エリアにある。
ローリエは香辛料扱いで、四村で育てている。
ただ、どれも苗木はない。
……
【万能農具】に頑張ってもらおう。
四村で育てて、ほどよい大きさになったら送る。
【万能農具】でやれば、すぐに育つかもしれないけどな。
四村で【万能農具】を使ってみたら、すぐに苗木ができた。
予想より早かった。
【万能農具】の性能が上がっているのだろうか?
ともかく、苗木を送る準備をしよう。
輸送はゴロウン商会に任せる予定だ。
あと、海風に強い木で、松や椿を思い出した。
松は松ヤニが採れるし、椿からは椿油が採れる。
無駄にはならないだろう。
これらの苗木も育てて送る。
そう言えば、川沿いのイメージで柳があったな。
たしか、柳は根が強いので川縁の補強に使われたんだよな。
これも育てて送っておこう。
ただ、柳でなにができるかは知らない。
昔は歯ブラシとして使っていたらしいけど……
使っている場面を想像ができない。
まあ、観賞がメインかな。
ティゼルへの手紙で、駄目なら戻してくれたらいいと書いておこう。
ハクレンが戻ってきたので、ヒカルとヒミコがハクレンのところに戻った。
ライメイレンが少ししょんぼりしているが、ヒイチロウやラナノーンが一生懸命に慰めている。
いい子たちだ。
対してドースは……
ギラルやドライム、氷の魔物と酒を飲んでいるな。
ライメイレンがちらちら見ているから、もう少し笑い声を落とすように言いたい。
あと、フェニックスの雛のアイギス。
氷の魔物の頭に乗るのは止めるように。
変な感じに氷の魔物の頭が融けているから。
幸いと言っていいのか、融けた氷は下に落ちる前に体の冷気で凍って体の一部になっているみたいだから、椅子や床は濡れないけど。
氷の魔物の冷気はそれなりに強いらしいが、周囲の温度はそれなりに調整はできるらしい。
幅は……俺の体感、業務用の冷凍庫から軽め設定のクーラーぐらいまで。
ほんとうに夏場に来てほしかった。
ああ、いまは無理のない範囲で調整してくれたらいい。
宿泊は外のカマクラでやっているけど、大丈夫か?
快適と。
ただ、コキュートスウルフやフェンリルの視線が気になる?
ウルザの知り合いだから大丈夫だと説明しているんだけどな。
改めて言って……
とことことコキュートスウルフがやってきて説明してくれた。
警戒していたわけじゃない?
あー、氷の魔物に、氷の滑り台とか氷の迷路とか、そういったのを作ってほしかっただけと。
なるほど。
しかし、氷の魔物にそういうことを頼むのは……
俺は困るだろうと思ったのだが、氷の魔物はかまわないと言ってくれた。
すまないな。
いやいや、作業は明日からで大丈夫だぞ。
明日は朝から麻雀に誘われているから、いまのうち?
氷のベッドに横になるのは好きだけど、魔物なので寝なくても大丈夫?
夜目も利くから問題なしと。
そっか。
えーっと、それじゃあ頼んだ。
なにかお礼をしたいが……
ウルザに氷の魔物は頑張っていたと言ってほしい?
それぐらいはかまわないが……
ウルザに無茶をしないように言ってほしい?
すまない。
よく知らないが、苦労させたみたいだな。
改めて言っておくよ。
翌日。
大樹の村に巨大な氷の滑り台と、巨大な氷の迷路ができていた。
子供たちは大喜びだったが……
その、なんだ。
屋敷の出入口が迷路に直結しているのはやめてくれ。
生活に困る。
あと、注意しないと遭難者が出る。




