おみくじとお守り
2023/01/24 石板周囲の会話を修正しました。
昼。
俺は五村を訪れ、神社に向かう。
神社経営の話し合いをするためだ。
「ずいぶん、仲良くなりましたね」
五村で合流したニーズが俺にそう言う。
たぶん、神社に到着するなり狐の姿で駆け寄って俺の腕の中にいるキツさんとのことだろう。
たしかに仲良くなった。
「羨ましいです」
そうか?
ニーズも蛇の姿になってくれたら……
いや、すまない。
蛇を撫でるのはよくないな。
「ふふ。
そうですね」
蛇は変温動物。
人の体温は悪影響。
蛇が人の手などに絡まるのはありでも、触られるのはよろしくないらしい。
「いえ、そういう理由ではないのですが……」
そうなの?
ちなみに上半身が人で下半身が蛇のラミア族は、触られてもまったく問題ないそうだ。
恒温なのかな?
まあ、どうにかなっているんだろう。
こっちの世界は不思議が多いからな。
おっと、撫でが甘くなっていたようだ。
キツさんが手の平に背中を押しつけてくる。
よしよし。
少し待っているとコンさん、始祖さん、ヨウコがやってきたので、会議を再開。
キツさんも名残惜しそうに俺から離れ、人の姿に戻って司会役をする。
と、その前に、宝クジに関しての始祖さんからの追加情報。
「調べたら、過去にも村長の言っていた仕組みを考えた者はいたようだ。
ただ、想像した通りに酷いことになったので禁止。
情報は封印されていたよ」
なるほど。
始祖さんたちが危険視したのは正解ということか。
「あと、こっちで万が一に備えた対策を考えたけど、すでにあった。
クジの発売枚数の制限から販売価格の制限、募集目的の内容の制限、神の名を使うときの加減など、細かくね。
苦労が見て取れるよ」
そう言って始祖さんは、極秘と大きく彫られた石板を出した。
二千年前のものらしい。
極秘の字の下に、宝クジに関してのルールが細かく彫られている。
その細かさに、たしかに苦労が見て取れる。
「当面は、これを基準にしておこうと思う。
宝クジの販売はしないけどね。
似たような行為があったら、この石板を根拠に取り締まるから教えてほしい」
始祖さんはそう言ってヨウコに頼んだ。
ヨウコも承知と頷いている。
その石板は根拠になるものなのかと思うけど、石板の下のほうに名前がいっぱい並んでいるから、それらが根拠かな?
……
ところで、この石板はこっちに置いておけるのか?
「封印されている情報だから、さすがにそれは困るかな」
始祖さんのその答えに、ヨウコが提案する。
「だが、この細かい字を全て覚えるのは面倒だ。
写しはもらうぞ」
写す?
ひょっとして、俺が似たような石板を彫ることになるのかなと思ったけど、違った。
石板で、文字は彫られている。
つまり、インクを塗って、紙を押しつけたら写しが取れる。
なるほど。
「こういったものは本来、泥に押し付け、その泥を焼いて固めて写しを作るものなのだが……
上手く写しを取るのに技術がいるし、手間がかかる。
紙があるなら紙のほうが楽で早い」
そういった利用目的があるから、石板なのか。
昔の人、賢い。
ん?
待て。
文字が逆に……
判子と同じだ。
写す文字は、鏡に映ったような文字じゃないといけない。
駄目じゃないか?
そうヨウコに視線を送ると驚かれた。
「村長、この石板を普通に読んでいたのか?
最初から写すことを前提に、文字が逆さに彫られているではないか?」
え?
そうなの?
