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銀狐族のコン 後編

次の日と書きましたが、もともと一つの話だったので早めに公開します。

2022/12/13に、2本更新している形になりますので、ご注意ください。


 ええと、まずは……


 ヨウコさまは、どうしてここで働いておられるのですか?


「なに、簡単なことよ。

 飯が美味い。

 酒もいいものがある。

 謝罪前だから出さなかったが、宴会では振舞おう」


 食事に釣られたと?


「それだけではないぞ。

 村には我におびえぬ者たちが多数おる。

 我よりも強い者もな」


 まさか、ヨウコさまより上が?


「我は村長代行であるぞ。

 村長が上に決まっておろう」


 ……


「我がここで働いておるのは村長の役に立つため。

 そう覚えておけ」


 わ、わかりました。


「ああ、これは言わなくてもわかるであろうが、村長に手を出せば許さんぞ。

 怪しい行動はせんことだ」


 もちろんです。


 ヨウコさまを敵には回せません。


 ですが……


「なんだ?」


 私たちがその村長にお仕えしたいと願っても問題ないでしょうか?


「ん?

 なぜだ?

 雇われはするが、従属せんのがお主らではなかったか?」


 そうも言ってられない状況で。


「そんなに悪くなっておるのか」


 ヨウコさまの知っていた頃と比べると、どうしても。


 仕事の依頼も、ここ数年で急に減りましたし。


「それで村長にか」


 ヨウコさまが少し考えた素振りをみせます。


 わかっています。


 いい返事がもらえないのは。


 私たちは銀狐族。


 悪名がいろいろとあります。


 そんな私たちが一族でお仕えすれば、その悪名を村長が背負うことになります。


 簡単に言えば、銀狐族を操っていた者として村長が責められる可能性があります。


 しかし、だからと言って願い出ることさえもしなければ、我が一族は滅ぶだけです。


「コンよ。

 村長には、お主らが仕えることに利益がない。

 逆に不利益をこうむるであろう。

 村長の耳に入れる話ではない」


 ……


「しかし、我は先代のコン……いや、先々代のコンになるか。

 やつには世話になった。

 返しきれぬ恩がある。

 それゆえ、お主の一族の命運をけた頼みは断れん」


 では……


「決めるのは村長だ。

 我はなにも言わん。

 それでよいな」


 はい。


 ありがとうございます。


 あとは自身の優秀さを示すだけですので。


 ところでセイテンさま?


 食事が終わったあとから、ずっと両方の耳を塞いでいるのはどうしてでしょう?


 危険な情報が出て、巻き込まれないための対策?


 それが名高い猿族の【聞かざるの構え】ですか。


 勉強になります。




 少しして、ヨウコさまが村長を呼びに行きました。


 そのあいだに、私は護衛の配置を決めます。


 ……


 部屋の中には、私とセイテンさまだけでいいでしょう。


 ほかの護衛(者)は、ヨウコさまが用意してくださった部屋で待機。


 では、さすがに護衛として役立たずです。


 用意してくださった部屋に待機するのは三人でいいでしょう。


 もちろん、のんびりしていたら怒りますよ。


 警戒は常に。


 いつでも動き出せるように。


 奇襲にも備えなさい。


 三人、屋敷の内に。


 場所は任せますが、部屋の中は入らないように。


 ええ、廊下で隠れているように。


 五人、屋敷の外に。


 退路の確保です。


 私に万が一があれば、指揮はキツが引き継ぎなさい。


 よし、いい返事です。


 ん?


 もう少し余裕があると思っていたのですが、早々にヨウコさまが戻られました。


 村長は近くにいたのでしょうか?


 ……


 村長の印象は……ただの人です。


 ヨウコさまより上とは信じられません。


 ですが、ヨウコさまの村長に対する態度は正しく従者。


 それだけでただ者ではないことがわかります。


 知恵者タイプでしょうか?


