村の外のパレード 王都 発端
王都で警備している近衛軍の平隊員の視点です。
俺は王城を警備する近衛軍所属の男。
パレードには参加できないが、それは仕方がない。
仕事の巡りが悪かったのもあるが、今回のパレードに参加できる者は極めて少なかった。
近衛軍からは二十人ほど。
選ばれたメンバーは、名声と実力を兼ね備えた近衛軍の部隊長たちだ。
選ばれなかった部隊長もいるのだから、部隊長ですらない俺が選ばれるわけもない。
残念だが、俺は俺の仕事をこなすだけだ。
王城に侵入してくるような愚か者はいないと思いたいが、いるから警備している。
さて、パレード当日。
実際は数日前から始まっているが、王都でパレードが行われるのは今日だ。
パレードを見ようと多くの住人が集まっている。
たとえ住人は弱くても、数というのは暴力だ。
威圧しないように注意しながら、警戒する。
もちろん、街の外にいるドラゴンたちにも。
あれらが攻撃してきたら警戒もなにもないのだが、無駄だからとなにもしないのは違うと思うからな。
ああ、そう言えばインフェルノウルフもいるんだった。
予行演習を見たけど、あれは恐ろしかった。
それが二百頭だっけ?
冗談だと思いたい。
それに加えて、天使族にハイエルフ、ワイバーンか。
……
警戒する対象が多くて困る。
俺の警戒を無駄にするように、パレードの一行は順調に予定のコースを通り、最終目的地である王城前に先頭が到着した。
強そうな二人の騎士が先頭だ。
誰だ?
見たことのない鎧姿だが?
まあ、パレードの先頭を任されるぐらいだ。
見た目だけでなく、きっと強いのだろう。
その後ろに我らが近衛軍。
……
なぜ盾を構えているのだろう?
目の前に敵がいるかのような警戒だな。
そう思いながら見ていたら、観客たちの中でトラブルが発生した。
スリが出たようだ。
多く集まった観客を狙ったのだろう。
警備が厳重なのに、凄い度胸だ。
しかし、スラれた者がすぐに気づいて騒ぎ、スリが逃げた。
俺は城壁の上から見ていたので、スリの動きがよくわかる。
下で警備をしている兵に伝えてやろうと思ったところで、スリが馬鹿な動きをした。
パレードを終えた者が待機するために用意されたスペースに逃げたのだ。
当然、そんな場所は厳重に警備している。
さらにはまだ先頭しか到着していないから、見通しもいい。
四方八方から、警備をしている兵がスリを捕まえようと駆け寄っている。
捕まるのは時間の問題だな。
そう思いながら見ていたら、スリはさらに馬鹿な動きをした。
待機場所に移動し終わった強そうな二人の騎士の方向に逃げたのだ。
なぜそっちに?
どう見ても実力者だぞ。
俺の疑問は、すぐに解消できた。
スリの目的は強そうな二人の騎士ではなく、その二人が持っていた剣だ。
白く輝く剣と、黒く輝く剣。
パレードが終わったので、強そうな騎士二人はその剣をパレードの運営スタッフに渡していた。
儀礼用の剣なのだろうが、スリには立派な武器に見えたのだろう。
武器を持って抵抗する気か。
やはり馬鹿だな。
武器を持っていなければ生け捕りにされるだろうが、武器を持てば警備をしている兵たちも手加減はしない。
あのスリ、殺されるぞ。
せっかくのパレードを血で汚さないでもらいたいのだが……
幸いなことに、スリは死ななかった。
剣を手にする前に、強そうな二人の騎士によって殴り飛ばされた。
そして、倒れたところを警備している兵たちが殺到し、捕まえた。
よかった。
ん?
暴れているな。
無駄な抵抗を。
……なにかを投げた?
ああ、スッた財布か。
素直に返せば、罪も軽くなったかもしれないのに。
いや、パレードの邪魔をしたということで重罪か?
かわいそうに。
いや、リスク覚悟でスッたのだろう。
失敗したのだから、リスクは受け止めるべきだ。
俺はスリのほうに注目していた。
ただ、現場にいた二人の騎士や、パレードに参加していた盾を持つ近衛軍は、スリが投げた財布を見ていた。
まさかという顔で。
だから俺もそっちを見た。
スリが投げた財布は、黒く輝く剣を持っていた運営スタッフの顔面にぶつかった。
そして、そのはずみで黒く輝く剣が放り出され、石畳に落ちた。
ガンッと大きな音がした。
歪んだりしていなければとは思う。
俺にとっては、それだけだ。
それだけなのに、二人の騎士が凄い速さで動いた。
騎士の一人は、黒く輝く剣を落とした運営スタッフを抱きかかえ、落とした剣から離れるように移動した。
もう一人の騎士は、落とされた剣を蹴って盾を持つ近衛軍のそばにやった。
盾を持つ近衛軍は、その剣を取り囲むように盾を構えた。
なんだ?
