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パレード開催実行委員会


 私は魔王国に仕える文官の一人。


 普段は王都にある職場で、多くの同僚たちと働いている。


 私の立場的には……高くもないが、低くもない。


 いわゆる中間管理職というやつであろうか?


 いや、中間管理職だと高く感じるな。


 中間管理職の補佐ぐらいにしておこうか。


 実際の仕事もそんな感じだし。


 まあ、それなりに責任のある立場で、それなりにやっているということだ。


 うん。




 さて、ある日。


 うん、冬のある日。


 私の職場にとある仕事が舞い込んだ。


 パレードを開催するので、その手配をせよとのことだ。


 魔王様の希望らしく、《最優先》とえられていた。


 すぐさま、私を含め六十人ほどの同僚が招集しょうしゅうされる。


 大がかりだな。


 魔王国の文官に、すぐさま新しい仕事に取りかかれるほどひまを持て余している者などいない。


 なにかしら仕事を持っている。


 なのに、六十人も集めるなんてどういうことだ?


 上司ではないが、私に指示を与えることの多い同僚に確認すると……絶望的な事実が判明した。


 まず、準備期間が短い。


 圧倒的に短い。


 今は冬だが、春にやらないといけないらしい。


 無茶だと叫ぶことが許される期間の短さ。


 王都でパレードをするなら、少なくとも半年は準備期間がほしい!


 一年あるのが理想。


 さらに、春ってふんわり決まっているだけで正確な日程は不明。


 具体的には、春の種植えが終わったとき?


 それは具体的とは言わない。


 開催する気があるのかと疑ってしまうが、できるだけ速やかに開催できるようにと内務大臣ランダンさまからの内示ないじがあった。


 開催する気はあるらしい。


 次にルートが長い。


 細かいルートはまだ決まっていないが、魔王様の意向では王都だけでなく王都と転移門で繋がっている村や街を巻き込む。


 転移門を使うから実際の距離としては短いかもしれないが、僅かずつしか通れない門が複数あるということは交通整理が死ぬほど大変だ。


 それに、パレードの最中は転移門の使用が封鎖ふうさされる。


 パレードの前後で流通が止まるということだ。


 対策しないと混乱が起きるだろう。


 さらに、パレードに参加する予定の勢力が複数。


 正直、軍のパレードであるなら問題は少ない。


 一番の問題になるであろうパレードに参加する者の管理ができあがっているから。


 しかし、今回はそうではない。


 軍だけでなく、村や街から参加者を集めている。


 これ、数年前から準備してやる内容じゃないかな?


 冬に決めて春にやる内容じゃないのはたしか。


 あまりにも絶望的な事実。


 だが、安心してほしい。


 絶望だけじゃない。


 希望がちゃんとある。


 同僚の一人が魔王様に直接、無茶振りするなとうったえたそうだ。


 これで多少の期間の延長が期待でき……え?


 延長してこれなの?



 ほぼ全員で辞職じしょくを願い出たが、上司に笑顔で却下された昼過ぎ。


 絶望していても仕方がないので動く。


 まず、大きな場所を借りて全体ミーティングが行われた。


 仕事内容の確認と分担をしなければいけないからだ。


 とりあえず、パレード開催実行委員会が結成され、六十人の中で立場が上の者……普段の立場や生まれは考慮されず、能力のみで選ばれた三人がリーダーとサブリーダーに任命された。


 三人は即座に逃げようとしたが、残りの者たちで捕まえた。


 危ないところだった。


 魔法を放ってくるとは。


 危うく借りた大きな建物が燃え落ちるところだったが、小火ぼやで済んでよかった。


 一人は王都の外まで逃げたが、魔獣に襲撃されて足止めをくらっていたので、追いつくことができた。


 運がないようだ。


 まあ、この仕事のリーダーを任されるような男だ。


 運がないのも仕方があるまい。



 改めて、全員がそろったところで、パレード開催実行委員会のミーティングが再開された。


 借りた場所は消火作業で水浸みずびたしになっていたが、新しい場所を確保する時間も惜しかった。


 パレードを実現するために、なにをしなければいけないか?


