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冒険者エカテリーゼ


 私の名はエカテリーゼ。


 とある人間の国の公爵家の娘だったのですが、元婚約者である王子と揉めて母国を出奔しゅっぽんしました。


 魔王国で頑張ろうとするも、環境の違いに苦戦。


 資金難に困っているところ、人間の国と魔王国のあいだに新しい緩衝かんしょう国を文字通り“作る”お手伝いに呼ばれ、参加することにしました。


 私に求められたのは、新しく作る緩衝国での農業の下準備的な仕事。


 その内容を簡単に言えば……どこに畑を作るのか。


 水路や農道をどうするか。


 どういった作物を育てるのかを考えることです。


 ……


 わかっています。


 魔王国に来てからずっと農業をしていましたが、私は農業の専門家ではありません。


 畑仕事をちょっとしたことのある元公爵令嬢です。


 ですので、私に求められたのではなく、私についてきた部下たちに求められた仕事なのでしょう。


 私の部下には、公爵領で領地経営をしている者の血縁者がそれなりにいます。


 開拓、開墾を経験した者も。


 悔しいですけど、私がお手伝いに呼ばれたのは、そういった部下たちがいたから。


 残念ながら、私自身のなにかが認められたわけではありません。


 ですが、だからといって部下に全てを任せ、遊んで暮らすようなことはできません。


 私は私でできることをするだけです。



「それで冒険者ですか?」


 部下の一人が怪訝そうな顔で私に確認してきますが、私の装備はどうみても冒険者だと思うのですが?


 私の上着とズボンは分厚い生地のもの。


 上着は重ね着しており、頭に鉄ハチマキ、手には鉄の手甲、靴は革ブーツ。


 装甲は動きにくくなるのでまとっていませんが、ズボンの上にそれなりに厚い生地のスカートを着ています。


 このスカート、ファッションだけが目的ではありません。


 スカートの先に鉄のやいばが仕込んであるので、腰を回転させることで武器になります。


 また、スカートがあると近接時の足元の動きが隠せますからね。


 素晴らしい装備です。


 そして武器はこん棒(メイス)


 私としては素手でもよかったのですが、なにかしら見える武器を持っているほうが不埒ふらちな者が近づかないと知っているので仕方なく選びました。


 ちなみに、剣はちょっと相性がよくありません。


 折れる武器に命は預けられませんから。


「お嬢さま。

 畑仕事はお辞めになるので?」


 やりたいのですが、勝手に開墾しても迷惑でしょうから。


 実際、どこを畑にするか、まだ検討中なのでしょ?


「そうですけど……あの、大人しくしている気は?」


 大人しくしているつもりですが?


 派手に動くのであれば、魔王軍の指揮をしますよ。


「それ、魔王軍の関係者から、本職の方よりも上手に軍を率いるのはちょっと遠慮いただきたいなぁと言われたじゃないですか」


 言われましたが……


 下手ならともかく、上手に率いてなにが問題なのでしょうか?


「本職の方が指揮しにくくなるからですよ。

 迷惑をかけてはいけません」


 迷惑はよくありませんね。


 そういうわけで、冒険者なのですが。


「……わかりました。

 ですが、一人で活動されるのは見逃せません。

 部下をともなってください」


 部下は新しい緩衝国作りのお手伝いで忙しいのでしょう?


 私につき合える部下がいるのですか?


 侍女長のヘンリエッタも、さすがに冒険者として同行はできないでしょうし。


「むう。

 で、では、チームを組んでください。

 五~六人で」


 心配性ですね。


 わかりました。


 私も一人では不便なのは理解していますから。


「よろしくお願いします。

 あ、あと、メンバーは女性のみで」


 わかっています。


 ちょうど、そういったチームに誘われていますので。


「そうですか。

 安心しました。

 ちなみに、その誘われているのはどのようなチームで?」


 貴方も知っていますよ。


 ウルザさんの率いるチームです。


「………………………………」


 すごくいろいろなことを考えている顔ですね。


 言いたいことがあるなら、溜めこまずにどうぞ?


「ウルザさまはアルフレートさま、ティゼルさまの姉ですから、友誼ゆうぎを結ぶのはとても素晴らしいことです。

 ですが、お嬢さまがウルザさまから影響を受けるのは、その……奔放ほんぽうさにみがきがかかるのではないかと不安です」


 正直でよろしい。


 ですが、その不安は不要です。


「と言うと?」


 ウルザさんのほうから、言われましたので。


 高貴な女性の振る舞いを教えてほしいと。


「…………………………」


 また、すごくいろいろなことを考えている顔ですね。


 溜めこまずにどうぞ?


「え?

 お嬢さまから高貴な女性の振る舞いを学ぶ?

 え?」


 正直でよろしい。


 ですが、私は元とはいえ公爵令嬢ですよ。


 ご安心なさい。


 自信しかありません。




 私は冒険者として活動を始めました。


「エカテさんエカテさん。

 怪しい場所にまっすぐ行くのは止めてください。

 心臓に悪いです」


「エカテッ!

