神社と池
貸し出した水槽になる小さい浮遊庭園。
一村では、俺の想定通りに小さいプールとして使ってくれた。
小さい子供たちが喜んでいる。
ほほえましい。
二村では、水汲み桶として活用している。
川や井戸から、一気に水を運べるので便利だそうだ。
なるほど、たしかにそうだな。
浮遊しているので、子供でも運べる。
子供たちは、できる仕事が増えたと喜んでいた。
三村では、野菜を洗う桶として使われていた。
浮遊させることで高さ調節ができるので、立ったまま使えるのがありがたいらしい。
村にもう二つか三つ欲しいので、褒賞メダルの交換リストに浮遊庭園を入れてほしいと希望された。
ルーに相談して、検討しておこう。
四村では、城内のエレベーターとして使おうとしたのだが、ルーが浮遊する高さを制限していたので失敗。
少し高い場所に荷物を運ぶ用になっていた。
エレベーター用に制限を外した浮遊庭園を用意したほうがいいかな?
ルーが高さ制限をつけたのは、万が一、乗って飛んでしまったときの安全面を考えてなのだけど。
「あー、難しい問題ですね。
飛べる種族や魔法を持っていればいいですが、そうでないなら制限はあったほうがいいでしょう」
ゴウがそう判断したので、制限はそのままになった。
五村では……
「一つでは足りぬ」
ヨウコから、そう苦情が来た。
まあ、そうだよな。
予想できたことだ。
一つしかないから、村議会ではどう使うかで紛糾したらしい。
申し訳ない。
ただ、だからと言って渡さないのも問題じゃないか?
「知らなければ欲さぬ」
そうか。
「シャシャートの街に水槽を設置する話は聞いておる。
その設置が終わったらでかまわぬ。
二十ほど用意してもらいたい。
褒賞メダルが必要なら、支払おう」
わかった。
ルーに相談してみるよ。
「頼む」
ちなみに、一つしかない浮遊庭園は、どう使われているんだ?
「……」
なぜ、答えを渋る?
「村議会場は山の上にあるとはいえ、夏場はそれなりに暑くてな」
まあ、天気がいい日はそうだな。
「足を突っこむ水桶になっておる」
……
「もちろん、議員全ての足を突っこむことはできん。
それゆえ、使用権は朝にクジで抽選となっている」
へーと、言いたいが……
それ、普通に桶でいいだろ?
「桶だと水量が少なく、氷を入れてもすぐに温くなる。
さらには、移動するときに足を拭わねばならん。
しかし、あの浮遊庭園であれば……」
たっぷりの水量があるので水温は上がりにくく、さらには足を入れたまま移動できると。
「うむ。
一部、そのまま家に持ち帰ろうとした者がでたので、村議会場からは持ち出し禁止にしておるが……評判はよい」
そ、そうか。
えーっとだな。
「わかっておる。
もう少し有意義な使い方があるとは我も思っておる。
しかし、話し合った結果だ。
従うしかあるまい」
ひょっとして、有力な意見がぶつかって白熱し、どちらを選んでも角が立つ状態になって、とりあえずで出ていた案が通った形?
……
そうみたいだな。
そっぽ向いてもわかるぞ。
五村に来たついでに、神社の様子を見に行く。
目的は村の外でやったパレードのときに入手した鯨の白骨。
神社に納めてしばらく経つが、どんなものだろうと。
神社を管理している銀狐族のコンに聞いてみた。
「鯨の神の間は、とくに問題はありません」
それはなにより。
「ただ、ご神体が骨でも問題ないのだと思ったものが、骨を納めに来まして……」
そ、そうか。
引き受けたのか?
「生の骨だと臭いがするので、生では困ると言いました」
ふむ。
まあ、そうだな。
生の骨は、意外と臭いがする。
骨の中にはいろいろな液体が通っているし、どれだけ綺麗にしても肉片が残っていたりするからな。
徹底した乾燥か、焼いてから持ち込んでもらいたいものだ。
いや、まあ、鯨の白骨はそのまま持ち込んでしまったけど。
カラカラに乾いていたから問題なし。
それで、乾かして持ち込まれるようになったのか?
