プールを増やす
●人物紹介
スアルリウ、スアルコウ 双子の天使族。スアルロウの娘たち。
最近、俺の護衛にスアルリウ、スアルコウがつくことが多い。
天使族が増えたことによる、仕事の専門化だろうか?
クロの子供たちやザブトンの子供たちも一緒にいるので、とくにスアルリウ、スアルコウの二人が加わっても気にならない。
気になるのは、スアルリウ、スアルコウが双子であることを活かしたネタを披露してくることだ。
双子ならではの見事なネタだとは思うが、俺としてはテレビで見たことあるネタばかりだから初見じゃない。
懐かしいという感じで対応するのは違うだろう。
反応に困る。
さて、そんなスアルリウ、スアルコウを引き連れ、俺は二村にやってきた。
二村にプールを造るためだ。
二村のミノタウロス族が大量の褒賞メダルを差し出し、頼んできた。
プールならば大樹の村のものを使えばいいのだが、ミノタウロス族は身体が大きい。
自由に泳ぐと周囲に迷惑がかかると気にしていた。
そこで、二村に自由に泳げるプールを。
という話になった。
褒賞メダルが出されたので、プールを造ることに問題はない。
造られたプールは、夏場はプールとして使い、そのほかの季節ではため池として使う予定だ。
無駄にはならない。
【万能農具】でさくっと掘って、完成。
広さは長辺が四十メートルのプール。
もっと広くてもよかったのだが、あまりに広いと監視員が大変とのことでこの大きさになった。
まあ、ミノタウロス用だから、それなりに深いけどな。
子供が泳ぐときは、しっかりと監視員を置いてほしい。
これで二村での作業は終わり。
続いて三村に移動。
うん、三村でもプールを造る。
三村に住むケンタウロス族も身体が大きい。
プールを求める理由は同じだ。
周りに迷惑をかけないため。
ただ、三村のケンタウロス族がプールを求めたのは、自由に泳ぐ目的ではなく水浴び場として。
「ケンタウロス族は泳げますが、得意かと言われると素直に頷けないところでして」
三村の村長代行であるグルーワルドが照れながら説明してくれる。
なんでもケンタウロス族は長い時間、水に浸かると蹄が傷むので、あまり泳ぎたくないらしい。
戦場に行く者が、生き延びるためにしぶしぶ学ぶ程度。
そんなケンタウロス族でも夏場は暑い。
泳がなくてもプールに入りたい気持ちはあるそうだ。
「ですが、泳がないのにプールに入っているのは少々……」
気にしなくていいと思うけどな。
浮き輪でぷかぷか浮いているだけの者もいるし。
まあ、自由に使えるプールが欲しいと褒賞メダルを持ってこられたら、断れない。
【万能農具】でさくっと掘って、完成。
事故のないように。
三村からの帰り、一村の村長代行であるジャックに話を聞く。
一村ではプールは必要ないのかと。
いやいや、作らなきゃ駄目ってことはないぞ。
聞いただけだ。
「大樹の村のプールを使わせてもらえますから。
それに、子供たちはまだ小さいので」
村にプールがあると、事故が怖いそうだ。
なるほど。
そういう考えもあるか。
村の護衛をしているクロの子供やザブトンの子供たちも、基本は村の内部よりも外部からやってくる魔獣や魔物に備えている。
子供は村で手の空いている者が見るが……プールで泳がせるのは怖いか。
ふむ。
一村に必要なのは、大きいちゃんとしたプールではなく、ビニールプールだな。
ビニールは手に入らないから……板で組んだプールでいいかな?
いや、違う。
あれだ。
水槽にしようとしていた小さい浮遊庭園。
ルーに頼んで、シャシャートの街の水槽用のものを、各村に一つずつぐらい配ってみよう。
うん、各村。
二村、三村が褒賞メダルを出したから、一村だけタダで渡すわけにはいかないからな。
なに、絶対にプールとして使わなければいけないということもない。
各村で、いろいろな使い方をされることを期待しよう。
ルーに水槽を頼もうとしたら、予定の数より多く用意されていた。
「たぶん、必要かなって」
おおっ。
さすがルー!
「ふふん」
それで、どうして必要と思ったんだ?
「生け簀になってるあなたの水槽。
メイドたちが増やしたがっていたから」
あー、なるほど。
それじゃあ、鬼人族メイドたちにもいくつか渡しても?
「そのつもりで用意したから」
すまない、助かる。
「いいのよ。
お礼は薬草畑で返してもらえれば」
ははは。
任せろ。
こんなこともあろうかと、すでに新しい薬草畑を用意している。
「え?」
王都にオークションの激励に行ったとき、珍しい薬草を見せてもらってな。
「え? え? え? 珍しい?
