白鳥レースの思い出と料理文化団の成果
秋になった。
思い返せば白鳥レースで夏が終わってしまった感じがするが、しっかりと夏の収穫はしたし、秋の作物も育てている。
五村の白鳥レースのほうは……
トラブルもなく、順調に開催を重ねている。
……
少し言い過ぎかな?
大きいトラブルはなかったが、小さいトラブルはいくつもあった。
白鳥レースの予想外の人気による混雑。
レースがスタートする直前に白鳥たちが喧嘩しての、全鳥出走停止。
池の管理をしているポンドタートルの甲羅を狙った、五村のことをよく知らない冒険者たちの襲撃。
これに関しては、池を見張っていたザブトンの子供たちや警備隊よりも先に、五村の住人たちが鎮圧していた。
ザブトンの子供たちが、すごかったと興奮しながら言ってた。
なんにせよ、冒険者たちは武器を持っていることが多いんだ。
五村の住人たちには危ないことはしないでほしい。
もちろん、ザブトンの子供たちもだ。
そういう危ない連中は、警備隊に任せるようにしてほしい。
そうそう。
配当の計算ミスによる赤字もあったな。
これに関しては単純な計算ミスというか、集計しなければいけない大きな数字が一つ、見落とされていた。
出走直前のギリギリに発覚して、修正するかどうかで悩んだそうだけど、出走直前で配当を大きく変化させるよりは信用を大事にしようということで、そのままに。
レース関係者は、無難な配当の白鳥に勝ってほしかったけど、こういうときに限って勝ってほしくない配当の白鳥が勝利。
赤字となってしまった。
計算ミスをした天使族は青ざめていたけど、俺としてはいい経験をしたと思えばいいと思っている。
人の手が入る限り、人為的なミスは絶対にあるからな。
なので大きな罰を与える気はないが、だからとまったくのお咎めなしでは気の弛みにもなるので、小さい罰を与えた。
十日ほど、おやつ禁止。
以後、同じトラブルの発生は防ぐように頑張ってほしい。
トラブルばかり並べたが、いい話もある。
まず、儲けに関しては順調だ。
計算ミスでの赤字はあったが、それを補えるぐらいには黒字になっている。
鴨やアヒルの数が揃い、鴨レース、アヒルレースが開催された。
なので、現在では一回の開催で十レースではなく、十二から十三のレースが行われるようになっている。
次に、五村と神社を繋ぐ道の周辺が大きく発展した。
屋台が本格的な店舗になり、住居も増えている。
ちょっと耐震性に問題がありそうな家もいくつか建ってたけど、五村議会が指針を出して是正させているので問題はなし。
それと、五村で文字が読める者が微増した。
これは白鳥レースをしている池の近くに、文字を教える教室を開いた効果だ。
教室は五村の村議会の出資で開かれた。
教室は一日単位での授業で、毎日通う必要はない。
通いたいときに通い、文字を習う。
白鳥レースの参加者が通っているのかなと思ったら、白鳥レースを楽しむ大人に同行した小さい子供が預けられている感じだそうだ。
子供にこそ、白鳥を見せてやってほしいけどなぁ。
まあ、レースに熱中されても困るか。
あと、従業員が増えた。
白鳥のお世話係。
白鳥レースの胴元の手伝い。
不正しないように見張らないといけないけど、現状では不正関連の問題は起こしていない。
これに関しては信用や信頼の話ではなく、見張ることで抑止する。
万が一、不正が行われても、見張られていた者の無実を証明できる。
双方にメリットがあるので、見張りがあることに関して従業員からのクレームはない。
ちなみに従業員には誰が見張っているかを教えていないが、実はザブトンの子供たちだ。
忘れていた。
白鳥レースでの俺の取り分である、いい場所でのグッズ販売。
メインは、ザブトンの子供たちが一般に流通している糸で編んだ白鳥のヌイグルミ。
レースに出る白鳥たちをモデルにしていくつかの種類を販売しているが、一番人気は白鳥姿のオデットと黒鳥姿のオディール。
オデットとオディールはレースに出ていないが、レースの合間のショーには出ているからな。
欲しがる人が多かった。
あと、販売しているのは俺が作った白鳥たちの石像や木像。
興味を持つ人は多いが、値段が高く設定されているので数は売れていない。
レースで大勝ちした人が少し買っていく程度だ。
そのうち、ヌイグルミに販売スペースを奪われてしまうかもしれない。
余談だが、俺が最初に力を入れて作ったのは真っ白な石材を削った巨大な白鳥。
これは、オデットに購入された。
現在、白鳥レースをする池の近くに飾られている。
こんなものかな。
白鳥レースに関しては。
ん?
