村の外のパレード 五村 前編
五村住人視点です。
パレードの先頭は、重武装の騎馬に乗った全身鎧の騎士が二人、並んでいる。
二人の騎士は、それぞれ胸の前に一本の剣を両手で掲げている。
右の騎士の剣は白く光り、左の騎士の剣は黒く光っている。
……
黒く光っている?
どういう状況だ?
ま、まあ、わからなくても神秘的なことは理解できる。
この二人の騎士がパレードの先頭なのだろう。
顔を兜で完全に隠しているので誰かはわからないが、その実力は見ていればよくわかる。
なにせ、剣を両手で掲げているのだ。
手綱は持っていない。
それにも関わらず、馬をまっすぐ歩かせ、さらに掲げている剣をまったく揺らさない。
こんな騎士が魔王国にいたのかと驚かされる。
しかし、なぜ顔を隠しているのか?
こういったパレードでは顔を出して、顔を売る意味もあると思うのだが?
全身鎧には家や爵位を示すようなものはない。
ただ細やかな装飾で、高そうというのだけはわかる。
この二人の騎士に続く一団は、魔王国の誇る近衛軍。
近衛軍とは、魔王が直接指揮する軍だ。
もちろん、弱兵はいない。
魔王軍の精鋭中の精鋭が所属する軍。
それが近衛軍だ。
今回のパレードには、その精鋭中の精鋭のさらに精鋭が選ばれて参加しているのだろう。
……
俺はその一団が掲げている旗を確認する。
近衛軍の旗だ。
着ている鎧とかも近衛軍のシンボルが記されている。
近衛軍で間違いないだろう。
なのに、なぜ武器を持たず、大きな盾を持っているんだ?
旗持ち以外の全員が盾を持っている。
全身を隠せるほどの大きい盾を。
しかも、横にではなく、正面に構えての行進。
なんだこれ?
どういう意味があるんだ?
しかも、人数が少ない。
二十人ほど?
旗を持っている一人は最後尾で、その前で盾を持った者たちが行進している。
パレードに関して語れるほど詳しくはないが、旗持ちは一団の先頭にいるべきじゃないのかな?
それに、盾を持った者たちは、いつでも飛び出せるように緊張しているふうにも見える。
この奇妙な一団の意味がわからないのは俺だけじゃないようで、周囲からざわめきが起きた。
そのざわめきを消したのが、次の一団。
楽隊だ。
五十人ほどが華やかな衣装を着こみ、それぞれ持った楽器を奏でながらの行進。
軽快な音楽で、見物する者たちを盛り上げている。
周囲にいる者たちは近衛軍の一団のことを忘れ、次の一団に期待した。
楽隊に続くのが…………え?
魔王?
え?
もう?
魔王が屋根のない馬車に乗ってやってきた。
……
早くない?
もっと出し惜しみしないと。
いや、魔王が出てきたのが駄目ってわけじゃないけど……
素人でも、魔王の順番が早すぎると感じているはずだ。
その証拠に、楽隊によって消えたざわめきが戻ってきた。
どうするんだ?
このままじゃ、パレードが失敗になるぞ?
魔王は満面の笑みで周囲に手を振っているけど、これでいいのか?
い、いや、慌てるのは早い。
このパレードには、五村が誇る村長代行のヨウコさまが参加しているのだ!
無様なパレードを許すはずがない!
そう思っていたのだが……
魔王に続くのは、魔王国が誇る四天王の方々!
内務担当のランダンさまの乗る馬車。
外務担当のクローム伯の乗る馬車。
財務担当のホウさまの乗る馬車。
……
あれ?
軍務担当のグラッツ将軍は?
四天王、揃ってないですけど?
見ている者が不安になるなか、それを払拭したのがその次にやってきた者たち。
三人の獣人族の男だ。
彼らは知っている。
五村村長の子供たちだ。
五村で派手な結婚式をやっていた。
あのときはお祭り騒ぎだった。
それに、今回のパレードの準備でよく顔を出していた。
予行演習も彼らの手配だ。
三人は馬に跨り、周囲に手を振りながら進んでいる。
見知った相手に、周囲の歓声が大きい。
動揺の大きかった魔王のときより大きいんじゃないかな?
いいのか?
これで?
三人の獣人族に続くのは……
えっと、誰?
シャシャートの街から王都までのあいだにある街や村からの参加者?
一つの場所から三~四人が参加しているから五十人の集団と。
へー。
俺たちが困惑するのはわかるが、行進に参加している側も困惑しているように見えるのは気のせいなのかな?
続いて、魔王国軍第一軍団。
第二軍団。
第三軍団。
第四軍団。
第五軍団。
それぞれ、三十人ほど。
人間の国との最前線を支えている各軍団だ。
近衛軍ほどではないけど、魔王国軍の中核なのでかなりの実力者揃い。
ただ、なぜ彼らは剣を持っていないのだろう?
第一軍団は斧、第二軍団はスコップ、第三軍団はクワ、第四軍団はハンマー、第五軍団は鎌を持っている。
防具も軽装……
いや、防具をつけていないな。
普通の軍服だ。
正直、これから森を開墾すると言われても納得できそうな格好だと思う。
パレードを見る者を威圧しないための配慮なのだろうか?
それなら成功といえるのかもしれないけど、個人的には強そうな姿がみたいなぁ。
そんなことを思っていたからだろうか。
願いは叶えられた。
長かったので分割です。
後編、すぐに更新します。