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縁の下の力持ち


 私の名はエリック。


 エリック=オーター=ツェゲリア。


 ツェゲリア男爵家の三子。


 ガルガルド貴族学園で学ぶ、魔族の男だ。



 私はアルフレートさまが率いる学園で一番大きい派閥に所属し、アルフレートさまやウルザさまの補佐をする立場で活動していた。


 自分で言うのもなんだが、働きぶりはそこそこだったと思う。


 けっして、優秀と評される働きぶりではなかった。


 なのに、私はアルフレートさまからティゼルさまの国作りを手伝うように頼まれてしまった。


 ……


 なぜ私なのだろうか?


「ウルザやティゼルに、非常識だと叱ったのは君だけだった」


 ……ほかに叱る人はいなかったのかな?


「見て見ぬふりをするか、一緒になって遊んでいたから」


 あー、たしかにそんな感じだったなー。


 だからって、選ばれたことを喜べない。


「不満か?」


 正直に言えば。


「では、その不満を解消するために報酬を出そう。

 国作りに協力することへの報酬とは別だ。

 そうだな、ティゼルの世話代みたいなものだと思ってほしい」


 金で動くと思われるのは……


「具体的には一年でこれぐらいを考えている」


 え?


 千枚?


 え?


 中銅貨で千枚もいただけるので?


「いや、中銅貨ではない」


 ま、まさか、大銅貨で千枚?


銀貨(その百倍)だ」


 ……


 期待にこたえられるよう、全力ではげみます。


 こうして私はティゼルさまの国作りを手伝うことになった。


 うん、金に目がくらんだ自分が悪いんだ。


 銀貨千枚なんて、実家の帳簿でも見たことないし。





 ティゼルさまの国作り。


 魔王国と人間の国のあいだに緩衝かんしょう国を作り、その国は人間の国との交渉を一手に引き受けることを目的としている。


 人間の国々は魔王国と表だって交渉できないから、そういった交渉できる相手として用意するわけだ。


 ちなみにだが、ティゼルさまが女王としてトップに立つわけではないので、国を“おこす”ではない。


 だから国作り。


 あくまで国の枠組みと、王都となる街作りがメインだ。


 その国作りは、スタッフ集めと下調べの段階。


 スタッフ集めは、魔王国の各所から優秀な人員を派遣してもらう交渉が進んでいる。


 四天王の方々からは幹部候補となる優秀な人材を派遣していただいたので、その人たちを中心に国作りが行われる考えだったのだが……


 やってきた幹部候補の十人は、なぜか私の部下になっていた。


 私より立場が上のはずなのに。


 私より年長なのに。


 抵抗しても無駄だった。


 なにせ、爵位を持つ人もいたから。


 逆らえない。


 仕方なく、私がティゼルさまからの指示を彼らに伝える役をやっている。


 指示さえ出せば、そつなくこなしてくれるので助かる。


 優秀なのは間違いないようだ。


 なのに、なぜ私の部下になろうとする。


 まさかとは思うけど、ティゼルさまから直接指示されるのが嫌とか?


 ……


 あ、ありえないか。


 うん、ありえないよな。


 じゃあ、なぜだ?


 今度、しっかりと話し合ってみよう。


 ん?


 なぜ今すぐに話し合わないのかって?


 決まっている。


 彼らが不在だからだ。


 彼らはいま、パレード開催実行委員会なる集団をティゼルさまの国作りに参加させるべく動いている。


 パレード開催実行委員会。


 少し前に行われた大規模な魔王国のパレードを、短期間で準備、実行した優秀な内政官たちで結成された集団だ。


 実際に行った仕事の内容を聞くと、“不可能”を“可能”にする集団のようにも思える。


 さすがは関係各所から集められた内政の精鋭部隊。


 国作りに参加してくれるなら、とても心強いだろう。


 だが残念なことに、パレード開催実行委員会はパレードが終了したので解散している。


 そして、元の所属部署に戻った。


 当然だな。


 しかし、私の部下になった幹部候補のスタッフたちは、絶対に必要だと所属していたメンバーと交渉している。


 だから不在だ。


 夜も戻ってこない。


 それぐらい交渉している。


 ……


 すまない。


 正直に言おう。


 まだ交渉は始まっていない。


 なぜかパレード開催実行委員会に所属していたメンバーは、こちらが求めているとの情報を掴んだ瞬間から全力で姿をくらましたから。


 そして、こちらの幹部候補のスタッフは逃がすものかと全力で追いかけている。


 捕まえたら、交渉が開始されるはずだ。


 まだ、捕まえたとの報告はないけど。


 ま、まあ、追いかけているスタッフの数人が、かなりの額の私財を投入して追跡部隊を結成していたから、時間の問題だと思う。


 いい報告を待ちたい。



 さて、スタッフ集めは幹部候補の十人にまかせっきりではない。


 ほかでも動いている。


 まず、私はガルガルド貴族学園の生徒たちに協力を求めた。


 アルフレートさまの派閥に所属している生徒を中心に、三十人ほどが参加を表明してくれた。


 ありがたい。


 そして、ティゼルさまも動いている。


 ティゼルさまは二つのグループを連れてきた。


 一つは、人間の国の元公爵令嬢のグループ。


 一つは、反魔王勢力のグループ。


 どちらも、パレードのときに見つけたらしい。


 ……


 人間の国の元公爵令嬢のグループは、まあいい。


 これから作る国の目的を考えれば、人間の協力があるのは助かるだろう。


 ただ、反魔王勢力のグループは、どうなんだろう?


