動物たちの社
神様の数え方(単位)は「柱」です。
ヨウコのかわいい姿に五村の関係者も慣れ、できるだけヨウコに発言させない対策が徹底されたころ、セイテンが帰ることになった。
五村には五日ほど滞在していたのかな?
五村の食事と娯楽を存分に楽しんだようだ。
帰りの挨拶に来たので、土産に“五村酒改”を渡しておいた。
セイテンは護衛であるはずの銀狐族にも荷物持ちをさせたので、結構な量を持ち帰ることになる。
まあ、生産量からすれば微々たるものだ。
気にしない。
途中、寄るところはないそうなので、無事に戻れることを祈っておく。
銀狐族は、セイテンの護衛を終えたらすぐに一族を連れて五村に戻って来るそうだ。
セイテンが出発するまで、ヨウコとコンさん、それにキツさんで念入りに環境に関しての確認と相談をしていた。
保護エリアにする山の環境は問題ないと確認を取ってある。
好戦的でない魔獣や魔物は残っているが、十分に棲み分けができるとのことだ。
ただ、当然ながら不足している物がある。
家だ。
もちろん、俺としても山を一つ、保護エリアとして渡すだけで十分とは思っていない。
人の姿になれるのだから、人用の家がいるのは想像できる。
それに、お金を稼ぐ方法なども。
暗殺業を認めるつもりはないから、代わりの仕事を斡旋しないといけない。
自由に生きろと山に放り出すだけでなんとかなるなら、移住する必要がないだろうからな。
それと、保護エリアとそれ以外の境界をどうやって示すかなど、考えないといけないことがある。
知らなかった、迷い込んだで保護エリア内を荒らされては困るからな。
ロープで保護エリア全てを囲うなどは、現実的じゃない。
なにせ山一つの広さだ。
立て看板が無難だとは思うけど、字が読めない人もいる。
どう伝えるべきか。
あと、なぜ保護エリアにしているかの理由もいる。
動物保護が理由だと正直に言ってもいいのだが、それだと食糧不足などの事態になったらその保護が怪しくなる。
魔王に頼んで強権を発動してもらうのもありだろうけど、それでも適当な理由は必要だ。
どうしたものかと考えているときに、ニーズがヨウコ屋敷にやってきたので思いついた。
社だ。
保護エリアに社を建てて、神域にしてしまおうと俺は考えた。
幸いにして、社が欲しいとの要望が来ている。
ご神体も十分。
宴会で神の席を用意したぐらいなのだから、神の山を用意してもなにも問題あるまい。
……
ないかな?
ニーズに確認と相談をした。
「動物系の神は自然が多いほうが喜びますので、素晴らしいことだと思います」
よかった。
「蛇の神の社も、そこに建てていただければありがたいです」
いいのか?
「蛇の神も、自然が多いほうが喜びます」
……そうだな。
俺の中の蛇も、街中よりは森とか川辺にいるイメージだ。
それじゃあ、その保護エリアに社を建てるとして……
ご神体ってどれぐらいあったっけ?
あ、うん、両手じゃ数えきれないぐらいあったよな。
さすがに全部に社を用意するのは厳しい。
つまり……
まとめてしまうか?
荘厳な社を一つ造り、そこにまとめて祭るのはどうだろう?
……喧嘩するか?
「あー、どうでしょうねぇ。
常に同じ場所だと喧嘩するかもしれませんので、個室に分けてあればなんとか……
あと、適度に主役のときがあればいいかもしれません」
個室か。
まあ、そうだな。
大部屋で多人数と一緒よりは、個室でゆっくりできるほうがいい。
わからなくもない。
主役は……どうしよう?
〇〇の神の出番です。
みたいな感じかな?
ん?
そうか。
十二支だ。
毎年、順番に年神を決めて祭ればいいんだ。
えーっと、十二支は……
子、丑、寅、卯、辰、巳……
えっと、辰……巳……なんだっけ?
待て待て。
冷静に。
深呼吸して……
子、丑、寅、卯、辰、巳……午、未!
おお、いけた!