・参加者の確認。


・ルートの確保。


 まず大事なのはこの二つ。


 どういった者たちが参加するかを確認し、パレードでの行進位置などを考えなければいけない。


 幸いなことに、参加者の希望や行進位置に関しては魔王様からおおまかな指示がある。


 ほんとうにこの順番でいいのかと上司が二回確認しているから、問題はないだろう。


 ただ、現状では転移門のある村や街から、代表を含めて若干名じゃっかんめいという曖昧あいまいな感じが困る。


 できれば、それぞれ十人前後であってほしい。


 まあ、私たちの希望は横に置いておくとして、参加者たちに連絡をしなければいけない。


 現段階では、こちらが一方的に参加してほしいと考えているだけで、参加するように説得することも私たちの仕事だ。


 一応と言っていいのか、シャシャートの街と五村には話が通っているらしい。


 まあ、だとしても改めてこちらから伝達しなければいけないのだけど。


 ルートの確保に関しては、パレードを各地でどうするかなのだが……


 これは各地の希望というか、現状を把握はあくしなければ決められない。


 転移門があるからすぐに行けるのが救いだな。



 リーダーが、何人かを選んで二つの仕事に割り振っていく。


 私は選ばれなかった。


 私に割り振られたのは、招待客の管理だ。


 パレードはさまざまな目的で行われるが、基本的には開催する地の者たちに向けてやるものだ。


 だから招待客も開催地の有力者たちになるのだが……


 世の中には、開催地とはまったく関係ない場所にいるのに「パレードをするのにこちらに声をかけないとはなにごとだ」と怒る者がいるのだ。


 私としては、面倒なことにわざわざ首を突っこまなくてもと言いたいが、たしかに誘われないのもさびしい。


 気持ちはわかる。


 わかるが……


 魔王国の広さを考えてほしい。


 世界の半分は魔王国だ。


 連絡しても、返事が返ってくるのが半年先とか普通にある。


 今回の場合、《パレード開催のお知らせとお誘い》を送ったとしても、向こうの返事が届いたころには終わっている可能性が高い。


 ならば、《パレード開催のお知らせとお誘い》を送らないのが正解だと思うのだが、そうもいかない。


 さきほども言ったが、誘われないのは寂しいのだ。


 どうするべきか?


 各地の有力者に連絡し、おさえてもらうのが一番だろう。


 各地の有力者が、こう言って不満を持つ者たちをなだめてくれるのが一番だ。


「王都でパレードが行われるとの連絡をもらったのだが、急に決まったことで我らは参加したくても間に合わぬ。

 すまないと魔王が気にしていた」


 うん、いいね。


 魔王様が頭を下げる形になることが問題だが、これで丸く収まるはず。(希望)


 魔王様が了承してくれれば!


 ……


 駄目もとで魔王様に頼んでみよう。


 わーきゃー言う者はでるだろうけど、数年もすれば収まる無難な案なのだから。




 数日後。


 パレード開催実行委員会にとある報告が飛び込み、激震が走った。


 シャシャートの街からのパレード参加者、一千五百人超。


 二千人ほどと予想される。


 五村のパレード参加者、二千人超。


 三千人ほどと予想される。


 ……


 このパレード、半日の予定だよね?


 え?


 五千人を超える数が、転移門を使って移動?


 五千人の軍とは違うのだぞ!


 一般人を並んで行動させるのに、どれだけの労力がかかると思っているのだ!


 断れ!


 参加人数をしぼれ!


 委員会で巻き上がる怒号に対し、報告者が小さい声で言った。


「魔王様から、各地からの参加者は全て受け入れるようにとの指示が来てます……とくにシャシャートの街と五村からは、絶対に受け入れるようにと」


 …………


 パレード開催実行委員会が、一瞬だけ反魔王委員会になったが、それぞれの忠誠心で持ちなおした。


 すごいぞ忠誠心。


 私にもあったんだ。


 新しい発見だなぁ。


 魔王様は、私に妻と娘がいることを喜ぶべきだと思う。




 パレードは複数日開催になった。


 参加者の寝る場所やトイレなどの確保が、私の仕事に加わった。


 ああ、参加者の食事も考えないといけないのか。


 招待客のこともあるし、頭が痛い。


 うなれる私のいる委員会に、新たな報告が飛び込んできた。


 ん?


 まだ数が増えるのか?


 もう多少のことでは驚かんぞ。


「いえ、そうではなく……えっと、その……」


 なんだ?


 はっきり言ってくれ。


「ドラゴンとワイバーンがパレードに参加するそうです」


 ……


 そうか。


 まあ、魔王様がどうやったのか知らないが、ドラゴンやワイバーンが空をにぎわしてくれるのだろう。


 いいことじゃないのか?


 ひょっとして、そのドラゴンやワイバーンの食糧を、こちらで用意しなければいけないのか?


 急ぎ、食糧の在庫の確認を……


「食糧の心配は無用とのことです。

 ですが、その……えっと、ワイバーンは空を飛ぶそうですが、ドラゴンは歩くそうです」


 …………


 なぜ?


「パレードですので……行進し(歩き)たいそうです」


 えっと……ドラゴンの横幅、どれぐらいか知ってる?


「詳しくは知りませんが、選定中のルートの道幅では足りないんじゃないかなぁと……」


 ルートを確保している同僚たちが悲鳴をあげた。


 私はルートに関わる仕事をしていないが、喜んだりはしない。


 なぜなら、向こうの仕事が増えた分のしわ寄せがこっちに来るから。


 あと、こっちにも似たようなことが起きると、なぜか私は確信できたから。





感想、評価、いいね、レビュー、ありがとうございます。

これからも頑張ります。


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― 新着の感想 ―
トップの頭ん中お花畑だと、部下は苦労するよなー…
2025/09/14 13:22 名無っしー
年と日の概念はあるっぽいけど、月の概念はない感じなので「何ヶ月先」は使えなさそう。 過去の出来事を掘り起こす事があるので、西暦っぽいものがあると前後関係を把握しやすいかも?
[良い点] これはひどい…ww
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