超高速 村のパレード 前編
2023/05/22 ラズマリアに関してちょこっと文末に追加。(4行ほどです)
揃いの長槍を持ったケンタウロス族が四人、いや四騎。
それらは少しずれた二列縦隊の形を維持して疾駆していた。
かなりの速度を出しながらも形に乱れがないことから、少しずれているのはわざとだろう。
左右の視界を邪魔しないためかな?
その四騎が俺の乗る櫓の横を通ると、待機していたリザードマンのダガが大空に向かって音の出る矢を放つ。
その音を合図に天使族とハーピー族が飛び立ち、ハイエルフたちが楽器の演奏を開始する。
今年の村のパレードの始まりだ。
今年の村のパレードの先頭を進むのは獣人族の一団。
その先頭は革鎧を着こんだガルフ。
ガルフを含め、獣人族は全員が両手に曲がった剣を持ち、舞いながら進む。
好き勝手に舞っているように見えるが、要所要所で動きを合わせているので適当に舞っているわけではない。
やろうと思えば一糸乱れぬ動きもできるだろう。
それぐらい獣人族たちは練習していた。
なにせ、獣人族は村のパレードの先頭であることを文官娘衆から伝えられたとき、全員が涙を流した。
獣人族の女の子たちや、ガットたち鍛冶師を含め、全員が。
そんなにパレードの先頭をやりたかったのかと、これまで任せなかったことを申し訳なく思ったほどだ。
まあ、たしかに先頭は悪いポジションではない。
目立つしな。
……
泣くほどではないような気もするが、細かいことは言わないでおこう。
ともかく、先頭を任された獣人族たちは、隙をみつけては練習していた。
その成果が十分に出ている。
ちなみに、獣人族の代表はセナなのに、なぜガルフが先頭なのかというと……
実はパレードが開催される数日前に、妊娠していることが発覚。
今年はアンやラムリアスと一緒に、見学席での待機となった。
せっかく練習していたのに、すまない。
まあ、本人が出たいと言っても周囲の獣人族たちが止めただろうけど。
獣人族の一団に続くのは、楽器を持ったハイエルフの一団。
打楽器、吹奏楽器、弦楽器を演奏しながらの行進は、動きに派手さはないが迫力がある。
そのハイエルフの一団の後ろに、大きな槌を持った北のダンジョンの巨人族たち。
この大きな槌は、今回のパレードのために巨人族たちが作ったものだ。
去年の夏ぐらいからコツコツと準備していたらしい。
それを見せびらかすように振り回している。
あ、用意された杭を叩いている者もいるな。
実用性があるようでよかった。
パレードにしか使わないにしては、しっかり作り込まれているからなぁ。
巨人族の後ろには、南のダンジョンのラミア族たち。
彼女たちは、刃のついた輪を個々に複数持ち、ジャグリングをしながら行進をしている。
輪を前後左右に交換しながら、フォーメーションも変更しているので、彼女たちもかなり練習したのだろう。
そこには感心するが、刃はなくてもと思ったりしないこともない。
ラミア族の次は、クロとユキを先頭にしたインフェルノウルフの一団。
外でのパレードを意識しているからか、例年よりも凛々しくみえる。
よそ見をする者もいない。
見事な統率だ。
そのインフェルノウルフの一団に続くのがザブトンたち。
ザブトンを先頭に、ザブトンの子供たちが入った着ぐるみが続く。
着ぐるみを乗せる馬車は完成して、外でのパレードを意識するならケンタウロス族に牽引してもらうべきなのだが、ここは村のパレード。
ザブトンたちの中にケンタウロス族が入るのもなんだったので、今回は馬車は全て連結してザブトンが牽引している。
こうなると馬車ではなく台車だなぁと思わなくもない。
ザブトンの子供たちの数匹が着ぐるみから出て姿を見せているけど、外でのパレードでは駄目だぞー。
ちゃんと隠れてないと叱られるからなー。
ザブトンたちのあとは、少し空白ができる。
途切れたわけではない。
続くのがドラゴン姿のドラゴン族だからだ。
先頭はドース、続いてライメイレンにヒイチロウ、グラル、ギラル、グーロンデ、ハクレン、ラスティ、ドライム、グラッファルーン、ドマイム、クォン、クォルン、セキレン、マークスベルガーク、スイレン、ヘルゼルナーク。
