凍った水路
ある冬の日。
リリウスたちがヨウコのもとで働いているという話を聞いたリグネが、俺のところにきた。
そして、俺に言った。
リリウスたちが働くのはかまわない。
若いうちは、いろいろと経験させるべきだ。
しかし、なぜヨウコ殿のもとなのか?
こういった場合、若いゆえ失敗してもかまわない場所。
つまり、迷惑をかけてもかまわない場所。
親族のところではないだろうか?
彼らの親族となると数は限られるが、ちょうどいい人物がここにいるではないか?
……
要は、ヨウコのもとではなく、祖母であるリグネのもとにすべきという提案。
うーん、考えもしなかった。
リグネのもとだと王都になる。
それだと、外に行きたいというリリウスたちの要望を叶えることになり、外に行かせたくないリアたち母親の要望を無視することになってしまう。
だから、提案されても受けにくい。
それに、本人も言っていたが、リグネはリリウスたちの数少ない親族。
親族には、なにかあったときに助けてもらいたい。
「なにかあったとき?」
俺や母親たちになにかあったとき、この村でなにかあったときだ。
「なにかあるとは思えんが……」
油断は駄目だろ?
「むう」
だから、リグネにはリリウスたちの頼れる親族として期待している。
俺の勝手な考えだけどな。
「い、いや。
わかった。
私の話は忘れてくれ」
リグネは納得してくれたようで、満足気に帰っていった。
あっさり帰ってしまったな。
せっかく来たんだから、リアたちと話していけばいいのに。
そう思っている俺に、お茶を持ってきてくれた鬼人族メイドが教えてくれた。
「リグネさん、村長のもとに来る前にハイエルフのみなさんと訓練していましたよ」
ああ、なんだ。
すでにコミュニケーションはとっていたのね。
余計な気づかいだったか。
「ハイエルフのみなさんの治療は、フローラさまがしております」
うん?
「あと、ハイエルフのみなさんから、ダンジョン内に対人用陣地の構築と罠を設置したいとの要望が出ております」
えーっと……次回の訓練に向けてかな?
通行者やダンジョンにいるアラクネたちに迷惑をかけないようにしてほしいかな。
「伝えておきます」
よろしく。
数日、吹雪が続いた。
やっとおさまったと思った朝。
目の前には氷の世界が広がっていた。
まさにそう表現するのがいいだろう。
なにせ、建物の窓から見える景色が、全て氷の壁なのだから。
雪ではなく氷なのは、屋根に仕込んだ保温石のせい。
屋根の上に積もらないように保温石を仕込んでみたのだが、融けた雪が保温石のない場所で凍って氷になってしまった。
氷柱が太くなって壁になったのではなく、下に落ちた融けた雪が氷になり積み重なった感じ。
なので、氷の壁がかなり厚い。
一応、融けた雪は保温石を仕込んだ雨樋で回収するように対策していたのだけど、回収しきれなかったようだ。
この村での降雪量は、知っていたつもりなのだけどなぁ。
鬼人族メイドたちが、斧やハンマーで氷の壁を砕いている様子をみると、素直に雪を積もらせたほうが楽だったかもしれない。
「いえいえ。
屋根に雪が積もると、その重みで建物が傷みますから」
鬼人族メイドの一人がそう言ってくれるが、屋敷が氷に覆われてしまうと窒息の危険があるぞ。
だから、氷の壁を砕いているわけで。
「屋敷の正面は大丈夫ですから」
正面玄関は床にも保温石を仕込んでいるからな。
そこには氷の壁はできていない。
ただ、地面がべちゃべちゃになってしまっている。
融けた雪の回収ができていないからだ。
排水路を作ってはいたのだけど、全ての場所に保温石を仕込むのは難しかったからな。
凍って排水路を詰まらせている。
雪のままのほうがいろいろと楽だったかもしれない。
「村長。
北側の水路が凍っていました」
村の各地を見回っていたハイエルフが、そう報告してくれる。
しかし、水路が凍るのはいつものことだろ?
