春の終わりのサクラ
アンが出産した。
早かった。
アンが産まれると言った少しあとには、赤ちゃんの声がしていた感じだ。
アンも赤ちゃんも無事。
問題なし。
赤ちゃんの性別は、女の子。
アンはすぐにでも職場に復帰しそうだったが、用心して一週間ぐらいは安静にしてもらう。
横になりながら、名前を考えればいいと思う。
トラインのときは、名付けたい人が多かったからな。
ドースが名前候補を持ってきているけど、気にしなくていいから。
アンがつけたい名前を付ければいいと思う。
俺の案?
ネーミングセンスがないと言われるけど……サクラとかどうかな。
絶対にこれじゃなきゃ駄目ってことはないぞ。
候補。
そう、候補の一つで。
そう言ったのに、サクラに決まった。
すこやかに育ってほしい。
屋敷の中庭、水槽になる空中庭園を置いた。
空中に浮かせていないのは浮遊機能がもったいないけど、水の入れ換えとかを考えるとね。
まずは水槽に入れる石や砂、土を……洗うんだよな。
でもって、洗った石や砂、土を入れて……
うーん、水槽が大きい。
床面積が四畳半ぐらいのサイズ。
ある意味、一部屋分。
大は小を兼ねると思うが、大きい。
石や砂、土を入れるのが大変だ。
でも頑張る。
えーっと、次は川から採取してきた水草を植える。
植えた水草が抜けないように、水槽にゆっくりと水を注いでいく。
この水槽、高さは自由だけど……
とりあえず、水の量は植えた水草が十分に浸かるぐらいで。
あとは水草が根を張るまで、しばらく放置でいいかな?
水槽には川の魚を入れるつもりだから、酸性値(pH)の調整をしなくても大丈夫だろう。
なにせ、川の水だし。
それに、調整したいと思っても酸性値を調べる方法がわからない。
まあ、最初はトライ&エラーだ。
頑張ろう。
おっと、このまま放置したら中庭の鶏たちの玩具にされてしまう。
いまでも遠巻きに見られているしな。
どうしたものかと考えたが、活かせていなかった浮遊機能を使うことにした。
空中にあるなら、鶏たちも手が出せないだろう。
三メートルぐらいの高さに……
いやいや、鶏たちはこれぐらいは飛ぶ。
以前、フェニックスの雛のアイギスの水浴び場をその高さに作ったら、鶏たちも使っていた。
屋敷より上にしておこう。
降ろすのに天使族かハーピー族に頼まないと駄目になるけど、鶏たちに弄られるよりはいいだろう。
よし、これで万全。
翌日。
天使族に頼んで水槽を降ろしてもらったら、アイギスがプールとして活用していた。
もうすぐ夏だし、村のプールが開放される。
そこで華麗に泳ぐ姿をみんなに見せたかったんだな。
だけど、風呂で練習したら鬼人族メイドに叱られる。
だから、ここで練習していたと。
なるほど、努力家だな。
そうかそうか。
ただ、鳥がクロールをするのはどうかと思うんだ。
ポンドタートルに習ったのか?
俺としては白鳥とか黒鳥みたいに水面に浮いて、足で水を……
いや、アイギスだと水に浮かないのか?
浮くよな。
風呂で浮いているのを何度も見ている。
ん?
浮くけど……?
浮いたら、周囲の水が熱されて……ああ、足で熱される部分を調整するのね。
それで、水温差で対流が生まれるから、それを利用して……
おおっ、自由自在に移動できている!
すごいじゃないか!
しかし、これじゃ泳いだことにならないと。
なるほど。
拘りがあるのだな。
そうか。
わかった。
プールが開放されるまで、この水槽は自由に使っていいぞ。
ああ。
かまわない。
植えた水草、全部抜けちゃっているから。
水温もかなり熱くなってるし……
まあ、土とかが熱湯消毒できたと前向きに考えるよ。
ああ、いいんだ、いいんだ。
謝らなくて。
気にせず使ってくれ。
水草だけ回収するぞ。
枯らしちゃかわいそうだからな。
アイギスとの会話で思い出したが、白鳥と黒鳥。
二羽というか二人は、パレードが終わると村から出て行った。
また来年かなと思ったら、五村の神社に居ついていた。
【万能農具】を使っても数日はかかりそうな、でっかい池を神社のある山の麓に作ってまで。
神社を管理している銀狐族のコンから、白鳥と黒鳥を受け入れてかまわないかと聞かれたけど、銀狐族が受け入れたのであれば俺が拒否することはない。
しかし、池を作ることができるなら、いろいろと手伝ってもらいたかった。
本人たちは、多くの条件があるから簡単に池を作ったりはできないと言ってたけど。
神社に居ついても白鳥と黒鳥はいつもの喧嘩をしているそうだ。
それが参拝客を喜ばせているらしく、迷惑はかかっていない……と信じたい。
俺は空を見上げる。
そろそろ時間だ。
予定通り、四村から次々と飛び降りる人影。
すこしするとパラシュートが開き、降下してくる。
飛び降りたのは悪魔族や夢魔族など、四村住人だ。
四村に浮遊庭園が設置されたが、その浮遊庭園に万が一があったときの避難訓練。
悪魔族や夢魔族は飛べるが、怪我をして飛べないときもある。
なにかしらの魔法で、飛べなくなることもある。
飛べるからと油断はよくない。
飛行庭園の各所にパラシュートを常備することにした。
今回はそのパラシュートを使っての避難訓練。
パラシュートでの降下中になにかしらの問題があっても大丈夫なように、降下する者たちの周囲を天使族が飛んでいる。
降下予定地点は大樹の村の西側の森。
事前にクロの子供たちが、魔物や魔獣を追い払ってくれたので安全は確保できている。
しかし、風向きを確認して実行したのだが、なんだかんだと横に逸れている。
予定外の森に降りると魔獣や魔物がいて危ないので、予定外に行ってしまいそうな者は独自の判断で飛行を開始。
降下を中断している。
うーん。
大半が降下予定地点に到着できなかった。
パラシュートの操作は難しいからな。
仕方がない。
で、降下予定地点……ではなく、屋敷の中庭に華麗に降下したのはスライムたち。
遊びじゃないんだけどなぁ。
いや、スライムたちの降下が上手いのはパラシュートで遊んでいたから。
スポーツとして、パラシュートを四村で推奨するべきかな。
検討しよう。
夕方。
俺の水槽にたくさんの魚が入っていた。
近くの川に住む魚だ。
アイギスがザブトンの子供たちと協力して、捕まえてきてくれたらしい。
水槽を駄目にした謝罪かな。
気にしなくていいと言ったのに。
ちゃんと水も冷ましてあるようだ。
川の魚は元気に泳いでいる。
ザブトンの子供たちも、ありがとう。
糸を網にして、捕ったのか?
違う?
釣った?
すごいな。
大漁じゃないか。
ああ、今度一緒に釣りに行こう。
いや、俺の釣りの腕前が上手ではないことは知っている。
正直に言って下手だ。
だが、下手ゆえに成長するのだ。
成長した俺の実力を見せてやろう。
ふふふ。
おっと、そろそろ食事の時間だ。
今日はゴロウン商会やダルフォン商会が送ってくれた魚を使った料理だ。
たくさん食べて、大きくなるんだぞ。
うん、そうだな。
サクラにも食べさせてあげたいな。
当面は母乳だけだけど。
なに、すぐ大きくなるさ。
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