ゴミ箱とオークションのお誘い
ふたのあるゴミ箱。
匂いを抑えたり、ゴミが見えなくなる普通のゴミ箱だ。
このゴミ箱。
当然ながらふたを開ける必要がある。
なので、両手でゴミを持っている場合はふたを開けられず、ちょっと不便。
そこで思い出したのが、ペダルを踏むとふたが開くゴミ箱。
仕組みはそれほど難しくないので、作ってみた。
ペダルを踏むアクションでゴミ箱が動いてはいけないし、仕組みの強度を考えて作ったので、大きくて重いゴミ箱になってしまった。
それを屋敷の空き部屋に設置。
ペダルを踏んでふたを開けてみる。
ペダルから足を離すと、ふたが閉じる。
おお、悪くない。
これは鬼人族メイドたちに喜ばれるだろう。
そう思って鬼人族メイドたちに見せたのだが……
甘かった。
この世界には、ビニール製のゴミ袋という物は存在しない。
それゆえ、ゴミは直接ゴミ箱に入れる。
ゴミ箱のゴミは、スライムたちがいるゴミ捨て場にゴミ箱ごと持って行く必要がある。
つまり、ふたが開く仕組みの分だけゴミ箱が重くなり、持ち運びに不便という欠点が発覚した。
鬼人族メイドたちならこの程度の重さは気にしないのだが、ゴミ箱のゴミをゴミ捨て場に持っていくのは子供たちのするお手伝いの一つ。
重いのは駄目。
また、ゴミを捨てたあとには、ゴミ箱は清掃する必要がある。
なので、ゴミ箱とふたが一体化していると洗いにくいとの指摘があった。
このゴミ箱の清掃も子供たちのお手伝いの一つ。
洗いにくいのは困る。
むう。
考えが甘かった。
そして、ビニール製のゴミ袋のありがたさがわかる。
ペダルを踏むとふたが開くゴミ箱は失敗か。
いや、ここで諦めてはいけない。
諦めないことで、人類は発展したのだ。
ということで、改良。
ふふふ。
改良のアイデアはある。
なに、そう難しいことではない。
このゴミ箱に収まるように、一回り小さいゴミ箱を用意するだけだ。
ビニール製のゴミ袋の代わりに、ゴミ箱を使うだけだ。
これで、ゴミを捨てに行くのも、洗うのも楽になるだろう。
これでどうだ!
……
ふたがない状態で移動させるのは困ると。
匂いが出るもんな。
ふた本来の目的を忘れてはいけないな。
よし、一回り小さいゴミ箱用のふたを用意しよう。
一回り小さいゴミ箱用のふたは、普段はゴミ箱の後ろにでも置いておいていいだろう。
捨てるときに取り出して使う。
これでどうだ?
「足で開けることに少々、抵抗がありますが……たしかに楽ですね」
「これを知っちゃうと、ふたを手で開けるのが面倒に感じます」
「全部のゴミ箱をこれにしてほしいぐらいです」
鬼人族メイドたちの評判はよく、増産を望まれた。
まずは屋敷の台所から設置してほしいそうだ。
どうしてもゴミが出るからな。
とりあえず、三つほど作って屋敷の台所に設置した。
喜ばれるのはいいことだ。
問題は、ペダルでふたが開くことが珍しいのか、大勢の大人たちがペダルを踏みに台所に来たこと。
ゴミ箱の増産が急がれる。
あと、これは問題ではないが……台所で働いている箱たちが、ゴミ箱をライバル視した。
鬼人族メイドたちが、最近の箱たちは頑張っていると褒めていた。
いいことだ。
ペダルを踏むとふたが開くゴミ箱が大樹の村に普及し、パカパカと呼ばれるようになったころ。
マイケルさんが大樹の村にやってきた。
用件は、オークションのお誘いだ。
以前、五村でオークションをやったが、あれはかなり無理なスケジュールのオークションだったと聞いている。
そのオークションに参加して、オークションはこのようなものかと考えられては困ると正式なオークションへのお誘いだ。
前々から話はあったから慌てないけど、時期はもう少し先じゃなかったか?
「ええ、本競売は来年の春のなかほど、王都でと予定しています。
ただ、競売品の展示は動いていますので」
来年の春のなかほどとなると、一年ぐらい先だな?
そんなに長い期間、展示するものなのか?
