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●人物紹介
フタ マーキュリー種。魔法使いファッション。
ヒー マーキュリー種。五村の中年武官。
ロク マーキュリー種。五村の青年文官。
ナナ マーキュリー種。五村の情報収集担当。村娘ファッション。
2023/12/26
大樹の村の住人のツケ払いに関して、過去に禁止した言動があったので修正しました。
すみません。
リリウス、リグル、ラテの三人が、居住エリアで重い荷物を運んでいた。
これも体力作りの一環だろう。
それでハクレン。
リリウスたちに、どんな課題を与えたんだ?
「外に出ても心配されないことが大事でしょ」
うん。
「だから、森にいる猪ぐらいは倒してみなさいって言ったわ」
……
危険じゃないか?
「でも、ある程度は戦えないと不安でしょ?
悪い人がいるって聞いてるわよ」
戦えないよりは、戦えるほうが安全か。
なるほど。
そう考えると、ちょうどいい課題か。
俺がそう答えたら、ハクレンの横にいたルーが盛大に吹いた。
「リ、リアたちは喜ぶけど、さすがに猪を倒すのは厳しいんじゃないかな?
あの猪、一対一ならインフェルノウルフより強いわよ」
ルーの言葉に、俺は近くにいるクロの子供を見る。
暑いからか、日陰で仰向けになって寝ているな。
……
これより強いと言われても、判断に困る。
「そうかもしれないけど……適当なところで現実的な課題に変更したほうがいいわ。
リリウスたちが無茶をして怪我しても困るし、あなたもリリウスたちに恨まれたくないでしょ?」
もちろん、怪我は困るし恨まれたくない。
課題を変えたほうがいいか。
「うん、絶対」
そうか。
うーん。
リリウスたちは頑張っている。
急な課題変更で、その頑張りを潰すのも問題だな。
とりあえずは、勝手に退治に行かないように言いつけよう。
勝手に森に入ったら、外に行く話はなし。
これぐらい厳しく言えば、守るだろう。
守るよな。
俺はルーとハクレンに確認しようと思ったが、二人は飛び出していくタイプだった。
リリウスたちに直接言って、お願いしよう。
あと、クロの子供たちやザブトンの子供たちに、リリウスたちを守ってもらえるようにすでに頼んでいるけど、改めてお願いすると。
でもって、課題は変更するけど……変更するタイミングは慎重に。
リリウスたちを見守りながら、考えていこうと思う。
子供たちの成長に関して、少し気になることがある。
一人で買い物に行くのは、何歳ぐらいからするのかと。
ルーやティア、ハクレンに聞いてもわからなさそうだったので、フラウに聞いてみた。
「え?
商人がお屋敷に持って来ますので、一人で買い物に行かせることはありませんよ」
……
考えてみれば、フラウは貴族の娘だった。
そうなるのも仕方がないか。
じゃあ、えっと……ガルフ。
「物々交換がメインなので、集団で買い物に行きます」
あー、そういえばそうだった。
そうなると……
誰がいる?
一般的な子育てをしている者。
ヨウコがヒトエを抱えてチラチラとこちらを見てくるが、買い物に行かせたことはないだろ?
「そのような危ないことはさせられん」
だよな。
うーん。
聞いた者が悪いのか?
考えてみれば、大樹の村には子供だけでなく、大人が買い物できる店はない。
マイケルさんやビーゼルなどの村外への販売があるだけだ。
だから、子供が一人で買い物に行くのは何歳からかと気にしても意味がないのだが……
外に行くことを考えているリリウスたちがいる。
お金を使う練習として褒賞メダルを配っているけど、現状では交換券扱い。
買い物の仕方、ひいてはお金の使い方を知らないのは困る。
もう少し、聞いてみよう。
一村の村長代行であるジャックに聞いてみた。
「買い物だと、お金を持たせることになりますよね?
子供にお金を持たせると、悪い大人に狙われます。
なので子供だけで買い物に行くことはないですよ」
そ、そうか……
「買い物は、自分で自分の身を守れるようになってからですかね」
わかった。
ありがとう。
二村の村長代行であるミノタウロス族のゴードンに聞いてみた。
「あー……子供だけで行かせたことはありませんね。
盗賊とかを気にしながらなので、集団で買いに行きます」
三村の村長代行であるケンタウロス族のグルーワルドに聞いてみた。
「そもそも、子供を一人にすることがありえません。
一人で敷地の外に出すなんて、虐待です」
結論、子供に一人で買い物に行かせることはない。
危ないから。
そっかー。
しかし、そうなると子供たちはお金の使い方をどうやって覚えるのだろうか?
「親と一緒に買い物をして覚えるのが一般的ですよ」
そう答えてくれたのは、大樹の村と五村のあいだの転移門を管理している四村出身のマーキュリー種、フタ。
おお、意外にも子育ての経験が?
