村の外のパレード シャシャートの街~王都 決断
元公爵令嬢(人間の娘)の視点です。
私の名はエカテリーゼ。
とある国の公爵家の娘だったのですが、それらを捨てて魔王国にやってきました。
正式にではありません。
こっそりとです。
魔王国に対して悪いことを考えている……わけではありません。
たぶん。
いえ、きっと。
私は魔王国に対して反乱勢力を育てようとか、魔王と対等に話すための力を得ようとか、欠片も考えていません。
私が考えているのは、私の幸せです。
まあ、おまけで私に同行した者たちの幸せも考えてあげましょう。
私は、私が幸せになることを重視しています。
ええ、私の力で。
今の時代というか、人間の国の貴族の家に生まれたからには政略結婚がつきものなのですが、どうも私は運が悪いようです。
実は、私の育った国の第一王子が私の許嫁だったのですが、この王子がとんでもない愚物でして。
どう愚物かと言うと……
簡単に言うと、国を全て自分の物だと思っている点ですね。
王になったわけでもないのに、好き勝手に約束を乱発してました。
王子個人がする約束なら問題ないのですが、どう考えても王権や政治に関わるような内容で……
例を挙げると、戦争にとある貴族の参戦を勝手に許可したり、贔屓にしている商会の通行税や交易税を免除したりとかです。
あと、王の発した約束や、貴族同士の約束に介入して、勝手に反故にしたりしていました。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
ですが、彼にもいいところはあるのですよ。
彼は国中の恵まれない人と接する機会があり、これはいけないとお金を配りました。
立派なことです。
素晴らしい。
自分のお金でやっているなら。
彼は国のお金を配ったのです。
これを知ったときの私の気持ち、わかりますか?
絶句です。
怒り過ぎると、言葉を失うことってほんとうにあるのだなと知りましたよ。
だいたい、お金を渡してそのあとはどうするのでしょうか?
お金よりも日々の食べ物、そして大事なのはお金を安定して稼ぐ方法を用意することでしょう。
なのに、お金を渡して全てが解決した顔をしていたのです。
あれは……そう、愚物を越えて害悪ですよ。
生きているだけで罪。
そんな存在です。
それが許嫁。
逃げる私の気持ちがわかってもらえると思います。
そうそう、逃げる決断をさせた理由は、もう一つあります。
王です。
愚物王子のやらかしを庇って、とくに叱りもせず追認して放置ですよ。
普段は優秀な王なのですが、第一王子が関わると馬鹿親になってしまうようです。
第一王子の所業に苦言を呈すると、遠ざけられます。
じゃあ、私も遠ざけられようと苦言を呈したのですが、逆に叱られました。
私は許嫁なので、王子を支えないと駄目でしょうと。
ははは。
その場で王を殴らなかっただけ、私の頑張りを認めてほしいものです。
そして王城を出たところで、私が手がけている商会の利権を第一王子が不当に奪っていったとの報告を聞き、第一王子がちょうどやってきたので文句を言ったら、こう返されました。
「あんな店は君に相応しくない。
僕がもっと相応しい店をプレゼントしよう」
そのあとの記憶がありません。
ただ、離れた場所で地面に転がっている王子と、私の姿勢から推測すると……
テェザンコッで王子をふっ飛ばしたようです。
テェザンコッとは、簡単に説明すれば肩から背面での体当たりですね。
相手に近づくときは当然ながら正面を向いていますので、接触直前で背面をぶち当てるのにはコツがいります。
公爵家直伝の技です。
ぶちかましたことに、反省はしていません。
すっきりしました。
そして、私は両親に謝罪して国を捨てました。
私の両親も第一王子に思うところがあったらしく、公爵家のことはどうなってもいいからと、いろいろと手配してくれました。
おかげで私は怪我もなく、魔王国に到着することができました。
数年前の話で、当時の私は十六歳です。
私には自信がありました。
魔王国で商売を成功させる自信が。
美容と美食には自信があったのです。
もちろん、根拠のない自信ではありません。
公爵家の娘だった時代に没頭し、商売にして大成功を収めていたのですから。
まあ、お抱え商人の腕とかも影響したでしょうから、全てが私の手柄とは言いません。
ですが、アイデアは私です。
試作したのも私です。
店の方向性を決めたのも私です。
私に仕える執事や侍女が補正した可能性はありますが……
それらを含めて、私の才能です。
才覚です!
自信を持って当然だったのです!
