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学園の小さな祭り 午後


 学園の小さな祭り。


 午前の感じで午後も続くのかと思ったけど、違った。


 午後からは、外部の人も参加できる形らしい。


 人が凄い勢いで増えた。


 かなりの食数を用意していたクロトユキ、甘味堂コーリンがあっというまに完売になってしまった。


 頑張っているのはマルーラの屋台。


 こちらも完売の流れだったのだけど、午前の様子から食数が足りなくなると早めに応援を頼んでいた。


 シャシャートの街のマルーラから、追加のカレーと従業員が届いている。


 転移門があるとはいえ、見事な対応だ。


 マルコスとポーラに、スタッフたちを褒めるように言っておこう。



 アースの出している屋台も多くの人を集めている。


 こちらも繁盛していて……あれ?


 なんだろう?


 アースの屋台の近くのテーブルに集まっている貴族っぽいお客たち、泣いているんだが?


「うちのメイドたちにも、こういった普通の給仕をしてもらいたい」


「そう、これでいいんだよ。

 武装したメイドなんて、いらないんだ」


「聞いてくれ。

 私がコーヒーをくれと言ったら、コーヒーが出てきたんだ。

 こんなに嬉しいことはない」


「まったくだ。

 注文した通りって、感動だよな」


 ……


 苦労が多いみたいだ。


 関わりたくないので、心の中で頑張れと応援しておく。




 さて、人が増えた小さな祭りは、各所でいろいろな出し物が披露されている。


 演劇、演奏、演説。


 演説?


 選挙前の街頭演説みたいな感じか?


 いや、ただ主張しているだけだな。


 内容は……えっと……


 人間は団結しない。


 なにかしら理由をつけて分裂する。


 そして戦う。


 ゆえに魔王国に取り込まず、滅ぼす必要がある。


 そう、殲滅せんめつだ!


 連中をことごとく死者の列に並べてやるのだ!


 ……


 か、過激な内容だな。


 主張しているのは、人間だけど。


 聞いている魔族が、落ち着けとなだめている。


 人間の国でなにかあったのだろうか?


 あー、長年、一国の内務大臣を務めていたけど、嘘の収賄話でおとしめられて追放されたのね。


 親友だと思っていた人物が、実は裏切っていたと。


 具体的な名は言うんじゃないぞ。


 いろいろと問題になるから。


 あ、泣きだした。


 が、がんばれー!


 思わず、応援してしまった。




 祭りはティゼルによる国作りの結成式の色合いが強いようで、それ関連の演目も多い。


 国作りの目的の説明会。


 具体的に、どういった場所に作るのかの発表会。


 主要スタッフの紹介。


 ……


 それなりのスペースを取っているのに、国作り関連はあまり人気がないな。


 まあ、堅い話が多いからな。


 人気なのは、特設ステージを使っての死神(鬼)ごっこのアトラクション。


 飛び入り参加が可能で、大人も子供も楽しめているようだ。


 死神役の人が、なかなかの調整力でいい具合に手加減している。


 死神役とわかるように頭をおおうマスクをしているから顔は見えないけど……


 え?


 あれ、リアの母親(リグネ)なの?


 へー。



 ほかに人気なのは、さっき見た巨大なジオラマを舞台にユニットを置いて、魔法で動かす演習。


 こっちは専門家グラッツが参加しているのが大きい。


 魔王国の防衛というテーマらしく、敵にこう攻められたらこう守ると細かく説明している。


 だからか、貴族や軍人っぽい人が多く集まっているな。


 ……


 一部、人間の国出身者っぽい人もいるけど、いいのかな?


 どう攻められたら魔王国は困るのかと聞いているけど。


「大軍を優れた将が率いてくることだな」


 素直に答えるんだ。


 いいのだろうか?


 いや、やれるものならやってみろということかな。


 大軍を優れた将が率いる。


 当たり前の必勝の策だ。


 そして、大軍を集めるのは可能だろう。


 優れた将に率いらせることも可能だろう。


 だが、両方を同時にするのは難しい。


 なぜなら、大軍を率いる優れた将の忠誠心がどこを向いているかわからないからだ。


 優れた将に裏切る気がなくても、王は不安に思うだろう。


 それゆえ、そういった形にはならない。


 王が率いて、それを優れた将が支える形になる。


 それでは、駄目だ。


 優れた将が判断をしても、それを王が承認する時間がかかる。


 戦場では、それが致命傷となる。


 大軍であれば、なおのこと。


 理想としては王自身が優れた将であることだが……


 王族という限られた血脈から、優れた将が生まれる可能性は低い。


 ……


 俺の横にいた訳知り顔の男がそう言ってた。


 すまない、すべて受け売りだ。


 俺が軍事をどうこう語れるわけがない。




 祭りの様子を一通り見たあとに休んでいると、ティゼルが紹介したいと何人か連れてきた。


 ティゼルが紹介したいとか言ったので身構えてしまったが、紹介されたのはもちろん国作りのスタッフだ。


 よかった。


 顔見せが主目的なので、軽く一通りの挨拶で終了。


 紹介された中で気になったのは三人……いや、四人。


 まず、“顔役”と呼ばれる男。


 元反魔王勢力を率いていた頭目で、その勢力ごとティゼルの国作りに協力を表明したらしい。


 元とはいえ、反魔王勢力だぞ。


 危なくはないだろうか?


 すでに魔王に屈しているから問題ない?


 そ、そうか。


 それで、なぜ“顔役”なんだ?


 名前はないのか?


