村の外のパレード シャシャートの街 鯨
鯨の白骨視点です。
……やかましい。
我を起こすのは誰だ?
我は鯨王。
万年の時を生きる鯨の王。
我が世界を飲み込む日は、まだ先のはず。
なぜ我を起こす。
世界の光が我が身を焼く。
我が目は朽ち果てている。
ただの暗闇に苦痛だけを感じるのは気分が悪い。
我が身は……骨だけになっておるようだ。
力が戻っておらぬ。
眠る前の我なら、我が不快に思う前に再生されたろうに。
やはり、我が起きるには早かった。
だが、再び眠るのは業腹だ。
力は適当にそこらの者を狩り、取り戻せばよかろう。
この状態でも、我を害せる者など数えるほどしかおらぬ。
怯える必要はない。
我は目を再生する。
くっ、相も変わらず忌々しい光だ。
天を我がものかのように君臨しおって。
いつか、あの星も飲み込んでやる。
そして……
こちらも変わらず、小さき者が群れておるな。
小さき者たちは群れる。
そして、力があると錯覚する。
度し難い愚か者どもよ。
そのような者を屠って力にするのは気が進まぬが……
我が身を再生するためだ。
仕方があるまい。
そう思ったところに、攻撃を受けた。
かなり痛い。
我の防壁を貫くとは、何者だ!
いや、見なくてもわかる。
神代竜族だ!
我に気づいて駆けつけたか!
はははっ!
返り討ちにしてくれよう!
……
え?
ちょっと待って。
普通、お前らは一頭だろう?
一頭一頭が広い縄張りを持つ故に、集団で行動せん。
なのになぜ、そんなにいるのだ?
まさか……我、誘われた?
我を目覚めさせ、滅ぼす腹積もりであったか!
な、舐めるなっ!
まずは防壁の強化。
次に反撃だ。
我を罠に嵌めようとは、許さん!
絶対に許さんからな!
……と思うのだが、話し合うことも大事だと思うのだ。
うん、ちょっと落ち着かないかい?
たしかに我は神代竜族と争っているが、それはたぶんお主らの祖先だ。
恨みを継承するのはよろしくない。
我もお主らと敵対したいと思っておらぬ。
いや、ちょっとは思ったが思いなおした。
我らが戦う理由など、必要などないと思うのだ。
……
ええい、話を聞かんか!
愛と平和を知らんのか!
なぜ執拗に攻撃してくる!
わ、わかった、ここがお主らの縄張りだからか?
なら、その縄張りから出て行こう。
これでどうだ?
駄目か?
どちらでもいいから、とりあえず攻撃をやめろ!
波状攻撃はキツい!
キツいって言ってるだろうがっ!
蹴りを入れるな!
我の肋骨が折れたぞ!
見ろ!
肉がないから、わかりやすく折れてるだろう!
こらっ!
折れてるところを狙うなっ!
マナーがなっちゃいないぞ!
くっ。
そうか。
どうあっても攻撃を止めぬか。
そうかそうか。
我を本気にさせたようだな。
後悔するがいいっ!
って、いまから形態を変化させるところなんだから、邪魔をするなっ!
ほんとうにマナーを知らぬなっ!
ええい、こうなれば眷属!
我の眷属!
我を助けよ!
我、ピンチ!
超ピンチ!
援軍、援軍プリーズ!
来てくれたら待遇を改善することを約束するから!
捨て駒とかにしないから!
……
反応ぐらいせんかぁっ!
どうした!
まさかすでに滅びているのか?
天を覆う百万の我が眷属たちが全て?
馬鹿なっ!
ありえぬ!
い、いや、ありえぬのは我が早く目覚めること。
それを考えれば、すべてが我を滅ぼすために準備されていた?
眷属たちが滅ぼされておっても不思議ではない!
つまり、我は絶体絶命ということか?
そうか……
まあ、神代竜族たちは、半分ぐらい神みたいなものだ。
それが数を揃えている。
我が滅ぼされたとしても、不思議ではないか。
ふっ。
我もここまでか。
……
馬鹿野郎っ!
