五村の収穫
本日二話更新。一話目です。
大樹の村の秋の収穫はもう少し先だが、五村での収穫は始まっている。
五村が管理している大型の倉庫に、大量の作物が収納されていく。
今年の収穫分だ。
五村での収穫に関しての税はない。
五村の畑を開墾したのが直接的にも、間接的にも五村。
つまり、五村の畑は全て五村のもの。
あまり認識していなかったけど、そうらしい。
五村は農作業をする者を雇って、その畑で作物を作っている。
農作業をした者には、収穫物と収穫量に応じた賃金が支払われる形となっている。
最初は実際に農作業をした者に収穫物を一定量渡すことを決めていたのだが、その後の商人との取引を考えると賃金のほうが便利とのことでそうなった。
個人で交渉上手の商人を相手に取引するのは大変だからな。
商人も五村を相手に取引するほうがトラブルが少ないうえ、来年はあれが欲しい、これが欲しいと要望も伝えやすいので歓迎されている。
なので、五村の畑の収穫物は全て五村に納められる。
まあ、小さい村は収穫物を代表者に預け、まとめて取引するから変わったことをしているわけではない。
しかし、すごい収穫量だな。
大樹の村と五村では住人の数が違いすぎるので比べることが間違っているのだが、圧倒される。
「村長。
収穫物はここに運ばれている分だけではないぞ。
ほかにも倉庫はある。
そして、倉庫が足りずに村議会場や屋敷にも運ばれている状況だ」
ヨウコが知っているだろうにという顔で説明してくれる。
うん、知っている。
だけど驚く。
ほんとうに収穫量が違いすぎる。
目の前にある大型の倉庫に納められた分だけで、大樹の村の収穫量を遥かに超えているのだから。
「村長が暇をみつけては五村の畑を拡張したからであろう」
そうだったかな?
「そうであった」
そう言われると、そんな気がするな。
まあ、収穫量が多いのはいいことだ。
「いや、そうでもない」
そうなのか?
「予定通りの収穫なら、なにも問題はないのだがな。
多くても少なくても困る」
少なくて困るのはわかるが、多くて困るのは?
売り値が下がるとかか?
「それもあるが……
村長、収穫物には、日持ちする物とそうでない物がある」
?
まあ、そうだな。
小麦とか大麦などは日持ちするが、トマトやナスは日持ちしない。
「日持ちする物は全て売らずに何割か残し、備蓄している。
そういった備蓄が増えてもあまり問題ではない」
備蓄は飢饉対策にもなるし、万が一の戦時への備えとなる。
ただ、数年前から備蓄をしているが、使う機会は少ない。
備蓄している量が膨大になっているとの報告を受けたのを思い出す。
つまり、古くなった備蓄の消費が問題なのか?
「いや、それらは家畜の飼料にしたりと、使い道はある」
じゃあ?
「日持ちせん作物が問題だ」
……
「商人たちは、多くなっても買ってくれる。
買い叩かず、こちらに気を使った値にしてくれるであろう。
しかし、日持ちせん作物だ。
転移門があるとはいえ、売り先も限られる。
それゆえ、あまり甘えるわけにもいかん」
そ、そうだな。
じゃあどうしているんだ?
「自家消費だ」
え?
「村議会の食堂や警備隊で頑張って消費しておる」
そ、そうなんだ。
「頑張っておるのだが……」
どう頑張っても余るのが困ると?
「いや、しばらく同じメニューが続くことが困るのだ」
……
「我はまだいい。
朝と夜は大樹の村で食事ができる。
しかし、五村で過ごす者はな……」
具体的には、ヒー、ロク、ナナのことかな?
日持ちしない作物の話になったときから、こっちというか俺にすがるような目を向けている。
「村議会の者たちもだ。
だからとは断言できんが、この時期は仕事の効率が落ちる。
忙しい時期なのに」
うーん、新しい料理を考えるぐらいしか対策はないな。
「それだけでも助かる。
頼んだぞ」
が、頑張ってみる。
余談だが。
日持ちしない余剰分の作物を、近隣のエルフの里などにお裾分けとして配ったこともあったそうだ。
相手方はかなり喜んだらしく、来年からはこの方法でいいんじゃないかと思ったそうだが、配った以上の返礼品が贈られてきたそうだ。
「その返礼品も、あまり日持ちするものではなくてな……
メニューに変化があったのは嬉しいが、やはり続くことになってな」
そ、そっかー。
えーっと、畑を増やすときは計画的にやるよ。
「いや、それに関してはこのままでよい。
村長は下手に考えるより、思うままに動いたときのほうがよい結果になる」
同じメニューが続いて困っているのに?
「同じメニューを食べ続けた日々が役に立つ日が来るはずだ。
きっとな」
ははは、無茶を言うなぁ。
なんにせよ、急いで新しいメニューを考えるよ。
「ぜひ、頼む」




