冒険者エカテリーゼ その5
ティールームから、出口まではかなりの距離がありました。
城なので仕方がないと思っていたのですが、ティールームは城の中に作られた城館にあり、城から出るのは思ったよりも早かったです。
時間がかかったのは、城を出たところから地上まで続く洞窟ですね。
天井まで三メートルぐらいの高さの洞窟で、主さんが松明っぽい魔法の道具で照らしてくれています。
これが長かったのです。
なぜ城を地下に埋めたのでしょう?
あと、転移の魔法とかでぱっと移動したりはできないものでしょうか?
ちょっと期待したのですけど、主さんもロベルトさんも使えないそうです。
残念ですが、転移の魔法は希少ですからね、仕方がありません。
洞窟を歩く長い時間、ウルザさんが主さんといろいろな話をしていました。
そして聞かされたというか、ウルザさんが聞き出した主さんの秘密。
なぜこんな場所にいるのか。
なんでも、主さんには親しい幼馴染の異性がいたそうです。
主さんはその幼馴染の異性とよく二人で行動し、自然と惹かれていったところで親から結婚するようにと言い渡されます。
もちろん、相手の親も了承済み。
周囲に反対する者もなく……幼馴染の妹さんだけは反対したそうですが……二人は婚約。
ああ、幼馴染の妹さんは姉が大好きで誰にも渡したくないだけで、主さんに惚れているから反対とかそういった色っぽいことはまったくないらしいです。
あとは時期をみて結婚ということになったのですが……
一つ、問題がありました。
それは幼馴染の異性が、とても優秀だったことです。
そして、強かった。
主さんよりも、圧倒的に。
そんなところにも惹かれたそうですが、親に言われるがままに結婚しても、その幼馴染の異性の横に並ぶことができないのではと主さんは不安に思いました。
そこで、主さんは決意しました。
自分に自信を持つため、幼馴染の異性よりも強い相手に挑もうと。
そして、勝っても負けても生き残ったら、改めて結婚を自分の意思で申し込もうと。
幼馴染の異性にその決意を伝え、そして主さんは旅に出ました。
幼馴染の異性より強い相手には心当たりがあったので、その者のもとを目指して。
「だが……私は己惚れていた……」
心当たりのある幼馴染の異性より強い相手が戦うところを偶然に見て、主さんは腰を抜かしたそうです。
勝つとか負けるとかの話ではなく、挑んで生き残るのは絶対に無理だと。
勝負にすらならず、ただ惨殺されるだけ。
そんな未来を、魔眼で視てしまったと。
主さんも魔眼を持っているみたいですね。
そのような様子はありませんが……人の姿は擬態なのでしょうか?
なんにせよ、その未来を視て心が折れた主さんは、挑むこともなく、かといって幼馴染の異性のもとに帰ることもできず、こんな場所に隠れていたそうです。
…………
ふむ。
感想に困りますね。
私だって、絶対に勝てない相手に真剣勝負で挑むのは嫌です。
なにかしら勝ち目がなければ、無駄死にですからね。
絶対に勝てない相手との戦いは避けるべきです。
「別の相手を探すのは駄目だったの?」
ウルザさんが聞きますが、幼馴染の異性より強いという条件がむずかしいらしいです。
それに、勝てないから別の相手を探すのも違うと。
変なところにプライドがありますね。
いや、そこはこだわらないと駄目なところですか。
ちょっとだけわかります。
「その幼馴染の異性は、放ったままでいいの?」
「もう何百年も前の話です。
私より優れた者と結ばれているでしょう」
…………
もやもやしますね。
ですが、私にできることはありません。
頑張れと言うのも違いますしね。
ここで話は変わるのですが、私が冒険者をしているのはティゼルさまの国作りのお手伝いのため。
なので当然ですが、冒険者として拠点としている場所は国作りの準備のための村です。
国を作るために街を作る必要があり、その街を作るための準備の村ですね。
街を作る場所は、海岸沿いにある廃墟となっている港と街。
一度、更地にしてから改めて必要な施設を作るか、残っている施設で使えそうなものは残して活用するかでティゼルさまたちが話しあっていたはずです。
その廃墟となっている港と街の少し横に、関係者が宿泊するための家や倉庫が綺麗に並べられて建っている場所があります。
そこが準備のための村です。
五百人ほどがそこで生活しています。
なぜ急にこんな説明をしたか。
それは主さんに案内されて出た地上が、その準備のための村や廃墟となった港や街を一望できる丘の上だったからです。
このあたりも調査しましたが、まさかこんな場所に出入口があるとは思いませんでした。
時間的に、イースリーさんたちより先に戻ってきたのではないでしょうか?