いつも午で詰まるんだよなぁ。
しかし、思い出せた。
よかった。
残りは簡単。
申、酉、戌、亥。
桃太郎トリオに猪だ。
まとめると……
子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥。
忘れないようにメモしておこう。
考えてみると、それなりに十二支とは関わりがあるな。
子 鼠 いない。
丑 牛 牧場エリアに牛がいる。ミノタウロス族もいる。
寅 虎 サンゲツ、ソウゲツ。
卯 兎 食べてる。
辰 竜 ドラゴン族。
巳 蛇 蛇の神の使い、ラミア族、ブラッディーバイパー。
午 馬 牧場エリアに馬がいる。ケンタウロス族もいる。
未 羊 シャシャートの街や五村にいる。山羊も仲間にいれてもいいかな?
申 猿 セイテンと知り合った。
酉 鳥 フェニックスの雛のアイギス、鷲、鶏、ハーピー族。
戌 犬 インフェルノウルフ、フェンリル、オルトロスのオル。
亥 猪 食べてる。
……
鼠だけが無関係か。
農業をやっている身としては、鼠は敵。
猫に置き換えるか。
いやいや、個人の好き嫌いでそういったところを弄るのはよろしくない。
げっ歯類と捉えれば、リスとかビーバーを加えられる。
リスとかビーバーに遭遇したことはないけど。
まあ、十二支の形式は採用するが、十二支に拘る必要はない。
このあたりはご神体があるかどうかで決めればいいだろう。
存在するご神体によっては、十二支の痕跡がなくなるかもしれないしな。
なにせ、確定しているのは蛇だけだ。
なにはともあれ、社を建てると決めた。
うん、考えれば考えるほど悪くない。
それに悩んでいた銀狐族たちの仕事にも繋がる。
そう、社の管理だ。
それなら、五村から給金を出してもかまわない。
自分たちで稼ぐというなら、御神籤や絵馬などの販売で稼ぐ方法もある。
特産品が欲しいなら、いくつかのアイディアを渡そう。
よしよし。
方針は決まった。
一応、ヨウコに確認したら問題ないとのことで話を進めよう。
銀狐族たちがやってくる前に、ある程度の形を作っておきたい。
しかし、このあたりに住む大工に、神社っぽいものと発注しても伝わらないだろう。
洋風の神殿ができあがるのが想像できる。
十二支を発想したからか、俺としては神社に拘りたい。
なので、小さいサイズのミニチュアを造る。
構想として、山の中腹に本殿を用意し、その年の主役の神を祭る。
山の麓に拝殿を用意し、お参りはここでやってもらう。
参拝客は本殿には近づけない形だ。
そうじゃないと、最初の目的の保護エリアが機能しなくなるからな。
拝殿の横に人の姿になれる銀狐族たちが住むための宿舎と仕事場の社務所を用意。
拝殿の近くに、本殿とは別の大きな神殿を用意し、その中を区切って小部屋にし、その小部屋に神たちを一柱ずつ祭る。
神たちは基本こちらの大きな神殿に祭って、主役の神だけ本殿に移動するスタイルだ。
主役じゃないときのほうが目に触れる機会が多いというのもなんだが……
ニーズとヨウコに相談しながら、配置を考えていった。
「今後、増える可能性を考えると大きな神殿は余裕のあるサイズにしたほうが無難かと」
「その通りだコン」
増える可能性があるのか?
「逆に増えないと思います?」
すまない。
増えそうだな。
「普段、なかなか祭ってもらえない神にとってはチャンスだコン!
きっとくるコン!」
大きな神殿は、余裕のあるサイズにしよう。
そして、俺が五日ほどかけてミニチュアを完成させたら、すでに神社建設が始まっていた。
どうしてだろう?
五村の大工だけでなく、大樹の村のハイエルフたちも参加しているし。
「ミニチュアを作り始めたころから、ハイエルフの方々が来て手配してましたよ」
そうなの?
「久しぶりの大規模建設だって喜んでました。
あ、建設の総監督はリアさんです」
そ、そうか。
助かる……で、いいのかな?
まあ、銀狐族を待たせる期間が短くなるのはいいことか。
「そうだコン。
きっと喜ぶコン」
……ヨウコ。
「なんだコン?」
罰の期間は終わっただろ?
なぜ、かわいい格好のままなんだ?
「そのままでという五村の住人からの要望が強くてな……村の運営を円滑にするために、もうしばらくこのままだコン」
そうか。
えーっと……頑張れ。
「頑張るコン」
ナレーション「絶対に吹いてはいけない村議会二百四十時間(十日間)!」
村議たち「は?」
ナレーション「延長戦突入!」
村議たち「はぁっ!」
感想で十二支とか、銀狐族を巫女にするとかバレてたけど、気にせず書く。
それが「のんびり農家」。