宝クジ
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
俺の彫った東洋竜のご神体の前に御簾が取り付けられた。
直接、見るのは恐れ多いというのが表向きの理由。
裏向きの理由は、一部のドラゴン族が怖がるから。
まあ、希望者が見たいと言えばもったいぶらずに御簾を取って見せるようにしているらしい。
それはそれとして、驚いたことがあった。
ドースは「昔はいた」と言っていたが、クォンとクォルンが東洋竜の姿になれた。
すごい。
思わず、拝みたくなる。
「あの?
急にどうしました?」
気にしないでくれ。
それで、どうして普段はその姿じゃないんだ?
これまでクォンやクォルンがドラゴン姿になるのを何度か見たが、西洋竜の姿だった。
「義父さまに怖がられるので……」
そ、そうか。
「血統的に、ライメイレンさまやグラッファルーンさまも、この姿になれると思いますよ」
そうなの?
「はい。
得手不得手はあると思いますけど。
東のほうではこちらの姿のほうが畏れてもらえるので、父も母もこの姿で生活しています。
こちらではドースさまの姿のほうが畏れられます」
へー。
「ちなみにですが、どちらの姿が優れているかで激しく争った愚かな過去がありまして、繰り返さないためにも決して比べてはいけません」
了解した。
それじゃあ、すまないが人の姿になってもらってもいいかな?
うん、ご神体が本物になったと銀狐族が驚いているから。
いや、見たいと言ったのは俺だけどな。
神社で見る必要はなかった。
反省。
さてさて、俺が神社にやってきたのは、神社の経営をどうするかという本格的な話し合いをするため。
銀狐族がこの神社にやってきて二十日ほどが経過している。
そろそろ本格的に動いてもいいぐらいには生活に慣れただろう。
掃除ばかりさせていても悪いしな。
銀狐族たちからも、新しい仕事が来ても問題ありませんとの意見をもらっている。
いいことだ。
俺のほうも考えている商売がいくつかある。
これらをやってもらいたい。
だが、ここで俺は自分にストップをかけた。
思いつきで行動して大事になるのは避けたい。
また、商売なら失敗してもかまわないが、今回は信仰が絡む。
下手な真似ができない。
信仰が怖いものだと知っている。
それゆえに話し合いをする場を設けた。
俺のやろうとしていることを説明し、実際に実行するかどうかの判断の場だ。
場所は拝殿の中。
まだなにもない場所だが、そこに低い丸テーブルと座布団が用意された。
参加者は俺、ヨウコ、ニーズ、銀狐族の代表としてコンさん、記録係のキツさん、それと始祖さん。
始祖さんには、コーリン教の宗主として参加してもらう。
ヨウコとニーズがいるから大丈夫だとは思うのだけど、外部からの意見はほしいからね。
あと、ここの神社がコーリン教に加わるかどうかの話もある。
忙しい中、時間を作ってくれての参加だ。
ありがたい。
「では、現状の報告です」
話し合いの進行役は、コンさん。
「銀狐族、赤狐族、黒狐族、丸顔狐族の生活は順調です。
いくつか問題は出ましたが、すべてヨウコさま、ニーズさまに報告しており、また対策を講じております。
生活は飛躍的に向上しており、来年、再来年には子も生すでしょう」
それはめでたい。
俺は喜ぶが……
「増えすぎれば、困るぞ。
自制を忘れるな」
かわいい格好を止め、普段の格好になったヨウコは厳しい。
ちなみに、かわいい格好を止めたのは娘が真似をし始め、ザブトンの子供たちが衣装を用意したからだ。
ヒトエにはまだ早いと、ヨウコは姿を改めた。
ルーやティアたちも似たような格好を真似し始めていたので、俺としては英断だったと思う。
ザブトンの子供たちや五村の住人たちは残念がっていたけど。
「山の中に作られた畑の準備は終了し、あとは春に種を蒔くだけです。
また、鶏の飼育場や小屋が完成したので、卵の自給自足が可能になりました」
それはなにより。
実は少し前、神社の中を神域にするのに、家畜の飼育はどうなのだろうとヨウコやニーズが悩んだ。
たしかに神社近くでの殺生は避けたい。
悩んだ結果、鶏の飼育とその鶏が生む卵を食べるのはセーフと判断し、鶏小屋が建設される運びとなった経緯がある。
まあ、その鶏小屋は参拝客の目に触れないように山の中腹に隠すように建てられたけど……
順調ならよかった。
「人の姿になれる者たちによる清掃作業も、完璧とは言えませんが見苦しくない程度には上達しました。
本来であれば完璧を目指して練習を続けるべきですが、その間ずっと無収入では支援してくださる五村の負担が大きくなってしまいます。
神社単独での経営的自立を考え、それを話し合うためにお集まりいただいた次第です。
どうぞ、よろしくお願いします」
コンさんが説明を終えて頭を下げたので、俺は拍手した。
俺より進行が上手いと思う。
ニーズと始祖さんは一緒に拍手してくれたが、ヨウコはしなかった。
これぐらいはできて当然ということか。
それとも銀狐族は身内判定で厳しいのかな?
