村の外のパレード 五村 開始直前
五村住人視点です。
夜明け前。
五村の北東に位置する山に建てられた神社。
その神社の閉ざされた正門前から伸びる道の左右に、大勢が集まっていた。
俺もそのうちの一人だ。
俺は五村に住む獣人族の男。
五村に来る前は冒険者をやっていたが、いまは五村で案内人をやっている。
おっと、怪しい商売じゃないぞ。
ちゃんと村議会の認可を受けてやっている、まっとうな商売だ。
仕事内容は、五村に移住してきたばかりの者たちや、五村に不慣れな商人たちを相手に、五村の名所を案内することだな。
まあ、大抵はラーメン通りか地下商店通りを案内することになるけど、いろいろと説明しないといけないから思ったより簡単な仕事じゃない。
案内している客がトラブルを起こさないように、面倒もみてやらないといけないしな。
最近の悩みは、客がやたらとファイブくんと会いたいと言うことだ。
ファイブくんは人気で、五村のあちこちに呼ばれている。
五村に住んでいる者でも、なかなかファイブくんの居場所を知るのは難しい。
俺でも難しい。
でも、逆に探してほしいと言われたら、探さないといけない。
ほんとうに大変なんだ。
運がよかったらファイブくんに握手してもらえる役得はあるけど。
さて、そんな俺が夜明け前に外にいるのは、残念ながら仕事じゃない。
プライベートだ。
そして、正確には夜明け前ではなく、昨日の夜からずっといる。
まわりの連中もそうだ。
寒さは問題ない。
十分に暖かくなっているし、体調が悪くなった時に備えて救護所なる場所もある。
食べ物や飲み物の心配もない。
少し離れた場所に、食べ物や飲み物を売る屋台がこれでもかと並んでいる。
値段はついているが、俺たちは支払いの心配をしなくていい。
これらの支払いは、全て魔王国が持ってくれることになっている。
だからって暴飲暴食をすれば、周囲から白い目で見られるし、あとが怖い。
まあ、そんな馬鹿なことをするやつはいない。
絶対にいないと言える。
なにせ、これから行われるのは魔王国のパレードだからだ。
冬の中ほどから準備が始まったパレード。
まあ、簡単に言えば祭りだな。
祭りゆえに、お調子者がトラブルを起こすのはよくあることだが、今回はそれは大丈夫だ。
トラブルはすでに終わらせている。
ああ、終わらせているんだ。
あれは五日前だったか。
パレードの予行演習が行われた。
……
ドラゴンが三頭、並んで歩いていた。
俺はよく知らないが、混代竜族らしい。
あまり公言はされていないが、五村ではドラゴンはそれほど珍しくない。
けっこう村の近くに着陸したりする。
場合によっては村に着陸する。
余計なことをしなければ、こっちに危害を加えない存在として認識されている。
もう一回言うが、公言はされていない。
暗黙の了解というやつだ。
そのドラゴンが三頭。
かなりの迫力だったが、ちゃんと並んで歩いていたので恐怖はなかった。
先頭のドラゴンの頭の上に、ヨウコさまが立っていたのも大きい。
ドラゴンは問題なかった。
問題があったのは、そのドラゴンの少し後ろを歩いている三メートルぐらいの巨大な狼。
インフェルノウルフというらしい。
聞いた話だと、一頭で街を滅ぼせるぐらいの強さだということだ。
ドラゴンの強さは想像できなかったが、こっちのインフェルノウルフは想像できた。
なぜかできてしまった。
そして、そのインフェルノウルフは十頭いた。
予行演習を見物していた者は、大混乱というか気絶者が続出というか大惨事だった。
俺も気絶した。
気づいたら、見覚えのない建物の屋根の上にいた。
怖かった。
ほんとうに怖かった。
本能を刺激する怖さというのは、あれのことだろう。
あれを前に、平然としていられる者がいるのだろうか?
いないと言いたい。
あんな危険な生物をパレードに出すとか、なにを考えているんだと叫びたい。
実際、叫んだ。
しかし、いまではその考えは間違いだったと思っている。
なぜって?
大惨事を演出したインフェルノウルフたちが、これでもかと落ち込んでいる姿を見たからだ。
巨体を丸め、悲しそうな顔をしているのを見たからだ。
あのインフェルノウルフたちは、俺たちを怖がらせたかったんじゃない。
ただ、パレードの練習をしていただけだ。
並んで歩いていただけだ。
襲ってきたわけじゃないのに、俺たちが勝手に怯えて不満をぶつけてしまった。
俺は反省した。
ただ怖いからと排除しようとしたことを。
彼らは、俺たちと一緒にパレードを成功させるための仲間だ。
いま、ここにいるのはそう思った者たちだ。
だから、絶対にトラブルは起きない。
みんな、覚悟を決めている。
ちなみにだが、ヨウコさまからの命令で、心臓が弱い者や病人、妊婦、妊娠の疑いがある者は予行演習を含めてパレードの見物は禁止になっている。
正しい判断だと思う。
パレードに死人は似合わない。
そんなことを思い出していると、ゴーンと鐘の音がうっすらと聞こえた。
気のせいか?
いや、今度ははっきりと聞こえた。
夜空に鐘の音が響いている。
周囲の者にも聞こえているのだろう。
ざわつきが大きくなった。
だが、すぐに静かになっていく。
パレードが始まるのだと感じたからだ。
夜空に鐘の音を鳴らすものが飛んでいる。
巨大な鳥だ。
しかも、燃えている。
あれは……伝説の鳥!
フェニックスだ!
フェニックスは足に大きな鐘を持っている。
その鐘を鳴らしながら、こちらに……いや、神社の正門に向かっている。
そのままぶつかるのか?
周囲にそう思わせたところでフェニックスは空中で急停止し、大きく羽ばたいて上空に向かった。
俺たちは、そのフェニックスを追いかけるように見上げていると、夜明けの光が周囲を照らした。
そして、神社の正門が重い音を響かせながら、ゆっくりと開かれた。
パレードの開始だ。
お待たせしました。
村の外のパレードの開始です。
次話は、できるだけ早く更新したいと思います。