冒険者エカテリーゼ その3
ウルザさんと一緒に炎の巨人を倒し、部屋を出たら迷宮でした。
文字通り。
迷わせるための罠というか……扉の先が別の場所に繋がっていました。
別の場所と言っても、たぶん同じ迷宮内なので、ほんとうに迷わせるための罠なのでしょう。
ちなみに、行きと帰りで別の場所に行くらしく、もとの広間に戻るのも厳しそうです。
扉を閉めなければ大丈夫なのですが、閉められるんですよね。
黒いフードで全身を覆った者たちに。
ウルザさんが放置しているので私も仕掛けませんが……大丈夫なのでしょうか?
「手を出しちゃ駄目ってルールみたいだからね」
ルール?
「この場所のルールよ。
そのルールを守っていれば、彼らとは敵対しないわ。
この状況で敵は増やしたくないでしょ?」
たしかに。
見知らぬ広間に出るたびに、魔物に襲われていますしね。
敵は少ないほうがいいです。
わかりました。
……
その、ついででなんですが……あちらもですか?
私たちの後ろにいる三匹の小さい魔物。
炎の巨人を倒して残った、小さい炎の魔物。
暴風の塊のような魔物を倒して残った、つむじ風の魔物。
レンガを積んだような巨大なゴーレムを倒して残った、石の魔物。
倒されたあと、起き上がってなぜかウルザさんについて来ているのですが……
そっちも気にしなくていいと。
まあ、襲っては来ましたが、敵意はなさそうでしたからね。
あ、このあたりで休憩?
わかりました。
では、お湯でも……あ、小さい炎の魔物が、任せてほしいとやってきました。
消えそうな炎ですが、いいのですかね?
小さい鍋に、魔法で集めた水を入れて渡します。
あ、黒いフードで全身を覆った者の一人が、小さい石畳を持ってきてくれました。
直接、火を使うと床が汚れますからね。
つむじ風の魔物や石の魔物も協力してくれるそうです。
助かります。
コーヒーを飲んで休憩。
現状を再確認します。
私たちは、イースリーさんたちと分断されました。
「チームが分断されたときの行動方針」
ウルザさんがいるほうが本隊。
本隊はウルザさんの指示で行動。
ウルザさんがいないほうは、本隊との合流が難しいと判断した段階で速やかに撤収。
援軍を呼びに拠点に戻る。
「イースリーたちが転移する仕掛けかなにかを見つけたとして、ここまで来られると思う?」
それなりに移動しましたからね。
合流は難しいかと。
「だよね。
時間もそれなりに経った。
イースリーたちは撤退していると想定して、行動しましょう。
運がよければ、助けが来る」
イースリーさんたちも、なにかしらの転移の罠にひっかかって迷っている。
ウルザさんもその可能性は考えているでしょうが、いまは言葉にしません。
いまの私たちは心配する側ではなく、心配される側ですから。
休憩後、出口を探すための移動を再開。
壁や床に印が残せればいいのですが、黒いフードで全身を覆った者たち……黒さんたち、え? その略し方は駄目?
ウルザさんに駄目だしをされたので、黒黒さんと呼びます。
黒黒さんが消していきますし、できれば傷つけないでほしそうにしているので、印は残せていません。
たぶんですが、この黒黒さんたちに出口を聞いたら、教えてくれそうな気がするのですが、ウルザさんに止められています。
それもルールだそうです。
体感ですが、一日ほど経過しました。
黒黒さんたちがベッドルームを用意してくれたので、しっかりと寝れました。
言えばトイレまで案内してもらえるのは、なんだかなぁと思いますが、助かるので言いません。
おや?
黒黒さんたちが、朝の食事を用意してくれたようです。
ありがとうございます。
ウルザさん、そろそろ起きてください。
石の魔物さん。
ウルザさんに甘えているのかもしれませんが、寝ているときにお腹の上に乗るのはやめるように。
鍛練としてはいいのかもしれませんが、いまやることではないので。
昼過ぎ。
ウルザさんが吸血鬼の魔眼を退けた砂を、どうやって用意したのか聞きました。
考えてみれば、あの場所に砂はありませんでした。
転移する直前から砂を用意していたとは考えにくいです。
手でなにかやっていたのは確認しましたが……石?
石と石を擦り合わせて、砂を作ったと。
石は投げて武器にもなるし、握って殴ってもいい。
ほどよい石を数個、常に確保していると。
なるほど、勉強になります。
私も今度から、そうしましょう。
氷の魔物が出現したので、ウルザさんと合わせ技で撃破しました。
……
この氷の魔物も、ウルザさんについてくるようですね。
いや、会話できる?
なかなか優秀ですね。
ウルザさんと知り合いのようですが……
まあ、細かいことはおいておきましょう。
え?
土があれば石の魔物を回復させることができて、この迷宮の構造を把握できる?
いいことを聞きました。
しかし土がない?
たしかにこの場には土はありません。
石壁、石畳です。
ですが、この石壁の向こうはどうでしょう。
土だと思うのですよね。
ウルザさんがさっそく行動を始めています。
さすがですね。
実際に壊したりはしません。
黒黒さんたちが困りますからね。
壊す姿勢を見せれば、黒黒さんたちが土を用意してくれました。
ありがとうございます。
では、これで石の魔物を回復し、迷宮から脱出を……
いつのまにか私の足を掴んでいる吸血鬼がいました。
「待って。
帰らないで。
歓迎の準備をしているから」
そう言われましても。
第一、歓迎していないって言ってませんでした?
「あんなの挨拶みたいなもの。
気にしないで」
しかし……
「主も待機しているから。
せめて、主の顔だけでも」
ウルザさん、どうします?
ええ、わかっています。
この吸血鬼。
強いですね。
広間のとき、逃げなくても私たちを倒せるぐらいには。
触れられるまで相手の力量がわからないとは、私もまだまだです。
現状、私の足を掴んでいる吸血鬼の手を振りほどけていませんし。
……わかりました。
貴方の言う主さんのところに行きますので、手を離してください。
あと、魔眼を警戒し続けるのは厳しいです。
目隠しをしてもらっても?
眼帯を準備していましたか。
気づかいができますね。
「エカテ、油断しない。
彼の魔眼は右目だけじゃないわよ」
……
吸血鬼は、バレましたかと眼帯を取り、両目を隠すように黒い布で目隠しをしました。
なんでしょう。
自分の未熟さを痛感します。
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