学園の小さな祭り 日暮れ
人物紹介
ミヨ 四村のマーキュリー種。幼女。
アサ 四村のマーキュリー種。中年執事。
アース ウルザの土人形。現在は青年執事。
プラーダ 古の悪魔族。別名、【美術品を収集する悪魔】【金貨の悪魔】。
ベトン 古の悪魔族。別名、【病魔】。
日が沈んだ。
学園の小さな祭りは日暮れまでと聞いていたのだが……
まだまだ続くようだ。
続く理由は、参加者が増え続けているから。
もともと、外部の入場者は予定していなかったので、宣伝をしていなかったらしい。
だからか、午後から参加した者たちの口コミで祭りをしていることを知った者たちが、いまの時間になってやってきている。
まあ、祭りがあると聞いていなければ、普通に仕事をしているからな。
仕事を終わらせてから、やってきたのだろう。
となると、飲食に人気が集中する。
酒の屋台やマルーラの屋台が人気だ。
くっ、商機を逃してしまった。
もう少し、食材を用意できれば。
いや、食材は持ってこれた分で限界。
どう頑張っても無理。
などと思っていたら、五村の麺屋ブリトアから食材の追加がやってきた。
なんでも祭りの様子を見にきたミヨの手配だそうだ。
さすがミヨ。
そして転移門、便利だ。
俺とスタッフは慌てて撤収準備を終えていた屋台を広げ、ラーメン屋台の営業を再開する。
しかし、当然ながら追加食材は麺屋ブリトアのもの。
なので、提供するのは俺のラーメンではなく、麺屋ブリトアのラーメン。
そうなると俺は戦力外。
麺屋ブリトアで働いているスタッフと味が違ってしまうからな。
残念。
ミヨからも、屋台はスタッフに任せて休んでくださいとメッセージが来ているから、諦めよう。
ちなみに、会場のテーブルの片づけや食器を洗うなどの裏方仕事は、ウェイトレスとして一緒にやってきた天使族たちが頑張っている。
手伝おうとしたら、どうか仕事を取らないでと懇願されてしまった。
屋台中心だから、ウェイトレスが役立つ場面が少ないんだよなぁ。
まあ、列整理は頑張っていると思うぞ。
さて、俺は祭りを引き続き楽しむ。
……
目の前には、落ち込んでいるアサとアースがいた。
これみよがしに落ち込んでいる。
となると、聞かなければいけないだろう。
どうしたんだ?
トラインから、執事の理想として見られないことに地味に傷ついていると。
あー。
ティゼルの部下のエリックを手本にしているふうだったな。
まー。
そのー、なんだ。
トラインが目指す執事は、正当派の執事だからな。
うん、家令とか家宰と呼ばれる主の私生活を補佐するタイプ。
エリックが目指している方向と一緒なんだ。
それに対して、アサとアースは主の公私を支える側近タイプの執事。
現在は情報収集に力を入れて仕事をしているから、主であるアルフレートたちの近くにはあまりいない。
トラインとしては、そういったところを見ているので手本にはしにくかったのだろう。
まあ、いまのエリックは側近タイプの仕事を振られているけど。
トラインはエリックと出会っていなければ、メットーラを手本にしたんじゃないかな。
……
慰めになっていないと。
もっと優しい言葉がほしいと。
頑張っていると思うぞ。
よくやっているじゃないか。
駄目?
うーん。
難しい。
仕方がない。
ウルザ、頼んだ。
「アース。
あなたの働きには満足しているわ。
なにを恥じることがあるの、胸を張りなさい」
おお、アースは背筋を伸ばし、感涙している。
よかった。
これでアースは大丈夫だな。
じゃあ、続いてアサにも。
え?
アースにだけ?
アサがすごく期待した目で見ているぞ?
アサを執事として褒めていいのは、四村の村長代行であるクズデン?
よその執事は褒められない?
形式的にはそうなるのか。
クズデン本人は主の自覚があるかどうか怪しいけど。
この学園で一緒に生活している立場からなら言える?
