村の外のパレード シャシャートの街 天使族
天使族の視点です。
●登場人物
マルビット 天使族の長。
ルィンシァ ティアの母。
レギンレイヴ 天使族の最長老。
私は大樹の村に最近やってきた天使族の一人。
パレードに参加して、シャシャートの街にやってきたのだけど……
いつのまにか、ドラゴンたちとイフルス代官の勝負が行われていました。
……
なにこれ?
パレードの待機場所で、天使族の長であるマルビットさまが、私たちを呼び集めました。
そしてドラゴンたちとイフルス代官の勝負を指差し、ちょっと怖い顔で言います。
「ああなるように誘導した人、手を挙げなさい」
私は手を挙げません。
誘導なんてしていませんから。
周囲を見回しても手を挙げている者はいません。
よかった。
「そう。
では、あの結果は予想していなかったけど、なにかしら誘導した人、手を挙げなさい」
……
大丈夫。
うん、大丈夫。
変なことは言っていない。
第一、神代竜族を操ろうなんて危険なことは考えていない。
裸でマグマに飛び込むようなものだ。
私は誘導していない。
だから手を挙げない。
周囲を見回すと……
何人かが手を挙げていて、捕まっていました。
愚か者ですね。
処分するのかと思ったら、マルビットさまは弁明を聞くようです。
「ドースさまたち、五村ではっちゃけて文官娘衆から怒られたじゃないですか」
「反省したドースさまたちから、シャシャートの街では友好的にいきたいと相談を受けまして」
「相手の文化に合わせると、親しみやすさが増しますよと伝えたら……」
「ああなりました」
なるほど。
これでは、誘導というほどではありませんね。
処分されることはないでしょう。
そう思ったのですが、マルビットさまは甘くありませんでした。
「ドースさまたちは神代竜族ですよ!
そういった話をしても、ああなるわけないでしょう!
大事な情報が抜けていると判断します。
言いなさい」
マルビットさまの圧に屈したのか、捕まった者たちが言いました。
「ヒ、ヒイチロウさまが、それを聞いていました」
……
それって、ヒイチロウさまを使って、神代竜族を操ったことになりませんか?
つまり、あとでドースさまとかライメイレンさまから、叱られるやつ!
つ、捕まった者たちを差し出せば済む話ですかね?
天使族全員で連帯責任とかじゃないですよね?
待って待って待って。
え?
パレードの途中だけど、逃げたほうがいいのかな?
そう思ったら、マルビットさまが小さく、ほんとうに小さく呟きました。
「逃げたら、その人が元凶だと報告します」
えっとマルビットさま?
小さい声で言ったのは、逃げてほしいからですかね?
逃げた人に押しつける気ですね?
私は逃げるのを止め、周囲を見ました。
逃げようとしていた者が全体の半数ほどいましたが、マルビットさまの呟きが耳に届いたようです。
なにごともなかったかのように待機しています。
ちっ。
対策会議が始まりました。
とりあえず、明るい材料として……
ドラゴンたちは楽しそうにしていることです。
とくにヒイチロウさまはご機嫌ですね。
ターンに切れがあります。
明るくない材料として……
シャシャートの街で働くミヨさんが、私たちの近くで頭を抱えていることです。
イフルス代官がドラゴンたちの前に立ったからですよね。
ミヨさんもこの事態は予想できなかったと。
いや、まあ、誰が予想できるんだって話ですけど……
イフルス代官は奮闘しています。
ドラゴンたちを相手に、一歩も引いていません。
ルールはよくわかりませんが、イフルス代官にやられたのかドマイムさま、クォンさま、グラッファルーンさまが伏せています。
あと、イフルス代官を助けるために、何人かがイフルス代官と一緒に踊り出しています。
あ、その何人かはイフルス代官の部下や、イフルス学園の教師だそうです。
観客の応援の声でわかりました。
それで、どうしましょう?
楽天的に考えるなら、ドラゴンたちは天使族のことなど気にしていない。
神代竜族が天使族ごときに操られるわけがないと、見逃してくれる。
ハクレンさま、ラスティさまが取り成してくれる。
ヒイチロウさまが喜んでいるので、結果よしでお咎めなし。
そういった可能性もあります。
悲観的に考えるなら、パレードが終わったらドラゴンたちが天使族を殲滅しにくる。
一番ありそう。
これ以上考えても、怖くなるだけですね。
やめましょう。
ま、まあ、大樹の村で生活しているドラゴンたちの様子から、強烈な報復で許してくれる可能性もあります。
あると信じましょう。
ふう。
提案です。
天使族の命運はティアさま、ティゼルさまに任せて、全員で逃げませんか?
いい案だと思うのですが、却下されました。
そして、ルィンシァさま、レギンレイヴさまに睨まれました。
怖いなぁ。
それじゃあ、村長に頼るのは駄目ですか?
村長なら、なんとかしてくれぐはぁっ!
ルィンシァさま、レギンレイヴさまに殴られ、最後まで言えませんでした。
村長に迷惑をかけるのは駄目。
承知しました。
会議は紛糾しました。
意見が出ては否定され、また別の意見が出ては否定される。
まったく議論は進んでいないと全員が自覚しながらも、対策が打てずに困っているところに、文官娘衆の一人が私たちのところに駆け寄ってきました。
「そろそろクロさんたちが動きます。
準備をお願いします」
準備?
あ、ああ、パレードのですね。
私たちはシャシャートの街でパレードをするため、ここで待機しているのでした。
意識から抜けてました。
しかし……その、あの、言いにくいのですが……
私は駆け寄ってきた文官娘衆の一人に、ドラゴンたちとイフルス代官の戦いを指差して言います。
あれ、放置でいいのですか?
「大丈夫です。
村長が行きましたので」
えっと……
「五村で注意したのに、シャシャートの街でもはっちゃける。
ドラゴンたちには、罰が必要だと思うのですよ」
笑顔で答えた文官娘衆の目は、笑っていませんでした。
……
それを見た天使族は、黙って整列し、出番に備えました。
パレードの進行を、これ以上邪魔してはいけない。
この場にいる天使族の心は一つになりました。
あとは、パレードを頑張るだけです。
ええ、細かいことは、全て終わってから考えるとしましょう。
たぶん、この考えも一つになっていると思います。
文官娘「村長が行きました」
天使族「え? 村長に迷惑をかけることになるのでは?」
ルィン「村長の活躍がみられるとは光栄です」
レギン「さすが村長」
天使族「私、そうしようと言ったら殴られたのに」
ルィン「私たちが、迷惑をかけるのが駄目なのです」
レギン「そうです」
天使族「えぇ」
パレードの様子。
五村で進行、終わった者からシャシャートの街に移動。
シャシャートの街にある程度たまったら、シャシャートの街でもパレードスタート。
ドラゴンたち対イフルス代官のマナーチェック。
魔王国で流行っているルールのわかりにくいスポーツだと思ってください。