白鳥レースの開催
●人物紹介
イレ 四村出身のマーキュリー種。撮影隊を率いている。
五村の神社の麓にある池で、白鳥レースが開催された。
俺の予想としては、オデットとオディールがやっていたころと同じ数の客が来れば十分と思っていた。
結果、予想は裏切られた。
かなりの人数が集まった。
具体的には一万人ほど。
終わってみれば、大盛況。
なぜだ!
「いや、村長が直々に指揮を執って準備したからじゃない?
五村の住人からすれば、村長がなにか新しいことを始めるぞって期待していただろうし」
冷静なルーの意見。
しかし、新しいことと言われても白鳥レースは以前からあった。
客が来やすいようにはしたが、ここまで大盛況にならないだろう?
「来やすいってのは大きいわよ。
それに、多くの飲食店が並んでいるし、レースの合間に鴨とアヒルのショーもある。
大盛況で当然だと思うけど」
そ、そうか。
鴨とアヒルは、まだレースができるほど数が揃っていない。
だからと無駄飯を喰らっていると思われたくないと、白鳥レースの賑やかしをやってくれた。
それに対抗してか、白鳥たちも全てのレースが終わったあとに最後のレースの勝者を讃えるように合唱をしていた。
それらが思ったより客に受けた。
うーむ。
娯楽に飢えていたのだろうか?
五村はスタジアムとかあるし、それなりに娯楽があると思うのだけどなぁ。
「村公認のギャンブル場は初めてだからじゃない」
そうなるのか?
「小さい賭場はあるだろうけど、こういった大規模なのは珍しいだろうし」
武闘会とか、馬のレースとかやってるだろ?
「それらは、お祭りのイメージが強いから。
賭けるのも、熱を入れて応援するための味付けみたいなものだし」
あー。
賭けたほうが応援しやすいってことか。
「そうそう。
それに、馬に関しては外野で賭けている人たちより、参加する馬主同士でやっている賭けのほうがメインだからね」
そうなのか?
「馬主がお金を出しあって、一番を取った馬の馬主が総取りするスタイルが基本なのよ。
競馬はね」
へー。
「それで、あなた」
ん?
なんだ?
「次の開催日はいつかしら?」
……
ちなみに、ルーは何レースか賭けていたが、全て外している。
負けて楽しめたのなら、なによりだ。
では、反省会。
改定したレースの一回目の熱が冷めないうちに、修正点を洗い出す。
面倒でも、やらなければいけない。
反省会に参加しているのは俺、オデット、オディール、銀狐族のコン、天使族の五人、五村の村長代行としてヨウコ、あとレースをした白鳥代表。
この白鳥は、最終レースの勝者でもある。
「いや、その村長。
白鳥が反省会に参加しても、会話できないのですが……」
天使族の一人が変なことを言う。
たしかに白鳥は喋ることはできない。
だが、この瞳を見ればなにを言いたいかわかるだろう!
「や、やる気があるのはわかるのですが……すみません」
無茶だったか。
仕方がない。
白鳥の意見はオディールが通訳してくれる。
それで大丈夫だろう。
「わ、わかりました。
反省会の出鼻を挫いてしまい、すみませんでした」
いやいや、気にしない気にしない。
ここにいる天使族五人は、天使族が大樹の村に本格的に移住してきたときにやってきた者たち。
まだまだ慣れていないのだろう。
ティアやグランマリアたちなら、白鳥がいても気にもしないのに。
気を取り直して、反省会。
天使族の一人が資料を片手に報告してくれる。
「勝ち鳥投票券の売り上げは上々です。
今回は一口、中銅貨一枚でやってみたのですが、全十レースの売り上げ合計は中銅貨百三十五万枚。
配当での返しは中銅貨百と五万枚になりました」
つまり、中銅貨三十万枚の儲け。
大銅貨にして、三万枚。
銀貨にすると、三百枚。
金貨にして、三枚。
人数が集まったにしては、儲けはそれほどでもないな。
「いやいやいや」
俺の感想に、天使族がつっこみをいれる。
このあたりは慣れていなくても天使族だな。
さすがだ。
「一回の開催で金貨三枚です。
年に三十回ほどの開催を計画しているのですから、年間金貨九十枚の儲けですよ!
十分、大きいです!」
そう言われると大きいか。
まあ、毎回同じ儲けがでるわけじゃないだろう。
今回は初めてということで、応援券を買ってくれた可能性は高い。
今後の課題として、これぐらいの売り上げを目指す方向でいいかな?
「いやいやいや。
今後、売り上げがどんどん大きくなる気がして仕方がないのですけど」
そうなると嬉しいな。
各自の取り分は、事前に決めた形で。
「うむ。
それに関してなのだが……」
ヨウコが手を挙げた。
なにかあるのだろうか?
天使族五人の取り分は、儲けの五割が充てられているレースをする白鳥たちの飼育費と池周辺の環境整備費から支払うことが決まっている。
そのあたりは、すでに話し合っている。
問題はないと思うが?
