相談に乗るトライン
トライン視点のお話です。
●言葉説明
ご相伴にあずかる (意)一緒にもてなされる。一緒に参加する。
私の名はトライン。
大樹の村で生まれた鬼人族の男です。
魔王国の王都にある学園で、メットーラさんのお手伝いをし始めてしばらく経ちました。
アルフレート兄さま、ウルザ姉さま、ティゼル姉さまの行動も、ある程度は把握できるようになったと思います。
そこで意外だったのは、ティゼル姉さまです。
なんでもかんでも即断即決かと思っていたのですが、大樹の村が関わるときは、しっかりとほかの人に相談するのです。
相談相手はアルフレート兄さま、ウルザ姉さま、メットーラさん、アサさん、アースさん。
一緒に住んでいる人たちですね。
最近はそれに私、マア、キアービットさんも加わっています。
ティゼル姉さまの気遣いの側面もあるのでしょうが、相談されたからにはしっかりと応じます。
タイミングがあえば、ゴール兄さん、シール兄さん、ブロン兄さん、それに魔王のおじさんや学園長、ビーゼルのおじさん、グラッツのおじさんとも相談しています。
ティゼル姉さまは、私が思うよりも大樹の村には慎重なようです。
そして今回も、ティゼル姉さまから相談を持ち込まれました。
この場にいるのは私、アルフレート兄さま、ウルザ姉さま、キアービットさん。
メットーラさんとマアもいますが、彼女たちは夕食の用意をしています。
私も夕食の手伝いをと思ったのですが、メットーラさんに言われてティゼル姉さまの相談の場にいます。
大丈夫だと思いますが、夕食の手伝いとして戦力外通告されたわけではないと信じたいです。
さて。
ティゼル姉さまの相談の内容は、国作りに引き込みたいベルバーク殿から試練を出されたとのこと。
その試練に、私たちのお父さまが経営している店が絡むので対策を相談したいそうです。
……
お父さまに事情を素直に伝えれば済む話ではないでしょうか?
お父さまは断らないでしょう。
私はそう思ったのですが、試練の一つにお父さまが営業している屋台の品があることが問題でした。
お父さまが許可を出して済む内容であるなら、ティゼル姉さまも悩まずに事情を伝えたでしょう。
ですが、お父さまが営業している屋台が必要となると、お父さまに来てほしいと願うことになります。
そこに、ティゼル姉さまはすごく抵抗があるようです。
私の予想以上に、ティゼル姉さまはお父さまに甘えるのが苦手なようです。
なんとかお父さまを呼ばずに済む方策はないかと悩むティゼル姉さまを見かねたアルフレート兄さまが、とりあえず軽い感じでお願いする手紙を出すことになりました。
「そうだ。
思い出したけど、ベルバークって母さんがマークしてた人だろ?」
アルフレート兄さまが、ティゼル姉さまに聞きます。
「そうよ。
ルー母さまからは問題なしって手紙が届いているけど……誘うのはやめたほうがいい?」
「いや、そうじゃなくてな。
母さんからの情報だと、お酒が好きってあっただろ?」
「五村の酒肉ニーズでよく飲んでたってあったわね」
「そうそれ。
食べるより飲むのを優先してたって。
なのに、今回の試練にお酒は入れなかったからさ。
なにかあるのかなって」
「そう言えばそうね」
アルフレート兄さまの疑問にティゼル姉さまが考えたところで、キアービットさんが答えます。
「子供にお酒を持って来いとはさすがに言えなかったんじゃないかな」
あー。
なるほど。
「それじゃあ、ドノバンさんにお願いしてお酒を手配してもらいましょう」
「試練にないのに用意するのか?」
「言われたことだけやっても、相手は折れにくいでしょ?
