代官とは
魔王国は王位の継承が特殊だが、基本は王政だ。
つまり、王様である魔王が一番偉い。
その魔王の直轄地が反抗的だというなら、その地の管理者である代官を交代させればいいと思うのだが……
魔王がそうしないのには、理由があるのだろうか?
「いや、代官をどうにかしたら、解決するわけではないのでな」
魔王から、統治に関しての話を聞いた。
難しくて全てを理解できたわけではないが、今回の件で関わる部分だけはなんとか理解できた。
まず、魔王国における代官とはどういった存在か。
魔王の直轄地を管理する地方官のことだ。
つまり、魔王の代理人。
そしてその役割は、簡単に言えば、税金を集めること、反乱を起こさせないこと、新しい法を周知させることなどになる。
これらに付随して、法に従わない者を捕まえたり、裁いたりすることも加わるが、今回は横に置いておこう。
大事なのは代官は魔王の代理人ということだ。
そして、その代官は直轄地をどう統治しているのか。
たとえば住人が五十人や百人の村であれば、全員と顔見知りになって統治することは、難しいがなんとかできるだろう。
しかし、五百人や千人の村になると、それは現実的ではない。
万人規模の街になると、それは不可能と言える。
では、どうするか?
部下を使う。
当たり前だな。
部下が増えれば増えるだけ、統治が楽になる。
だが、部下を増やすにも限界はある。
人材も財源も有限だからだ。
そうなると、次に求めるのは現地の協力者。
つまり、地域の顔役と呼ばれる名士やボスと繋がり、統治している。
身近なところで顔役の例を出すと、ゴロウン商会のマイケルさんだな。
彼はシャシャートの街の顔役の一人で、シャシャートの街の代官であるイフルス代官とよく相談をしている。
でもって、今回の件。
ここまでの説明でお分かりだろう。
代官の部下。
もしくは顔役が、代官に隠れてなにかやってるわけだ。
「あー、代官の部下は無関係だ。
代官の部下が原因なら、その代官の管理地域と怪しい地域が同じになるはずだ」
魔王国では代官になれる人材に限りがあることから、代官は大きい街に常駐させ、周囲の村も一緒に管理させている。
代官の部下に問題があるなら、その代官が管理している街や村が問題になるはずだが、そうではないらしい。
となると……
「顔役が怪しい。
それゆえ、代官を交代しても意味がない。
いや、有能な代官に交代できればなんとかなるのかもしれないが、そういった人材は限られているし、大事な場所を任せているから軽々とは動かせない」
なるほど。
それで、俺にやらせたいことは?
「難しいことではない。
大樹の村でやっている春のパレード。
あれを五村から魔王国の王都までやってほしい。
もちろん、大樹の村でのパレードが終わってからでかまわない。
移動には転移門を使ってもらうから半日もかからんだろう。
こちらとしては王都で歓待したいが、派手なのは好まんであろう。
式典には巻き込まん。
パレードが終われば、すぐに帰ってもらってかまわない」
それは助かるが……
パレードをやるだけでどうにかなるのか?
「言ってしまえば、パレードは囮だ。
注目を集めてもらい、その裏で調査部隊が動く」
?
囮なら、パレードじゃなくてもいいのでは?
いや、パレードでもいいのだろうけど、俺たちがやる必要はないだろう?
「パレードにしたのは、各地の代官や顔役を呼ぶためだ。
無関係な者が人質にされる危険性を下げる」
なるほど。
「当然、各地の街長や村長にも声をかける」
ん?
ああ、そのとき、五村の村長だけ参加していないのは問題なのか。
「そうだ。
それに、パレードをやると言って簡単にできるものではない。
事前にそれなりの準備が必要だ。
しかし、大樹の村なら問題なかろう」
そうだな。
直前にパレードをやっているわけだし、こちらとしては移動距離が延びたと思えばいいだけか。
「うむ。
村長や村の住人には手間をかけさせて申し訳ないと思う」
いや、さっきも言ったが俺としても王都とシャシャートのあいだで揉めごとは困る。
パレードなのはわかった。
……
危なくないか?
「危なくはない!
絶対に!」
そ、そうか?
「うむ。
それに、パレードには私も参加する。
なにかしらの害意があるなら私に向かう」
それはそれで心配だが……
「ありがとう。
ああ、言い忘れていたが、パレードにはクロ殿の子たちや、ザブトン殿の子たちも参加してもかまわないぞ」
………………
え?