「その結果が、こちらです」
神社内の小部屋のいくつかが、骨塚になっていた。
えっと、なんの神の間なんだ?
「豚の神の間です」
……
「その隣が牛の神の間です」
……
「でもって、鶏の神の間です」
つまり……
「ラーメン通りで出た骨です」
スープを取ったあとの骨か。
「そのようです。
たしかに生ではありません」
これは……
神社に対する嫌がらせか?
「いえ、ラーメンという商売の種と出会えたことに感謝しての行為です。
骨を納めるときに、中銅貨を数枚置いていかれますし」
な、なるほど。
「神社の経営には助かるのですが、骨が集まるペースが早く……このままではほかの部屋に溢れてしまいます。
どうしようかと、悩んでいるところでして」
あー、そうだな。
これは……
専用の神社を建てよう。
豚、牛、鶏、それぞれの神からは切り離して、ラーメンのための神社。
ラーメンで使った骨は、そっちで引き受けるようにしよう。
ああ、最初に一定期間で骨は燃やして灰にすると断ってからな。
「その神社は敷地内に建てても?」
かまわんだろう。
「ありがとうございます」
たぶん、魚介系の骨や貝殻も集まるから。
大きめに作るように。
「承知しました」
神社の様子を見たあと、神社のある山の麓の池に向かう。
コンにはそのまま同行してもらった。
白鳥と黒鳥に言いたいことがあるなら、言ってもらうためだ。
俺のいない場だと、言いにくいこともあるだろうしな。
そう思いながら池に近づいたら、多くの人がいた。
なんだこれ?
多くの人は池を取り囲んでいる。
「お客さまです」
コンがそう説明してくれた。
なんの客なのだろう?
白鳥と黒鳥が水上演劇でもするのかと思ったら、違った。
水面にいるのは、八羽の白鳥。
うん、普通サイズというか常識サイズの白鳥。
その白鳥たちが、それぞれ色違いの帽子を被り、背には番号の入ったマントをつけていた。
つまり……
「白鳥レースです。
池に設置されたポールを回るコースを三周。
一着と二着になる白鳥を当てるシステムです」
だよな。
「飛んだ白鳥は失格となります。
賭け券の購入はあちらになります。
当神社でお祈りした後に買うと、的中率が高いと評判です」
それはなにより。
いや、こういったレースの存在は知っている。
王都でも鼠レースとかあるらしいし。
大樹の村でも、クロの子供たちがレースをやっていた。
だから、存在を否定したりはしない。
否定したいのは……
「六番、いけー!」
「いけ、そこだ!
体当たり!
かませ二番!」
「飛んだ?
飛んだ?
あれ、失格じゃない?
足先がまだ水面?
セーフ?
そんなぁぁぁぁっ!」
こういった人たちでもなく……
「ふふふふふふふふふふふふ」
大儲けで笑いが止まらない白鳥。
彼女を否定したい。
白鳥、ちょっとこっちに来るように。
あれ、イカサマレースだろ?
配当を調整した上で、さらに儲けがでるようにしてるだろ?
わかるよ。
白鳥たち、途中でやらせの喧嘩をしているから。
お前の指示だろ。
黒鳥はどこだ?
黒鳥もグルか?
生活費のため、しぶしぶ協力している?
生活費?
五村で飲み食いするためね。
なるほど。
黒鳥も呼ぶように。
配当金を管理しているから動けない?
わかった。
じゃあ、このレースが終わってからでいい。
呼ぶように。
レースをやめろとは言わない。
言うのは、イカサマをやめろということだ。
「演出なしで盛り上がる展開を作れと?」
派手にやり過ぎると、ギャンブルで身を持ち崩す者が出てくる。
それはよくない。
神前だから、なおのことな。
勝負は正々堂々とやろう。
大丈夫だ。
正々堂々とした勝負は、それはそれで盛り上がるから。
今年最後の更新となります。
一年、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
それと、誤字脱字の指摘、ほんとうに助かっております。
ありがとうございます。




