うちの村長は変なことを考える
本日二話更新。二話目です。
新しいメニューは考える。
考えるが、俺が五村に来た本来の目的を忘れてはいけない。
五村の秋に過熱する徴税問題。
その対策のための会議だ。
場所はヨウコ屋敷の会議室……は、倉庫になっているので、和室……和室も駄目?
空いているのは?
他国の貴族を出迎えるための応接室ね。
じゃあ、そこで。
会議に参加するのは俺、村長代行のヨウコ、五村の武官筆頭のヒー、五村の文官筆頭のロク、五村の諜報活動担当のナナ。
大樹の村で会議をしてもよかったのだが、俺が五村の収穫の様子を見たかったので五村でとした。
「税を多く納めたいという気持ちはわかる……わかる? わかるような気もするが、五村は独自の財源もあり、住人からの税を重視する必要はない」
ヨウコが現状を説明してくれる。
簡単にまとめると、住人は税を納めたい。
しかし、五村としてはこれ以上の税は不要。
あいだに立つ徴税官が困っていると。
「うむ。
徴税官が受け取ってしまった分は、かなり渋ったうえで受け取るようにしておるが……徴税官の精神状態や肉体状態に支障がな」
なるほど。
俺は正直に言って、税を納めたいという気持ちは理解しにくく。
さらには、税を受け取りたくないという気持ちも理解しにくかった。
しかし、説明を受ければ納得できた。
税を納めたい側は、税を納めるのが目的ではない。
目的は、五村に対して貢献したいということだ。
五村に対しての貢献がしたいのなら、五村が主導する事業に参加してもらえればいいのだが……
ああいったものに希望者全員が参加できるわけではない。
なので、税だけでも納めさせてほしいと声をあげている。
そして、税を受け取りたくない側は、使いきれないからだ。
使いきれない分は貯蓄すればいいと思うが、そうもいかない。
行政側が税を集めることは権利ではあるが、集めたからには税を分配するという義務が発生する。
そう、義務だ。
税は行政側の従事者の個人的な懐を潤すものではない。
行政側は、住人から集めた税の分配を委任されているだけにすぎない。
だから集めた分は使わなければならない。
もちろん、大規模な事業のために貯蓄することは当然ある。
災害に備えての貯蓄も必要だ。
しかし、基本は集めた税は使うものだ。
それが税だ。
「住人から集めた金で、村を豊かにし、さらなる発展を目指す。
村長とヨウコ殿の方針は素晴らしい。
それがしもその一助となるべく、尽力いたします」
ヒーの言葉に、ロクが続く。
「税を貯蓄しては、経済が死にますからね。
使ってこそです」
しかし……と、ロク。
「どんどん使っていきたいのですが、すでに予定は五年先までしっかり組まれていまして……」
「それでもなんとか使おうと、予定外の新しい住人のための住居建設、予定外の道路の補修管理、予定外の五村の清掃活動、予定外の警備隊の増強、冒険者の生存率を上げるために森の中に砦や避難所を建てることにまで資金を注ぎ込んでおるのだが、金庫には金が貯まる一方」
ヨウコが遠い目をしながら言う。
「お金が貯まれば、悪いことを考える人が出てくるものですが、村議会の人たちは清廉潔白というか……
変なことをして村から追い出されたくないから、お金の扱いはきっちりしていますからねぇ。
無駄使いは一切、されていません」
ナナが、そう報告する。
本来はありがたい報告のはずだが、少し残念そうだ。
不正は困るぞ。
「五村にお金が貯まるのは、税の全てが五村に集まるからです。
本来なら、半分ほどを国へ税を納める必要があるのですが……」
ロクがテーブルに資料を広げる。
五村は魔王国内にあるが、独立勢力扱いになっている。
なので魔王国に税を納める必要はない。
「魔王国に納税できれば、金銭問題のかなりの部分が解決しますが……
納税される魔王国は、五村に対してなにができるのかという話になります。
ちなみに、ランダン殿にそれとなく話を持ちかけましたが、納税するなら魔王国は大樹の村に全面降伏するぞと泣きながら脅されました」
泣きながら脅し……いや、降伏って。
なぜそうなる?
「税を受け取るだけでなにもできなければ、反乱に繋がりますからね。
普通なら、魔王国の軍事力に頼れるという恩恵があるのですが……
魔王国の軍では、五村の北側の魔獣や魔物の退治は厳しいでしょう。
それに、五村の防衛にはピリカ殿と警備隊。
さらにはザブトン殿のお子さまたちがおられます」
ロクが上を見ると、天井の梁にザブトンの子供たちが数匹いた。
お前たちも会議に参加していたか。
「追加でクロ殿のお子さまたちを数頭、呼んでしまえば盤石でしょうし……最悪に最悪を重ねるような事態になっても、ドライム殿が近くに住んでいますから……」
ドライムを呼ぶと、グラッファルーンやラスティも参加しそうだな。
「なんにせよ、大樹の村、五村の戦力を考えれば、魔王国としては軍を派遣する意味を見いだせないでしょう。
魔王国が守ったというポーズでまとめますよとも言ったのですが、いいから余計なことを考えないでと言い残してランダン殿は逃げまして……」
そ、そっか。
ま、まあ、あまりランダンを虐めないように。
ティゼルもなんだかんだランダンに迷惑をかけているみたいだから。
「あー、貯まる金に関しては、後回しにしよう。
そのうち、村長が使う方法を考えてくれる」
ヨウコが頼んだぞという視線を俺に向けてくるが、大樹の村もお金を貯めすぎているという問題もあるんだけどなぁ。
おっと、ナナ。
なにか言いたいことがあるのか?