いいの?
クロの子供たちやザブトンの子供たちは、できるだけ死の森から出さないようにって言ってたのに?
「そうだが、なんだかんだと姿を見るし、もういいかなって」
あー、もうしわけない。
「ははは。
あと、パレードをするのに不参加では、かわいそうであろう」
……そうだな。
クロの子供たちやザブトンの子供たちだけ不参加は、かわいそうだよな。
「うむ。
しかし、全員参加は村の警備だなんだで厳しかろう。
パレードの規模は村長に任せる。
それに、魔王国軍と各地の者が便乗する形で行う予定だ」
わかった。
まあ、村の外のパレードだと、遠慮したい村の住人もいるかもしれないしな。
相談してみるよ。
「すまないが、よろしく頼む。
あー、正直なことを言えば、怪しい者たちが反乱を考えているのであれば、村長のパレードを見て思いなおしてもらいたい。
なにもなければ、それが一番なのだが……」
たしかに、なにもないのが一番だな。
だが、キアービットやティゼルの様子から、ほぼ確実になにかはあるのだろう。
それでも、自分で言うのもなんだが、平和に暮らしている俺たちのパレードを見せて、思いなおすことを願うのか。
ううむ。
魔王は立派な王だな。
夜。
大樹の村の屋敷の一室に、魔王とティゼル、それと裕福な家の娘の姿のキアービットがいた。
「とりあえず、パレードを出してもらえることになった。
しかし、村長に危険はないのか?
見る者が見れば、私よりも村長を狙わんか?」
「お父さまの近くに、お母さまたちが並ぶから大丈夫よ。
それに、反乱だとしてもまだまだ準備不足のはずよ。
武力行使はないわ」
「でも、最悪の最悪は想定しないと。
村長は隠して、身代わりを用意する?」
キアービットが、呪文を唱えて村長の姿になる。
「お父さまは、それを良しとしないと思うわ」
「うむ。
村長なら自身が安全な場所にいて、ほかの者が危険な場所にいることは望まんであろう」
「だからって、危険な場所に近寄らせるのも問題だと思うのよねぇ」
そう言いながら村長の姿になったキアービットが指を鳴らすと、姿が元の裕福な家の娘の姿に戻る。
「だから、村長に危険があったと思わせないように。
危険は全て秘密裡に処理しなさい」
キアービットが魔王とティゼルにそう言い、二人はしっかりと頷いた。
「あとティゼル。
ティゼルの考えも理解できるけど、一つの行動で二つも三つも利益を得ようとするのはよくないわよ。
結果としてそうなるのはいいけど、狙ってやるとどこかで歪みがでて痛い目をみるから」
「……はーい」
「魔王も、あまりティゼルを甘やかさないように。
アルフレートかウルザに王位を譲りたいって気持ちがあるから、ティゼルに転がされる……
違うわね。
自分から転がってるのよ」
「う、うむ。
注意する」
「譲ることは邪魔しないけど、面倒は潰しておきなさい。
そうじゃないと、恨まれるわよ」
「しょ、承知した」
魔王の返事に、キアービットはため息を吐きながらも近くにあったコップを人数分取り、ジュースを注いで配る。
「それでは、ティゼル発案の『圧倒的な戦力差を見せつけて、怪しい者の心を折りにいく作戦』の成功を願って」
「作戦の成功は願うけど、もうちょっといい作戦名を考えてほしい」
「作戦名なんてどうでもいいでしょ。
あと、ルーさんとティアにはちゃんと報告するのよ」
「え?
キアービットさんから話を通しているんじゃないの?」
「話は通しているけど経過報告は大事なのよ。
とくに当人からのね。
わかった?」
「は、はーい」
「では、改めて。
成功を願って乾杯!」
「「乾杯!」」
ティゼル 「乾杯に参加したってことは、キアービットお姉ちゃんも作戦参加!」
キアービット「ここで放り出したら、ティアに睨まれるからね」
魔王 「春からキアービットも王城に入り浸ることになるのか。助かるなぁ」
キアービット「私はトラインの補佐だから、学園から離れないわよ」
魔王 「私には見える。トラインが王城で働く姿が……」
ティゼル 「さすがにトラインを王城に引っ張るとお母さんたちが怒ると思うよ」
更新、遅くなってすみません。