言われた以上をやらないと」
「……それもそうか」
ティゼル姉さまはアルフレート兄さまが納得したのを見て、ドノバンさんに手紙を書き始めました。
ついでに、クロトユキや甘味堂コーリンがある五村のヨウコさんと、マルーラがあるシャシャートの街のミヨさんにも。
お父さま以外なら、甘えるのは得意なようです。
アルフレート兄さまはそんなティゼル姉さまの横で、ウルザ姉さまとキアービットさんに相談しながらお父さまに向けての手紙を書き始めました。
夕食になりました。
主菜は魚料理です。
正確に言えば、焼き魚です。
……
私は自分の前にある焼き魚の載った皿を、そっとマアに寄せます。
おっと、勘違いしないでください。
私は焼き魚が苦手なわけではありません。
どちらかと言えば、好きな部類です。
ただ、焼き魚の小さな骨を取るのがどうも苦手で。
ええ、駄目なのです。
イライラしてしまうのです。
小さな骨など気にせず食べてしまってもいいのですが、一度、それで喉に骨が刺さってしまったことがあって……
フローラさんの魔法で事なきを得ましたが、それ以降はできるだけ小さい骨でも食べないようにしているのです。
そして、幸いなことにマアは焼き魚の骨を取るのが得意なのです。
だからマアに頼るのです。
お父さまも言ってました。
苦手を無理してやるより、得意な者に任せたほうがいいと。
だから、これは恥ずかしい行為ではないのです。
ウルザ姉さまからまだまだ子供だと言われますが、気にしません。
苦手を克服するための努力は必要ですが、それは一人での食事のときに頑張らせてもらいます。
大勢での食事のときは、周りを不愉快にさせないことのほうが大事ですので。
家族だから気にするな?
そうですよね。
なので、マアに頼むことも気にしないでください。
ん?
キアービットさん、なんですか?
その微笑ましい視線は?
なにか言いたいことがあるなら、はっきりどうぞ。
翌日の早朝。
ゴロウン商会にお父さまたちへの手紙の配達をお願いしました。
転移門があるので自分たちで持っていけますし、なんだったら手紙でなく直接会えるのですが……
母さまたちから、緊急でない場合はできるだけ他者を介入させた連絡手段を使いなさいと言われています。
要は手紙連絡の練習ですね。
転移門がどこにでもあるわけではないのですから。
なので、しっかりと出します。
ゴロウン商会にお願いしたあとは、ダルフォン商会にお父さまたちへの手紙の配達をお願いします。
ええ、同じ手紙です。
事故対策で、同じ手紙を複数のルートで送るのが正しいのです。
内容が内容なので、どちらも宛先は五村のヨウコさんのお屋敷ですけど。
大手であるゴロウン商会とダルフォン商会に任せれば、ほぼ確実だとは思いますが、用心のためにもう一つのルートでも手紙を送ります。
小型ワイバーン便です。
魔王のおじさんの娘であるユーリさんが王城で生活していたときに用意されたもので、ユーリさんが王城を出てからも魔王のおじさんが活用しています。
それに便乗させてもらいました。
転移門を使うであろうゴロウン商会やダルフォン商会に比べると、小型ワイバーン便がもっとも遅く届くことになるとは思うのですが、時間差が出るのもトラブル対策として悪いことではないと思います。
え?
小型ワイバーンも転移門を使っている?
一度、教えたら使いこなした?
転移門って、利用者が列を作ってるよね?
列に並んでいるの?
並んでいるんだ。
へ、へー。
ま、まあ、手紙が届くなら問題ありません。
小型ワイバーンで思い出しましたが、パレードに参加してくれた大きなワイバーンたちのことです。
パレードが終わったあと、大きなワイバーンたちの半数ぐらいは自分たちの縄張りに戻ったのですが、半数は残っています。
ティゼル姉さまの国作りに協力するためです。
なんでも、パレードの最中にあった鯨の白骨騒動で役に立てなかったことを気にしての申し出だそうです。
あれはドースのおじさんたちが暴れたから、手を出す隙がなかったと考えればいいと思うのですが……
協力してくれるならとティゼル姉さまは、国を作る予定の場所の偵察と確保を頼みました。
なので残った大きなワイバーンたちは、魔王国と人間の国々のあいだに巣を作っています。
巣を作るほど長期間の滞在にはならないと思うのですが、なんでもそろそろ繁殖の時期だそうで。
……
縄張りに帰ったほうがよかったのではないかと思うのですが、言いませんでした。
ちなみに、魔王国と人間の国々のあいだに大きなワイバーンたちを派遣することは、人間の国々への敵対行為や挑発行為になるのではとの意見がありましたが、魔王のおじさんが気にしなくていいと言ってくれたので気にしていません。
後々、その場所に街を作るわけですから、たしかに気にする必要はありませんね。
手紙を送った日の昼。
ティゼル姉さまの国作りを手伝うスタッフから、こういった質問がありました。
「国作りの協力を得るため、美味しい料理を用意すると聞きました。
私たちも、ご相伴にあずかれるのでしょうか?」
どこからその情報を?