 セイテンさまとともに挨拶し、セイテンさまの謝罪を終わらせます。


 村長もことを大きくする気はないようです。


 ヨウコさまが口添えしてくださったのかもしれません。


 ありがたいことです。



 セイテンさまの謝罪が終わりました。


 セイテンさまは先にニーズさまのお店に向かうそうです。


 用意してくださった部屋で待機していた三人、あと外にいる五人、セイテンさまの護衛に。


 以後、合流するまでのそちらの指揮はブチに任せます。


「コンさま。

 私が行ったほうがいいのでは?」


 キツがそう言ってくる。


 たしかに護衛を分けるなら、もう片方はキツに任せるべきでしょう。


 ですが、これからする村長との話し合いで一族の命運が決まります。


 覚悟を見せねば、我らが仕えることは叶わないでしょう。


 いざとなれば、銀狐族の悪名を背負って私が死にます。


 そうすれば、ヨウコさまが慈悲を与えてくれるかもしれません。


 そのあと、残る一族をまとめ、ヨウコさまと交渉できるのはキツぐらいです。


 頼みますよ。


 それでは、村長に話をと思ったのですが……


 警戒されていますね。


 これはいきなり本題に入っても駄目でしょう。


 少し話をらします。


 用件をお伝えする前に確認したいことがあるのですが、かまわないでしょうか?


「ん?

 かまわないぞ」


 村長はヨウコさまの上司で間違いないでしょうか?


「俺が五村の村長で、ヨウコは村長代行。

 仕事の立場的にはそうだな」


 そうですか。


 ありがとうございます。


 もうあと二~三の質問をして、村長の心を解したいのですが……


 村長は村を離れていたのです。


 このあと、なにか用事があるのかもしれません。


 時間を使い続けるのも悪手ですね。


 村長に一歩近づけましたし、これで十分としましょう。


 いきますか。


 えー、本日、ここにおうかがいしたのは、ヒラクさまにお願いがあるからです。


 実際はここに来てからお願いができたので、微妙に事実とは違います。


 ただ、急に思いついたのでと言うよりはマシでしょう。


「お願い?

 なにかな?」


 ここが勝負です。


 私はもう一歩前に進みます。


 はい。


 銀狐族は私を含めて九十二人。


 うち、人の姿で十全に働けるのは二十三人ですが、多少の不都合に目をつぶっていただければ八十四人が働けます。


 一族、揃ってお雇い願えないでしょうか。


「雇えと?」


 はい。


「五村に移住させろとかではなく?」


 銀狐族は、他種族に混じって生活するのは不得手です。


「しかし、働けるんだろ?

 どういった仕事をするつもりなんだ?」


 銀狐族なのですから、決まってます。


 暗殺です。


「……」


 私の声が小さかったかな?


 暗殺です。


「いや、聞こえなかったわけじゃないんだ」


 そうですか。


 ん?


 ヨウコさまが、頭を抱えている。


 私はなにか間違えたでしょうか?


 あ、村長が口を開きました。


 お答えをいただけるみたいです。


「えーっと、お帰りください」


 その答えを聞いた瞬間。


 私は村長に向けて殺気を放ち、動きます。


 殺気は放ちますが、実際に殺したりはしません。


 それでは願い出る意味がありませんし、ヨウコさまを敵に回します。


 実力を見せるだけです。


 その上で、私が死んでびます。


 そして、キツが改めて願いでる。


 ええ、命を捨てた脅迫きょうはくです。


 ですが、こちらも一族の命運が懸かっているのです。


 手段は選びません。


 ああ、護衛である私が攻撃すれば、雇用者のセイテンさまには迷惑をかけてしまいますね。


 私が死ぬ前にセイテンさまは無関係と言っておきましょうか。


 それで許してもらえるといいのですが……


 私の動き出しにヨウコさまが気づいたようですが、私のほうが速い。


 ……


 あれ?


 私の意識した場所に、私がいません。


 私の見る景色が変わっていない。


 つまり、私が動いていない?


 え?


 なにかにつらぬかれている?


 村長の持つ槍?


 いつの間に槍が?


 部屋に入ったときは無手でしたよ?


 私が困惑しているあいだに、ヨウコさまの手が私の首を押さえました。


 もうどうやっても動けません。


 参りました。


 槍に貫かれた箇所も、かなりの負傷のようです。


 ……キツ、ごめんなさい。


 最悪の事態です。


 実力を見せることもできず、ただ死ぬだけとは……


 逃げて一族を守ってください。


 その後、暗殺仕事に関わったことがある者は死になさい。


 さすれば、残った者はヨウコさまの慈悲を願えるでしょう。


 ヨウコさまは厳しい方ですが、面倒見はいいのです。


 情けないですが、頼らせてもらいましょう。


 銀狐族同士なら、ある程度近くにいれば頭の中で会話ができます。


 だからそう伝えたのですが……


 返ってきたのは期待した答えではありませんでした。


「……す、すみません。

 捕まりました。

 蜘蛛くもです」


 蜘蛛?