しかし、魔王国は甘くはありませんでした。
人間の国と魔王国では、あまりにも環境が違い過ぎました。
人間の国では人間が多数を占めますが、魔王国では多様な種族がいます。
例えば美容の主力商品だった化粧水、乳液、クリーム等。
それらを、それぞれの種族に合わせて用意する必要があります。
当然、最適な化粧水、乳液、クリームを作る研究をしなければいけません。
一からの研究はお金がかかりますし、種族専用では多く売れることが望めません。
ならば、魔王国で数の多い種族をターゲットにと考えたのですが……
ゴブリン族は、美容に欠片も興味を持っていませんでした。
獣人族は、独自の美容法がありました。
魔族は、魔力で美容には困っていませんでした。
いえ、一部の魔族は魔力を使わない美容にも拘っていたのですが、そういった方はほとんどが貴族で、お抱えになることを望んできましたので断念しました。
捨てたとはいえ、公爵家に身をおいていたので……魔王国の貴族のお抱えになるのはちょっと抵抗があります。
なんにせよ、美容でお金を稼ぐのは厳しいと判断しました。
では美食でと思ったのですが……
魔王国では、醤油、味噌、マヨネーズなる不思議な調味料が、幅を利かせていました。
それら調味料を使った料理を味わってみましたが、とても美味しかったです。
調味料と言えば塩かハーブ、もしくは胡椒だった私には衝撃でした。
ですが、一気に料理の幅が広がったとも感じたのです。
新しい調味料を使い、新しい料理を。
そう意気込んだのですが、当然ながら魔王国でも似たようなことは行われているわけで……
シャシャートの街のマルーラ。
五村にあるクロトユキ、青銅茶屋、甘味堂コーリン、麺屋ブリトア、酒肉ニーズ。
そして、それらに影響を受けたのであろう多くの店舗が、私たちの前にライバルとして立ちはだかりました。
もちろん、負けるつもりはありません。
ですが、入念な準備をしなければ赤字を出すだけで終わってしまうことは予想できました。
慣れぬ地ですので、食材を安定して揃える必要もあります。
アイデア一つで、どうにかなるものではありません。
私は決断しました。
前進だけが全てではありません。
ときには留まり、力を貯めることも必要と。
私は魔王国の一つの村に拠点を構えました。
立場は、人間の国からの亡命者です。
戦いを避けるためと周囲には言っています。
そして、私はこの村で畑仕事をしています。
そうです。
美食で勝負するための準備です。
自前で作れば、安定して手に入るというものです。
誰の妨害も受けませんしね。
とりあえずは作物の販売で、当面の収入にもなります。
ふふふ。
頑張りますよ。
……
農作業って、難しいです。
簡単にできるものではありません。
気候、天候に左右され過ぎです。
特定の時期にだけ起きる熱波とか寒波とか、長年住んでないと知るわけないでしょうが!
数年頑張りましたが、農作業は失敗しました。
公爵家から持ち出した資金が、そろそろなくなりそうです。
これはピンチです。
私に同行してくれた者たちの大半は、シャシャートの街や五村に働きに出ています。
そして、そちらで私より裕福な生活をしているそうです。
ぐぬぬっ。
施しは受けません。
こちらにもプライドはあります。
しかし、打つ手がないのも事実。
どうするべきか。
私に残るのは……この身。
美容は欠かしていません。
農作業中も、これでもかとガードしました。
自画自賛なところもありますが、美人です。
年齢は……ちょっと重ねてしまいましたが、まだ二十前。
お金持ちの妻とか、いけるんじゃないでしょうか?
私、魔族とか獣人族とか、種族に偏見はありませんし。
などと考えていたある日。
魔王国のパレードが村を通ると、騒ぎになりました。
私が居を構えた村には転移門があり、その通行が一時規制されるのはいろいろと大変ですが、無料で使わせてもらっているので文句は言いません。
転移門のおかげで、遠方にあるシャシャートの街や五村に日帰りで行けるのです。
数日、我慢すればいいだけでしょう。
……
魔王国のパレード。
それに参加している人たちは、当然ながらそれなりの地位にいると考えていいわけですよね。
それなりの地位。
つまり、お金持ち。
いや、私のいる村の村長も呼ばれたから、全員が全員ではないでしょうが……
パレード参加者に見初められるとか夢がありますね。
お化粧、気合入れてやってみましょうか。
駄目でもともとです。
テェザンコッ 鉄山靠のことです。