魔王のおじさんでしょうか?
なんにせよ、私に聞かれても困ります。
ティゼル姉さまに聞いてください。
まあ、そこらの店を使っての宴会であるならティゼル姉さまは断らないと思いますが、お父さまが絡みますからね。
しかも、現段階で協力してくれるスタッフは……百人以上。
お父さまに迷惑をかけないため、ティゼル姉さまは断るでしょう。
そう思ったのですが、断りませんでした。
そうですね。
スタッフはすでに身内。
ティゼル姉さま、身内には甘いですから。
困ったとアルフレート兄さまに泣きつくティゼル姉さまという珍しい姿をみられたので、よしとしましょう。
あれ?
アルフレート兄さま?
どうしました?
様子が変ですが?
え?
学園長から屋台を設置する場所の提供があった?
さらに、教師一同や食堂の職員一同から、全面協力の申し出?
ユーリさんから、私たちも誘うようにとの催促のお言葉?
大げさではありませんか?
いや、大げさになりますよ。
しかもその流れだと、なんだかんだと理由をつけて生徒も来ますよね?
お父さまにお願いしようとした数では、どうあっても足りないのではないですか?
ええ、なにもかも足りませんよ?
どうするのです?
案を出せ?
え?
私が?
こ、こういった場合は、経験の少ない私ではなく逆境に強いウルザ姉さまでしょう。
ウルザ姉さま、なにか案はありますか?
「難しく考えないことよ。
お父さまにできるだけの数をお願いして、ベルバークって人の試練の品を確保したら、あとは早い者勝ちでいいんじゃない」
ですが、それだと料理にありつけない人から不満が……
「不足分の料理はゴロウン商会とかダルフォン商会に頼めばいいわ。
なんだったらグラッツのおじさんに頼んで、軍で作ってもらうとかもいいと思うの。
小さいお祭りみたいな感じにしちゃいましょう」
な、なるほど。
「ついでに、ティゼルの仕事の結成式とか方針説明会もやっちゃえばいいんじゃない。
お祭りの見世物というかメインにちょうどいいと思うのよね」
おお。
それなら、お祭りの名目もできる。
お祭りの資金も、ティゼル姉さまの国作りの予算から確保できる。
さすがですウルザ姉さま。
私もウルザ姉さまのように案を出せるようになりたいです。
「ふふふ。
尊敬の眼差しで見てくれているトラインに、仕事を一つ」
なんでしょう。
「お祭りの企画書、用意してほしいの」
え?
「あと、学園長にお祭りの許可をもらって、参加者たちに説明して、スケジュール調整」
待って。
待ってくださいウルザ姉さま。
仕事が一つじゃなくなってます。
「キアービットさんに手伝ってもらっていいから。
よろしくね」
あ、ウルザ姉さま、どこに?
「森!
なんか大物がいるって狩りに誘われてたの!
たぶん、お祭りに出す料理の材料になると思うから!」
ウルザ姉さまが大きな武器を持って、行ってしまいました。
残ったのはアルフレート兄さまとティゼル姉さまと私。
あ、お父さまからの返事を持ってキアービットさんが来ました。
とりあえず、私はアルフレート兄さま、ティゼル姉さまと協力して、キアービットさんを静かに確保しました。
いや、言えば手伝ってくれると思うのですけどね。
万が一を考えて。
お待たせしました。
よろしくお願いします。
私信。
布団の厚さ、出かけるときの上着をどうするかで悩む季節になりました。
気温が安定しないのでいろいろと困ります。(大阪在住)