 力まかせに倒さないでって、何度も言ってるでしょう!

 こんなミンチ、誰が買ってくれるのよ!」


「エカテ。

 動く前に一言、ほしいかな。

 いろいろと驚くから」


「エカテリーゼさん。

 役割分担に関して、もう一回おさらいしましょうか。

 わかっています、私の伝え方が悪いのですよね。

 すみません。

 ですが、何度でも私は貴女に伝えますよ。

 役割分担の大事さを」


 仲間にはげまされながらも、頑張っております。


 ええ、励ましです。


 注意ではありません。


 ウルザさんがそう言ってますから。


 そのウルザさんのチームは、私を含めて六人。


 リーダー兼攻撃役のウルザさん。


 ウルザさんの学友で、斥候役のイースリーさん。


 魔王国軍での選抜試験をくぐり抜け続け、魔王国軍内でのエリート街道をまっしぐらだったのに、なぜかチームに派遣された盾役、重戦士のドロシーさん。


 ダルフォン商会から推薦されてチームに入った、孤高の魔法使いのレオノラさん。


 ゴロウン商会が雇っている護衛から派遣された、治癒魔法使いのロキナさん。


 そして、軽戦士の私、エカテリーゼです。


 このチーム。


 私が入る前の基本はイースリーさんが先行してルートを確定。


 そのルートをほかのメンバーが追跡するスタイルでした。


 そして、敵と遭遇したときはウルザさんが飛び出し、残りのメンバーがウルザさんのサポートに回ります。


 なので、盾役のドロシーさんが守るのはウルザさんではなく、ほかのメンバーとなります。


 ここに私が加入したことで、敵と遭遇したときの対応に変化がありました。


 飛び出すのがウルザさんと私になりました。


「別方向から襲われたときの備えとして、チームに誘ったのに……」


「一緒に殴りに行くとは……」


「ま、まあ、殲滅せんめつ力が上がったから、前方の敵を早く排除できるようになったわけだし。

 トータルでは安全面は向上したんじゃないかな」


「ウルザさんだけだと、群れの敵に対して弱かったですからね」


 数回の冒険をて、私はチームの中での立場を確立しました。


 ……


 諦められたわけではありませんよ。


 ウルザさんと私の相性がすこぶるよかったのが原因だと思います。


 なぜか私はウルザさんの動きがわかり、ウルザさんは私の動きを理解していました。


 まるで長年の友人のように。


 ですので、ウルザさんとは声をかけあわずとも互いをサポートする動きができたのです。


 演武のような見事なコンビネーションだったとは、イースリーさんの言葉です。


 褒められて悪い気はしません。


 ただ、そのコンビネーションのかたわら、私の扱う武術をウルザさんがどんどん吸収していったのは……その、びっくりしました。


 テェザンコッすら、私に劣らぬ威力で再現していましたからね。


 拳を縦にしたままの打撃、ポンチェーは私より威力があると思います。


 まるで、忘れていた技術を思い出しているかのようなウルザさんです。


 そんなウルザさんに、嫉妬心などは覚えません。


 見事な武術には、ただ称賛しょうさんあるのみです。


 私も頑張らねば。


 ああ、でもウルザさんは、もう少し腰を鍛えるといいかもしれません。


 打撃の威力が上がりますよ。


 腰を鍛える訓練方法をお教えしましょう。


 おや?


 イースリーさん、どうしました?


 高貴な女性の振る舞い?


 …………


 まずは武術を形にしてからにしましょう。


 中途半端はいけませんからね。


 私の武術の全てを伝えますよ。


 ほら、ウルザさんもそれを望んでいるようです。






ドロシー 「エカテッ、素手で殴るな! こん棒を使え! こん棒を!」

レオノラ 「……エカテリーゼ、ドロシーはこん棒を握った手で殴れと言ったわけじゃないと思う」

ロキナ  「拳の治療を……必要ないみたいなのはなぜでしょうか?」



ドロシー 「イースリー、ウルザとエカテになんとか言ってくれ」

イースリー「諦めるのが大事」

レオノラ 「休憩時間には休憩させないと」

イースリー「流れに身を任せるのよ」

ロキナ  「休憩時間になるたびに組み手をされるのは」

イースリー「困ったときは上を見ましょう。綺麗な星空です」

ロキナ  「……まだ昼ですよ」



ドロシー 「軍を指揮させたらまともなのに……」

レオノラ 「後方に置いておくと輝くタイプかな」

ロキナ  「指揮官先頭とか言って、突撃したりしませんか?」

ドロシー 「率いている数が多いと自重できるんだよなー、なぜか」

レオノラ 「つまり、ウルザと一緒と?」

ロキナ  「…………それはいい情報なのでしょうか?」






 すみません。

 予告したのに、なぜ転移したかを説明する部分まで進まなかった。

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― 新着の感想 ―
すごいよエカテさん!
[一言] >ウルザさんだけだと、群れの敵に対して弱かったですからね 参考資料、破邪の洞窟、最終局面のマァム
[気になる点] 農業の専門家 332話 ロバート先生
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