そう思うより先に、大きな音と光が襲ってきた。
黒く輝く剣が爆発したと理解した。
しかし、その衝撃は盾によって上に逸らされた。
周囲への被害はない。
盾で止まっている。
さすがだ。
そう思いながら、衝撃が逸らされた上空を見ると……
そこには天使族たちがいた。
パレードに参加している天使族たちが。
見ていた者として証言するが、盾を持つ近衛軍は故意に衝撃を天使族に向けたわけではない。
真上に衝撃を逃がしただけだ。
そこに運悪く、天使族が飛んでいただけだ。
これは偶然に偶然が重なった事故だ。
爆発の衝撃を受けたであろう、数人が落下した。
救助にと俺が動く前に、天使族の後方を飛んでいたハーピー族が落下する天使族を空中でキャッチし、さらに後方を飛んでいるワイバーンの背に運ぶ。
手慣れた動きだ。
天使族やハーピー族は地上に落ちたら不利だからな。
緊急時の対処は決まっているのだろう。
残った天使族が、攻撃態勢を取ったのもその一環だと思う。
思うのだが、まずい。
俺は大丈夫だが、天使族をまだ敵だと疑っている者は多い。
なのに、そんなあからさまな攻撃態勢はまずい。
いや、天使族の数人が急降下して攻撃しようとしている。
攻撃じゃなく、爆発の事情を確認しようとしているのかもしれないけど、急降下して攻撃しているように見える。
見えてしまう。
地上から、攻撃魔法が天使族に飛んだ。
一発二発じゃない。
複数人から、複数放たれた。
魔法の球で、壁を作るように。
点ではなく、面で殴る。
空を飛んでいる者を、効果的に落とす戦法だ。
即興で合わせたのだろう。
こんな場合じゃなかったら、見事な連携だと褒めたいぐらいだ。
攻撃魔法を見て、急降下していた天使族たちは急上昇。
攻撃魔法が届かない高さまで、天使族やハーピー族、ワイバーンたちは上昇した。
よかった。
天使族が怒って反撃したら、それで終わりだった。
天使族は味方。
今回は味方。
味方だ。
ここで考えてほしい。
パレードに味方として天使族は参加している。
つまり、パレードに参加している者からすると、今の状況は味方の天使族が攻撃されたように見える。
実際、爆発の衝撃で数人の天使族が被害に遭っている。
パレードに参加していたインフェルノウルフが、数頭の小さい群れを作り、パレードの列から離れるのを確認してしまった。
おいおいおいおいおいっ!
パレードに参加している獣人族、ハイエルフが戦闘態勢に移行した。
遠目でもわかる。
まずいまずいまずいっ!
「事故だ!
攻撃じゃない!」
俺は叫ぶが届かない。
逆にパレードを見ている住人たちや、警備している兵を扇動する声が聞こえる。
「王都を守れ!」
「我が力、見せる時がきた!」
「インフェルノウルフ、なにするものぞ!」
どこの馬鹿だ!
ここから攻撃して倒してやろうか。
混乱をさらに助長するように、なんかでっかい巨人が現れた。
なんだあれ?
複数の馬車を解体して人の形にしたような巨人?
ゴーレムか?
それに誘われるように、郊外にいたドラゴンたちが王都に進路を向けた?
え?
こっちに向かってる?
ど、ど、どう抵抗する?
困惑する俺に、隊長から命令が届いた。
「住人を守れ」
……
や、やってやらぁ!
でも、ドラゴンは無理じゃないかなぁ!
弱気になる俺の前に、三頭のドラゴンが現れた。
知っているドラゴンだ。
オージェス、ハイフリーグータ、キハトロイの三人、いや三頭。
王都で働くドラゴンたちだ!
あのやって来るドラゴンたちに対抗してくれるのか!
え?
あれは無理?
インフェルノウルフをなんとかする?
そ、それでも助かる!
頼んだぞ!
俺は城壁を降り、城内に戦わない住人を避難させた。
……
思ったより、戦わない住人って少ないなぁ。
あ、おばあちゃん。
武器を持たないで。
こっちに避難して。
平隊員「ドミノ倒しを見ている気分だった」
次の更新は、来週になります。
すみません。
頑張ります。