ため池だって凍るんだから。
「いえ、それが水路の底まで凍っていまして。
炎の魔法を使える者が溶かしています」
底まで?
それは冷えたなぁ。
馬や牛たちは大丈夫だったろうか?
「あ、家畜小屋のほうは大丈夫みたいですよ。
獣人族の子たちが小屋に泊まり込んでいましたから」
そうだったな。
吹雪くと外に出られなくなるので、獣人族の女の子たちが馬や牛たちの小屋に数人ずつ泊まり込んでいる。
といっても馬や牛の小屋で寝るわけではなく、ちゃんと宿泊用の施設を小屋に増設しておいた。
もちろん、暖炉もトイレもちゃんとある。
そこに食糧や水を持ち込み、冬のあいだそこで暮らしても問題ないようにしている。
だって、泊まり込むなんて危ないと思うから。
しかし、獣人族の女の子たちは、頑なに泊まり込むと主張した。
以前、牛小屋が壊れたことがあったので、それを警戒しているらしい。
なので、泊まり込むならしっかりとした施設をと考えたわけだ。
話をしていたら、その泊まり込んでいた獣人族の女の子がやってきた。
大丈夫だったか?
「大丈夫でした。
ただ、牛が数頭、吹雪の最中に温泉地に行きたがりまして……止めるのが大変でした」
ご、ご苦労さま。
「いえ。
なんとか聞き分けてくれましたから。
それで、その牛たちを温泉地に移動させてもいいですか?」
ああ、かまわないぞ。
馬や牛たちが温泉地をよく利用するので、向こうにも小屋を建てている。
万が一、向こうで雪に閉じ込められても大丈夫だろう。
「では、希望する牛たちを連れて温泉地に行ってきます」
大丈夫だとは思うけど、護衛にクロの子供たちを連れて行くように。
「はい。
ありがとうございます」
獣人族の女の子は小屋に戻っていった。
入れ替わるように、リザードマンがやってくる。
「村長。
北側の水路の氷がなかなか融けません。
援軍をお願いします」
ハイエルフが言ってたやつか。
どうせまた凍るし、春まで放っておいたら?
「水路に雪を放り込んで片づけているので、流れてくれないと困ります」
たしかにそうだな。
わかった。
ルーやティアの手が空いていたら、手伝うように言っておくよ。
「できればアイギス殿をお借りできれば」
かまわないけど、ルーやティアじゃ駄目か?
「ルー殿やティア殿には、ぬかるんだ地面のほうをお願いできればと」
ああ、屋敷前のやつね。
「それもありますが、居住エリアの道にも保温石を仕込んだのをお忘れですか?」
あー、そういえばそうだった。
そっちも排水路が凍っているのか?
「はい」
つまり、そっちもびちゃびちゃになっていると。
わかった、ルーとティアにはそっちをなんとかしてもらおう。
水路にはアイギスを……
俺が言う前に、アイギスが北側の水路に向かって飛ぶ。
まかせとけと言わんばかりの姿が頼もしい。
報告に来てくれたリザードマンが俺に一礼し、アイギスを追いかけていく。
うーん。
屋根に仕込む前に、水路に保温石を仕込んだほうがよかったかな?
あ、駄目だ。
春になったら困る。
水路は各地のため池に繋がっている。
そして、ため池の役割は温度調節。
川の水を畑に使うのに適した温度にするためにため池があるのであって、水路で温めては作物に影響がでる。
水路を凍らせないためには、水路の幅を広くするほうが効果的かな。
春になったら、ちょっと考えてみるか。
しかしながら、屋根や道に保温石を仕込んだことには反省点が多いな。
一応、村のみんなと相談しながら考えたのだが……
「失敗を重ねて便利な生活を作っていくものです。
来年は排水に力を入れましょう」
近くを通りかかった山エルフがそう言いながら、屋敷の周囲にある氷を砕くのを手伝ってくれた。
俺も微力ながら手伝おう。
あ、手伝うより村の見回りね。
了解。
お久しぶりになってすみません。
なんとか週に一~二回は更新できるように、頑張ります。




