閑話 職人
一つ前がちょっと短かったので、連続投稿です。
ご注意ください。
豆腐職人の朝は早い。
私の仕事場は、大樹の村から少し離れた森の中。
湧き水がでている場所があり、その近くに私の豆腐作り専用の小屋がある。
この湧き水が重要。
豆腐作りに水がかかせないからだ。
前日に洗い、水に浸しておいた大豆を確認。
大豆が十分に水を含んでいるので、さらに水を追加して潰して混ぜる。
徹底して潰して混ぜる。
ここでの潰しと混ぜが味に大きく影響するので、手を抜いてはいけない。
満足いくまで潰しと混ぜを終えたら、さらに水を追加して今度は煮えるまで加熱。
焦げないように注意しつつ、煮えたら火力を抑えて少しのあいださらに加熱。
それを終えたら、熱が落ちる前に袋に入れて絞り、おからと豆乳にわける。
豆腐に使うのは豆乳。
豆乳の熱が下がり始めたころに、にがりを水に溶いて入れ、かき混ぜる。
にがりとは、簡単に言えば海水から塩を取ったあとの残り。
原理はよく知らないが、これを入れないと豆乳が固まらない。
にがりの入った豆乳の上澄みを捨て、下に沈んだ部分を豆腐の型に流し込む。
この型、ザルを使うとか、布を使うとかいろいろあるが、私は箱に布を敷いているものを使っている。
しばらく放置すると余分な水分が流れるので、それが終わったら重しを乗せて固める。
これで豆腐の完成。
私が毎朝作る豆腐は、五十丁から百丁ほど。
この豆腐が、大樹の村や一村、二村、三村、四村、五村に運ばれ、消費される。
私の朝が早いのは、朝食に間に合わせるため。
豆腐は出来立てが一番、美味しい。
あとは時間とともに味が落ちる。
なので、豆腐が完成する時間にケンタウロス族が数人、豆腐小屋にやってくる。
各村に運ぶためだ。
かなりの速度で走りながらも、豆腐を崩さないケンタウロス族の輸送技術は、見事の一言だ。
そして、求められるというのは嬉しいことだ。
豆腐を渡し終えたら、私は明日使う大豆を洗う。
簡単そうに見えるかもしれないが、それなりに大変だ。
だが、手は抜かない。
抜くと味が落ちる。
豆腐の味が少しぐらい落ちても誰も気づかないかもしれない。
だが、私が許せない。
なので手は抜かない。
私はここで、豆腐を作り続けるのだ。
私はハイエルフのラーサ。
豆腐職人だ。
ジャム職人の朝は遅い。
もう昼じゃないかというぐらいまで寝ていられる。
素晴らしいことだ。
おっと、さぼっているわけではない。
理由がある。
台所が空かないからだ。
私の作業は、昼食と夕食のあいだに限られる。
私の仕事は、鬼人族メイドたちに頼み込んで台所を借りることから始まる。
台所さえ借りられたら、あとは簡単だ。
ジャム作り専用の大鍋に、ジャムの原料を入れる。
今回はイチゴだ。
いまは秋でイチゴの季節ではないのだが、イチゴを選んだ。
私が食べたいから。
……
冗談だ。
ジャム用の酸っぱいイチゴを、村長が夏のあいだに育ててくれたからだ。
ジャム作りは、難しくない。
大鍋に入れたイチゴとほぼ同じ量の砂糖を叩き込み、煮詰めるだけ。
焦げないように、混ぜ続ける必要はあるが、油断さえしなければ失敗はまずない。
とても簡単だ。
しかし、気をつけなければいけないことがある。
温度ではない。
たしかに作っている最中のジャムが高温になるが、煮立っているジャムを見れば危ないのは誰にだってわかる。
そんなことを、わざわざ気をつけろと注意しない。
気をつけなければいけないのは、匂いだ。
ジャム作りは、とても強烈な甘い匂いを放つ。
するとどうなるか?
その匂いに誘われるように妖精女王や妖精たちがやってくるのだ。
妖精女王たちは、すぐさま味見と近寄ってはこない。
ジャムの完成を大人しく待つ。
だからやっかいだ。
完成したあと、味見と言われると断りにくい。
しかし、鋼の精神をもって断ろう。
ここで屈してはいけない。
理由?
一度、味見をさせたら次から次へと求められて、全部なくなったことがあっただけだ。
今回も妖精女王たちが待機しているが、気にせず作業を続ける。
ジャムが煮詰まったら、大鍋を火から離す。
ジャムは瓶や壺に詰めるのだが、ジャムを詰める前に沸騰している湯につけないといけない。
ジャムを腐りにくくするためだ。
背が高くて大きい鍋に水を入れて沸騰させ、瓶や壺を沈めるのだが……
熱湯にいきなり瓶を入れると、割れてしまう。
なので、沈める前に少し冷ましたお湯を瓶や壺に注ぎ、瓶や壺に熱を与えておく。
ついつい忘れてしまうが、しっかりやっておこう。
瓶や壺を割ると、鬼人族メイドたちに睨まれるから。
熱したあとの瓶や壺は、自然に任せて放熱。
ここも急速に魔法なんかで冷ますと、割れる危険がある。
瓶や壺の準備ができたら、少し冷めてきたジャムを注いで完成。
このあたりで妖精女王たちが騒ぐので、鍋に残ったジャムを舐めていいと許可する。
作りたての温かいジャムは格別らしい。
妖精女王たちが、きゃっきゃっと大鍋に群がっている。
大鍋を洗うのが遅れるが、仕方がない。
完成したジャムを守るためだと、諦める。
完成したジャムは、全て鬼人族メイドに渡す。
個人分や、誰かへの取り分などは考えない。
全て渡す。
それが一番、喧嘩にならない。
自分で言うのもなんだが、私の作るジャムはそれなりに人気だ。
とくにイチゴ、リンゴ、ブルーベリーは子供たちからの人気が強い。
変わり種ジャムは……好き嫌いが大きくわかれる。
全てのジャムを愛してほしいが、私だって嫌いな味のジャムはある。
なので、自分の好きな味のジャムを味わえばいいと思う。
嫌いな味のジャムは、好きな人に渡せばいいのだ。
私の名は……気にしないで。
なぜ柑橘類でジャムを作ると、マーマレードと呼ばれるのかに疑問を持つ天使族のジャム職人。
夕食を食べながら、明日はどんなジャムを作ろうか考える。
天使族A「ジャム作っている娘、労働時間が短くないですか?」
天使族B「ですね」
文官娘衆「ですがあのジャム、贈答品として優秀なんですよねー」




