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ベルバークの旅 後編


 初めて村から出た若者。


 五村なる大きな街に到着したときの我の心境だ。


 いやー、なかなか壮観な街並みだ。


 活気もある。


 ラーメンなる食べ物が美味い!


 種類があるのもいい。


 地下商店通りではさまざまなファッションを楽しめる!


 酒も美味い!


 楽しい!


 が!


 村長代行のヨウコなる妖狐。


 彼女には近づいちゃ駄目だと思います。



 シャシャートの街の活気もよかった。


 カレーなる食べ物が美味い。


 カツドンなる食べ物もいい。


 妙に美味いパンを販売する店もあった。


 ……


 で、なんで古代王国の王族守護者マーキュリーがいるんだ?


 イフルス代官って、古代王国の王族だったりするのか?


 いや、たしかイフルス代官も我の血縁のはず。


 遠いけど。


 兄……いや、姉の息子の娘の息子の息子……娘の息子だったか?


 なんにせよ、王族守護者ってそこらの将軍より強い。


 見た目が幼女だからと油断してはいかん。


 近づいちゃ駄目だな。


 うん。



 そして王都。


 ……


 魔王に会ったら、料理関係にもう少し力を入れるように言いたい。


 五村、シャシャートの街で過ごした我が満足できたのは、メイドが給仕をしている店ぐらいだったぞ。


 いや、王城の料理ならば満足できるのかもしれんが……


 パレードの準備で忙しそうなので、まだ王城には行かない。


 忙しいときに行っても、迷惑をかけるだけだからな。


 王城に行くのはパレードが終わってからだ。


 パレードには参加するがな。



 パレードは五村から始まるとのことなので、五村に移動。


 転移門は便利だな。


 すぐに移動できる。


 昔、稼動している転移門を何度か使ったことがあるので機能に驚いたりはしないが、感心はする。


 そして、滅んだ技術とされる転移門を活用している今の魔王。


 あなどれんな。


 我が住んでいる場所まで延ばしてほしいものだ。


 旅が楽になる。


 あと、五村とかシャシャートの街にすぐ行けるようになるし。




 数日間のパレードを終え、我は魔王に会いに行く。


 ああ、我を見張っていた者たちはもういない。


 五村やシャシャートの街の魅力に誘惑されて少しずつ減っていたのだが、パレードの最後にあった王都での演習で残っていた者は全て倒された。


 なにせ、チャンスだとばかりに魔王に向かっていったからなぁ。


 正面から行ったのは褒めたいが、残念ながらそれができないぐらい実力差があった。


 なぜ、あの魔王を見て勝てると思ったのだろうか?


 いや、そうではないな。


 正面から行くのであれば、正式に戦いを申し込めばいいのだ。


 魔王は挑まれた戦いから逃げたりはせんはずだからな。


 なんにせよ、彼らには治療に専念してもらい、我が帰るころには元気になってほしいものだ。


 旅費を出してもらっているからな。


 見張りとはいえ、見捨てて帰るのはさすがに気が引ける。



 魔王とはすぐに会えた。


 暇をしていたようには思えないが、無理をさせてしまったかな?


「ベルバークさま。

 お久しぶりです」


 うむ、久しいな。


 前に会ったのは、魔王になったときだったかな。


「いえ、ユーリが生まれたときにも」


 ユーリ?


 ああ、お前の娘か。


 そう言えば、そうだったな。


 すまん。


 最近、忘れっぽくて困る。


「いえいえ。

 それで、パレードはどうでした?

 参加されていたのでしょう?」


 どうでしたと言われてもな。


 まあ、なんだ。


 お前が頑張っているのは伝わってきた。


「私が?」


 そうだ。


 あんな連中を相手によくやっている。


「えーっと……」


 誤魔化すな。


 お前が従えたかのような演出をしていたが、そうではなかろう。


「……演出とは……酷い言い方ですな」


 ふん。


 誇り高い神代竜族の連中が、魔王に従うわけなかろう。


 若い個体であれば、お前なら勝てるかもしれんが、それだけだ。


 若い個体を倒せるからと、神代竜族が従うわけがない。


 逆に危険な人物として狙われるだけだ。


 どういった手を使ったか知らんが、神代竜族が列をなしてパレードに参加していることに驚いた。


 自分の目を何度疑ったことか。


 それに、向こうは覚えていないだろうが、見知った顔が何人かいた。


 神人族やいにしえの悪魔族だ。


 策謀を巡らせる神人族はともかく、自由気ままな古の悪魔族がお前に従うとは思えん。


 あと、あのインフェルノウルフの群れだ。


 あのインフェルノウルフの群れは、お前のことをまったく気にしておらんかった。


 気にしていたのは後方の馬車。


 人型に変形した馬車に乗っていた者を気にしておった。


 あの者がインフェルノウルフを従えているのだろう。


 ああ、そうか。


 神代竜族や神人族も古の悪魔族も、あの者が従えたのか。


 なるほど、だからパレードではあのような配置になっていたのだな。


「……さすがですね」


 そういったところに目が行かんと、長生きできんかっただけだ。


 お前や魔王国になにがあったかは知らんが、あの者を抑え……いや、すでに魔王国は屈しているのか?


