増えた浮遊庭園
●人物
ベル 四村で働くマーキュリー種。マーキュリー種の代表。
ゴウ 四村で働くマーキュリー種。ベルのサポート役?
トウ マーキュリー種。万能船の船長。
村に戻った日の夜。
ルーに、投票の危なさを指摘された。
票差があるとしても、貴族と平民の力の差を数値化するようなものでトラブルの元だと。
簡単に言えば「貴族ってすごいなー」ぐらいの感覚が「あれ? 貴族ってこの程度? 平民が力を合わせれば倒せる?」と具体的な感覚になるのが駄目だと。
「魔王国の貴族は力を伴うことが多いから、そう簡単には暴動になったりしないだろうけどね」
しかし、酒に投票するんだぞ?
そうそう、力の差が数値化されるか?
「されるわよ。
貴族代表の酒と、平民代表の酒が競うことになるから」
……むう。
安易な気持ちで考えたランキング作りだったが、駄目だったか。
「ランキング作りが駄目だったんじゃなくて、貴族と平民を一緒にしてランキング作りをしようとしたのが駄目だったのよ。
でも、マイケルに言われて修正したのでしょ?」
そうだけど。
「なら、問題はないわ。
魔王のほうでも上手くやるだろうしね」
迷惑をかけてしまったか。
「ティゼルを使っている代金みたいなものだから、気にしなくていいわよ。
ただ、いまいちなお酒を差し入れたゴロウン商会とダルフォン商会には……」
差し入れにケチをつける気はないから、気にしなくていいんだけどなぁ。
「そうはいかないのよ。
それに、向こうも罰をもらったほうが助かるから。
まあ、それはこっちで上手くやっておくわ」
任せて大丈夫か?
「手加減はするわよ。
わざとやったわけじゃないみたいだしね」
村に戻ってきたら、その調査が終わってたのはびっくりした。
「敵か味方かは、重要なところだから」
ダルフォン商会はともかく、ゴロウン商会は大丈夫だろ?
長いつき合いだぞ。
「だからって、向こうのミスに寛容になる必要はないわよ」
ミスを咎めるのも、正しいつき合いか。
わかった。
任せる。
「ええ、どーんと任せてちょうだい。
それで、今度はこっちの話になるのだけど」
ルーのこっちの話というと、四村の拡張計画のことか?
「そう。
いろいろとやっていたら、大きくなりすぎちゃって……」
大きくなりすぎた?
「ええ。
浮遊庭園を大きくできないかなと改造をちょっと……
あと、数も予定より多くなっちゃって。
畑作り、大変そうだけど大丈夫?」
それは大丈夫だけど……
空がごちゃごちゃしないか?
「視覚を誤魔化す魔法を常時発動させているから、太陽城しか見えないわよ」
それは便利だな。
ゴウやベルから文句は?
「出てないわ。
逆に喜んでいるわね」
なら、かまわないよ。
大きく畑が作れるほうが、ありがたい。
明日にでも文官娘衆たちと相談して、なにを作るか考えよう。
ああ、その前に実際に見に行かないといけないな。
楽しみだ。
翌昼。
四村に到着。
護衛として一緒に来たクロの子供たちの何頭かが、騙されて病院に連れ込まれたペットの表情をしていた。
高いところが怖いらしい。
しかし、騙したつもりはないぞ。
たしかに散歩に行くぞと声をかけたけど、万能船に乗る段階で気づくだろう?
俺が悪いのか?
俺が悪いと吠えられた。
高いところが怖いなら、万能船に乗らなくてもよかったのに。
そう言って宥めたら、そういうことじゃないと拗ねられた。
明日にでも改めて散歩する必要がありそうだ。
さて。
一緒にやってきた文官娘衆たちと、四村の様子を見る。
城があるここ、本島は少し前に拡張したが、あまり変化はない。
変化があるのはその周囲……いや、南側に偏って浮いている大小三十基ほどの円盤の存在だ。
浮遊庭園。
当初は四基の計画だったのに増えたなぁ。
その大小の円盤は個々に浮遊しているが、近くの円盤や本島に繋がるようにロープや吊り橋がかけられている。
うーむ。
景色が一変した。
浮遊庭園の中は土を張っている最中なので殺風景だが、これまで周囲にはなにもなかったところに乱立する大小の浮遊庭園には驚く。
浮遊庭園の中には、本島に近い大きさのもあるし。
そういえば南側に偏って配置しているのには理由があるのか?
日当たりを考えてとか?
