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悪臭事件

●人物説明

アシュラ 三面六臂、足四本の巨大な骸骨生物。

ヨル   四村出身のマーキュリー種。兵装担当。現在の温泉地の転移門の管理人。

フローラ 吸血鬼。ルーの(種族的な)従姉妹。


 朝。


 昨日の昼から夜にかけてのことを忘れ、村を見回る。


 リリウス、リグル、ラテの三人が走り込みをしていた。


 かなりの速度で走っている。


 体力作りの一環だろうか?


 そういえばハクレンが課題を出したと言っていたけど、内容を聞いていなかったな。


 無茶なことじゃなかったらいいんだけど。


 ……


 あとで確認しておこう。




 さて、今日の俺の予定は温泉地での作業。


 温泉地には大樹のダンジョン内の転移門を使って移動するのだが……


 その大樹のダンジョンの近くに万能船のドックがあるので、高いところが苦手なクロの子供たちの感情がジェットコースターだった。


 何度も温泉地に行くと言っているのに、万能船のドックに近づくので歩みが遅れ、テンションを下げる。


 その万能船のドックを通りすぎて大樹のダンジョンに入ると、これでもかとテンションを上げていた。


 面白いと言っては失礼だろうが、スキップをするかのような軽い足取りは面白かった。



 温泉地に到着すると、アシュラが出迎えてくれた。


 アシュラも温泉地にしっかりと馴染んでいるようだ。


 ライオン一家や、死霊騎士たち、それに温泉地の転移門の管理をしているヨルと、仲良くやっているようでなにより。


 死霊魔導師は教師として大樹の村に通っているので今は不在だが、この温泉地に研究室を構えている。


 時々、ルーやフローラ、ティアがやってきては一緒になにか実験をしているらしい。


 俺が温泉地に来た目的は、この研究室の視察というか……


 研究室からの悪臭が酷いので、なんとかしてほしいというヨルとライオン一家からの陳情ちんじょうを、今朝一番に受けたからだ。


 温泉地の端のほうにあるとはいえ、悪臭はよろしくない。


 嫌な臭いというのは、危険信号なのだ。


 臭いの原因がわからなければ、なおさら。


 俺はその悪臭の原因を調べるため……ではなく、とりあえずの偵察要員。


 事情を聞こうと思ったけど、死霊魔導師は授業中だったし、ルーとティアは仕事中。


 フローラは見つからなかった。


 まあ、どうせ、なにかしらの実験が失敗したのだろう。


 そう思って研究室に近づくと、俺と一緒に温泉地にやってきたクロの子供たちがヒャンヒャンと情けない声を出した。


 ああ、臭ってくるな。


 鼻を刺激する臭い。


 クロの子供たちには辛いだろう。


 しかし、護衛として一緒にいるので俺から離れるわけにもいかない。


 行くのをめようと言わんばかりに、すがるような顔で何度もこっちを見てくる。


 す、すまない。


 原因を確認しないと、いけないから。


 それとも、一度戻ってから護衛を交代するか?


 ザブトンの子供たちとか。


 それは駄目?


 わかった。


 それじゃあ、進むぞ。


 ……


 …………………………


 正直、二回ほど心が折れかけた。


 まさしく悪臭。


 鼻が曲がる。


 だが、頑張って到達した研究室の扉をノックし、返事がないので開くと……


 強烈な悪臭が襲ってきた。


 これまでのは研究室から漏れただけの悪臭だった。


 だが、扉を開けたことで悪臭の根本が鼻を攻撃してきた。


 ほんとうの悪臭って、殴られたような衝撃を受けるんだなぁ。


 ふらついてしまった。


 そんな俺の横で、俺の護衛をしていた若いクロの子供の一頭が悲鳴をあげて倒れた。


 若いゆえの経験不足。


 思いっきり、いでしまったのだろう。


 痙攣けいれんを起こしている。


 まずい!


 俺は倒れたクロの子供を抱え、撤退!


 臭いがマシな場所で、倒れたクロの子供に世界樹の葉を使う。


 ……よかった。


 無事に回復した。


 そして、俺は現状を確認する。


 研究室からかなり離れた場所なのだが、臭いがする。


 自身についた臭い?


 いや、違う。


 研究室から撤退するとき、研究室の扉を閉めなかったからだ。


 慌ててたからなぁ。


 研究室の扉を閉めないと、温泉地全体にこの悪臭が広まる?


