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氷の魔物

●登場人物紹介

エカテリーゼ  人間の国の公爵令嬢。魔王国に逃げたあと、ティゼルの国作りに参加中。


 俺は氷の魔神……否、氷の魔物だ。


 名は……アイス。


 シンプルすぎる名だが、受け入れるしかなかった。


 俺を倒した者が、俺を縛るために授けた名だから。


 忌々(いまいま)しい。


 だが、あるじの強さは認めている。


 そして主とともに暴れるのは悪くないと思っていた。


 しかし、主は死んだ。


 俺のいない場所で、強い者と相打ちしたらしい。


 勝手に振り回しておいて、勝手にいなくなるとは。


 せいぜい、大笑いをしてやろう。


 俺を縛る者はいなくなったのだ。


 そう思ったのだが……


 俺は解放されなかった。


 なぜだ?


 主の居場所はわからない。


 こちらの呼びかけには答えない。


 主からの呼びかけもない。


 しかし、縛られている。


 なんだこれは?


 主はどうなったのだ?


 わからない。



 とりあえず、百年ほど待った。


 時間の感覚があいまいだから、きっちり百年ではない。


 千年だったかもしれない。


 いや、二千年か?


 わからないが、百年より短いということはないだろう。


 そのあいだ、主からの呼びかけはなかった。


 それゆえ、俺は自由だと判断。


 好き勝手に生きようと考えた。


 まずは……


 なんだろう?


 生きやすい世界を作ることか?


 世界を氷で埋め尽くすとか?


 うん、それがいい。


 俺はどこかの森を歩きながら、そんなことを考えた。




 俺は全力で逃げた。


 まずいまずいまずい。


 なんだあの村は?


 神代竜族がいた!


 フェニックスがいた!


 それに加え、蜘蛛の女王がいた!


 な、なんで連中が一緒にいる?


 何千年も前から敵対していただろう?


 なにがあった?


 お、俺は氷の魔物。


 氷の精霊王の配下だから、蜘蛛の女王に従うべきか?


 蜘蛛の女王と氷の精霊王の関係はどうだった?


 蜘蛛の女王は寒いと寝るから、嫌われてた気がする。


 ど、ど、ど、どうしよう。


 フェニックスは……炎系だから、氷の俺とは相性が悪いよな。


 神代竜族は……俺のことなんか気にするわけがない。


 よし、見なかったことにして逃げよう。


 そう思っていたのに、追われた。


 フェンリルだ。


 しかも複数。


 待て待て待て。


 フェンリルの一族は氷の精霊王の配下だ!


 俺と同じだ!


 仲間!


 そうアピールしたのに、まれた。


 自慢の氷の鎧が砕かれた。


 こちらの攻撃は……通じない。


 わかっている。


 同じ氷系。


 こちらの魔法が通じるわけがない。


 力的にも……フェンリルたちのほうが強い。


 いい物を食べていたんだろうなぁ。


 こっちは百年……いや、百年じゃないかもしれないが、なにも食べていない。


 力の勝負では勝てない。


 そのうえ、フェンリルたちには俺をみ砕く牙がある。


 俺にはない。


 牙の代わりに氷の剣を持ってはいるのだが、フェンリルに通じるわけもない。


 一応、奇跡を願って斬ってみたけど、フェンリルの毛に負けて氷の剣は折れた。


 知ってた。


 ……


 誰か助けて!


 俺は心の底から願った!




 気づけば、俺は見知らぬ場所にいた。


 ひんやりとした石造りの建物の中?


 迷宮の中か?


 なぜここに?


 俺は転移したのか?


 転移させられたのか?


 周囲にフェンリルたちはいない。


 とりあえず砕けた体を再生する。


 シンプルな体……貧相だ。


 だが、どうしようもない。


 体が万全になるには数年かかるだろう。


 なに、数年などあっというまだ。


 気を取り直して……


 現状を把握はあくしようとしたところで、体の前後から大きな衝撃を受けた。


 なんだと自分の体を見ると、俺に体当たりしている女。


 後ろを見ると、同じように俺の体に体当たりしている別の女。


 ああ、知っているぞ。


 これはただの体当たりではない。


 テッザッコー。


 技だ。


 主がよく使っていた。


 それを俺は前後から喰らったということか。


 ははは。


 再生したばかりの体が、砕け散った。


 フェンリルから逃れられたと思ったのに。


 俺の命はここで終わりということか。


 いいだろう。


 だが、ただでは死なん!