俺は案内役を引き受けてくれたベルに聞く。
「それもありますが、万能船の入出港の邪魔にならないようにです。
トウがうるさくて」
ああ、なるほど。
万能船の船長であるトウの指示ね。
浮遊庭園は視覚を誤魔化しているので、ある程度の場所を決めておかないと危ないのか。
「太陽城の影を利用することもあるので、全てではありませんけど」
そう言って北側を指さすベル。
そこには大きな浮遊庭園……いや、庭園じゃないな。
巨大な円柱の水槽があった。
「ルーさまと一緒に開発した、貯水用の特殊な浮遊庭園です。
水を腐らせないように、循環機能も搭載しています。
各浮遊庭園でも貯水はしますが、万が一のときはここから、ほかの浮遊庭園に水を供給します」
へー。
水の壁か。
魔法って凄いな。
水槽の底に水草が生えているのは?
「水の攪拌のため、魚を入れる予定ですので」
魚のための水草か。
そして、水の温度を調整するために本島の影を利用すると。
考えられているな。
あ、待てよ。
魚が飛び出したりはしないのか?
「横からは大丈夫です。
上からはその可能性があるので、水量には調整が必要ですね」
そうか。
ふむ、……いいなぁ。
「ふふ。
そうおっしゃると思って、ルーさまが小型の水槽を用意しています。
個人で水槽を楽しむことができるかと」
おおっ!
小さいと言っても四畳半ぐらいの広さ。
高さは自由なので、よほどの大型魚じゃなきゃ飼育できそう。
個人的には、大きい魚を育てるよりは、小さい魚がいっぱいいるほうが好み。
水草でレイアウトを楽しみたい。
やってみたかったけど、やれなかったことだ。
そして、これで水槽ができるなら……
「はい。
シャシャートの街でやろうとしていた、魚の展示が可能かと」
まだ数はないけど、ルーが準備をしてくれているらしい。
ありがたい。
さっそく水槽で……と言いたいが、まずはしっかりとやることをやろう。
いまは浮遊庭園の視察と、使い道の検討だ。
浮遊庭園を畑にするのは問題ない。
十分な広さだ。
なにを作るかだが、基本は調味料。
需要が高いからな。
あとは果物やコーヒーの豆、茶葉など。
「全てを畑にせず、いくつかは運動できる場所にしていただけると……」
もちろん、そういった場所も必要だ。
なにせ庭園だからな。
ああ、これだけ広いなら家を移すのもいいな。
俺とベル、文官娘衆たちで、浮遊庭園をどうするか話し合った。
浮遊庭園の数は、正確には大小合わせて三十四基。
うち、三基は水槽。
残り三十一基のうち、二十基を畑にして、残り十一基は四村住人のための施設にすることにした。
浮遊庭園は重ねて階層を増やすことができるので、二十基でも十分な広さだ。
具体的には、階層を増やさなくても、四村での収穫量がこれまでの十五倍になる計算。
……
十五倍?
え?
収穫作業、大丈夫か?
四村の収穫は悪魔族と夢魔族でやってくれていたけど、さすがに人手が足りなくなるよな。
収穫を手伝う体制も考えないと。
夜。
大樹の村に戻ると、ゴロウン商会とダルフォン商会から、酒の件の謝罪として大量の食材が届いていた。
海の幸に山の幸。
気にしなくていいのにと思いつつ、美味しそうな食材を嬉しく思う。
でもって、その返礼としてルーが、ゴロウン商会とダルフォン商会に、金貨の詰まった小さい樽をそれぞれに送っておいたそうだ。
金貨だと、返礼じゃなくて代金にならないか?
「これでいいのよ。
そのお金で、いいお酒が造られるように動いてくれるから」
そうなのか?
「そうなのよ」
マイケル「詫びの品を送ったら、大量の金貨を渡された」
リドリー「……ゆ、許さないってことかしら?」
マイケル「い、いや、この金で、美味い酒を造るようにってことだと判断する!」
リドリー「な、なるほど。さすがゴロウン商会の会頭! こっちは全面的に協力するわ!」
マイケル「うむ。頼むぞ!」
ゴウ「ルーさま、領地が広がるのは歓迎ですが、当初の予定では四基では?」
ルー「実験してたら、つい……」
ゴウ「ついの数ではないと思いますが……その、村長からなにか言われたりは?」
ルー「視覚を誤魔化す魔法を使っているから、まだバレてないわ」
ゴウ「ど、ど、ど、どーするんですか!」
ルー「叱られたりはしないわよ。まあ、耕す畑が増えすぎた気はするけど……」
ベル「素直に、水槽作りの研究で増えてしまったと言えばいいのでは?」
ルー「は、恥ずかしいじゃない」




