白鳥レースの修正
白鳥と黒鳥のやっていた白鳥レース。
……
ちょっとややこしいな。
巨大な白鳥……いや、人の姿をしているしな。
白鳥、黒鳥は名で呼ぼう。
名は知っている。
使っていなかっただけだ。
白鳥の名はオデット。
黒鳥の名はオディール。
バレエの白鳥の湖に出てくる主役たちの名と同じ。
覚えやすい。
そして、白鳥には贅沢な名だ。
黒鳥には、悪役の名だから、ちょっと申し訳ない気がするが……偽名ではなく本名なのだから、仕方がない。
このオデ姉妹のやっていた白鳥レース。
……
黒鳥が泣きながら姉妹扱いはやめてほしいと懇願してきた。
そこまで嫌か?
わかったわかった。
泣くのをやめてくれ。
ごほん。
このオデットとオディールのやっていた白鳥レース。
やるなとは言わない。
この世界では、ギャンブルは普通に行われている。
規制する法はない。
ただ、王や領主がある程度の制限を定めるだけだ。
そしてこのオデットとオディールの池を管理するのは五村の村長となる。
つまり、俺。
しかし、普段はヨウコに任せておいて、都合のいいときだけ口を出すようなことはしたくない。
なのでヨウコに意見を聞いた。
「白鳥レース?
娯楽が増えるのは歓迎だ」
なるほど。
そういうことで、俺は現在の白鳥レースの修正……いや、改善を要求した。
まず、イカサマ禁止が大前提。
こちらの世界では、イカサマに気づかない者が愚か者と笑われるのは理解している。
それでもだ。
イカサマを絡めれば胴元が確実に儲けられるが、それでは客が長続きしない。
なにせ、胴元が多く儲け続ければ、必然的に客が細くなるのだから。
さらに、イカサマはいずれ気づかれる。
俺が気づいたぐらいだ。
すでに気づいている者もいるだろう。
ならば、攻略される。
必ず酷い目に遭う。
悪はそれに応じた罰を受けるべきだとは思うが、オデットとオディールは知り合いだ。
できれば酷い目には遭ってほしくない。
そういうことなので、イカサマは禁止。
勝負は公平であってほしい。
次に開催タイミング。
現状、開催日は不定期。
オデットとオディールの懐が寂しくなったときに開催される。
さらに、開催されるレース数も不定期。
レースに出る白鳥たちのやる気次第。
これはよろしくない。
いつ開催されるかわからないのは、混乱のもと。
当日宣伝はしているらしいけど、参加者はそれが聞けた人だけになる。
やるなら、きっちりやってほしい。
なので、開催日はしっかり決める。
さらに、一回の開催で行われるレースも十レースと決める。
競馬場と違い、池では自由にコースを作れる。
コースや距離に変化をつけ、客に勝者を予想する余地を作る。
さらに、個々のレースの格付け。
大事な部分だ。
まあ、最初は細かい格付けは不要。
ただ、十レースのうち、最後のほうのレースに格の高いレースを持ってくる。
ああ、レースの格で配当金に差をつけるわけじゃない。
レースを頑張った白鳥に与えるご馳走のランクを上げるとか、増やすとかだな。
レースに出る白鳥たちも、そのほうがやる気が出るだろう。
演出なしなんだ。
求めるべきは、白鳥たちのやる気だ。
そして、白鳥たちに名を持たせることだ。
これまで、番号でしか呼ばれなかった。
そちらのほうが、認識しやすいのはわかる。
だが、それではドラマは生まれない。
そう、ドラマだ。
一羽一羽のドラマ。
重要。
超重要。
面倒臭がらない。
ちゃんと名を持たせるんだ。
……
わかった。
最初は俺が名を考える。
まあ、俺のネーミングセンスがいまいちという自覚はあるので……
前の世界の競走馬を参考にさせてもらおう。
競走馬の戦績や血統は詳しく知らないが、有名な馬の名ぐらいは知っている。
そのままつけるのも手だが、それは元の競走馬にも白鳥にも失礼だからな。
競走馬の名は馬につけたい。
これで終わり……と言いたいが、しっかりと話し合っておかないといけないことがある。
儲けの分配だ。
俺としては、オデットとオディールが始めたことだから、二人の総取りでいいと思う。
しかし、それは全てを二人で管理した場合の話だ。
二人で定期開催の白鳥レースの胴元、やっていけるか?
