合金製のスプーン
まだまだ冬。
ウルザが村に帰ってきたが、すぐにハクレンを連れて行ってしまった。
寂しい。
ハクレンを連れて行ったのは、メットーラの結婚が関係しているらしい。
メットーラの結婚は祝福するし応援するので、ハクレンが行くのを止めたりはしないが……なぜハクレンを連れて行く必要があるのだろう?
ちなみに、ちょうどその場にいたドライムの妻のグラッファルーンも、興味がありますと言って一緒に行った。
ハクレンとグラッファルーンは昔からの知り合いなので、仲がいい。
グラッファルーンには、ハクレンのブレーキ役を期待したい。
いや、ハクレンも昔に比べてちゃんとしているから、ブレーキが必要になることはないと思うけどな。
あと、ウルザと一緒にやってきた氷の魔物は、ドースたちと麻雀を続けている。
ウルザと一緒に行かなくてよかったのかな?
まあ、満喫しているみたいだし、かまわないか。
ただ、個人的には夏場に来てほしかったなぁ。
ロベルト=パーシモンアンダー。
ウルザが知り合った吸血鬼で、吸血鬼ならルーかフローラの知り合いかなとウルザが確認してきた。
ルーは知らなかったが、フローラの知り合いらしい。
「魔法の杖の研究に関しては第一人者ですよ」
魔法の杖というと、指揮棒みたいな感じのやつだな。
……
あれ?
そういったのって、誰かが使っているのを見たことがない。
みんな素手で魔法を使っている。
「最近は魔法の杖を使わないのが主流でして……最後に会ったときは研究内容を変えると言ってました」
需要が減ったのか。
大変だな。
「そのあと、噂で魔法の巻物の研究を始めたとは聞いています」
魔法の巻物?
「魔法を封じ込めた巻物です。
一回きりの使い捨てですが、魔力がない人でも使えるので需要が期待できます」
おおっ。
すごく興味がある。
そう言ったら、フローラがいくつか魔法の巻物を渡してくれた。
火の殲滅魔法、水の撃滅魔法、土の大災厄魔法……
物騒な感じの魔法しかないのか?
もっとこう、灯りの魔法とか、生活に使える魔法を期待したんだがな。
「その程度なら、巻物を使うのがもったいないですから」
コストに合わないということか。
「魔法の巻物は、詠唱が面倒な魔法や大量の魔力を使う魔法を簡単に放てるのが利点ですから」
物騒な魔法ばかりになると。
「そうですね。
あ、でも、以前、ルーお姉さまが作っていた連鎖式爆炎弾や連鎖式氷結弾。
あれとかは魔法の巻物のアレンジです。
巻物ではなく石に魔法を封じ込めて配置していましたが、物騒な魔法じゃないですよ。
鉱山の採掘に大活躍です」
いやいや、あれは十分に物騒だったから。
しかし、そうなると……魔法の巻物は物騒な魔法ばかりになるのか。
使ってみたかったが、残念だ。
「使っていただいてかまいませんよ?」
素人は使ったら危ないだろ。
そういう意味では、魔法の巻物は危険物なのでは?
「貴重品ですから、そこらに乱雑に放置とかはしないと思いますよ。
それに、発動のための呪文が必要ですから勝手に飛び出したりはしませんよ」
なるほど。
部屋でフローラと魔法の巻物であーだこーだと語り合っていたら、ルーがやってきてニコニコと黙って俺とフローラのあいだに入った。
……
クロみたいだと思ったのは内緒だ。
ハクレンがいないので、ヒカルとヒミコはライメイレンがみている。
ライメイレンは、面倒ですねと言いながらもこれ以上ないぐらいの笑顔だ。
普段から、それなりに面倒を見てくれていると思うんだけどなぁ。
ヒイチロウやグラル、ラナノーンもライメイレンを手伝ってくれている。
ありがとう。
もちろん、俺もヒカルとヒミコの面倒をみる。
……
ライメイレンがヒカルとヒミコを放さない。
いや、俺に渡してくれない。
どうしようかと思っていると、ドースに諦めろと言われた。
しかし、ライメイレンにまかせっきりは父親としてどうかと思うんだけど?
無理?
子供を抱えた竜が、子供を放すはずがない?
