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村の外のパレード シャシャートの街~王都 情報

前話の公爵令嬢エカテリーゼの侍女長の視点です。


 ごきげんよう。


 私の名はヘンリエッタ。


 ヘンリエッタ=アーガソン。


 人間種の二十五歳の女性です。


 公爵令嬢であるエカテリーゼさまの侍女長を務めさせていただいております。



 さて、エカテリーゼさまは、なんやかんやあって魔王国のとある村に逃亡中です。


 頑張っておられます。


 ただ、現実は厳しいもので、理想だけではやっていけません。


 詳しく言うなら、お金が足りません。


 私たちの給金はもちろん、日々の生活費にも困るありさまです。


 逃亡前にエカテリーゼさまのご実家から持ち出した資金は、いろいろとやって使ってしまいましたからねぇ。


 ほんとうに現実は厳しいです。


 とりあえず、エカテリーゼさまに同行した同僚のほとんどは、シャシャートの街に出稼ぎに行ってます。


 出稼ぎです。


 放逐ほうちくではありません。


 出稼ぎの期間は無期限で、出稼ぎ中の給金は出ませんし、出稼ぎで得た給金はすべて出稼ぎをした個人の物なので、ほぼほぼ放逐のようなものですが……放逐ではありません。


 エカテリーゼさまは部下を放逐するような方ではないのです。


 シャシャートの街には転移門を使えばすぐに行けますし、会おうと思えばいつでも会えますしね。


 ちなみに、出稼ぎ先は……


『文字を読めて、書けたら十分。

 計算できるなら、大歓迎。

 魔王国への忠誠心?

 そんなあやふやなものより、文字や数字の正確さを求める!』


 こんな求人文が堂々とかかげられる職場です。


 しかし、魔王国への忠誠心は不要と書いてますが、魔王国からクレームが入ったりしないのでしょうか?


 まあ、私たちには幸いです。


 エカテリーゼさまに同行した者は、全員が読み書き計算はできますし、礼儀作法も人間の国スタイルですがおさめています。


 理想の出稼ぎ先ですね。


 問題は、私を含めエカテリーゼさまにも出稼ぎを勧めてくることですね。


 ありがたいことですが、現在はお断りしております。


 え?


 その職場を管理している人?


 シャシャートの街の代官の秘書をやっているミヨさまです。


 見た目は幼女ですが、魔王国の住人は見た目で判断できないので甘くみてはいけません。


 私の判断では、ミヨさまは外見と中身が合わないタイプです。


 年上の女性と考えて接するのが無難でしょう。



 同行者の大半を出稼ぎに出しても、エカテリーゼさまの資金が減るのを防ぐだけで、増えるわけではありません。


 エカテリーゼさまは畑仕事でなんとかしようとしていますが、このあたりの風土ふうどを知らない私たちでは、なかなか上手くいきません。


 まあ、エカテリーゼさまは天才ですので、五年もすればなんとかしてしまうとは思いますがね。


 ええ、天才です。


 なにせエカテリーゼさまが幼少期から美容品開発に熱中し、生み出された美容品や美食は、国の宝とまで言われていましたから。


 エカテリーゼさまは現在、人間と魔族の違い、人間の国と魔王国の違いで苦労されていますが、それらは時間が解決するはずです。


 そして、エカテリーゼさまはいつか魔王国で大きな存在になるでしょう。


 私はそう信じています。


 ですので、エカテリーゼさまには畑仕事や研究に集中してもらい、当面の生活費は私が稼ぎだすことにしました。


 と言っても、私にやれることは少ないですが……


 まずは、エカテリーゼさまの美容品の販売。


 比較的人間種に近い魔族に売っています。


 美容品を求めるのは裕福な層ですので、魔王国の貴族に伝手つてができたのは嬉しい結果でした。


 美容品の独占を狙い、お抱えにならないかと誘われるのは困りますが。


 なんにせよ、魔王国で生産できる量は限られていますので、利益はそれほどでもないのですけどね。


 損はしていないので、問題なしです。



 次に、情報の販売。


 魔王国の外の情報……つまり人間の国の情報を販売しています。


 当初は魔王国に利する行為なので抵抗がありましたが、魔王国に利のある存在だとアピールすることをしないと万が一のことがあります。


 少なくとも、魔王国にはエカテリーゼさまは敵ではないと思っていただかなければ。


 これの一番の取引先は、シャシャートの街のイフルス代官です。


 ミヨさまを頼り、イフルス代官に接触することができました。


 私たちが持っている情報は、主に人物情報や人間関係です。


 兵力がどうとか、編成がどうとかはわかりません。


 がっかりされるかと思ったのですが、意外と評価が高かったです。


 また、人間の国の風習などの情報も喜ばれました。


 統治に役立ったりするのでしょうか?


