出張屋台
●人物紹介
グラッツ 魔王国四天王の一人。ミノタウロス族。
親として、嬉しいのはどういうときだろう?
親ごとにその答えはあるだろうけど、俺としては息子や娘に頼られたときだ。
昨日、魔王国の王都にいるアルフレートから手紙をもらった。
俺が五村でやっている屋台のラーメンを振舞ってもてなしたい相手がいるので、王都の学園に来てもらえないかと。
珍しい。
アルフレートから、俺にどうこうしてほしいという要求が来るとは。
しかし、自分で言うのもなんだが、手紙一枚でほいほいと村から出ていけるほど俺は気軽な立場ではない。
春の収穫が近いし、四村の拡張計画もある。
転移門があるのですぐに行けると言われても、屋台を持っていかないといけないだろうからそれなりに大変だ。
村長としては、行けない。
……
まあ、親として行くけどね。
めったに頼らない息子に頼られたら、行くしかないだろう。
マイケルさんから、オークションの商隊を激励してほしいと言われてたしな。
しかし、行くにしても村のみんなに報告をしてからだ。
勝手に行くほど無責任ではない。
夕食のときに報告したら、アルフレートから手紙をもらったのが俺だけではないことが判明した。
手紙を受け取っていたのは、ドノバン、ヨウコ、ミヨの三人。
ドノバンは酒を。
ヨウコは、クロトユキと甘味堂コーリンの甘味を。
ミヨは、マルーラのカレーを求められたらしい。
なんだろう?
学園祭でもやるのかな?
食事を外部委託みたいな感じで?
いや、それはないか。
場所は学園だしな。
前の世界の常識が通用しないのはわかっているが、さすがに学園で酒を出したりはしないだろう。
しないよな?
とりあえず、俺が行くことは了承された。
同行者は選定中だが、ドノバンは決まり。
ヨウコとミヨは、それぞれ店から従業員を派遣してもらう形になる。
ここで問題になったのは、何人分用意するか。
手紙の感じから数人分で大丈夫だと思うけど、確認しておいたほうがいいだろう。
日程も詰めないといけないしな。
行くと返事した手紙で聞いておいた。
戻ってきた手紙には、「ごめんなさい。可能な限りたくさん。できるだけ早く」と書かれていた。
五日後の早朝。
俺はアルフレートたちが通うガルガルド貴族学園に到着した。
もう少し早く移動したかったが、ラーメンには仕込みが必要だ。
それに、大勢に提供するなら、それ以外の準備もある。
例えばラーメンを作る者。
俺一人で提供できる人数など限られている。
なので、手伝ってくれる者が必要だ。
鬼人族メイドたちが同行できれば問題はないのだが、鬼人族メイドたちのリーダーであるアンとナンバーツーのラムリアスが妊娠中で働けない現状。
それでも、いつも通りの生活を守ってくれている鬼人族メイドたちを連れて行くのは躊躇われる。
無理はさせられない。
だから、五村でやっているラーメン屋の麺屋ブリトアから、従業員を借りることにした。
借りる話はすぐに終わったのだが、借りる従業員たちに俺のやり方を教えなければいけない。
麺屋ブリトアのラーメンを出すわけではないからな。
こんな感じで準備が必要だった。
さて、今回の俺の同行者は、ドノバンを代表としたドワーフ数人。
五村で合流した、クロトユキと甘味堂コーリンの従業員数人。
俺の屋台を手伝ってくれる麺屋ブリトアの従業員数人。
シャシャートの街で合流した、マルーラの従業員数人。
あと、全体のウェイトレスとして頑張ってくれるマルビット、ルィンシァなど天使族が三十人ぐらい。
マルビットたちは俺が頼んだのではなく、本人たちからの志願。
魔王国との融和政策の一環と言っていた。
この前のパレードで、このままではまずいかなと思っているらしい。
ガーレット王国の件もあるしな。
それと、俺たちの護衛としてガルフとダガ、ハイエルフが十人ぐらい。
マルビットたちがいるから大丈夫だと思うのだけど、ルーが護衛は護衛で必要だと同行させた。
心配してもらえるのは素直に嬉しいので受け入れた。
ただ、マルビットたちを信用していない……わけではないよな?
だよな。
ははは。
とりあえず、返事をするときは俺の目を見てするように。
予定外の同行者として、五村で合流したユーリとラーメン女王。
二人とも、アルフレートから誘われていたらしい。
魔王の娘であるユーリはわかるが、ラーメン女王はどういう意図で誘ったのだろう?
まあ、俺が気にすることではないので一緒に来た。
学園に到着した俺は、アルフレートとティゼルに出迎えられ、屋台を設置する場所に案内してもらった。
場所は……学園の敷地内だけど、校舎などの建物からは離れた場所。
学園に通う生徒が家を建てるエリアで、空いている場所だそうだ。
かなり広い。
そして、そこにはいくつかの天幕が張られていたり、なにやら展示物があったりする。
改めて、学園祭みたいな感じだが……
そこにいるのは、どうみても大人たちばかり。
グラッツが指揮している場所もあり、そこには明らかに軍関係者らしき人もいる。
なにをしているのだろうか?
「お父さま、このあたりでお願いします」
アルフレートの横にいたティゼルが、屋台を設置する場所を示してくれた。
今回、俺たちが持ってきたのは、ラーメンを提供する屋台が三台。
酒を提供する屋台が二台。
クロトユキのお茶とケーキを提供する屋台が一台。
甘味堂コーリンの饅頭と煎餅を提供する屋台が一台。
マルーラのカレーを提供する屋台が二台。
あと、後方支援としてキャンピング馬車を持ってきた。
従業員たちが使うトイレとか、自前で用意したほうがいいからな。
それらをお客や従業員の動線を考えて配置し、それぞれの準備を開始する。
振舞う相手のことをお客と表現したが、今回の代金は全て魔王国が支払うことで話がついている。
話をつけたのはアルフレートだけど。
とにかく、お金のやりとりはなしだ。
そして、その振舞う相手だが……
準備する俺たちの周囲に、少しずつ集まってきている。
やっぱり大人が多いな。
この集まった人たちに振舞えばいいんだよな?
俺の質問に、アルフレートではなくティゼルが答えた。
「はい。
よろしくお願いします」
わかった。
ところでなのだが……
「なんですか?」
あれはなんだ?
少し離れた場所で、膝をつき頭を抱える年配の方を、天使族が取り囲んで踊っている。
マイムマイムっぽいけど……
いや、動きはかごめかごめかな?
「えーっと、もてなしの舞です」
そうなのか?
「ええ、あの真ん中にいる方が、今回のもてなしたい者たちの代表……代表でいいのかな? まあ、代表のような方で、お婆さまたちと知り合いだったようです」
それであんな感じになっているのか。
なるほど。
しかし、ほんとうにもてなしているのか?
真ん中にいる年配の方から、すごい絶望を溢れさせているのを感じるのだが?
「泣いていないから、まだ大丈夫です。
お婆さまたちも、さすがに泣く前には止めるでしょうから」
……
なぜ、もてなしで相手を泣かせることがあるのだろうか?
ま、まあ、なぜか俺の屋台の待機列の先頭にいる魔王やビーゼルがなにも言わないから、大丈夫か。
あ、魔王の奥さんもいるな。
挨拶しておかないと。
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