「村長の取り分はどうするのだ?」
ん?
俺?
「そうだ。
白鳥の神の使徒どのたちには、銀狐族に支払われる報酬から出すことになっておる。
そこに文句はない。
それで、村長にはどのような取り分があるのだ?」
五村が発展すれば、回りまわって俺の手元にいろいろ入ってくるからいらない……というのは、よくないんだな。
ヨウコがわざわざ言うぐらいだから。
ああ、計画を主導した者が報酬を取らない前例を作るのがよくないのか。
なるほど。
しかし、自分の報酬を自分で決めるのもなんだかモヤモヤする。
うーん。
五村に依頼した警備料から……は、中抜きっぽいな。
このレースの周辺に出した店の出店料って、どんなものだ?
……
これ、一日の出店料だよな?
それなりに取るんだな。
これぐらいは軽く取り返せるほど店は儲かっていると。
では、俺の取り分というか報酬は、この池周辺に自由に店を出す権利をもらおう。
出店料なしで。
さらに、一番いい場所を確保してほしい。
これでどうだ?
「……承知した。
しかし、もう少し強欲でもよいと思うがな」
強欲だよ。
一番いい場所を確保できたんだ。
ここを貸し出すだけでも、それなりの金になるだろ?
「そうだが、そういったことはせんのだろ?」
もちろんだ。
せっかく一番いい場所なのだから、白鳥のグッズ販売でもさせてもらおう。
「グッズ販売?」
白鳥を応援する一つの形だ。
まあ、売れなくて赤字になるなら、飲食店でもやるよ。
「わかった」
俺の取り分が決まり、話は次に。
「勝ち鳥投票券ですが、券に神の絵を入れるアイデアはよかったと思います」
券となる木札の片面には、番号や白鳥の名前などが焼きごてで印を入れられるが、もう片面には今年の干支ならぬ担当神の姿を焼きごてで入れてある。
これは、今年の担当神のアピールの一環としてやってみたのだが、意外にも外れ券をお守りとする者がでだした。
なんでも、「当たらない」お守りだそうだ。
矢面に立つことの多い、警備隊の者が持ちたがっているらしい。
あと、不運に当たらないようにと、家族を持っている者たちが。
「まあ、外れてもお守りを買ったと言い訳できますからね」
「レースを続ければ、家がそのお守りでいっぱいになるのでは?」
「一定期間で回収して、焚き上げるなり、奉納するなりの機会を作るのはどうでしょう」
天使族やコンが話をまとめていく。
余談だが、当たった券をお守りとして配当金を受け取らない者もいた。
「当たる」お守りなので、冒険者たちが持ちたがっているそうだ。
「お客さまからの意見です。
トイレの数が少ないのではないかと」
これは申し訳ない。
こちらの手落ちだ。
ある程度の数は用意していたのだが、ここまで人が集まるとは考えていなかったから。
急遽、神社のトイレも客に開放したぐらいだ。
ああ、大丈夫。
ハイエルフたちに、トイレを増設するように頼んでおいたから。
次の開催から、トイレに関しての苦情はなくなるだろう。
「こちらもお客さまからの意見です。
迷子の待機所、医務室も少し狭いのではと」
そうだな。
人数が想定外に集まりすぎた。
見通しが甘かったと反省。
あとで、五村の大工たちに依頼しておこう。
「レース場近くに、落ち着ける飲食スペースがもっとほしいそうです」
あー、これは、うーん。
テーブルや椅子の数はそれなりにあったのだが、人が多かったので危ないと一部を移動させてしまったんだよなぁ。
判断ミスか?
いや、安全第一。
あと、予定外もあったしなー。
そう、予定外。
イレの撮影隊がレースの中継をすることになり、それなりにいいスペースを確保してしまったのだ。
それで客のスペースが削られてしまった。
この撮影隊が撮ったレースの映像は五村の各所で流されたので、広報としてはとても大きい。
人気も上々だったと聞いている。
しかし、だからといってレースを見にきた者たちに不便を与えてはいけないと思う。
「観客席を改造し、撮影隊用のスペースの確保が必要ですね」
「観客席も、増築してほしいです」
うーむ。
いろいろと意見が出るのはいいことだが、要望は厳選してくれ。
全部を叶えるのは無理だ。
捨てられないなら、優先順位をつけるように。
「あっ!
そうだ!
大事なことを忘れていました!」
天使族の一人が、ほんとうに思い出したように声をあげた。
どうした?
「レースの開催日って、あらかじめ決めますよね」
そうだな。
十日に一度と考えているから、次は十日後だ。
「開催日が雨のときは、どうするんですか?」
……ふっ、なんだそんなことか。
慌てるな。
「おお、では」
ああ、対策はいまから考える。
「……」
そう、慌てる必要はない。
考える時間があるのだから。
天使族 「反省会です!」
オデット 「……」
オディール「……」
コン 「あの二人、寝てませんか?」
白鳥 「グァ(じ、次回は喋るから)」




