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村の外のパレード 王都 成功宣言

魔王視点です。


 俺は……


 いや、私は魔王。


 魔王ガルガルドである。


 魔王国でもっとも強く、もっとも高い地位にある者だ。


 ふふふ。


 妻と娘には敵わないがな。




 さて、今回のパレードの開催。


 目的は三つあった。


 一つ目は、転移門を設置した村や街での不穏な動向をする者たちに対する囮だ。


 悪質な者は捕まえる。


 王都やシャシャートの街に逃がしては意味がない。


 そのためパレードを囮にし、奇襲的に行動する予定だった。


 怪我をされては困る者たちを避難させるためにも、パレードは都合がよかった。



 二つ目は、現在の魔王国貴族の意思統一だ。


 魔王国の指導者としての私は、これ以上、人間の国に攻め込むつもりはない。


 現状維持で十分。


 そう考えてここ数年は行動してきた。


 しかし、それを不服とする貴族がそれなりの数いる。


 人間の国を滅ぼせと。


 王都ではそういった意見は半分ぐらいだが、王都から離れると好戦的な意見が強くなる。


 それらをなんとかして、現状維持の方向でまとめたい。


 もちろん、今回のパレードで全て解決などと都合のいいことは考えていない。


 だが、今回のパレードで王都の意見を現状維持にかたむかせたい。


 そうするためには、私の力の誇示こじだろう。


 幸いにして魔王という立場は、少々野蛮な思考が許される。


 私の意見に従え。


 さすれば繁栄を約束する。


 これを目で見せるには、武力を誇示こじするパレードは最適だと判断した。



 三つ目は、人間の国への対策だ。


 こちらは戦う気がなくても、向こうがやる気だと一緒だ。


 守るために戦わなければならない。


 不毛なことだ。


 なので、戦力を見せつけ、戦いを仕掛けても損しかないと思わせたい。


 そして、戦うのは相手への不理解があるからだ。


 理解があれば、そうそう戦争を仕掛けたりはしない。


 魔王国はこれまで、人間の国との国交がお世辞にも上手いとはいえなかった。


 外務大臣のビーゼルが悪いわけじゃない。


 誰がやっても、ビーゼル以上の成果は出せないだろう。


 なにせ相手は、魔王国というだけでこちらが理解できないほど敵愾心てきがいしんを向けてくる人間の国々なのだ。


 しかし、ここ数年はその風向きも変わりつつある。


 人間の国から、国交を望む使者が何人もやってきているのだ。


 これは喜ばしい。


 そして、この者たちに、現在の魔王国の姿を見せて、そう恐れる必要はないと教えたい。


 これらが、パレードを行う三つの目的だ。



 ただ、これら三つの目的をもって行うパレードに、大樹の村を加えるかどうかは、かなり悩んだ。


 私としては、大樹の村はそっとしておくのが一番だと思っている。


 向こうから声をかけてきたならともかく、こちらから誘うのはよろしくない。


 しかし、ティゼルがぜひとも加えるようにと主張した。


 ティゼルが大樹の村をパレードに加えたい理由は、二つ。


 一つは、インフェルノウルフやデーモンスパイダーなどを魔王国の住人に認知させること。


 魔王国の国民を脅かさないために、大樹の村に関わるインフェルノウルフやデーモンスパイダーには、死の森から出ないようにお願いした。


 しかし、そのせいで死の森以外ではインフェルノウルフやデーモンスパイダーを防衛力として使えない。


 村長の今後を考えると、おもむく先で使えないのは問題だと。


 私としては、インフェルノウルフやデーモンスパイダーがいなくても十分に過剰な戦力をそろえることはできると思うが、娘として父の身の安全を考えてしまうのだろう。


 同意できる理由だ。



 大樹の村をパレードに加えたいティゼルのもう一つの理由は、ガーレット王国に対してだ。


 ガーレット王国は長く魔王国と敵対していたが、近年では友好的な態度にシフトしていった。


 そこで、魔王国と人間の国々との休戦、もしくは和平を取り持ってもらおうと考えていたのだが……


 そのガーレット王国は分裂してしまった。


 しかも分裂した理由が、魔王国への併合へいごうう……実質は降伏に対してのスタンスの違いだから、気持ちはわからないでもない。


 ただ、こちらに併合を打診する前に国内の意思統一ぐらいはしてほしい。


 正直、迷惑だ。


 しかも、その併合を受け入れたら、魔王国は飛び地を得ることになる。


 飛び地だからと無防備にはできない。


 飛び地を守るために、魔王国が維持しなければいけない戦線が増える。


 そんな飛び地は不要。


 受け入れたくはない。