うん、無理だよな。
そこまでやる気を維持できるとは思えない。
なので、二人はこの胴元のトップであることと、白鳥たちの苦情係をやってもらう。
トップなのは名目上でかまわない。
白鳥たちの苦情係のほうが大事だ。
これは二人にしかできない。
とくに白鳥たちの健康面の管理をしっかりやってほしい。
それで、胴元の実働は……銀狐族に余裕はあるか?
「私たちですか?
新しい生活や神社の運営にも慣れてきているので、余裕はありますが……」
では、頼めるか?
「そ、その……胴元がどういったことをするのか、知識が足りず……」
さすがにそのあたりは教えるよ。
報酬は、儲けの三割でどうだ?
「さ、三割も?
赤狐族、黒狐族、丸顔狐族の助力を得てもよろしいですか?」
もちろんだ。
「では、全力で務めさせていただきます」
それで、残り七割のうち、二割を五村に警備代として渡す。
「警備でしたら、神社の者たちでやれますが?」
神社は胴元だからな。
そこの者が警備までしていると、緊張感が増す。
胴元と客のどちらの味方でもない第三勢力の警備がほしいんだ。
「そういうものですか?」
そういうものだ。
あと、こっちだけ儲けていると恨まれる。
五村にも金を流さないとな。
「なるほど」
それで残りの五割は、レースをする白鳥たちの飼育費と池周辺の環境整備費だ。
うん、これでいい。
俺はそう思ったのだが、オデットが手を挙げていた。
なんだろう?
言いたいことがあるのかな?
聞いてみた。
「村長。
儲ける前提で話を進めていますが、儲けを出す手立ての話がなかったのですけど」
……は?
胴元をやるんだ。
負けるわけがないだろ?
「村長。
私たちが演出をしていたのは、確実に儲けるためだと言いましたよね?」
うん。
「普通にやったら、胴元は儲かりませんよ」
……
え?
なんで?
レースギャンブルに対する俺の認識が不足していた。
オデットから説明されたのは次のような内容。
例えば、六羽の白鳥から先頭でゴールをする一羽を当てるレースがあるとする。
胴元は、六羽の白鳥たちにそれぞれ倍率をつける。
その倍率を見ながら、客は好きな白鳥に賭ける。
先頭でゴールした白鳥に賭けていた者に、賭け金に倍率分を乗せて配当される。
以上。
なるほど。
俺の知っている競馬とか競艇と違いすぎる。
そして、このシステムを続けるには客にとって魅力的な倍率をつける必要があり、なおかつ胴元が儲けるには大勢に賭けられた白鳥が勝ってはいけない。
演出が必要なわけだ。
「村長。
どうするのです?」
どうもこうも。
このやり方では駄目だろ。
胴元が確実に儲かるようにしないと事業が続かない。
なに、難しい話じゃない。
賭け金から運営費を徴収するだけだ。
一口中銅貨一枚として、千口集まれば中銅貨千枚。
その千枚から運営費として一割の百枚をもらう。
残り九百枚を、賭けられた数に応じて倍率を設定していくだけだ。
「いやいやいや。
誰がその計算をするのです?
それに、賭けている最中に倍率が変化するのも……」
倍率は変化するものだろ?
そう難しい計算にはならないと思うのだが?
俺は銀狐族を見た。
自信なさそうに、目線を逸らされた。
そ、そうかー。
村長「計算できる者か。仕方がない、あるところからもらおう」
ミヨ「村長……信じていたのに……」
村長「ティゼルの父親だと罵倒された。……罵倒なのかな?」
ミヨがかわいそうなので、こういった展開にはなりません。
少し遅れましたが。
あけまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。