「ありませんよ。
ヨウコさまの仕事を手伝わせてもらっているときに見聞きしたことです」
へー。
しかし、親と一緒にか。
うーむ。
できるだけ俺が一緒に行って買い物するのがいいのか?
「村長のお子さんでしたら、無理に教えなくても商人のほうが来ると思いますけど」
そうかもしれないけど、俺としては一般の感覚も知っておいてほしい。
「では、誰か大人と一緒に買い物に行かせるのがいいのでは?
五村でしたら、ヒーかナナであれば安全かと」
そうだな。
ヒーやナナは、フタと同じく四村出身のマーキュリー種。
さらには、二人ともそれなりに戦える。
万が一の際も、子供たちは守れるだろう。
……
ロクの名がでなかったが、ロクは駄目か?
ロクも同じく四村出身のマーキュリー種。
「ロクもそれなりに戦えますが……その、ロクが抜けるとヨウコさまの仕事が滞ります」
ヨウコの。
わかった。
ヒーとナナを頼らせてもらおう。
「私も手伝いますよ」
ああ、頼りにしているよ。
俺はそう言って、大樹の村に戻った。
リリウスたちが外に出るときには、お金の使い方を知っておいてほしい。
しかし、いきなり五村でお金の使い方の勉強をさせたらリアたちの機嫌が悪くなるから、こっちもタイミングを見計らってだな。
思い返してみれば、ゴール、シール、ブロン、アルフレート、ウルザ、ティゼル、トラインと子供たちが外に行ったが、もう少しお金の使い方を勉強させればよかった。
いや、俺もお金の使い方ができているかと問われたら、答えに困るけど。
そんなことを思っていたら……
「お金の使い方?
外に行く前にちゃんと勉強させているわよ。
詐欺にあったら困るからね」
そうルーから言われた。
ふむ。
我が村の教育は行き届いているようだ。
無駄な心配だったか。
「あはは。
五村で練習させるのは悪くないと思うわよ」
そうか?
「ええ。
ヨウコが統治しているから比較的安心だし、ザブトンの子供たちもいるからね。
あと、ヒーやナナも子供たちと接する機会が増えるわ」
接する機会?
「仕事によって、あなたの子供と会う機会に差があるのよ。
温泉地のヨルとか万能船のトウは、なんだかんだで大樹の村で子供たちに会うけど、ヒーやナナは五村に常駐している感じだから」
あー。
そのあたりも考えてやらないと駄目か。
「ヒーやナナが不満を言ってくることはないだろうけど、子供たちが大きくなったときにね」
頼る相手が偏るのはよくないと?
「いろいろな人から話を聞くようになってほしいだけよ」
なるほど。
ところで、ロクの名が出なかったけど?
「ロクに仕事を振ると、ヨウコが困るわよ」
やっぱりか。
文官を増やすことを考えないとなぁ。
「そうねぇ。
アルフレートたちが通っている学園の生徒、卒業後に来てもらえるように動いているみたいだけど、ミヨと取り合いだから期待ができないのよね」
シャシャートの街でも不足気味か。
「ティゼルの国作りで、ごっそり持って行かれちゃうからね」
あー。
「まあ、文官に関してはこっちから人を押しつけるより、ヨウコやミヨに任せたほうが正解よ。
自分たちが使う部下になるわけだしね」
その部下の引き抜きが問題になっていると聞いたが?
「あれはシャシャートの街の学園の立ち上げに必要だったからよ。
学園運営が安定すれば、そこの卒業生が期待できるから」
ふむ。
ちなみに、これまでの卒業生の数は?
「え?
えーっと……け、研究熱心な者が多いから……
でもでも、研究成果はちゃんと利益になっているわよ」
それはありがたいが、卒業生はゼロか。
文官の補充には繋がらないなぁ。
「だ、だ、大丈夫よ。
卒業生は出るから。
読み書き計算に研究までできるすごい文官になるから」
それに期待しよう。
ミヨ 「あそこは学園じゃなくて、ただの研究施設です」
ヨウコ「あそこの卒業生……予算を横領して好き勝手に研究しそうではないか?」
ルー 「ふ、風評被害!」
ミヨ 「実際のところ、卒業したら独自の研究所を構えるだけでは?」
ヨウコ「魔道具とかなら……成果を買い取ってもいいな」
村長 「文官の補充にはならないのかー」
天使族「残念。嫌われてなかったら行くのになー。あー残念」
ミヨ 「……」
ヨウコ「……」
村長 「腹が立つからって黙って羽根を毟るんじゃない。痛みで悶えているじゃないか」
ミヨ 「変装して働いてもらうのだから、翼なんて無用なんですよ」
ヨウコ「うむ。煽ってきた報いは受けてもらう」
天使族「す、すみませんでしたー」




