銀狐族のコン 前編
私の名はコン。
以前はグレと名乗っていましたが、族長に就任したのでコンになりました。
それから六十年ぐらい経ったでしょうか。
我が銀狐族は、少しずつ数を減らしています。
それというのも、銀狐族は森の中に隠れ住むように暮らしているからです。
森の中はけっして安全というわけではありません。
常に危険と隣り合わせです。
人の姿になれる者は街や村に溶け込んで生きる手段もあるのですが、銀狐族は人というか他種族全般を好みません。
好むのは同じ狐系の種族。
あとは……森の中で暮らすうえで友好的でないと面倒な種族と、つかず離れずの関係を築いているぐらいです。
このままではいけないのは、わかっています。
安住の地を求めなければ、未来がないことも。
しかし、どうすればいいのか。
一族で話し合っても、解決策がみいだせません。
そうして悩んでいるうちに十年の時が過ぎました。
ある年の秋の終わり頃。
銀狐族に依頼が舞い込みました。
猿の聖獣セイテンさまからです。
なんでも、猿の一族がゴブリン族と揉め、それに魔王国の貴族を巻き込んだとかなんとか。
その謝罪に向かうので、護衛と銀狐族の道を貸して欲しいという依頼でした。
珍しいですね。
いえ、依頼のことではありません。
我が銀狐族は人の姿に化けられる者が私を含めてもそれなりにいるので、護衛には向いているのです。
人の姿に化けられない護衛対象には、ペットの振りをしてもらうこともありますが。
また、銀狐族は独自の道を各地に持っており、それを利用したいとの依頼はそれなりにあります。
まあ、どちらも年に一回ぐらいですが。
銀狐族の貴重な資金獲得手段です。
私が珍しいと思ったのは、セイテンさまが謝罪に向かうことです。
失礼ながら猿は基本、傍若無人。
群れの中ではちゃんと秩序ある行動をしますが、群れの外は無関心で無頓着。
他者と揉めたとしても、セイテンさまが謝罪に赴くなどありえないと思いました。
しかし、よくよく聞けばその件には蛇の神の使いであるニーズさまが絡んでいるそうです。
ああ、上の案件ですか。
セイテンさまも大変ですねぇ。
ええ、護衛と道をお貸しする依頼、喜んでお引き受けします。
行き先は魔王国の王都と……近くの街? 村? え?
街のように大きい村ですか、わかりました。
出発はいつですか?
すぐですね。
承知しました。
護衛には精鋭を……
失礼しました。
護衛には私も参加しましょう。
はい、セイテンさまほどの方を護衛するのですから。
よろしくお願いします。
護衛の人員を決めるときに、妙な予感がしました。
私も参加すべきだと。
こんな感覚は初めてです。
ですが、逆らう気はおきません。
福音と信じて、護衛の仕事をしっかりとこなしましょう。
冬の中頃。
魔王国の王都でのセイテンさまの謝罪は、すぐに終わりました。
相手もことを大きくする気はないようでしたしね。
セイテンさまが手順通りに謝罪したので、そのまま宴会の流れに。
護衛である私たちも参加していいのですか?
あの、私を含めて十二人いるのですが?
かまわない?
ありがとうございます。
美味しい食事でした。
お酒も美味しかった。
続いて、五村。
……
誰がどうみても街ですよね。
王都並とはいいませんが、そこらの街よりも大きいですよ、ここ。
なぜ村を名乗っているのでしょうか?
まあ、文句を言っても仕方がないのですけどね。
えーっと、ここでは五村の村長と、ニーズさまに謝罪ですか。
では、ニーズさまの居場所を……村長が先?
そうなのですか?
大きな街の長とはいえ、ニーズさまよりも上とは思えないのですが……
依頼者には逆らいません。
従うだけです。
私たちは五村の議会場のある建物に向かい、村長に会いたいとセイテンさまが願いました。
一応、今日は連絡だけで、日を改めるつもりだったのですが、引き止められました。
なんでも五村の村長は不在とのこと。
しかし、村長代行がすぐに会ってくれるそうです。
ありがたいことです。
ですが、これは面倒なことになると予想します。
なにせ謝罪が目的ですから、代行相手に謝罪して終わりとはなりません。
いえ、普通なら代行が相手でも謝罪を受けてくれれば終わりになります。
ただ、今回は上が関わっていますからね。
セイテンさまとしては村長のもとに向かい、謝罪する必要があります。
しかし、押しかけて相手に迷惑をかけては謝罪になりません。
相手の都合のいい日を聞き出し、事前に連絡をして行く必要があります。
これは長く待たされる可能性があります。
そんなふうに考えていたら、驚きの人物と再会しました。
あの九尾狐のヨウコさまです。
そして、ヨウコさまが五村の村長代行でした。
「ひさしいな。
お主がコンになったか」
はっ。
お久しぶりです、ヨウコさま。
いろいろと話したいことがありますが、まずはセイテンさまの件が優先です。
「……謝罪したい旨はわかった。
我の見立てでは、ここに来るのに数年はかかると思ったが、すばやく来たことも評価しよう。
村長をお呼びし、場を調えたいが……
ゴールのところには?
すでに謝罪を終わらせた?
よろしい。
ニーズには?
この次?
そうなるか……わかった、問題ない」
謝りに行く順番は間違っていなかったようです。
「謝罪の品は、なにを用意した?」
セイテンさまが目録をヨウコさまに見せます。
「なかなか奮発したな。
よかろう、宴会を開くには十分だ。
ニーズは五村で店をやっている。
会場はそこにするぞ。
そのほうがそちらも手間が省けるであろう。
わかっておる、ニーズには口添えしておく。
大丈夫だ。
ニーズは揉めごとを好まん。
謝りに来た者を邪険にはせん」
ヨウコさまが何人かの部下に指示を出しています。
謝罪は……ヨウコさまのお屋敷でとなりました。
議会場のあるここには、無関係の者が多く出入りしていますからね。
謝罪するセイテンさまに気を使ってくれたのでしょう。
そのうえ、村長を呼んでくれるとのこと。
「謝罪相手を呼び出すのは無礼な行いだとは知っておるが、お主らでは辿りつけん。
呼んだほうが面倒はないし、その程度で村長は怒らんから安心せよ」
失礼な。
そう言いたいのですが、呼んでもらえるなら手間は省けます。
「ただ、村長はまだ昼食の時間だ。
我もな。
少し待て」
時間がかかることを考えていたので、多少待つぐらいは気にしません。
しかし、昼食ですか。
一日三食ということですよね?
村長やヨウコさまは、羨ましい生活をしているようです。
え?
私たちにも食事を?
ありがとうございます。
まったく問題……
すみません。
私を含めて、護衛は十二人いるのですが?
大丈夫?
ありがとうございます。
お稲荷さんなる米料理が絶品でした。
ウドンなる麺料理も美味しいです。
お稲荷さん、お代わりできるんですか?
すみません、あと二つ……いえ、三つほど頂けると。
ありがとうございます。
おっと、いけないいけない。
食事に夢中になっていました。
いまのうちにヨウコさまと話をしましょう。
聞きたいことや相談したいことがあるのです。
長くなったので分割です。次の話は明日にでも。
あと、前話でセイテンが出て行った描写がわかりにくかったので、加筆しました。