本来なら一頭が歩くだけでもそれなりの振動があるのだが、かなり気を使って歩いているために振動は少ない。
行進速度は遅いが、ドラゴン族は巨大なので引き離される心配もない。
あー、ヒイチロウが楽しそうだな。
グラルもニコニコしているのが、ドラゴン姿でもよくわかる。
最後尾はヘルゼルナークではなく、もう一頭。
ドラゴン姿のラナノーンがいる。
村の外のパレードには不参加だが、こちらには参加する。
俺としては外のパレードに参加しないのはドラゴンの姿になれないからかなと思っていたのだが、実はドラゴンの姿になれた。
いつからなれたのかは知らない。
ただ、ラナノーンはあまりドラゴンの姿になりたがらず、周囲に教えていなかったらしい。
知っていたのはラスティだけ。
そのラスティが、ラナノーンに参加するように言い聞かせた。
俺としては無理に参加しなくてもとは思うが、ドラゴンの姿になれるならちゃんと紹介しておく必要があるらしい。
ドラゴンの姿を教えていないと、いざというときに攻撃されたりするかもしれないからだ。
ラナノーンも村のパレードならばと、前向きに参加してくれたのだが……
ラナノーンのドラゴンの姿……
灰色の鱗に覆われ、大人のドラゴンよりも少し大きい。
その瞳は炎のような赤だが、狂暴さよりは知性を感じさせてくれる。
悪くない。
いや、かっこいいと思うが、ラナノーンとしてはイマイチと思ったからドラゴンの姿になりたがらないのかな?
見る角度によれば、灰色が輝いて雪のようにも見えるのだが……
ちなみに、ラナノーンのドラゴン姿を初めて見たドースとギラルは震えあがった。
ラナノーンの名を持つ知り合いの姿を幻視してしまったらしい。
似ているのかな?
似てない?
全然違う?
ならなぜ幻視したんだ?
ギラルにいたっては、グーロンデを盾にしたよな?
波長が似てる?
雰囲気のことか?
ともかく、ラナノーンが気にするから、あんまり怯えたりしないように。
ドラゴン姿のギラルをよく観察すると、頭部や首に傷があるのがわかる。
盾にされたグーロンデからのお話の結果だろう。
ドラゴン姿でのお話だったからな。
そんなギラルの横を、パレード開始時に飛び立った天使族とハーピー族の集団が飛行する。
天使族の先頭はレギンレイヴ。
その左右、少し遅れてマルビットとルィンシァ。
さらにその左右に、スアルロウとラズマリアが位置取っている。
ハーピー族は軽装だが、天使族は重装備だ。
去年の秋、プギャル伯爵を捜索するときの姿だな。
金色が神秘的な戦闘装束だ。
そして、そのまま戦場に行けるんじゃないかという雰囲気があるのは、レギンレイヴが先頭だからだろうか?
天使族の長であるマルビットが先頭でないのは、集団戦闘の指揮能力を比べた結果だ。
マルビットやルィンシァはどちらかといえば、政治、戦略向き。
集団を率いての戦闘となると、レギンレイヴ、スアルロウ、ラズマリアがマルビットたちの上を行く。
その三人の話し合いというか、十人ぐらいのチームで模擬戦をやって、レギンレイヴが勝利。
先頭を勝ち取った。
余談だが、キアービットは政治、戦略向き。
ティアは部隊を率いることもできるが、もっとも力を出せるのは個人戦だそうだ。
同じくグランマリア、クーデル、コローネの三人も部隊を率いることもできるが、部隊を持たせずに三人組で行動させたほうが戦果は大きいらしい。
天使族に同行しているハーピー族は、軽装だけど背や足に荷物を持っている。
荷物は天使族のための武装や食糧のようだ。
なるほど、天使族の戦闘能力を維持するためのサポート役か。
場合によっては、天使族と一緒に突撃もする?
ハーピー族も大変だな。
ん?
それは追い詰められたときの最後の手段?
基本は逃げるというか、負傷した天使族を回収して撤退するのか。
なるほど。
何人か見慣れないハーピー族がいるが、それはラズマリアがガーレット王国から戻ってきたときに連れてきた者たちだろう。
ラズマリアは冬のあいだ、ガーレット王国の派閥争いを監督するために戻っていた。
春になった途端、戻ってきたけどガーレット王国は大丈夫なのかな?
ラズマリアが楽しそうに飛んでいるから、問題はないと信じよう。
超高速ってタイトルなのに、前後編になってしまった。
後編、急ぎます。