 国作りに参加させて大丈夫なのだろうか?


 もう反魔王の意思はない?


 再就職先としてティゼルさまの誘いに乗った?


 よろしくお願いしますと頭を下げられた。


 ちなみに、この二つのグループも、なぜか私の部下の位置に配された。


 なんだろう。


 私はティゼルさまの補佐を依頼されたと思ったのに、現場指揮官みたいなことを求められているのだろうか?


 私はまだ学生なんだけど?




 スタッフ集めと並行して行われている下調べ。


 主に調べているのは、国として主張する領土の地理情報。


 どういった土地なのかを知らなければ、どこに王都を作ればいいのかすらわからないからな。


 これらは、ティゼルさまが従えているワイバーンたちを使って調べている。


 厳密にはティゼルさまではなく、ティゼルさまの父が従えているワイバーンたちだが、ティゼルさまが依頼して動いてくれたのでティゼルさまが従えているで問題ないだろう。


 ワイバーンたちからもたらされる情報は、私がまとめている。


 そう、私だ。


 正直、巨大なワイバーンは怖い。


 魔族にとっては、乱暴な鉄の森のワイバーンのイメージが強いからな。


 だが、仕事だ。


 怖いなどとは言ってられない。


 幸いにして、下調べをしてくれたワイバーンたちは紳士的だった。


 逆に鉄の森のワイバーンのことを謝罪されたりもした。


 鉄の森のワイバーンは、ワイバーンたちの中でも扱いに困っていたらしい。


 どこにでも問題児というのはいるものだ。




 そんなこんなで仕事をしていると、ティゼルさまから新しいスタッフ候補の紹介を受けた。


 ベルバークという老人らしい。


 ……


 え?


 ベルバークさま?


 魔王より魔王と言われたあの?


 現役時代は、常に魔王国の最前線を任されていた?


 魔王国で最大の人脈を持つと言われている?


 嘘でしょ?


 でも、本物だ。


 間違えようのない魔力量。


 えーっと、とりあえず縄はほどきましょう。


 いろいろとまずいですから。


 逃げるから駄目?


 スタッフなのでは?


 ああ、説得がまだなのですね。


 それじゃあ、仕方ありません。


 ただ、アルフレートさまやウルザさまに見つかると、叱られます。


 トラインさまの家に連れて行ってください。


 そのつもりだった?


 気が合いますね。


 では、ティゼルさま。


「なにかしら?」


 絶対に逃がさないように。


「もちろんよ」


 なにごとにも、仲間は多いほうがいい。


 頼れる仲間ならとくに。




 ベルバークさまをスタッフに引き入れる条件で、ティゼルさまが各地から美味しい物を集めるとの話が耳に入った。


 まずいと思った。


 国作りのスタッフには安くはない報酬が約束されている。


 しかし、参加してもらうために払う報酬、契約金はなかった。


 ベルバークさまによって、それが崩れた。


 すでに参加を決めた者が騒ぐかもしれない。


 この情報は隠蔽いんぺいすべきだと思うが、こういった情報は抑えられない。


 絶対に広まる。


 となると……


「私たちも美味しい物が食べたい!」


 私のところに嘆願が届く。


 それも山のように。


 この問題は放置できない。


 してはいけない。


 国作りを成功させるためには、解決しなければいけない問題だ。


 そう私は定めた。


 いや、取りつくろうのは止めよう。


 私だって、美味しい物が食べたい!


 しかし、どうすれば?


 とりあえず、嘆願があることをティゼルさまに伝えた。



 少しして、トラインさまがやってきた。


 祭りをするそうだ。


 な、なるほど!


 ベルバークさまだけを特別扱いするから問題なのであって、全員をもてなすのであれば問題はない。


 素晴らしいアイデアだ!


 ウルザさまの案?


 さすがです!


 そして、そうと決まれば行動あるのみ!


 トラインさま、祭りの企画書を……


 なかなかよくできています。


 ただ、時間の見積りが甘いですね。


 いえ、トラインさまの年齢でここまでまとめられるのであれば、十分です。


 反省はあとで。


 時間がありません。


 急いで修正します。


 一部、どうあっても時間がかかる部分もありますが……


 ティゼルさまなら、ダルフォン商会もゴロウン商会も動かせますね。


 それでもゴネるところはゴネるでしょうが、遠慮なく銀貨で殴りましょう。


 ええ、貴族らしく優雅に。






トライン「優雅に銀貨で殴る……靴下に銀貨を入れて、こうっ! 的な?」

エリック「……比喩です。直接、殴るわけではありませんよ」



お待たせしました。


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― 新着の感想 ―
トラインは凶暴。トラがインしている。
この話の先を読んでいないけど、例の緩衝国王都の名が「六の村」になりそうな気がしてならない
ブラックジャックを理解している読者が居て感激。
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