「競売品の募集もしますので」
ああ、最初から全部揃っているわけじゃないのか。
「ええ、さらに今回は商隊を組んで各地を回り、競売品を見せて参加者とさらなる競売品を求めます。
前回のオークションでは展示は五村だけでしたが、今回のオークションでは十ほどの街を回る予定です」
へー。
「それで、村長からも何点か競売品を出してもらえればと考えているのですが」
ああ、そこは問題ない。
みんなと相談して、出品するよ。
手続きはマイケルさんに任せたら大丈夫かな?
「お任せください。
夏になるころには展示のための商隊が動きますので、できればそれまでに。
まあ、遅くなっても運ぶ手段はありますので、焦る必要はありませんが」
助かる。
「いえいえ。
実は出品とは別のお願いがありまして」
お願い?
「はい。
できれば商隊が出発する前に、激励に来ていただけないかと」
激励はかまわないが……
そういったのって普通はするのか?
「しないこともありません。
オークションや商隊の格を上げるためにも、有力者に来ていただけると助かるのです」
それなら、俺じゃなくて魔王とかのほうがいいと思うけど。
「村長がお越しになれば、魔王国の重鎮の方々が揃いますので。
それと、その言いにくいのですが……」
?
「今回のオークション、プラーダさまが五村の責任者として参加します。
それと、商隊にはジョロー氏が協力するため、ベトンさんが護衛として同行します。
プラーダさまとベトンさん。
お二方を信用しないわけではないのですが、村長の目があることを再認識していただければと……」
なるほど。
プラーダとベトンさんか。
俺としては二人をトラブルメーカーとは思っていないが、二人とも問題を起こしたからな。
マイケルさんが警戒するのも仕方がないのか。
わかった。
時間を見つけて、商隊を訪ねよう。
「すみません。
お手数をおかけします。
このお礼は、海産物で」
期待している。
マイケルさんが帰ると、ルーがやってきた。
「聞いていたけど、激励に行くの?」
ああ、問題ないだろ?
護衛はちゃんと同行してもらうつもりだぞ。
「そっちの心配はしていないわ。
王都に行くならアルフレートたちの様子を見てほしいかなって」
ああ、もちろんだ。
アルフレート、ウルザ、ティゼル、トライン。
あと、ゴール、シール、ブロンの様子も見ておきたい。
「ティアとアンが心配しているから、ティゼルとトラインを重点的にお願いね」
そうだな。
その二人は重点的に見ないといけないだろう。
一応、報告の手紙では問題ないと書いてあったけど……
ああ、そういえば例のあれはどうなったんだ?
えーっと、たしか選出議会のトップ。
魔王の親族らしいけど、現体制に不満がある人たちが関わっているらしい。
村の外のパレードのとき、シャシャートの街のイフルス代官からその話を聞いて注意はしていたのだけど、俺はトラインとのあれこれがあったので、結局はルーとティアに任せてしまった。
「彼、問題ないわ」
そうなの?
「現体制に不満がある人たちにお金を出させて、王都までの旅費を浮かせたかっただけみたいよ。
五村やシャシャートの街を満喫していたわ」
えーっと。
「シャシャートの街の住人に交じって、パレードにも参加してたらしいし」
……
ま、まあ、パレードに参加したぐらいでは困らないか。
「彼に関しての報告は、もう少し魔王との関係を調べてからするつもりだったのだけど、気になるなら急ぐわよ」
ああ、気にしてない気にしてない。
どうなったかなって思っただけだから。
のんびりやってくれたらいいよ。
「わかったわ。
まあ、近いうちに魔王がこの村に連れてくると思うから、その前に用意するわ」
村に来るのか?
それじゃあ、歓迎しないとな。
「あはは。
いつも通り、歓迎してあげましょう」
そうだな。
●ゴミ箱設置時の会話
天使族「腕だけのゴーレムにふたを開けさせるのは駄目なのですか?」
ハイエルフ「素直に魔法で開ければいいのでは?」
ドワーフ「全員が魔法を使えるわけではないからな」
文官娘衆「踏んで……開く。ちょっと楽しいですね」
獣人族「むやみにバタバタさせちゃ駄目ですよ。でも、私もちょっとだけ」
山エルフ「踏むだけなのに人気……このシンプルさを私たちは失っていたか」
鬼人族メイド「爆発しない安全性も大事ですよ」




