白鳥の事情
白鳥はレースに向かない。
しかし、これまでしっかりとレースをやっていた。
なぜか?
演出ありだったからだ。
オデットとオディールは神の使い。
ただの蛇から格を上げて神の使いとなったニーズと違い、神から直接生み出された存在。
認めたくはないが、とても偉い。
なので、白鳥たちはオデットとオディールに従う。
逆らおうとはしない。
だから、渡りとか縄張りを無視して、レースに参加している。
いや、演出ありなので、レースをしている振りができた。
「待って待って待って」
池作りの疲労から回復し、人の姿になったオデットが俺の思考を邪魔してきた。
「それだと、私たちが無理やりレースをさせているみたいじゃない」
違うのか?
「違うわよ!
オディール、説明してあげなさい」
自分で説明しないのか?
「オディールのほうが説明は上手なのよ」
なるほど。
オディールの説明によると、レースをしている白鳥たちは縄張り争いに負けて行き先のなかった白鳥たち。
縄張り争いに負けて十分な食事ができないまま、新たなエサ場を探すのは難しい。
運良く新たなエサ場を見つけても、そこには先住している魔獣や魔物がいることが多い。
白鳥たちのあいだで知られているエサ場での縄張り争いに敗れた白鳥は、死を待つばかり。
そんな白鳥たちをオデットとオディールがこの池に導き、保護していたのだそうだ。
そして、白鳥たちはオデットとオディールに恩を返すため、レースをしていると。
そうだったのか。
オデットとオディール、自由に生きていると思ったけど、しっかり仕事はしていたんだな。
「あたりまえでしょ」
うん、あたりまえだな。
「ふふん」
胸を張ってどや顔を見せるオデット。
それで、話を戻すが……
結局、白鳥たちは自主的にレースをしていないよな?
オデットとオディールがやってほしいと言ったから、やっているだけで。
「む……ま、まあ、そういうことになるかしら。
でも、強制はしていないわよ」
断れない相手からのお願いは、強制だぞ。
「むう」
それでも、問題なのは……
白鳥たちは、演出なしのレースができるかどうかだ。
できるのか?
オデットに聞くと、オデットはオディールを見た。
そのオディールは、白鳥たちを見る。
白鳥たちは……
少し困ったあと、まっすぐな瞳で俺を見た。
できるんだな?
白鳥たちが頷いた。
季節での渡りはどうする?
食事さえあるなら、渡る必要はない?
ここに骨を埋める覚悟?
……
よし。
最高の食事を用意しよう。
全力でのレースに期待する。
そういうわけで……
陰からこちらの様子を見ていた鴨とアヒル。
残念ながら君たちの出番はなくなった。
すまない。
いや、お前たちも渡り鳥だろ?
根性みせると言われても。
わ、わかったわかった。
数が揃ったら、白鳥レースを開催しない日に、鴨レース、アヒルレースを開催するよ。
それでいいか?
それでいいから、人に狙われないように名札がほしい?
あー、そういえばそうか。
白鳥はオデットやオディールが守っているが、鴨とアヒルは守ってもらえないか。
逆に白鳥に攻撃される?
なるほど。
わかった。
名札付きのネックレスを用意しよう。
白鳥たちが攻撃しないように、オデットたちに言ってもらう。
その代わり、わかっているな?
レースをするときに、談合や演出はなし。
全力でのレースを期待する。
さて。
白鳥、鴨、アヒルたちの食事に関しては、あてがある。
ポンドタートルだ。
水草を育てるのが得意と言っていた。
なのでポンドタートルに確認すると、まかせてほしいと引き受けてくれた。
ありがたい。
ただ、予想外だったのは、ポンドタートルの子供が白鳥たちの池に行くことになったこと。
大樹の村のため池が狭いなら、広くすると言っているのだが、そういうことではないらしい。
ポンドタートルの目的は修行。
大樹の村のため池は安全だが、それゆえに戦闘経験が積めない。
また、ポンドタートルの数が多いので、能力を発揮しなくても生きていける。
これではよくないと、大人のポンドタートルたちは思ったらしい。
しかし、だからといって危険な地域にわざわざ送り出すことはできない。
そこで今回の白鳥の池。
五村の近く。
オデットとオディールがいる。
戦闘経験は積めないだろうけど、一つの池を一匹のポンドタートルで管理するとなれば緊張感はあるし、油断もできない。
そういった流れで、三匹のポンドタートルが選ばれた。
若い個体のなかから選ばれた、真面目な三匹。
……
こういったのって、好奇心旺盛なのとか、やんちゃなのが選ばれるんじゃないのか?