ど、どんな薬草?」
あー、薬草の名は覚えてない。
変な感じの名前だったから。
ダルフォン商会の人が……たしか、夏に花が咲く希少な薬草で、葉と根が薬になって、花は綺麗だけど毒だって言ってた。
「夏?
希少で葉と根が薬?
ま、ま、まさか、エリグンジャー?」
そんな感じの名だったかな。
「き、き、き、き、期待するわよ!」
そ、そこまで喜ばれると、違ったときが怖いなぁ。
「そ、そうよね。
慌てちゃ駄目よね」
そうそう。
「新しい薬草畑はどこ?」
え?
「見て確かめるわ!
あなたのことだから、もう芽は出てるんでしょ?」
ははは。
実は花が咲いてる。
「行くわよ!」
花が毒だと聞いていたので、村から少し離れた場所に作った二十メートル四方ぐらいの薬草の畑は、花が咲き乱れていた。
その薬草はルーの期待したエリグンジャーだったらしく、かなり喜んでいた。
小躍りしている。
喜んでもらえてなによりだ。
ところで、この薬草はどんな効能があるんだ?
「……」
ん?
どうした?
反応が悪いが?
小躍りも止まっているし。
「エリグンジャーは万能よ」
そうなのか?
凄いな。
「ええ凄いの。
でも、ユ、世界樹の葉には敵わないの……
だから代用品とか劣化品って呼ばれたりしてるわ」
え?
そうなの?
「そうなの。
あらゆる効能が、世界樹の葉のほうが上。
さらに、世界樹の葉はそのままでも効果があるのに、こっちは薬として使うには面倒臭い調理や調合手順があるうえに、薬を完成させるには最低でも百日はかかっちゃうから」
あー。
すまない。
いまいちな薬草だったか……
「そんなことはないわ!
この薬草は、世界樹が朽ちたあとの世界では、すっごく大事にされていたのよ!」
へ、へー。
「生で花から根まで揃っていたら、金貨五枚。
乾燥状態でも金貨二枚の高級品!
エリグンジャーを栽培できないかと一生を費やす人もいたぐらいなんだから」
そ、そうか。
その栽培はうまくいったのか?
「上手くいってたら、金貨五枚なんて値にならないわよ」
そうだな。
オークションでは、乾燥した状態で金貨四枚からスタートの予定だと言っていた。
俺は薬草の畑をもう一度、見る。
一面のエリグンジャーの花。
たぶん、その栽培を目指した人が見たかった光景なんだろうなぁ。
「世界樹の葉に比べたら劣るけど、それは比べる相手が悪いだけなのよ!
薬学的見地から、このエリグンジャーはとても重要な薬草!
希少だからあまり研究がされていないけど、これだけあれば世界樹の葉を超えることだって夢じゃないわ!
ありがとう、あなた!」
よ、喜んでもらえてなによりだ。
でも、独り占めは駄目だぞ。
ティアやフローラが欲しがったら、分けるように。
「わかってるわよ。
あ、シャシャートの街のイフルス学園に渡しても?」
もちろん、かまわないぞ。
「ありがとう!
ふふふ、世界樹を超える薬をこの手で。
薬学史が一歩も二歩も進むのよ!」
ルーが喜ぶ姿を見ることができて、俺は幸せだ。
そして、忘れないうちに水槽になる浮遊庭園を各村に配るとしよう。
うん、薬草の話を続けていると忘れそうになるから。
おまけ
喜ぶルーを見ている俺の横で、護衛をしているスアルリウとスアルコウの二人が「私たちにはなにかないのですか? 私たちも頑張っていますよ」と視線を送ってきた。
……
そうだな。
テレビで見たことある双子芸人のネタを教えてあげよう。
二人が思いついていないネタだ。
テレビではそれなりに好評だったから、すべることはないだろう。
スアルリウとスアルコウの二人は、新ネタを手に入れた。
後日。
天使族の中では大爆笑だったらしい。
満足気な二人の笑顔を見ることができて、よかった。
スアルリウ、スアルコウ「私たちが尊敬する人は、村長が言っていた双子芸人です」
スアルロウ 「……ま、孫を抱っこする日は遠い」
ラズマリア 「ローゼマリア、抱っこする?」
スアルロウ 「……する」
ルー「エリグンジャーだと、A、B、(省略)、Y、Zの工程を経て、やっと回復の薬になるの」
村長「うん」
ルー「世界樹の葉だと、そのまま回復の薬になるの」
村長「う、うん……」
ルー「そのうえで、世界樹の葉のほうが効果が上なの。ズルいでしょ!」
村長「ズ、ズルいな。うん、ズルい」
グーロンデ「世界樹の話題がでると、心が痛いです……」
ギラル「前向きに、な。前向きにだ」
オル「わん(お母さんを虐めるのは誰だー)」




