春の収穫と子を心配する親
●人物紹介
リリウス ハイエルフ。リアの息子。
リグル ハイエルフ。リゼの息子。
ラテ ハイエルフ。ラファの息子。
朝。
アイギスとザブトンの子供たちが作った水槽は、鬼人族メイドたちの手によって生け簀になっていた。
「え?
泥抜きをしているのでは?」
さすがに食べるのは……
俺はそう言いながらアイギスとザブトンの子供たちを見たが……
食べてもいいらしい。
むしろ、食べないのかとアイギスは首を傾げた。
……
そうか。
俺が作ろうとした水槽……アクアリウムが理解されていなかったか。
俺の水槽を作ったら、“食べてはいけない”と書いた看板を掲げようと心に誓った。
昼。
ため池のポンドタートルたちから、水槽を作るなら手伝わせてほしいと声をかけられた。
そういえば、ポンドタートルは池の守護神って言われる魔物。
魔物らしさはないけどな。
水草を育てることもできるらしい。
なるほど。
わかった。
手伝ってもらうよ。
ただ、最初はもう少し小さい水槽から始めようと考えているのだけど……
ポンドタートルたちは、どんなサイズでも頑張ると言ってくれた。
ありがとう。
春の作物の収穫が始まった。
だだっと収穫して、夏の作物を。
と、考えるけど、収穫はそんなに簡単じゃない。
作物の成長具合の見極めが大事。
ほんとうに大事。
なにせ【万能農具】のお陰で作物の成長が早いということは、駄目になるのも早い。
実はそうなんだ。
収穫したら大丈夫なんだけどね。
作物の収穫時期を逃してはいけない。
だが、安心してほしい。
大樹の村には、作物の成長具合を見極められるプロフェッショナルがいる。
クロたちインフェルノウルフ、そしてザブトンとその子供たちだ。
彼らと協力して……
「こっちの畑、収穫できますよ」
「あっちの畑は明日か明後日ですね」
「ごめん!
ニンニク畑に応援を頂戴!
急がないと味が落ちちゃう」
「ドライムさん!
ダイコンの収穫は明日です!
見張らなくてもいいので、こっちを手伝ってください!」
「今日の収穫物は、新しい倉庫のほうに。
ですがジャガイモとニンジン、タマネギはいつもの倉庫にお願いします」
「カボチャは陰干しするから、倉庫の中ではなく外……えーと、新しい倉庫の右側に置いてください。
そうです。
テントを張っている場所です」
「そこの天使族っ!
つまみ食いしない!」
ハイエルフ、獣人族の女の子たちが中心となって指示し、村の人々全員で次々と収穫されていく。
うーん、作物の成長具合を見極められる人、増えているなぁ。
まあ、何年もやっているから、わかるか。
俺はまだまだだけど。
いや、ある程度はわかるんだけど、その日食べる作物の収穫と、後日食べる作物の収穫ではタイミングが違うんだ。
テレビだと、その日食べる作物の収穫がメインだったから。
俺はクロたちインフェルノウルフ、そしてザブトンとその子供たちと一緒に収穫を頑張った。
俺が【万能農具】を使って夏の作物を育て始めたころ。
トラインが戻ってきた。
アンの娘、トラインの妹となるサクラに会うためだ。
アンはトラインを見るなり「仕事を放り出して」と叱ったが、アルフレートやウルザも一緒に戻ってきていたので一言で終わってしまった。
まあ、転移門があるから移動に何日もかけたわけじゃないし、すぐに帰る予定だ。
さらには、アンもトラインが母親の心配もしていることがわかるので、うるさくは言わない。
アルフレートとウルザは、サクラを見に戻ったけどアンとトラインの邪魔をしないように、控え目だ。
母が違っても妹だから、遠慮する必要はないと思うのだけどな。
ティゼルが一緒に戻ってこなかったのは、国作りでいろいろと忙しいから。
ミヨの作ったリストの人材に逃げられないよう、頑張っているそうだ。
どこかで時間を作って、サクラを見に戻るだろう。
心配はしていない。
おっと、ウルザが戻ったからか、ザブトンとハクレンがやってきた。
ウルザを連れてお茶会のようだ。
アルフレートは……ドノバンのところに向かうのか?
ルーのところじゃなく?