騒ぎにならずによかったと思いましょう。
静かにあとをついてきていたロベルトさんに、転移の罠にかかった森の中の洞窟の場所を教えておきます。
あの罠を放置しては危険ですからね。
え?
吸血鬼だから昼間は苦手?
夜になったら調べておくと。
よろしくお願いします。
あとはイースリーさんたちと合流ができれば、いろいろと解決ですねと思っていたところ。
準備のための村から、こちらに向かってくる一団がありました。
……
先頭にイースリーさんたちがいます。
私たちより先に戻っていましたか。
となると、イースリーさんたちの後ろにいるのは私たちを捜索するために動員された人たちでしょう。
騒ぎになっていたようです。
すみません。
ああ、主さん!
この場所のことは秘密とのことでしたが、どうしましょう?
急いで隠れます?
……あれ?
主さん?
動きが変ですよ?
ひぃと小さい悲鳴もあげていますし。
あの?
どうしたのでしょうと思っていたら、主さんの目の前に一人の見覚えのある女性。
ウルザさんやティゼルさまのお世話をしている、メットーラさんです。
主さんは、そのメットーラさんを見て明らかに怯えています。
まさか、さきほどの話に出てきた幼馴染の異性より強い相手というのは、このメットーラさんのことでしょうか?
以前から、ただ者ではないと思っていましたが……
「ギィーネル。
久しぶりですね」
……
違うようです。
「ダンダジィ……」
「その名は捨てました。
いまはメットーラです」
「そ、そ、そうか……
メットーラ、いい名だと思う」
「なかなか戻って来ないから心配しましたよ。
では、結婚しましょうか」
「あ、う……いや、その……」
あれ?
ひょっとして、メットーラさんが幼馴染の異性?
えーっと……
私はウルザさんを見ます。
二人から離れるようにハンドサインが出てました。
二人っきりにするのですか?
違う?
危険?
ロベルトさんもいつのまにか逃げてます。
ウルザさんは、こっちに駆け寄ろうとしているイースリーさんたちを止めに走り出していました。
……
続きが気になりますが、私はウルザさんを追いかけてその場から逃げました。
二人でなにがどう話し合われたのかは知りませんが、二頭の竜が戦いました。
主さんとメットーラさんって、混代竜族だったのですね。
驚きすぎて思考がついていけません。
そして、二頭の戦いの結果は語りません。
ただ、丘が崩れ、地下にあった城が地上にせり出してきました。
沈めたとか言ってましたが、浮上機能もあったのですね。
立派な城が日のもとに出てきましたが……
全容をみるに防衛用の城ではありませんね。
行政用の権威の象徴のような城です。
メットーラさんの進言で、ティゼルさまが喜んで接収しました。
国作りに活用するそうです。
街の計画がやり直しだと嘆いている文官が多数いますが、気にしないようにします。
あと、主さん……ギィーネルさんは城から出てメットーラさんのそばにいることになりました。
城を接収されて行き場がないからだそうです。
ギィーネルさんは、結婚にはまだ抵抗しているらしいです。
無駄な抵抗に思えますけど。
ウルザさんは二人を結婚させるため、メットーラさんより強い人……じゃなくて竜を呼んでくると出かけました。
ギィーネルさんが挑もうとした相手に心当たりがある?
顔が広いですね。
ついでに、氷の魔物のことを謝ってくると。
一緒に行かなくて大丈夫ですか?
実家だから大丈夫?
……
実家に竜がいるのですか。
母親?
…………………………
えーっと、わかりました。
留守はお任せください。
なにやら危険な香りがしたので、同行は諦めました。
同じく残るイースリーさんたちと一緒に、周辺の調査を進めておきましょう。
ギィーネル「私のような情けない男は、君にはふさわしくない。け、結婚はできない」
メットーラ「そうですか。では、私と結婚するか、私と戦って結婚するか。選びなさい」
ギィーネル「え?」
アルフレート「闇飲ま(闇に飲まれよ=こんにちは)」
ロベルト「闇飲ま」
アルフレート「我、真なる友を得た」
ウルザ「あとで困るって、始祖さんもルーお母さんも言ってたわよ」
イースリー「全力で助けを求めに拠点に戻ったら、拠点の近くにいた……」
ウルザ「ごめんなさい」
エカテ「心配かけて、すみませんでした」
●ボツネタ
ギィーネル「この場所のことを黙ってくれるのなら、我の鱗をやろう」
エカテ「ええっ! そんな貴重な物を!」
ウルザ(死んだ目)