 俺はティゼルの部下に聞く。


「名は捨てたそうです。

 好きに呼べと言われたので“最高責任者”と呼んでいたのですが、なぜか泣きながら止めてくれと言われまして……“顔役”に落ち着きました」


 へ、へー。



 次に気になったのは、人間の国の元公爵令嬢。


 エカテリーゼさん。


 パレードで見た覚えがある。


 見事な演武をしていた女性だ。


 公爵令嬢だったんだ。


 彼女も部下を引きつれ、ティゼルの国作りに参加を表明した。


 彼女の部下の大半は、シャシャートの街でミヨが雇っていたらしく、ミヨからすごい勢いでティゼルのもとに苦情が届いているらしい。


 あとで俺からも謝っておこう。


 しかし、よく協力してくれたな。


「魔王国の有力者と結婚を考えていたようですが、なかなか相手が見つからなかったらしく。

 その、自分より強い人じゃないと嫌と」


 それが、なぜ協力に繋がるんだ?


「シール先生、ご存知ですよね?」


 ああ、息子だ。


「そのシール先生が、ティゼルさまの兄妹だという情報をエカテリーゼさまが掴んだようです」


 シールを狙って、ティゼルの国作りに協力してくれたのか?


「だと思います。

 あ、シール先生とティゼルさまが兄妹だという情報は、ティゼルさまが流したらしいです」


 まさか、シールを囮にして、協力者として引き込んだのか?


「向こうが勝手に期待しているだけです」


 え、えーっと……


「約束はしていませんし、騙してもいません。

 少なくともティゼルさまは」


 そ、そうか。


 あー、これ以上、シールに負担を強いないように。


 余計なお世話かもしれないが、適当なタイミングでそれなりのお相手を用意してあげることは可能だろうか?


 結婚を約束する必要はない。


 結ばれるかどうかは、最終的に本人同士の相性と努力だからな。


 ああ、ビーゼルやランダン、グラッツには協力を依頼しておくから。


 頼んだ。



 でもって三人目。


 さっき、演説で泣いていた人間。


 一国の内務大臣をやっていたらしいので、国の形態を任せるのに最適だとついさっきティゼルが捕まえたらしい。


 彼はそれなりに過激派だと思うのだが、いいのだろうか?


 公私は分けるタイプ?


 ま、まあ、それならいいのかもしれないが……



 最後。


 俺の質問にいろいろと答えてくれたティゼルの部下。


 エリック。


 アルフレートの推薦で、ティゼルの補佐をしている。


 将来はどこかの貴族の執事職を狙っていたらしく、まだ若いのにとても落ち着きがある。


 少し話をしただけだが、優秀なのは感じることができた。


 トラインが、彼を理想の執事だとしたっているらしく、いろいろと学ばせてもらっているそうだ。


 親としては、娘、息子がお世話になっていますと言うべきなのだろう。


 ……


 だが、親として気になることがある。


 ティゼルとの仲だ。


 近くはないか?


 とても気になる。


 しかし、エリック本人に確認するわけにはいかない。


 考え過ぎかもしれないが、彼にすれば俺は上司ティゼルの親。


 気を使う相手だ。


 その親からの恋愛関連の確認。


「気になっています」も「その気はありません」も答えられないだろう。


 ティゼルに聞くのもよろしくない。


 ティゼルはなんとも思っていなかったのに、俺が指摘することで意識し始める。


 物語でよくある恋愛導入部。


 そんな、やぶつついて蛇を出すような真似はできない。


 となると、アルフレートやウルザに聞くのが一番か?


 そう思っていたら、魔王がやってきた。


 魔王もなんだかんだと学園に来ているらしく、ある程度の事情は知っているだろう。


 なので魔王にこっそり聞いた。


「ははは。

 父親として、その気持ちは十分にわかる。

 だが、安心していい。

 ティゼル嬢とエリック青年は、そんな仲ではない」


 そうなのか?


「うむ。

 私もティゼル嬢との仲が気になり、エリック青年に軽く聞いてみたのだ。

 ティゼル嬢とは、いつぐらいに結婚するのだと」


 な、なんてことを聞くんだ!


 そ、それで、彼はどう答えたんだ?


「いくら魔王でも言っていいことと、悪いことがあるだろうと。

 胸倉を掴まれ、怒鳴られた。

 怖かった……」


 か、彼は結婚を大事にしていて、冗談で使うことに抵抗があるタイプなのかな?


「……た、たぶん、そうなんだろうな」


 そうか。


 俺は安心していいのだろうか?


「いいと思うぞ」


 父親として、複雑な心境だ。






魔王    「当方、魔王なのですが」

エリック  「つい激昂して言葉が荒くなってしまいました。すみません」


ベルバーク 「天使族はやめておけ(反対派)」

エリック  「金言、ありがたく」


シール   「悪いではないのだが……逃げたいときは相談に乗るぞ(中立派)」

エリック  「先生……」


アルフレート「強力な運命の力を感じる(中立派)」

エリック  「変な予言はやめて!」


トライン  「お義兄さまとお呼びしても?(賛成派)」

エリック  「やめて!」




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― 新着の感想 ―
↓只の承認欲求の塊の戯言じゃけん気にすんな
感想長過ぎ   ↓
(怖い影が無くても)裏切らない人。 努力を惜しまず期待に応えてくれる人。 自分の力量を見失わず昇華出来る人。 駄目な事は駄目と言えて、無理なら出来る人や道を探せる人。これは差配の機微を理解する事であ…
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