俺に任せると、税収が増える?
じ、神社とか白鳥レースで、五村の収入が予定外に増えたことは今回は置いておこう。
うん。
えーっと、話を戻して……
五村の徴税官が苦労している。
原因は税を納めたいという者がいること。
しかし、税を受け取るのは五村としては避けたい。
税を納めたい者は、納税が目的ではなく五村に貢献することが目的。
なので、過剰な納税は五村の迷惑だと伝えれば収まるだろう。
貢献が目的であって、五村の運営を妨害するのが目的ではないのだから。
しかし、それでは徴税官は助かっても、五村に貢献したいという住人の気持ちが収まらない。
それに、そういった気持ちを無下にするのはよくないと思う。
五村として、しっかりと汲むべきだ。
「言うはやすいが、どうするのだ?
事業を増やしても、そういった者が参加できなければ意味がないぞ」
おっと、ヨウコ。
難しく考えるな。
要は五村に貢献したいから税を納めたいという話なんだから……
俺は自分の考えを伝えた。
現金つかみ取りとかどうだ?
五村行政、徴税官は、正しく税を納めた者に木板のチケットを渡す。
チケットは参加券だ。
チケット一枚で一回。
ガラガラと呼ばれる回転させる抽選機を回せる。
玉が出て、その玉の色で当たりハズレを決める。
ここでの当選確率は、十分の一。
ハズレが九百個で、アタリが百個。
ハズレは残念賞で、中銅貨を一枚もらえる。
当たりは次のステージに進出。
次のステージは、現金つかみ取り!
大、中、小の箱に納められた現金を掴む権利が与えられる!
箱のサイズが複数あるのは、種族によって手の大きさが違うから。
なので、大の箱には小銅貨がメイン。
たまに中銅貨、大銅貨がある。
中の箱には、中銅貨がメイン。
たまに大銅貨がある。
小の箱には大銅貨がメイン。
たまに銀貨がある。
このように調整されている。
これらは全て五村のお金!
手の大きさを計って、挑戦する箱が決まる。
そして現金つかみ取り!
挑戦は片手のみ。
箱から取り出し、横のトレイに置けて獲得となる!
トレイはそのままスライダー式硬貨計算機に繋がっており、獲得金額が出る。
ここで最後の選択チャンス!
この獲得した現金、そのまま持ち帰ってもよし!
納税してもよし!
納税した場合、獲得した金額とともに名前を張りだす!
この仕組みを導入してみた。
「大盛況ですね」
ナナが呆れたように、現金つかみ取り会場を見ていた。
「そして、現金を掴んだ人のほとんどが納税を選んでいる……」
張りだすのがよかったのかな。
額を競っているようだ。
ふふふ。
残念賞で少額ながらも税を返すことができ、当たりが出て持ち帰られてもよし、納税されても箱に入れているお金は五村のお金なので増えない。
自分が言うのもなんだが、いいアイデアだと思う。
「ですが、これでは徴税官に押しかける者が減らないのでは?」
徴税官には、多く納税したい者に色違いのチケットを渡すように指示している。
色違いのチケットは、残念賞なし、現金つかみ取りでも持ち帰りなし、納税一択になる。
徴税官に押し寄せる人は減らないかもしれないが、逃げ回る必要は減るだろう。
一応、徴税官を脅したり監禁したりしないように注意を出したしな。
変なことにはならないと思う。
「そうですね。
……」
ナナが改めて現金つかみ取り会場を見て、変な顔をした。
どうした?
「いえ、変なことにはならないでしょうが、うちの村長は変なことを考えるなぁと思いまして」
ははは。
褒め言葉として受け取っておこう。
ちなみにチケットだが、白鳥レースのときの投票券の自動焼きごて機を、流用している。
通し番号もあるので、不正もしにくいと思う。
まあ、毎年デザインを変更するぐらいはしないといけないと思うけど。
「チケットに使っている木板。
木屑を圧縮して作ってますよね?
かなり便利じゃないですか?」
そうみたいだな。
色違いのチケットを作るときに染料で塗る手間を省くために考えた。
新しい木材を使うのも、もったいないしな。
山エルフたちが、歓喜しながら用途を考えている。
現金つかみ取り会場を見たマイケルさん「もー、村長、もー、新しいことをするときは呼んでって言ったのにー」
木屑を圧縮して作ったチケットを見たマイケルさん「あー、もう、しんどい(褒め言葉)、商機があり過ぎてつらい」
現金つかみ取りをした住人「聞いたか? 大の箱から銀貨が出たってよ!」
銀貨を入れた犯人の村長「つい……あ、全部の箱に入れてるから」
いろいろと諦めたナナ「金貨でなかっただけ、よし」
逃げたい徴税官A「チケットをむやみに配るのは違うよな?」
逃げたい徴税官B「うむ」
痩せたい徴税官C「チケット狙いで追われるけど、監禁されることがなくなったので、よし!」
後日の五村の文官「チケット欲しさにしっかりと納税されて、収支が増えている?」




