十九年目の春
●用語説明
換羽 羽根の生え変わりのことです。
大樹の村の冬は終わり、春を迎えた。
ニュニュダフネたちも、文句なしの春だと喜んでいる。
村の梅は花を咲かせ、桜はもう少しで咲きそうだからな。
花見も楽しめそうだな。
だが、遊ぶ前にやることをやらねばならない。
そう、畑仕事の時間だ。
ふふふ。
【万能農具】が輝くぞ!
ん?
パレード?
ああ、今年の村のパレードは田植えが終わったあと。
外のパレードは、村のパレードの十日後になった。
魔王がいろいろな人を呼ぶらしく、それぐらいの時間の余裕がほしいそうだ。
パレードを取り仕切る文官娘衆たちがそれで問題なしと判断したので、そうなった。
とりあえず、畑仕事に集中だ!
っと、その前に。
春なので、ザブトンが目を覚ました。
ヨウコの名誉のため、ヨウコの謝罪の一幕は語らないでおく。
ただ、謝罪なのに感動があったことだけは知ってほしい。
見ていた人たちの顔は虚無だったけど。
でも、たしかに感動はあった。
……
なんであれに感動があったんだろう?
世の中、不思議だ。
あと、一応ではあるが、俺もちゃんとヨウコを擁護したので、ザブトンからの厳しいお叱りはなかった。
代わりではないだろうが、俺がザブトンから注意された。
見知った場所でも不用意に行かない。
ちゃんと警護を同行させる。
また、初対面の人と会うときは十分な警戒をするようにと。
厳しめに言われた。
気をつけます。
冬眠明けのポンドタートルとも再会。
久しぶりだな。
今年は氷を割るのはやらなかったのか?
タイミングが悪かった?
そうだな、春になると思ったところが急に寒くなったりしたからな。
体調に問題は?
健康そうでなにより。
しっかり食べてくれ。
畑仕事の合間。
ドース、ライメイレン、ヒイチロウ、グラル、ギラル、グーロンデ、ハクレン、ラスティ、ドライム、グラッファルーン、ヘルゼルナーク。
ドラゴン姿のドラゴン一家が、村から少し離れた森の中をドシンドシンと並んで行進していた。
外で行うパレードの練習だ。
当初、ドラゴン一家は外のパレードには不参加を表明していた。
村のパレードなら内輪の話だが、国が絡む行事に参加するとドラゴン族の公平性に問題があるとかなんとかが理由だ。
ギラルやドライムは参加したがったが、ドースとライメイレンは強く不参加を表明。
グーロンデやグラッファルーンも不参加寄り。
それが一変したのはライメイレンの膝の上にいたヒイチロウの一言。
「僕、参加できないの?」
この言葉に、ライメイレンが態度を変えた。
ライメイレンが態度を変えたら、ドースも変える。
誰一人、抵抗しなかった。
ドラゴン一家は外のパレードに参加となった。
公平性とかいいのかな?
あと、今日は不在だが、ドマイム、クォン、クォルン、セキレン、マークスベルガーク、スイレンも参加予定になっている。
残念ながら、ヒカルとヒミコ、ククルカンはまだ幼いので外のパレードには不参加。
ラナノーンは参加できたが、屋敷に残ってのんびりするそうだ。
遠慮しているのかなと思ったけど、そうじゃないみたいなので留守をお願いする。
と言っても、留守にするのは半日ほどだけどね。
そうそう、外のパレードの打ち合わせにきた魔王が、ドラゴン一家の練習をすごい遠い目で見ていたのはなんだったのかな?
遠くが見にくいのかな?
この世界、眼鏡はあるみたいだから、適当なタイミングで勧めてみよう。
目は大事だからな。
少しして。
ドラゴン一家が参加することになったのを知ったワイバーンたちが、ぜひとも参加させてほしいと願ってきた。
ワイバーンとは、最初の出会いが不幸であっただけで、ワイバーンたちの謝罪を受けたあとは平和にやっている。
小型ワイバーンによる通信は現在も続いているし、大型のワイバーンも五村の近くで魔獣、魔物退治を手伝ってもらうぐらいには友好的だ。
しかし、その程度の友好ではワイバーンたちとしては不満らしく、もっと仲がいいところを見せる場がほしいのだそうだ。
それゆえの参加希望。
魔王に確認したら「ワイバーン? 全然常識の範囲! 歓迎する! いや、大歓迎!」と言われたので参加を許可した。
俺が許可する権限を持っているわけじゃないんだけどな。
魔王が出した参加の許可を、俺が伝えた形だな。
うん。
そうしたら、パレードはまだ先だというのに大型のワイバーンが四十頭ぐらいやってきた。
現在、五村の近くの森で待機している。
五村の冒険者たちと協力して、危険な魔獣や魔物を退治しているのね。
助かる。
え?
ここにいるのは先発隊で、もう少ししたら追加が来る?
わかった。
ああ、五村の近くで待機してほしい。
待機中の食糧は大丈夫か?
危険な魔獣や魔物で足りてる?
よかった。
足りないときは言ってくれ。
野菜が多くなるが、用意するから。
もう少しで畑仕事が一段落するなというころ。
巨大な白鳥がやってきた。
「間に合ったみたいね」
それに少し遅れ、巨大な黒鳥もやってきた。
「勝手に行くな!
間に合ったのはよかったが……」
去年やってきた白鳥と黒鳥だ。
来て早々、フェニックスの雛のアイギスとどちらが先頭で飛ぶかを争っているところから察すると……
外のパレードに参加するつもりだろうか?
「ふふん。
当然でしょう。
私の美しさと愛を広めなければ!
あ、村でやるパレードにも参加してあげるわよ」
あいかわらず、白鳥は自己愛が強いな。
いちいちポーズを決めなくても綺麗なのは認めているから、動きは小さくたのむ。
うん、羽根が舞う。
換羽で仕方がない?
だったら人の姿でいてほしいなぁ。
あ、でも白鳥が人の姿になると揉めごとが増えるか。
「お久しぶりです。
鳥の神を祭る社を建てられたそうで、ありがたく思います。
今回は大規模なパレードをすると聞きまして、その一員に加えていただければと思い、馳せ参じた次第です」
黒鳥。
歓迎する。
パレードへの参加も了解だ。
ああ、村のほうも参加してくれてかまわない。
ただ、順番はアイギスのあとで頼む。
さすがにな。
パレードにはまだ日があるから、適当な場所で休んでいてくれ。
食事は用意するから、遠慮なく食ってくれ。
「ありがとうございます。
わかっています。
白鳥は自由にしません」
強くお願いする。
ああ、巨大なカラスと巨大な孔雀も来るのか?
「来たがっていましたが、今回は無理そうです。
社に納める宝物は預かっていますよ」
そうか。
それじゃあ、時間をみて五村の神社に案内しよう。
「よろしくお願いします」
そう返事をした黒鳥は、白鳥の姿がないことに気づき、慌てて駆けだした。
……
できれば人の姿で行動してほしいなぁ。
羽根が舞う。
ドラゴン一家「参加するぞ!」
魔王 「……」
ビーゼル 「あーあ」
ランダン 「あーあ」
グラッツ 「あーあ」
ホウ 「予想できたことでは?」
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