 それは困る。


 研究室の扉を閉めなければ。


 ……


 もう一度、あそこに行くのか。


 ふふふっ。


 無理。


 俺の心は折れている。


 クロの子供たちも嫌がっている。


 仕方がない。


 助けを呼ぶ。


 温泉地にいるのはヨル、ライオン一家、死霊騎士、アシュラ。


 ヨルとライオン一家が臭いをなんとかしてほしいと陳情してきたのだから、頼んでも無理だろう。


 いや、頼んだら行ってくれるかもしれないが、俺としては行かせたくない。


 アシュラはまだここに来たばかり。


 無理はさせたくない。


 希望は、死霊騎士だ。


 死霊騎士、お前たちは臭いを感じるのか?


 ……意識しなければ大丈夫と。


 すまない。


 研究室の扉を閉めてきてもらえるか?


 ほんとうにすまない。



 死霊騎士が戻ってきた。


 気を失ったフローラをかついで。


 え?


 あの研究室にフローラがいたのか?


 大丈夫か?


 世界樹の葉、使うか?


 あれ?


 吸血鬼に世界樹の葉って、使って大丈夫なのか?


 ルーに聞いておけばよかった。


 えーっと、どうしたものか。


 大樹の村に運ぶか?


 フローラからすごい悪臭がしているが、非常事態だ。


 仕方がないだろう。


「あ……大丈夫……です。

 すみません」


 俺がフローラを受け取ろうとしたところで、フローラが目を覚ました。



 目を覚ましたフローラが自力で立ったところで、フローラが魔法で俺や死霊騎士、クロの子供たちについていた臭いを消してくれた。


 最後に自分についた臭いを消し、研究室周辺の臭いを消した。


 おおっ、深呼吸ができる。


 魔法って凄い。


 で、研究室の中は?


 臭いの原因があるから無理と。


 なるほど。


 扉を二重にするとか、対策を考えないとな。


 で、この臭いの原因は?


「あはは……発酵食品の研究です」


 フローラに話を聞くと、発酵食品の研究はこちらでやっていたらしい。


 味噌や納豆、チーズ類の研究は大樹の村でやっているのだろ?


「ええ。

 ですが、アンやラムリアスが妊娠していたでしょ?

 妊娠中は臭いに過敏になると聞いていましたので」


 臭いがするのはわかっていたのか?


「発酵食品ですので」


 まあ、そうだな。


 しかし、この酷い臭いは……


「すみません。

 ですが、魔法で対策をしていたのですが……まさか、その魔法を壊す臭いになるとは思いませんでした」


 フローラの魔法を壊したのか?


「ええ、それで私も気絶してしまい……」


 凄いな。


「ええ、凄いですよね!

 新兵器ですよ、これは!」


 食品の研究だよな?


「……そうでした」



 フローラの話をまとめると……


 悪臭の原因は、魚の発酵食品に挑戦していたこと。


 魔法で臭いは抑え込んでいたけど、臭いが魔法を突破したから周囲に臭いが漏れたと。


 対策は?


「魔法を強化します」


 うむ。


 あと、研究室の改築だな。


 臭いが漏れないように。


 ハイエルフに頼んでおこう。


「お願いします」


 あとは……ヨルとライオン一家には、俺から謝っておこう。


「え?

 私が謝りますよ。

 私が原因ですから」


 アンやラムリアスに気をつかった結果だろ?


「いえいえいえ」


 じゃあ、二人で謝りに行こうか。


「わかりました」


 こうして、研究室からの悪臭は解決した。





 後日。


「あの悪臭がする発酵食品。

 失敗かと思っていたのですが、焼いて食べたら美味しかったです!」


 食べたのか?


 凄いな。


 そして、美味しいのは嬉しい報告だが……焼いて臭いはどうなったんだ?


「え?

 あー、その、まあ、あれです」


 倍増したんだよな?


「倍どころじゃないです。

 強化した魔法が壊されました」


 そっか。


 大樹の村には持ち込み禁止で。


「えええっ!」





ルー「すごい兵器ができたって聞いて!」

村長「臭いが酷いやつなら、使用させんぞ」

ルー「えええっ!」


ヨル「すごい兵器ができたと聞いて!」

村長「あの臭いで攻撃する兵器だぞ」

ヨル「人の心を持っていないんですか! 酷すぎる!」



ミヨ「使い道? 暴徒鎮圧用とか?」

ヨウコ「いくつか欲しいな。普段は封印しておけば安全であろう」

ガルフ「使用場所が限られるのが怖いなぁ」

ダガ「風向きも気にしなければ。使ったあとに自陣に向かってきても困ります」

村長「運用を考えないように」

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