 私は顔をゆっくりと上に向け、部屋の天井を見ました。


 あー、大きい蜘蛛がたくさんいます。


 気づきませんでした。


 しかも、ただの蜘蛛ではありません。


 デーモンスパイダー系統の蜘蛛です。


 これは、どうしようもありませんね。


 キツ以外の者も、次々と蜘蛛によって捕まっているようです。


 セイテンさまの護衛についた者も?


 徹底してますね。


 さすがと言うべきなのでしょう。


「コンよ。

 村長に手を出したら許さんと言ったはずだぞ」


 えーっと、なにもしていないと思いますが?


 動いていませんしね。


「その前にやられただけであろう。

 戯言ざれごとを続けるなら、一族を滅ぼすぞ」


 ……わかりました。


 ですが、私も引けない立場でして。


 おすがりしても?


「わかっておる。

 村長、すまぬ。

 少し説明させてくれ」


 最悪の最悪だけは避けられましたかね。


 しかし、ここまで村長が強いとは思いませんでした。


 私の身体を心配してくれているようで、優しい方でもあるのでしょう。


「大丈夫だ。

 この程度ではこやつは死なん」


 あー、それなのですがヨウコさま。


「なんだ?」


 実は結構なダメージを頂いておりまして…………限界のようです。


 私は血を吐き、倒れました。


 人の姿も維持できません。


 これは……駄目かもしれません。






コン 銀狐族。族長。護衛の隊長。

キツ 銀狐族。護衛の副長。頼れる。

ブチ 銀狐族。護衛の一人。期待はされている。





補足1

コンがやろうとしたこと。


お願い。

駄目だったら、襲って実力を見せる。

「ご無礼いたしました。銀狐族の悪名一切をこの身と共に」

と謝罪して自決。

「あ、セイテンさまは無関係です」

で、次の者(キツ)が改めて雇ってくれとお願いすることで、覚悟を見せつつ、繰り返し襲われるんじゃないかと相手に思わせる脅迫。

相手のメンタルが強いと、無駄死にする者が増えるだけだけど、コンは村長になら通じると判断、実行した。



銀狐族は個人よりも種のほうが大事なので、個人の命が軽い。

(個人よりも家名のほうが大事にされる昔の日本の武家社会のような感じ)





補足2

ヨウコが頭を抱えたあたりのやりとり。


コン「銀狐族は有名な暗殺職の一族。個別に話を聞いてくれる時点で期待。暗殺が得意です」

ヨウコ(村長に暗殺者アピールは逆効果っ!)

コン「命懸けなことを示す」

ヨウコ(そこまで思いつめてたのか! まずった、無駄死になるぞ!)





補足3

ヨウコさんのズルっこ。


「我はなにも言わん」

「面倒が舞い込んだ(重要ヒント、気づけ村長!)」





質問コーナー

Q.「コンさん、短絡的すぎん?」

コンA.「一族の命運が懸かっているのに躊躇ちゅうちょできません。ヨウコさまという狐系の種族にとっては切り札みたいな存在もいるし。いつやるの? いまでしょ!」


Q.「最後のはちょっと古いかと……」

コンA.「銀狐族は森で生活しているから、世情にはうといのです」


Q.「ヨウコに雇われるのは駄目だったの?」

コンA.「え? ヨウコさまに? え? 本気で言ってます? あのヨウコさまですよ? あなた、あのヨウコさまに雇われたいの? あの、その、とても……勇気がありますね(ヨウコさまは慈悲深いですし、狐系の種族の切り札ですが、一族の命運を懸けて上司になってほしいかと言われると首を横に振ります。先々代、泣いてましたからね)」

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― 新着の感想 ―
やっぱザブトン一家やべえわ。 暗殺者とかいらんかった。
[一言] ヨウコも纏めて、キツネ系は滅殺されておかしく無い案件。 仮にコンが何かする可能性あるなら、村長に伝えるべき。 ヨウコは報告を怠った。 銀狐は殺気みせたのが、全て。 一族滅殺でも、まだ緩い。 …
[良い点] ない [気になる点] 殺気を出しておいて『命をかけて』いるとか発想がおかしい。 『殺気を出す』=『殺すつもり』=『村に敵対』ですよ。 封建社会ならば余計に無理筋な話の通し方です。 天皇…
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