ゴロウン商会とダルフォン商会から、ドノバンに酒造りのアドバイスをもらえないかと頼まれた?
ルーが言ってた通り、美味しい酒造りに動いてくれているようだ。
ドノバンなら、今日は文官娘衆たちと倉庫を回ってる。
春の収穫物で、酒造り用にいくつか確保したいものがあると言ってたからな。
ああ、帰る前にちゃんとルーにも会っておけよ。
会わずに帰ったら、ルーが拗ねる。
アルフレートたちが春の収穫物をお土産として持ち帰った次の日。
リアとリゼ、ラファがやってきた。
このメンバーということは、リリウスたちの話だろうか?
「リリウス、リグル、ラテが村の外に行きたそうにしています」
そうだった。
「どうしましょう」
どうしましょうと言われてもなー……
行きたいと言ってきたのか?
「いえ。
ですが、外には興味があるようです。
同い年のトラインが外に出ていますから……
ティゼルあたりから誘われたら、すぐにでも出て行きそうで」
ふーむ。
親としては、外に出たがる子供の行動を縛るべきではないのだろうけど……
だからと言って、本人が望んだからと放り出すのも違う。
とりあえず、外に出ても大丈夫なように勉強を進めよう。
とくに一般常識。
あと、立ち振るまい。
戦うことを推奨したくないが、自分の身を守る力も必要だ。
「外に出さないのは?」
本人が望むなら、止められないだろ。
「わ、わかりました。
外に出ても大丈夫にするための勉強と気づかれないように、徐々に増やしていきます」
え?
気づかれてもいいんじゃないのか?
「気づいたら、村の外に行ってしまいます!
まだ生まれたばかりなのに!」
生まれたばかりって……トラインと同い年だし、身体に関してはトラインよりできているよな?
「まだまだ子供です!」
そ、そうだろうけど。
このあたりは種族による感覚の差かなぁ。
リリウスたちにその感覚が備わっていればいいけど……
いや、十歳ぐらいで外に出すほうがおかしいか?
なんにせよだ。
リリウスたちが飛び出していかないように、コミュニケーションをしっかりと取るようにしよう。
そう思った翌日。
ハクレンから、リリウス、リグル、ラテの三人から、外に行きたいという相談を受けたと報告があった。
ハクレンとしては、外に行きたいなら実力を示さないと誰も納得してくれないと言って課題を出したそうだ。
「しばらくはそれで時間が稼げるけど、どうする?」
どうするもなにも、本人が望んでいるからなぁ。
昨日、リアたちと話したことをハクレンに伝え、外に行くための勉強に協力してもらうことになった。
もちろん、リアたちとの連絡も怠らない。
リアたちはリアたちで勉強を進め、ハクレンはハクレンで勉強を進めたら、リリウスたちが倒れてしまう。
適度な勉強が大事。
ちなみに、ハクレンの見立てではリリウスたちの一般常識や立ち振るまいは十分。
ヨウコやガルフ、文官娘衆たちから、いろいろと学んでいるらしい。
外に出しても問題はないらしい。
ただ、戦闘能力はまだまだ。
こればかりは経験が圧倒的に不足している。
森のウサギぐらいは倒せるけど、イノシシになると危ないそうだ。
「まあ、五村やシャシャートの街、王都なら戦うことは少ないだろうから問題はないと思うけど」
そうか……
わかった。
ただ、リリウスたちにはその見立てを伝えないでくれ。
リリウスたちは喜ぶだろうけど、リアたちが心配するから。
村長「子供を外に出したくないのは、ハイエルフの特徴なのかな?」
リア「そうですね。子供があまり生まれませんから過保護になるのかもしれません」
村長「あまり生まれない? そうなのか?」
リア「ええ、種族的に性欲が弱いらしく……」
村長「え?」
リア「え?」
リグネ「リアは十歳ぐらいで森を飛び出したはずだが……」
リア「べ、別の森に移動しただけです。森から出たわけではありません」
リグネ「縄張りから出たら駄目だと躾けたのだが……」
リア「どこに縄が張ってあったのでしょうか? 私には見えませんでした」
リグネ「村長。これが母だから、子も飛び出すと思う。私が見守りますので王都に誘導してもらえると」
リア「それが目的ですね! 子供たちは渡しませんよ!」