じゃあ、それで。
「アサ。
いつも助かってるわ。
ティゼルが迷惑をかけているけど、これからも頑張ってね」
アサの反応は……
満更でもなさそうだ。
よかった。
そして、村に帰ったらクズデンに連絡して、アサの働きに満足していると連絡しておこう。
そうすれば、クズデンからアサを労う手紙が行くかもしれない。
……
クズデンより、ベルのほうが上司っぽいか?
立場的に同僚だろうけど……一応、ベルにも連絡しておこう。
労う手紙なら、クズデンとベルの二人から届いても困ることはないだろう。
酒を出す屋台が大盛況。
宴会場の中心になっているな。
さすがに屋台で持ってきた量では足りず、ゴロウン商会やダルフォン商会から酒を仕入れていた。
高そうな感じの酒が大きな樽で運び込まれているけど、代金とか大丈夫なのかな。
魔王国が支払いを持つとはいえ、好き放題していいわけじゃないと思うのだが。
まあ、魔王国の財務大臣であるホウがいるから、問題ないのだろう。
……あれ?
ホウがいない?
帰った?
夕食は家で食べる?
へー。
食事より酒を優先すると思ったけど、結婚して変わったのかな。
あ、酒樽は担いでいったのね。
そうだよな。
そう簡単には変わらないか。
で、えっと、ホウがいないけど、酒の代金は大丈夫なのか?
仕入れた酒は、ゴロウン商会とダルフォン商会の差し入れ扱いで無料?
酒の代金より、祭りに協力することを商会が重視したのか?
ああ、そうか。
この祭りはティゼルの国作りのアピールの側面が強い。
それに協力すれば、ティゼルの国作りに絡める。
いや、違うな。
ゴロウン商会とダルフォン商会には、ティゼルから協力要請が出ているはずだ。
つまり、純粋な祭りの応援か。
今度、ゴロウン商会とダルフォン商会に、ティゼルの親として感謝の手紙を送っておこう。
古の悪魔族であるプラーダとベトンさんがいた。
二人はオークション関連で王都にいるから、祭りに来ていても不思議ではない。
仲良く食事をしているようだし、問題もないだろう。
邪魔しないように素通りしようと思ったのだけど、プラーダに見つかった。
「村長。
こういったお祭りにはちゃんと誘ってほしいです」
すまなかった。
しかし、オークションのほうで忙しいのだろう?
「お祭りは別です」
まあ、そうだな。
次からは、ちゃんと誘うよ。
アルフレートたちにも言っておこう。
「そうだ、村長」
ん?
「五村でのオークションで村長が買った本、覚えていますか?」
五村でのオークションで買った本というと……
ああ、<農業日記>か。
「そうです。
あれに書かれていた、種の場所なんですけど」
そう言えば、種の隠し場所は魔王国とフルハルトの交戦地域だったな。
「あれ、いまワイバーンたちが巣を作ってる廃墟のあるあたりですよ」
そうなのか?
「どうします?
探しに行きます?」
興味はある。
が、べつに安全になったわけじゃないからな。
魔王国の勝利宣言もティゼルの国作りも、人間の国々からすれば知ったことではない話。
向こうにやる気があれば、戦闘がいつ起きてもおかしくない。
なので、俺が行こうとすればルーたちが止めるだろう。
村で探索隊を編成して送るか、探索してくれる冒険者を雇うしかない。
となれば、慌てない。
探すのは、ティゼルの国作りがある程度進んでからでいいだろう。
ティゼルの国作りが進めば、交通の便がよくなっているだろうから。
ちなみに、いつ戦闘が起きてもおかしくない場所にティゼルが国作りで行くのは、とても心配だ。
王都からの指示でいいんじゃないかと思わなくもないが、現地を知らないといろいろと困るから行くのだろう。
護衛を同行させることを条件に、しぶしぶ許した。
あと、ティゼルが行くときはビーゼルも同行して、危なくなったときは転移魔法で退避させると約束もしてくれたしな。
かわいい子には旅をさせよとは言うが、できれば旅立たないでほしい。
旅立つ手配をしたのは俺なのだが、そう思うのは親としてのエゴだろうか。