ポンドタートル側の目的は修行だけど、仕事で行かせるのだからちゃんとしたのを選ぶ?
迷惑になる者を押しつけるわけにはいかないと。
なるほど。
俺も、迷惑になる者を押しつけるようなことはしないように心がけよう。
……
遠くから、ぜひお願いしますという魔王の声が聞こえた気がした。
たぶん、気のせいだろう。
建物を建ておえたハイエルフたちが、レースに出る白鳥の名と番号、倍率を表示する掲示板を作ってくれた。
遠くからも見れるように、かなり大きい。
名と番号、倍率の変更は手動なので、梯子を使ってかけ替える感じだ。
いつもなら、こういったものを担当するのは山エルフたちだが、山エルフたちには投票券の自動焼きごて機を作ってもらった。
客が賭けた番号を、自動で木板に焼きごてで印を入れる機械というか……ゴーレムだ。
賭けた番号のほか、レース名や開催日などを入れなければいけないため、かなり大型になった。
しかし、大型になっただけあって高性能で多機能。
なにせ、初期起動に五分ほどかかるが、起動したあとは一秒間で四十枚ほどの焼き印が可能。
同じ番号でなく、違う番号でだ。
さらに自慢されたのは、焼き印した番号の数をカウントする機能。
これはいろいろ助かる。
まあ、確認のため、別でカウントしないといけないけどな。
これは信用しているとか信用していないの話ではなく、倍率を決める要素なので厳重に管理したいからだ。
それに、この投票券の自動焼きごて機。
複数台、作ってもらう予定。
どれだけ早く焼きごてが押せるとしても、人を相手にしての金のやりとりが発生するので、一台では処理できない。
いや、実際にやってみないとわからないけど、処理できないだけの売り上げがあってほしい。
なので投票券の自動焼きごて機は複数台用意してもらう。
そして、複数になった自動焼きごて機のカウントを合計する作業が必要になる。
計算はしなければいけないのだ。
配当の計算をする者がやってきた。
天使族だ。
変装して魔族の恰好をしている天使族が五人。
俺としては、最初はプギャル伯爵に計算する人の調達を頼もうと思っていた。
プギャル伯爵は、ハウリン村近くの人間の村を縄張りにする貴族の寄親。
冬にベトンさんの件で関わることもあったし、ゴールの妻の父親でもある。
また、かなり初期からいる文官娘衆の父親でもある。
ここらで関係を深めておきたいと思っていた。
ルーが。
なので、いろいろなルートでコンタクトを取ろうとしたのだが……
運悪く会えなかった。
代案でグリッチ伯爵が候補に挙がった。
こちらもゴールの妻の父親でもあるし、かなり初期からいる文官娘衆の父親でもある。
だが、駄目だった。
会えない。
仕方なく、人数に余裕のある天使族に声をかけた。
最初に声をかけなかったのは、天使族はギャンブルなどに関わったりしませんと叱られるかなと思ったから。
陰謀とか暗躍とかを好むけど、妙なところで潔癖だからなぁ。
駄目かなと思いながら声をかけたら、思っていた反応と違った。
ギャンブル。
大好きだそうだ。
裏方。
大好きだそうだ。
うん、わかった。
わかったからイカサマの提案をしないでくれ。
絶対にバレないとかじゃなくて。
イカサマは禁止。
公平にやるの。
やってきた五人には配当計算だけでなく、イカサマをやる人を摘発する方向でも頑張ってほしい。
村長「迷惑になる者を押しつけるようなことはしない」
村長「ん? どうした魔王。なぜティゼルやウルザの名を呟く?」
グリッチ伯爵「プギャル? 急にどうした?」
プギャル伯爵「いいから逃げろぉっ! 全力でだ!」
グリッチ伯爵「え? え? え?」