 しかし、実質降伏だと言っている者の手を取らないのは『許す意思はない』とか『まだまだ攻撃する意思がある』と取られる。


 そして、ほかの国も『降伏しても相手にされない』と受け取る。


 結果、戦禍が酷くなる。


 受け入れないとは言えない。


 ゆえに、回答しない。


 それでいいのかと思うが、これが政治だ。


 まあ、長々と放置はできないが、時間は稼げる。


 そのあいだに手を打つ。


 理想は、ガーレット王国はガーレット王国でまとまってもらい、魔王国に併合ではなく魔王国に従属的な位置にいてほしい。


 そして、魔王国はガーレット王国に援助し、魔王国の代わりに人間の国を相手してもらう。


 こちらに都合のいい考えなのはわかっているが、理想を求めなければ結果はでない。


 無理難題を言われたのだ、これぐらいはいいだろう。


 理想通りにはならないことは知っているさ。


 なんにせよ、ガーレット王国には回答しないという時間稼ぎをした。


 そうしたからには、ガーレット王国に希望を持たせる必要がある。


『回答する気がない』=『敵対』と直結されては困るからだ。


 そして、その希望がパレードに天使族を参加させることだ。


 ガーレット王国の相談役を担っている天使族が、魔王国のパレードに参加する。


『併合がありえる?』『併合に期待してもいい?』とガーレット王国には考えてもらいたい。


 こういった目的なので、天使族だけに参加を打診してもよかったのだが……


 それをすると天使族に借りを作ることになる。


 それはよろしくない。


 天使族に借りを作ることがではなく、村長を無視することがだ。


 借りを作るなら天使族にではなく、村長に。


 ティゼルも同意見なので、大樹の村をパレードに参加させたいらしい。


 ちなみに、天使族の長にはティゼルから話を通してあるので、村長たちが参加して天使族が不参加という事態にはならないように調整している。



 これら、私の三つの目的と、ティゼルの二つの目的を持って、魔王国でパレードを行うことと、大樹の村に参加してもらうことを決めた。


 決めてから実行までの期間が短いのは、文官たちにいろいろと迷惑をかけてしまった。


 正直、パレードを舐めていた。


 軍でやる行進は問題なくやれていたし、大樹の村では毎年のようにやっているから。


 大きな街では、パレードをするのはかなり大変だと学んだ。




 さて、そのパレードだが……


 初日、五村とシャシャートの街。


 シャシャートの街では、ドース殿たちのマナーチェックや、よくわからない空飛ぶ骨などの騒動があったが、なんとかなった。


 二日目にスケジュール調整が入ったのは仕方がない。


 三日目にシャシャートの街から王都まで駆け抜けた。


 本来、ここらにいる不審者を捕まえるのが目的だったのだが、実は予行演習の段階で目的は達成していた。


 オージェス、ハイフリーグータ、キハトロイの混代竜族に、インフェルノウルフが十頭ほど参加した予行演習に、攻め込まれたと勘違いした不審者たちはボロを出しまくった。


 王都の近くで悪いことを考えていたわりには浅いなぁと思っていたのだが、実際は王都に潜伏していた小物らしい。


 それらが、王都の清掃作戦……アルフレートたちが学園に通うので、安全確保のために気合を入れてやった作業で逃げ出したそうだ。


 あの清掃作戦。


 そのあとにボロボロと襲撃者や暗殺者が出てきたから、あまり効果がなかったのかなと思ったけど、一応の効果はあったんだなぁ。


 なんにせよ、私の目的の一つは達成されている。


 そう、達成されているのだ。


 これはもう、パレードの成功だと言ってもいいのではないだろうか?


 パレードの本番が始まる前に達成しているが、そんなことは些細ささいな問題だ。


 うむ、パレードは成功だ!


 パレード最終日。


 なぜか戦場になっている王都を見ながら、私はそう思った。


 わかっている。


 現実逃避だ。





お待たせしました。

体調不良(気圧の変化にやられたのかなぁ)と、書籍化作業で遅れました。

すみません。


戦場は、人間の国が攻め込んできたのではなく、王都の防衛隊(混代竜族の三人+パレードに参加してない第一軍とか第二軍)とパレードに参加している天使族やインフェルノウルフの争いです。

そのあたり、次の話でやります。


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― 新着の感想 ―
スンマソン! バレード項は飛ばして読んでます
[一言] 文官達がデスマーチする羽目になったのお前のせいかよwww
[良い点] どうしてこうなったw
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