その程度で諦めるぐらいなら、鯨王などやっておらぬわ!
生き延びる!
絶対に!
そして、何万年眠ろうが再び力を貯え、我は世界を飲み込むのだ!
まずは邪魔された形態変化を無理やりに実行!
装甲重視!
そして、それを強制的に分離!
分離した装甲が神代竜族たちを襲う!
だが、その程度で倒せるとは思っておらん!
しっかりと追撃せねばなっ!
我は追撃する姿勢をとって相手に身構えさせたところで、体の大半を爆散させて逃走する!
体を爆散させるのは勿体ないが、あのままでは滅ぼされるだけだ!
それに、捨てるだけの効果はあった。
神代竜族たちは、我を見失った。
まあ、いまの我は小さき者たちの頭ぐらいのサイズ。
しかも、見た目はただの骨の欠片だ。
爆散した体にまぎれ、特定はできまい。
我は地面に伏せ、死んだふりをする。
我を追う神代竜族は……おらん。
よし、生き延びた!
あとはこのまま隠れるだけ!
そう思ったところで、我は何者かに捕まった。
いや、嘴で咥えられた。
我はその嘴の主を確認する。
そこらの者では、この状態であっても我は傷つかぬ。
恐れる必要はない。
のだが……
嘴の主は、フェニックスであった。
……
この状態じゃなくても我を滅ぼせる存在っ!
馬鹿なっ!
なぜここにいる!
神代竜族と手を組んだのか!
そしてまずい!
喰われる!
喰われたら死ぬ。
滅ぼされる。
存在が消える!
嫌だ!
許してくれ!
我の願いが聞き届けられたのだろうか。
フェニックスは我を喰わず、ぺっと捨てた。
……
助かったのは嬉しいが、ぺっはないんじゃないかな?
不味くて食べたくないみたいな感じで、気分が悪いのだが?
いや、食べられたいわけじゃないんだ。
ただ、ぺっする前に、ひと舐めしたから……
そんなに不味かったか?
……具体的な感想は必要ない。
心が折れるからやめて。
すまない。
うん、助かった。
ありがとう。
えーっと、それじゃあ我は逃げるから追いかけないでもらえるかな?
駄目?
フェニックスは我を足で掴み、どこか……小さき者たちが群れている場所に連れて行こうとしているのがわかる。
我を見世物にでもするのか?
フェニックスはそんなことせんよなぁ。
じゃあ、どうするのだ?
ん?
え?
嘘やん。
あそこ、神の力を持つ者がいるんだけど?
その前で裁きを受けろってこと?
我、眠っていただけなんだけど?
我は神の力を持つ者……の横にいる者の前に置かれた。
あれ?
三面六臂のほうじゃないの?
この三面六臂、魔神とやらの名残であろう?
眠っておっても情報収集はできる我。
すごいであろう。
ははははは。
えーっと、フェニックスよ。
通訳してくれぬと話が通じぬと思うのだが?
あと、急に小さくなったな?
それが本来の姿か?
とりあえず、我もここまでくれば無駄な抵抗はせん。
ただ、裁かれる前に主張はしたいのだ。
だから通訳を……
美味そうに魚を喰ってる場合じゃないだろう!
綺麗に骨だけを残すなっ!
骨だって美味しいんだぞ!
そのままが嫌なら、焼くなりなんなりしてだな……
後日。
よくわからぬが、我は五村なる大きな街の近くにある山の神殿で、祭られることになった。
なぜ我を鯨のご神体として扱う?
いや、その扱いに不服はないが……
その、我はお主たちの善悪でいうなら悪のほうに寄っていると思うのだが?
かまわぬのだろうか?
祭られて悪い気はしないので、大人しくはしておるぞ。
余計なこともせん。
大半は眠っておると思うしな。
ただ、神代竜族がときどき顔を見せにくるのは、なんとかならぬだろうか?
我が目的ではなく、竜を祭っている場所が目的なのはわかるが……
気が休まらん。
ドラゴン 「囲め囲め!」
鯨 「心がないんか?」
アイギス 「なんか見つけた」
村長 「よーしよしよし」