氷の魔物の影
天気のいい冬の日。
五村の神社の周囲の森に見た目が木の魔物、トレントが住みついていたことが判明した。
一村にいるエルダートレントとは無関係の、野良のトレントだ。
神社の周囲の森ではできるだけ殺生を控えてほしいと要望しているので、トレントたちにとっては安全な場所となる。
だから、住みついたのだろう。
トレントは近づく動物を襲う魔物だが、土から十分な栄養を吸収できるなら動物を襲う必要はない。
一村にいるトレントたちは、迷惑をかけずに暮らしている。
それどころか、一村の周辺の森に潜み、危ない魔獣や魔物が近づいたらニュニュダフネやクロの子供たちに伝える仕事を頑張ってくれている。
ハーピー族の止まり木兼補給所をやったりとかも。
なので、俺としてはトレントは危険な魔物ではなく、共存できる関係と思っている。
まあ、神社の周囲の森にいるトレントが動物を襲っていないことが大前提となるけど……
などと考えている俺より先に、話を知った一村のニュニュダフネの一人が、神社の周囲の森に行ってトレントを捕まえて神社に持ってきた。
あ、いや、連れてきた。
うん、連れてきただな。
小脇に抱えていたから、つい持ってきたと考えてしまった。
その連れて来られたトレントは住みついたトレントたちのボス格らしいのだが、エルダートレントのように喋れなかったのでニュニュダフネが通訳してくれた。
「挨拶が遅れ、申し訳ありません。
迷惑をかけないので、森にいることを許してください」
トレントがそう言って、神社の代表である銀狐族のコンに頭を……いや、枝を振った。
それを受け、コンは……どうしましょうと俺を見る。
いや、俺を見られても。
えーっと、動物を襲ったりは?
「このあたりの土が良質なので、必要はありません」
そうか。
なら、コンたちに問題がなければかまわないぞ。
コンは問題ないとのことで、トレントたちが神社の周囲の森に住むことが許可された。
「村長。
すみませんでした」
ニュニュダフネが謝ってくるが、知り合いだったのか?
「いえ。
そうではありませんが……
近隣のトレントたちが住みつくと思っていたのに、対策をしていませんでしたから」
住みつくと思っていた?
やはり、殺生を控えさせたからか。
「それもありますが……
村長、神社を建てるときに、周囲の森に手を入れたじゃないですか」
まあ、雑木林だといろいろと困るからな。
ああ、それでか。
「はい。
村長が手を入れた土地は、私たちやトレントにとってはお宝です。
なのに、対策を怠っていました」
ははは、気にするな。
ニュニュダフネたちは各村にいるが、五村は範囲外だ。
「それでも、村長に事前に言っておけば……」
いやいや、それを報告されてもどうしようもないだろ。
やれることといえば……
山を全て耕して、トレントの楽園を作るぐらいか?
「村長。
その前にすることがあるのでは?」
わかっているわかっている。
ニュニュダフネたちは、見えないところでいろいろと頑張ってくれているからな。
春になったら、各村にニュニュダフネ用の畑を作ろう。
「ありがとうございます」
大樹の村の屋敷に戻ると、ルーが渋い顔をしていた。
なにかあったのだろうか?
「どうも村の北側に、氷系の魔物が出たみたいなのよ」
危険なやつか?
「私は見てないからなんとも。
でも、この村にはコキュートスウルフやフェンリルがいるから大丈夫よ」
コキュートスウルフは、クロたちインフェルノウルフの変異種。
フェンリルはクロの子供の一頭が拾ってきた子犬。
連れてきたクロの子供のパートナーとなり、いまではそれなりの大家族になっている。
そのコキュートスウルフやフェンリルは、どちらも氷系らしい。
なので氷系の魔物が出ても対抗できるそうだ。
「まあ、大丈夫じゃなくてもこの村にはドラゴンがいるしね」
たしかに。
それで、その魔物は?
仕留めたのか?
「フェンリルたちが追ってるから結果待ち。
各村や温泉地、北のダンジョンの巨人族、南のダンジョンのラミア族には警戒するように連絡しておいたわ」
それは助かるが……連絡役がやられたりは?
「大丈夫よ。
天使族に任せたから」
天使族は飛べるし、数人でまとまって行動しているから、遭遇しても対処できると。
そうかもしれないが、怪我はないほうがいいんだけど。
「そう言うだろうと思ったから、クロたちの角がついた槍を持たせたわ」
あの槍をか。
安心感は増したが、不安も増したな。
「それよりも、その魔物にかなりの距離まで近づかれたことに対策しないと」
どれぐらい近づかれたんだ?
「たぶんだけど、北側の水路の近くまでよ」
……
ひょっとして、前に水路が底まで凍っていたのはそいつのせいか?
「たぶんね。
アイギスの炎でも、なかなか融けなかったらしいから」
むう。
冬でクロの子供たちやザブトンの子供たちの警戒網が弱くなっていることもあるが、そこまで近づかれるのは珍しいな。
どう対策したものかと考えていると、フェンリル一家が戻ってきた。
残念ながら逃げられたらしい。
ただ、一度は遭遇して戦闘になり、かなりダメージを与えたそうだ。
逃げられたあと、広範囲に調べてみたけど気配がまったくなかったから、なんらかの方法で森から出たんじゃないかとのこと。
それはいい報告になるのかな?
とりあえず、森を出たということは魔王国に行ったということだろう。
魔王に連絡しておくか。
夕方。
各村へ連絡に行ってくれた天使族が戻ってきた。
氷の魔物と遭遇せず、無事に連絡できたらしい。
無事でなにより。
しかし、なぜ遭遇していないのに、何人かは槍を持っていないのだろうか?
怪しい場所に投げてきた?
主にクーデルが。
なるほど。
雪崩とか起こしてないだろうな?
そんなミスはしないとは言うがな。
わかったわかった。
連絡、お疲れさま。
食事の用意ができている。
温まってくれ。
翌日。
念のためにハクレンとラスティを中心とした氷の魔物を捜索する隊を編成。
氷の魔物を探したけど、発見はできなかった。
「いろいろと探ったけど、それらしいものはいないかな」
「こちらもです。
やはり森を出たのだと思います」
むう。
隊にはコキュートスウルフやフェンリル一家も参加している。
彼らも見つけられなかったと報告してくる。
脅威は去ったと考えればいいのだろうか?
「来ても脅威じゃないけどね」
ハクレンにとってはそうかもしれないが……
「あー、そうじゃなくて」
ん?
「今は寝ているけど、この村にはザブトンがいるでしょ。
あれに喧嘩を売るのは、そうそういないってこと。
村に近づいただけでいなくなったのも、ザブトンがいることに気づいたからじゃないかな」
なるほど。
とりあえず……
見つからないし、一安心でいいのかな?
でも、万が一が怖いので、当面は警戒重視。
コキュートスウルフやフェンリル一家も、村から離れるときは気をつけるんだぞ。
そんなことがあった日から数日後。
ウルザが突然、村に戻ってきた。
氷の魔物を連れて。