意識したら、石板に彫られている字は逆さまの鏡文字だった。
気づかなかった。
そして、インクを塗る方法での写しに問題なし。
よかった。
宝クジの話が終わったので、本格的に神社の経営に関しての会議が開かれた。
まず、大きな議題だったのがコーリン教との関係をどうするかという問題。
これはヨウコを含め、ニーズ、コンさんがコーリン教の教義に問題がないとしたので、コーリン教の庇護下に入ることになった。
コーリン教の教義は、宗教の広め方のルールみたいなものだからな。
よほど変な宗教でない限り、コーリン教は受け入れてくれるし、受け入れられる。
次に話されたのは、俺が神社でやろうとしたこと。
税の一部を回してもらうことで経済的問題は解決したけど、独自の収入源はあっても困らないと思う。
宝クジの件でかなり警戒されたけど、頑張って発表してみた。
まず、おみくじ。
大吉、吉、凶などが入ったクジを引いてもらい、そのときの運勢を示す。
神託とかたいしたことじゃなくて、大吉なら普通に喜んでもらえるだろうし、凶でも注意喚起を促せる。
また、凶を引いたとしてもそれは引いた段階の運勢であり、あとは上り調子を示すとか言えばなんとかなるんじゃないかと思うんだけど。
そう説明したのだけど、始祖さんは思案顔。
「需要はあると思います。
ただ、どの神が審判を下しているかが問題かと」
審判って、そんな大げさな。
ヨウコも考えている。
「犯罪者に対し、凶が出たら死刑。
大吉が出たら助命するとかされると困る……か?」
ニーズは……
「悪い結果のときに、神に悪い感情を向けかねないのが……」
心配している。
うーん、駄目か。
神が近すぎる。
それじゃあ、お守りも駄目だよな。
健康祈願とか、学業守とか考えていたんだけど。
そう思ったけど、始祖さんからは肯定された。
「お守りなら、ほとんどの神殿で授けていますので」
なるほど。
では問題なしかな?
ヨウコが急ぐなと止めた。
「注意がある。
お守りのご利益を明言してはならぬのだ」
俺は首を傾げた。
ご利益を説明しないお守りって意味があるのか?
その疑問には、ニーズが答えてくれた。
「お守りを身にすることで、神を近くに感じることができます。
それで十分なのです」
そういうものか。
「まあ言わぬでも神の権能は知られておろう。
蛇の神は金運。
狐の神は安産。
信じる者がなにを求めるかは自由だ。
ただ、ご利益があるから神を信じるという姿勢は喜ばれぬ。
神を信じた結果、ご利益があるのだ」
なるほど。
たしかにそうだな。
それじゃあ、お守りを授けるのは問題ないと。
となると、お守りはぜひとも作ってもらいたいが……
お守りを作るのに、神ごとに専門の儀式とかあったりするのだろうか?
この質問に、始祖さんが少し困った顔をしながら答えてくれた。
「専門の儀式はありますが、その儀式の正しさを証明できる者はいません。
私としては、祈りながら作れば、その祈りに応えた神が宿ると考えています」
ふむ。
つまり、勝手に作ってかまわないと。
「それなりの演出はすべきかな、とは思いますけどね」
演出って、そんなことを言って大丈夫なのか?
「演出は演出ですから。
でも、求める神に反する演出はよろしくありませんよ」
炎の神のお守りを、水で清めて作ったりとかか。
たしかに効果が疑われそうだな。
この神社に祭るのは動物の神になるだろうから、その動物にちなんだ演出であれば大丈夫だろう。
悩んだ場合も、ヨウコやニーズに聞けるから間違えることもないと思う。
問題は、その動物のお守りが求められるかどうかだが……
蛇の神の金運、狐の神は安産。
知っていれば欲しくなるお守りだと思うが、知らないと求めないだろう。
ご利益を明言できないのが厳しいな。
「いや、村長。
そう難しく考えんでもよい。
お守りを授けるときに、そのあたりを言って約束をしてはいかんだけだ。
神の説明はしても問題ない」
そうなの?
「ご利益目当ては困るが……
神とて信仰が集まらんのも困ろう」
そういうものか。
「そういうものだ」
それじゃあ、お守りは作って販売……じゃなくて授ける方向で。
演出は、無理のない範囲で考えよう。
お久しぶりです。
書籍化作業に目処が立ったので、更新再開です。
まあ、確定申告なるボスが控えてはいるのですけどね。
頑張ります。
よろしくお願いします。
あと、誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
修正できない部分、申し訳ありません。
感想、レビュー、いいね、励みになります。
ありがとうございます。
これからも頑張ります。