孫ならなおさら。
そうかもしれないけど……
俺は抵抗したけど、最終的には麻雀を中断してまで進言しに来てくれたドースの意見を採用した。
村で使われているスプーンは木製だ。
村人が木を削って作っている。
しかし、木製では厚みがどうしても残るので、口当たりはあまりよくない。
【万能農具】で作った場合は、木製とは思えないほど口当たりはよくなるんだけどな。
全員分を俺が作るのも厳しい。
そこで銀製のスプーン。
銀製は管理が大変だが、それは木製も同じ。
ドースや魔王、マイケルさんからもらったり買ったりして、それなりの数が揃ったので、普段使いされ始めた。
これまではアイスクリームとかのデザート用のときだけ使われていたのだけどね。
その銀製のスプーンをみて、村の鍛冶職人であるガットが合金でスプーンを作れないかを考えた。
錆びにくく、口に入れても安全、それでいてほどよく加工しやすい合金。
そんなものがあるのかと思うが、ステンレス製のスプーンを思い出したので納得。
たしか、ステンレスは鉄に炭素とクロムを加えて作る合金だったな。
……
クロムってなんだ?
毒性があるとか聞いた覚えもあるが?
いや、食器に使われているから、大丈夫なんだろう。
クロムだけなら大丈夫だったはずだ。
たぶん。
中途半端な知識でああだこうだ言って惑わすよりは、黙っておいたほうがいいだろう。
専門家に任せるべきだ。
うん、それがいい。
そして、ガットは完成させた。
鉄に俺の知らない鉱石を加えて作られた合金製のスプーン。
くすんだ灰色だが、形はステンレス製のスプーンそっくりだ。
実際に完成させたのは半年前。
安全性のチェックに時間がかかったそうだ。
魔法で毒性はないとわかっていたけど、健康に影響があるかもしれないからな。
チェックは大事。
ほんとうに大事。
なにせ、目の前にある合金製のスプーン。
イチゴ用のスプーンなんだ。
そう、イチゴを潰すためにスプーンの底が平らになっているスプーン。
なぜこの形に?
疑問に思っていたら、妖精女王がやってきた。
そして、イチゴ用のスプーンを確認したあと、次はアイスクリーム用のスプーンが欲しいと言っている。
そうか、お前の仕業か。
いや、文句はないぞ。
ただ、言わせてもらえるなら……
柄の長い、パフェ用のスプーンを優先すべきだと思うのだが?
これまで木製のパフェ用のスプーンだったが、スプーンが厚いから底のほうがすくいにくかっただろ?
銀製だと、短いか大きいかで使いにくかったし。
妖精女王は、そうだったとパフェ用のスプーンも求めた。
ガット、作るのは数本でいいぞ。
すぐに鬼人族メイドたちから、食事用のスプーンを求められると思うから。
たぶん、ナイフやフォークも。
統一したほうが綺麗だからな。
箸?
箸は個人的に木製だと思うのだが……
漆とかで綺麗に加工しているしな。
でも、長い箸……菜箸は何膳か用意したほうがいいかもしれない。
そう、料理をするときに使っている箸だ。
木製は火に弱いから。
そうだな。
持つところには、なにか巻いて滑らないようにしつつ、熱も止めたい。
ああ、菜箸の先にも凹凸をつけて、滑りにくくしてほしいかな。
量産する前に試作品を鬼人族メイドたちに見せてほしい。
長さに関しては、鬼人族メイドたちに聞いたほうがいいから。
そうだ。
トングもほしいな。
わかっている。
順番に、少しずつ頼む。
無理はしないように。
アン「合金製のカトラリー。普段使いにはこちらのほうがいいかと」
フラウ「でも、高級感がないかも」
ティア「柄の飾りを増やし、色をもう少し白か銀に近づけてもらえればいいのでは?」
ルー「実験で薬剤をすくったら、変質したりしないかしら?」
アン「ルーさま。そういったことには木製スプーンを使うようにお願いしていますよね。銀製を何本無駄にしたと……」
ルー「も、木製スプーンだと、瓶の底のほうがすくいにくいのよ」
マイケル「ご注文いただければ、銀製の特注カトラリーを用意したのですけど……あ、合金製のカトラリーの外部販売に興味はございますか? 手配しますよ」
村長「量産体制があるわけじゃないから、当面は身内のぶんだけで」
ガット「さすが村長」
山エルフ「…………」(大量にある注文書を手にしながら)




