続・パレード開催実行委員会
前話の続きです。
問題だ。
誰がドラゴンと交渉する?
リーダーも、さすがに誰かに押しつけたりはしない。
実現不可能なことを命じないのは素晴らしいが、このままではパレードの開催が危ぶまれる。
魔王様の命令で、ドラゴンたちのパレード参加を拒否することはできない。
それゆえ、受け入れる。
受け入れるから情報が欲しい。
参加する数は?
どれぐらいの歩幅で歩くのか?
そして道の横幅は、どれぐらい確保しなければいけないのか?
とくに道の横幅は大きな問題だ。
ここがわからなければ、コースを決められない。
コースが決まらなければ、警備計画や観客の誘導計画も立てられない。
時間がないのに、行動できない最悪の事態だ。
交渉できるのであれば、専用のコースを用意するとかの対策を提案できるのだが……
困った。
委員会に重い空気が圧しかかる。
だが、希望はあった。
いや、希望がやってきた。
やってきてくれた。
委員会が借りている建物の前を歩いていたのを見かけた同僚が泣いて頼んで連れて……失礼。
丁重に騙して……違うな。
正直に言おう。
丁寧に捕まえて連れてきた。
私たちの希望。
獣人族のゴールさま、シールさま、ブロンさま!
見た感じ、まだまだ若い彼らが私たちの希望なのには理由がある。
まず、彼らは会話ができる!
おっと、会話なんて誰でもできると思っているな?
会話を馬鹿にしてはいけない。
同じ言葉を話していても、通じないということはよくあることなのだ。
うん、ほんとうに。
悲しいことにね。
だが、彼らはちゃんと会話ができる。
さらには貴族の言葉も使える!
空気も読める!
すばらしい!
そして、彼らは結婚しているのだが、ゴールさま、シールさまのお相手は大貴族のご令嬢!
ブロンさまのお相手は一般のかただが、ブロンさまはゴールさま、シールさまと強い友人関係にある。
つまり、三人は大貴族に繋がりがある。
繋がりがあるということは、とても大きい!
会うだけで数日待たされることが日常の世界で、待っている者を飛ばして会ってもらえるのだ!
すごいぞ!
待っている者には迷惑で申し訳ないが、こっちも仕事だ!
魔王様からの最優先だぞ!
なのにすぐに会おうとしないあの地位だけのクソ馬鹿共に……おっと、いけない。
冷静に。
そう冷静に。
汚い言葉を使ってはこちらの品位が疑われる。
上品に。
ことの重要性を理解せず、己が見栄を重視するうっかりさんたちにも、大貴族との繋がりを利用してすぐに会って交渉に入れるのはとても助かるのだ。
……
駄目だ、我慢できない。
最優先だと何回も伝えたのに、息子の妻の弟の子供の友人が来たからって、こっちを後回しにしてるんじゃねぇっ!
地獄に落ちろクソ共!
ごほん。
最後に、この三人。
文官の仕事に理解がある。
とても理解がある。
殴ればいいやと考えない。
段取りや根回しの意味を知っている。
政治や派閥をわかってくれている。
文官を馬鹿にしない。
素晴らしい人材だ!
ちなみに、彼ら三人を狙って軍務大臣のグラッツ将軍、財務大臣のホウさま、内務大臣のランダンさま、外務大臣のクローム伯が密かに暗闘しているとの噂があるが、真偽は不明。
ただ、現在は魔王様直属として扱われている。
優秀な人材の独占反対!
さて、私たちの希望である三人を仲間に引きずり込む……違う。
協力をお願いしなければいけない。
失敗できない交渉だ。
おお、さすがリーダー。
自ら交渉に出た。
連れてきたことの謝罪からはじめ、現状の説明。
そして協力の要請……
現状の説明の段階で、三人が頭を抱えて協力してくれることになった。
なぜだ?
いや、ありがたいけど!
早まってはいけない!
報酬の話をしっかりするんだ!
ただ働きはよくない。
正当な報酬を勝ち取るんだ!
三人の協力が得られたことで、パレード開催実行委員会の活動が活発になった。
問題であったドラゴンとの交渉も、三人が担当してくれた。
とても助かる。
おっと、もちろん押しつけるだけじゃない。
ちゃんとサポートもする。
彼らだけで判断できないこともあるだろうしな。
しかし、僅か半日で、パレードに参加するドラゴンの数や歩幅、横幅を教えてもらってくるとはさすがだ。
訪ねたら、練習しているところだった?
行進の練習……
あ、うん、そうですか。
やる気があって喜ばしいと言っておこう。
うん、気まぐれで突然不参加という希望がなくなったと覚悟しておくよ。
しかしこの横幅……
まいったな。
一番大きいドラゴンの通れる道がない。
家などを踏み潰しながら行進することになる。
当初の予定通り、ドラゴンたちには専用のルートで行進してもらう必要がありそうだ。
あと、どの小さいドラゴンでも転移門を通れないのだけど、このあたりはどうしよう?
三人に頼ってばかりでもうしわけないが、改めて確認をして……
そのあたりも話し合ってきた?
え、ほんとう?
本隊と一緒に行進する時間があるのであれば、専用のルートは受け入れる?
つまり、専用のルートを本隊と一緒に行進して、途中で分かれればいいと。
おお、助かる!
でもって、ドラゴンたちは転移門は通らずに飛んで移動すると。
なるほど。
まあ、どれだけ急いでも転移門での移動には時間がかかる。
そのあいだにドラゴンは転移門から転移門まで飛んで移動すると。
ふむ、さきほどの専用のルートの話と合わせても、悪くない。
すごくいい話だ。
ああ、よかった。
ほんとうによかった。
道を塞いでいた大岩が取り除かれたような開放感だ。
この三人が協力してくれて、とても幸運だ。
ん?
なにか疑問でもあるのか?
ああ、つまらないことでもかまわないさ。
君たちの質問になら、なんにでも答えよう。
聞いてくれ。
……
パレード開催実行委員会の名称にかんして?
開催と実行は言葉が被っているんじゃないかって?
ははは、そこに目をつけたのか。
大丈夫、ちゃんと理由がある。
あれには不可能を可能にするという意味が込められているんだ。
そう、《不可能な開催を実行する委員会》なんだ。
他言無用だぞ。
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
助かってます。