 どちらかの命を奪って……


 あれ?


 片方の女に見覚えがあるぞ?


 いや、知っている姿からは少し若くなっているが……


 主?


 まさか、主の子か?


 いや、子孫?


 どちらにせよ驚きだ。


 あの主をめとった男がいたのか!


 すごい!


 世の中は広い!


 絶対に無理だと思っていたのに、ぐぇっ!


 ちょっと待って。


 思い出に浸っているところだから、止めを刺そうとしないで!


 なんかムカつくことを考えていたって言われても……


 あれ?


 このやりとり。


 覚えがある。


 主だ。


 おおっ、やはり主の子孫だ。


 ……


 違うな。


 うん、違う。


 なぜなら、彼女の魔力が俺を縛っているのを認識できたから。


 つまり、目の前にいる女は主。


 英雄女王と呼ばれていたウルブラーザ!


 え?


 違う?


 ウルザ?


 あ、そ、そうですか。


 それで主。


 もう一人の女性は?


 エカテリーゼさんですか。


 主の仕事仲間と。


 よろしくお願いします。


 俺……いえ、私は氷の魔物、アイスです。


 主の部下です。


 ええ、部下です。


 敵意はありません。


 なので、体を再生してもよろしいでしょうか?


 頭だけなのはどうも落ち着かなくて……



 再生を許してもらえた。


 よかった。


「貴方は喋れそうだからね。

 通訳、してちょうだい」


 通訳?


「あっちにいるの。

 貴方の仲間なんでしょ?」


 仲間と言われましても、私は一人で……


 主に言われるままに移動した先にいたのは、自身の火で鍋を温めている小さな炎の魔物。


 砕けたレンガみたいになりながらも、その鍋を持っている石の魔物。


 消えそうなつむじ風の姿になりながら、炎の魔物を応援しているのは風の魔物。


 ……


 かつての同僚たちだった。


 あれ、全部、主の部下ですから!


 なんで攻撃したんですか!


 わかりますよ!


 あそこまで弱々しくなっていたら!


 主が攻撃したんですよね?


 エカテリーゼさんもやったって……エカテリーゼさんを巻き込んで責任を分散させようとしないでください。


 ああ、そうだった。


 主はいつもこんな感じだった。


 私たちが止めたのに勝手に行動して、あとで困ったら私たちを巻き込んできた。


 懐かしい。


 そして腹立たしい。


 ええい、とにかくこのままだと炎の魔物が消えちゃいますので、燃料を追加してやってください。


 炎の魔物も、命を削ってまで鍋を温めるんじゃない!


 そういうことは余熱でやりなさい。


 余熱で。


 石の魔物は……土に埋めればある程度、回復しますが……ここって迷宮の中ですよね?


 外に出ないと駄目です。


 同じく風の魔物も、迷宮内だと本領を発揮できません。


 とにかく、ここから出ましょう。


 迷宮内で迷っているわけじゃないんですよね?


 なぜ二人して顔を背けるんですか?


 主はともかく、エカテリーゼさん?


 貴女は常識人枠だと思っていたのに!


 主を止めてくれる人だと信じていたのに!


 一緒になって暴れる人でしたか!


 思い出せば、見事なテッザッコーでした。


 テェザンコッではありません。


 テッザッコーです。


 どこかで間違って伝わったのでしょう。


 まあ、通じればかまいません。


 それより、迷宮を出ますよ。


 もしくは土のある場所を目指して。


 ええ、石の魔物がもう少し回復できれば、迷宮の構造がわかりますから。


 迷宮を出るのも簡単です。


 だから土があれば……


 主、エカテリーゼさん。


 壁に向かってなにを?


 壁を砕けば土があるんじゃないかと?


 ……


 迷宮の壁って魔力で補強されているから、普通は砕けないんですけどねぇ。


 主とエカテリーゼさんならやれそうです。






転移した理由とかは次回。

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― 新着の感想 ―
エカテさん素晴らしい!
この公爵令嬢、ちょっとお転婆くらいかと思ったらガチ武闘派ハイスペおぜうだったでござる!?
>あの主を娶った男がいたのか! アルフレート「……」 >壁を砕けば土があるんじゃないかと? 壁を砕くと出来るのは砂です… >体を再生して 世界樹の葉ではムリでしょうか?
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