ルー?
あー、うん、えっと。
なんだ。
ルーの私室に、お守りがいっぱいあることだけは報告しておこう。
あと、一部の天使族たちの部屋も、そうなっていると思う。
秋はなんだかんだ忙しいのだけど、畑仕事が終わったあとに少し余裕がある。
そのタイミングで五村に呼ばれた。
以前、大樹の村にお金が集まりすぎるからといくつかの文化保護に投資したが、そのなかの料理文化団から成果を発表したいと言われたからだ。
料理文化団の任務は三つ。
一つ、各地の郷土料理などを調べ、記録すること。
この世界の料理は焼くと煮るだけだと思っていたが、それは狭い世界での話だ。
俺の知らない場所では、いろいろな料理があるに違いない。
それを探し出してほしい。
一つ、各地にある調味料や調理器具などの研究。
その地域でだけ扱われる調味料や、調理器具は絶対にある。
ないわけがない。
なので、その調味料や調理器具を入手してほしい。
一つ、五村で広がっている料理を各地で広めること。
これは俺のわがままだな。
料理の知識が広がることで、新しい料理が産まれることを期待している。
以上のようなことを任務としている料理文化団だが、今回は各地の郷土料理の発表。
それにともない、各地の調味料の紹介と調理器具の実演となっている。
一つ目と二つ目の任務の発表だな。
残念ながら三つ目は、あまり芳しくないらしい。
原因は五村でしか入手できない調味料が多いこと。
味噌とか醤油とかマヨネーズ、あと四村で作っている調味料……香辛料系だよなぁ。
うーん、もっと増産を考えないと駄目なようだ。
今後、ゴロウン商会に相談しよう。
とりあえず、いまは料理文化団の成果の発表に集中。
料理文化団の成果を発表する場には、屋台が並んでいた。
各地の郷土料理を出す屋台だ。
なるほど。
実演が一番だからな。
調味料や調理器具の使い方など、わかりやすい。
料理文化団のメンバーも、なるべく現地の味を再現するようにしてくれている。
この場にいるのは俺やヨウコだけでなく、料理に興味のある五村の住人たちもいる。
当然、料理人も多いが、五村住人の大半が懐かしい料理を食べたいという思いからここに来ている。
五村の住人の大半が各地からの移住者。
移住した理由はそれぞれだが、望まずに故郷を離れた者もいるだろう。
そういった者たちは、この五村で故郷の味を再現しているのだが、一部の料理は五村では手に入らない調味料や調理器具のせいで再現ができなかったり、中途半端だったりしている。
しかし、料理文化団のメンバーによって五村では手に入らない調味料や調理器具が調達され、料理が再現された。
しかも、料理の代金は特別に低価格。
来ないわけがなかった。
「この味だ……そうだ、この味だ……」
「もう味わえないと思っていたのに……」
「うう、母さんがよく作ってくれた料理……」
それぞれの屋台の前で、泣き崩れている者が続出している。
その風景に、俺は料理文化団に投資してよかったと思った。
「ところで村長」
どうしたヨウコ?
「とりあえず食べてみてほしい」
ヨウコが近場の屋台から一品、俺の前に差し出してくれる。
炒め物……っぽい感じの焼き料理だな。
知らない食材が使われているので味の予想ができない。
遠慮しても仕方がないので、とりあえず一口。
……
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俺はヨウコを見る。
ヨウコはゆっくりと頷いた。
美味しくない。
いや、正直に言って不味い。
食感もいまいち。
ヨウコが料理文化団のメンバーに確認したが、この味で間違いないらしい。
懐かしくて泣いている人もいるしな。
この味でいいのだろう。
ほかの屋台の料理も試食したが、どれもいまいちに感じた。
……
泣いている人たちに聞いた。
各地の料理を出すこれらの屋台、今度は普通の値段で商売すると言ったら客として来てくれるかな?
「ははは。
遠慮します」
「当時は、このうえなく美味しいと思っていたんだけどなぁ」
「醤油を追加するんだ。
醤油を」
「こっちの料理には味噌だと思うな」
…………………………
あ、新しい調味料とか、珍しい調理器具を知ることができて、よかったと思おう。
鬼人族メイド「料理の発表なのに、私たちの出番が……」
村長 「あ、明日。明日連れて行くから」