 かなりの代金をいただけたので、ありがたかったです。


 ただ、これらは一度の販売で終わりです。


 まだ販売していない情報もありますが、これらも時間が経過すれば古くなり、価値が下がります。


 今後はどうしようかと考えていたところに、ミヨさまから新しい仕事の提案がされました。


 それは、魔王国の情報を人間の国に流すことです。


 私たちは人間の国にあるエカテリーゼさまのご実家に連絡する手段を持っています。


 それを使えということでしょう。


 ですが、いいのでしょうか?


「魔王国の実情を正しく伝えるのも大事なことなのよ」


 情報を統制し過ぎて正体不明になると、相手はおびえて交渉もろくにしてもらえなくなるとミヨさまは言っていました。


 たしかに、魔王国に来てから、情報と違うとエカテリーゼさまが何回も叫んでいました。


 魔王国の実情が伝わっているとは言えませんね。


 仕事の内容的に、偽の情報で人間の国を混乱させるようなことはないので引き受けました。


 年に数回、エカテリーゼさまの近況と一緒に、魔王国の様子をエカテリーゼさまのご実家に伝える。


 伝える情報に、検閲けんえつが入ることもありません。


 これで安定した収入を得られるのは大きいです。


 裕福には程遠いですが、つつましい生活はできるはずです。


 頑張っていきたいと思います。




 そして、魔王国での生活にも慣れ、エカテリーゼさまが婚期について悩み始めたころ。


 ミヨさまから、臨時の仕事依頼が来ました。


 春に魔王国でパレードをするので、その様子を人間の国に流してほしいという内容です。


 いつもやっている仕事ではと思ったのですが、今回は注文がありました。


「できるだけ正確に」


 ?


 どういうことでしょう?


 言われるまでもなく、正確に伝えるつもりですが……


 別途、報酬を出してもらえるそうなので、喜んで引き受けました。



 そしてパレード当日。


 ……


 事前の予行演習にミヨさまの手配で参加できたので、インフェルノウルフに驚きはしませんが……


 その数に驚かされますね。


 獣人族やハイエルフ、リザードマン、巨人族にラミア族……


 なんだこれはという軍勢を見せつけられた気分です。


 ほかに、村には来ませんが、ドラゴンが多数いるのですよね?


 なるほど。


 ミヨさまができるだけ正確にと言うわけです。


 つまり、魔王国にはこれだけの軍勢がいると知らしめたいのでしょう。


 隠しても仕方がないことなので伝えますが……


 天使族が多数、パレードに参加しているのはどうしましょう。


 あの数。


 ガーレット王国が魔王国に取り込まれた証拠ではないでしょうか?


 いや、すでにそれを隠す段階ではないと?


 知らないよりは知っていたほうがいい情報ですね。


 しっかり伝えましょう。


 馬車が合体変形するのは……


 伝える意味があるでしょうか?


 せ、正確にと言われていますしね。


 一応、伝えておきましょう。


 ですが……


 この報告、信じてもらえますかね?


 まあ、私は正確に伝えるだけ。


 信じるか信じないかは、エカテリーゼさまのご実家側の責任です。


 臨時の報酬、ありがたくいただきます。



 余談ですが……


 エカテリーゼさまが気合を入れて化粧けしょうし、結婚相手を探していたことは伝えないでおきます。


 心配させてしまいますからね。


 しかし、エカテリーゼさま。


 獣人族の若い男性たちをターゲットにしていましたが、一人にすべきだと思います。


 あと、あの方たちは既婚者ですよ。


 ミヨさまのところで何度かお見掛けしたので、知ってます。


 しょ、紹介しろと言われても困ります。


 そこまで仲がいいわけではないので。


 ミヨさまに頼めば、会話ぐらいはできるかもしれませんが……


 それよりも、私たちがいる村の村長一家が乗った馬車に対して、もう少し愛想よくしてください。


 村長の息子さん、思いっきりエカテリーゼさまに手を振っていたのに、まるっきりの無視はよろしくないと思います。


 弱いのは好みじゃないって……


 エカテリーゼさまより強い方って、そうそういませんからね。


 変な武術に傾倒して、護衛隊長より強くなっているんですから。


 変な武術です。


 あれが公爵家直伝って、絶対に嘘ですよ。


 何代か前の当主の冗談に違いありません。


 ここで演武はやめてください!


 目立ちますから!




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― 新着の感想 ―
[一言] あっじゃあ化粧っつっても京劇かもしれんのか
[一言] よし、大樹の村の武闘大会に出て顔を売ろう
[一言] この話もそうやけど、前の話し同様に何かの伏線になってるん?なってるにしても2人とも一話づつにする程のキーマンなんかな?もうそれ主役級やん。本編は全然進まんし…
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