あとで聞くとしよう。
えーっと、俺の番か。
そう思ったら、ヨウコが手を挙げて先に話を進めた。
「コンが心配した神社の経営的自立に関してだ。
神社が建つという話を聞いた五村の住人たちにより、五村とこの神社を繋ぐ道を中心に店が建ち始めている。
そこから集める税の一部を、神社の運営費にまわそうと考えて試算したのだが……
運営費はそれで十分に賄える」
そうなの?
運営費は、施設の維持修繕費、銀狐族たちの給金、食費を基本として、定期的に行う儀式の費用、人を雇ったときの人件費、偉い人が来たときの接待費などが含まれてそれなりの額になる。
それが賄えるのか?
「うむ。
すでに営業を始めている店もあり、それなりに繁盛しておる。
税が取れんということはあるまい」
そうか。
まあ、五村の住人は自主的に税を多く納めようとするからな。
試算が大きく狂うことはないだろう。
「だからといって、神社がなにもせんのは困るがな。
儀式以外にもイベントを開き、五村と神社を繋ぐ道を賑わしてもらいたい」
その通りだな。
しかし、運営費を賄えるのはありがたい。
神社の営業で、儲けに執着しなくていいわけだしな。
参拝客が喜ぶ方向にシフトすればいいか。
……とりあえず、宝クジは廃案にしておこう。
「宝クジ?
めでたそうな名だな」
おっと、ヨウコの興味を引いてしまった。
ニーズや始祖さんも興味があるみたいなので説明した。
簡単に。
宝クジ。
目的を掲げ……例えば今回なら神社の運営費を集めるためとして、番号の書いた札を販売する。
ある程度、札が売れたところで抽選会を行い、札に書かれた番号で当選者を決定。
当選者には賞金が出るのだけど、一人だと札の売れ行きが悪くなるから一等、二等、三等と人数と賞金額を変えて当選者を発表。
当選番号の札と賞金を交換するシステムだ。
コンさんとキツさんは……楽しそうだと言ってくれたが、ヨウコとニーズ、始祖さんが頭を抱えていた。
なぜだ?
「廃案は正解だ」
と、ヨウコ。
「信仰を甘くみてはいけません」
と、ニーズ。
「私も廃案に賛成だ。
そして、そのアイデアは他言無用でお願いする。
危険すぎる」
最後に始祖さんがそう締める。
わかったが……そんなに駄目か?
俺の疑問に、始祖さんが丁寧に説明してくれた。
「集金システムとして優秀すぎる。
そこに信仰が加わると、歯止めがきかない。
神に愛されている証明をすると全財産を注ぎ込む者がでかねないよ」
な、なるほど。
「そして、宝クジの仕組みは流用しやすい。
村長の監視下なら、開催を制限することでなんとかできても、ほかの神殿で真似されたら止めることができない」
むう、そうか。
「最大の問題は……ほかの神殿で宝クジを乱発し、クジに外れた者がどう思うかだ。
信仰心が足りなかったと思うならいいが、神が自分を見ていないと思うようになると……信仰が揺らぐ。
神を試すようなことになってしまう」
え?
あ、あー、そうか。
こっちの世界では神がいるからな。
益や加護が近いから、そういうことになるのか。
なるほど。
たしかに危険だな。
まあ、廃案のつもりだったから、そのまま廃案。
惜しくはない。
ん?
どうしたヨウコ?
この宝クジのことは、絶対に天使族には伝えるな?
とくにティゼル?
いや、他言無用だから誰にも言うつもりはないが……
了解。
しかし、そこまで心配だったら、いまのうちに宝クジのルールを作っておいたらどうだ?
ああ、宝クジは自身の運を試すことであって、神の寵愛を求めるものじゃないとかなんとか。
開催期間の制限とか、抽選方法などもしっかり決めておけば万が一のさいのトラブルも減るんじゃないかな。
この発言が悪かったのか、ヨウコ、ニーズ、始祖さんは宝クジのルール作りに本腰を入れた。
そこまで急がなくてもと思うが、それだけ危険視しているのだろう。
うん、わかった。
えーっと、それで神社経営の話し合いは……
明日ね。
わかった。
話し合いに加われず、暇になったコンさんとキツさんが狐の姿で膝の上にきたので、俺はその背中と尻尾を撫でた。
よしよし。
難しい話は三人に任せて、俺たちはまったりしよう。
もう少しで春だ。
ナレーション「絶対に吹いてはいけない村議会延長戦、終了!」
村議たち 「はぁ……やっと終わった」
ヨウコ 「うむ。では、今日の議題を進める」
村議たち 「ぶふっ!!」
ヨウコ 「……どうした? 我の顔に変なものでもついておるか?」
村議たち 「す、すみませぶふっ! ちょ、これ、ヨウコさまが真面目にやればやるほど面白くなるやつ!」
やっと更新できた。
遅くなってすみません。
アニメ放送、始まりました。
視聴できる環境の方、よろしくお願いします。
当方は大阪在住で……地上波は厳しいです。
次回の更新ですが、二十日ぐらいまで厳しいです。
すみません、書籍化作業に入ります。(すでに入ってます)
十四巻、好調のようです。
重版が決まりました。
ありがとうございます。