 魔王国もあの者に従っている。


 あのパレードは、それを内外に示すためか。


 大々的にやらんのは、あの者の意思か?


 わかる者にだけわかれば、それで十分と。


 さらには、パレードの最後にやった人間の国々に対しての勝利宣言。


 最前線に新しい国を作る……


 すでに人間の国々は崩壊しているのか!


 争いにならんほどに。


 まさか、人間の国々はそれに気づいていない?


 世界の再編と保護を魔王国がになうのか?


 本当に苦労しているのだな。


 改めて、よく頑張っていると思うぞ。


「……」


 ちょ、ど、どうした。


 急に泣くな。


 びっくりするだろう。


「い、いえ、わかってもらえて嬉しいだけです」


 な、泣くほどか?


 いや、まあ、ああいった連中が相手ならそうなるか。


「いえ。

 村長……その人型に変形する馬車に乗っていた者のことです。

 村長には、魔王国や世界をどうこうしようという意思はありません。

 善性の人物です」


 大魔王だという噂も聞いたが?


「大魔王に押し上げようとしたことはありましたが、失敗しました。

 噂はその名残りです」


 そ、そうか。


 選出議会としては大魔王の地位を正式に用意すべきかと思ったが、やめておいたほうがよいか。


「ベルバークさま。

 余計なことかもしれませんが、村長には手を出さないほうがよろしいかと」


 ははは。


 誰が手を出すのだ。


 あれには近寄らんことだ。


 関係すら持ちたくない。


「……そこまでですか?」


 そこまでだ。


 遠くからながめる……


 いや、目にするのも毒か。


 噂を聞くにとどめたいところだな。


「魔王国でもっとも最善の行動をとると言われたベルバークさまが、そう言うのであればそうなのでしょう。

 残念ながら私は手遅れですが……」


 本当に残念だな。


「まあ、楽しませてもらっている部分も多々ありますので」


 あの骨の鯨を楽しめたのか?


 あれ、連中が呼び出したのだろう?


「あはは……」


 刺激には事欠かんか。


「はい」


 楽しめるのは若さだな。


 うらやましいぞ。


「なに、ベルバークさまもまだまだお若いですよ」


 ははは、世辞はよせ。


 我には強すぎる刺激だった。


 寿命が縮んだわ。


「では、あと千五百年ぐらいですか?」


 いや、あと千年ぐらいだ。


「ははは、やはりお若いですよ。

 村長にお会いになられます?

 手配しますよ」


 ふっ。


 興味がないと言えば嘘になる。


 あの神代竜族やインフェルノウルフの群れを従えているのがどのような人物か、強く気になる。


 だが、改めて言うが、あれは駄目だ。


 活動している火山みたいなものだと思え。


 近寄ってはいかん。


 利用しようと考えるのも駄目だ。


 あれは、噴火せんでくれと願うだけの存在だ。


「……ぜひ、紹介したかったのですが」


 勘弁してくれ。


 それに、その者の近くには神人族もいるのであろう?


 マルビット、ルィンシァ、スアルロウ、ラズマリア。


 それにレギンレイヴ。


 我は、神人族の連中とは関わりたくない。


 苦い記憶が多すぎる。


 我は無理はせん。


 無茶もな。


 魔王国のことはお前に任せた。


 頼んだぞ。


「はっ。

 全力で」


 なに、滅んでも昔に戻るだけだ。


 好きにやれ。


「……ありがとうございます。

 ベルバークさまは、こちらにはいつまで?」


 五村とシャシャートの街の食事を楽しみたい。


 しばらくは滞在するつもりだ。


「承知しました。

 必要でしたら宿や店を用意しますが?」


 ありがたいが、遠慮しよう。


 なに、今回は金に困らん旅なのでな。


 迷惑はかけんよ。


 帰る前に挨拶に寄る。


 我はそう言って、魔王との席を立った。




 そんなふうに魔王と会話したのは、一ヵ月ほど前のことだったかなぁ。


 神人族とは関わりたくないとあれだけ言ったのに、なぜか我は神人族の娘に捕まっていた。


 しかも聞けば、ルィンシァの孫と言うではないか。


 いや、例の神代竜族やインフェルノウルフの群れを従えた村長の娘であることを強調していたか。


 ……


 関係すら持ちたくないって言ったのに!


 どうしてこうなった?


 とりあえず、救援要請は出した。


 魔王が我を探し出してくれることに期待しよう。


 ああ、そこの額に小さな角を生やした少年よ。


 我のことは気にせずにな。


 うん。


 お構いなく。





メイドが給仕をしている店 = アースの店


天使族に苦い記憶 = 戦場でバチボコに負けた。作戦負けを何度もした。勝ったと思ったら力技でひっくり返された。



後編です。

早く出せました。

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― 新着の感想 ―
冥土喫茶を楽しむスケベ爺さんかと思いきや、めっちゃ優秀なベルバークさん。霞●関に是非居てほしいタイプ
天使族めちゃくちゃやってて草。
[良い点] 理解力のある人を見るのは気持ちいいなw
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